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からくり伝言少女 本格短編ベスト・セレクション [読書・ミステリ]

からくり伝言少女 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

からくり伝言少女 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/01/15
  • メディア: 文庫



評価:★★★

2010年に発表されたミステリ短編より選ばれた
"ベスト本格ミステリ" のアンソロジー。

創作9作、評論1作を収録してるけど、
このうち6作は実は短編集や他のアンソロジーで既読だったりする。

私はこんなとき、けっこう既読作は飛ばしてしまう。
ミステリの再読は、まずやらないんだ。

でも、今回はなぜか既読のものもじっくり再読してみた。
ラストのオチやネタがわかっていても、けっこう楽しめたよ。
良く出来たミステリは再読に耐える、ってことかな。


「ロジカル・デスゲーム」有栖川有栖
 シリーズ探偵・火村英生が、連続毒殺魔と対決する話。
 3つのグラスの中から、毒入りの杯を当てるという
 間違えたら、死あるのみという "ゲーム" に強制参加させられる。
 一見、公平そうなルールに秘められた "数学的なからくり"。
 解説部分を読んで唸らされたけど、それより驚いたのは、
 火村の手先の器用さが手品師並みだったこと(笑)。

「からくりツィスカの余命」市井豊
 短編集で既読。
 主人公・柏木の通う大学の演劇部が
 "生命" を与えられたからくり人形の物語を上演することになるが、
 未完の結末部分を残したまま、脚本担当の部員が失踪してしまう。
 残された脚本から結末部分の推理を頼まれる柏木だが・・・
 劇中劇の形で登場するツィスカの話だけど、
 これ、もっとストーリーを膨らませて長編化したものが
 読んでみたいなあ・・・あれ、前にも書いたかな?

「鏡の迷宮、白い蝶」谷原秋桜子
 短編集で既読。
 主人公の高校生・修矢は、知人の財閥令嬢・西遠寺かのことともに
 那須高原にある漆原家の別荘へやってきた。
 別荘の隣に住む棚橋氏は資産家なのだが
 やや痴呆症気味で、時価1000万円を超える
 4.4カラットのダイヤの保管場所を忘れてしまったという・・・
 『木の葉は森に隠せ』パターンの宝探しかと思わせて、
 さらにひとひねり。
 相変わらずかのこ嬢はカワイイ。

「天の狗」鳥飼否宇
 他のアンソロジーで既読。
 立山連峰にそびえる巨大な円柱状の岩の頂上で起こった殺人事件。
 密室状況下の不可能犯罪なんだけど、
 再読したら、初読時によくわからなかったとこもばっちり理解できた。
 とは言っても、このトリックは何回読んでも気が遠くなる。

「聖剣パズル」高井忍
 短編集で既読。
 歴史雑誌での投稿コンテストで賞金をせしめようと
 3人の女子高生がヤマトタケルの生涯を巡って
 侃々諤々の討論を繰り広げる話。
 歴史ミステリって、結局のところ史料を
 どう解釈するかの問題なんだけど、
 このシリーズの結論は、緻密に真面目に考察した仮説よりも、
 大向こうを唸らせるような派手な与太話の方が採用される、
 ってものだったよなあ。
 まあ、私もそんな壮大なホラ話が大好きだから文句は言えんが。

「死者からの伝言をどうぞ」東川篤哉
 短編集で既読。『謎解きはディナーのあとで』シリーズの一編。
 消費者金融の女社長が殺害される。
 現場にはダイイング・メッセージが残されていたが
 犯人に消されたらしく、判読は不可能。
 事件発生時に屋敷内にいた家族に容疑がかかるが・・・
 ヒロインの麗子、探偵役の執事・影山、麗子の上司の風祭警部と
 レギュラー陣のキャラ立ちもばっちりで、
 さすが大人気シリーズだけのことはある。

「羅漢崩れ」飛鳥部勝則
 他のアンソロジーで既読。
 今回再読したけどやっぱりスゴい。わずか30ページの中に、
 怪奇な発端、合理的な解明、キレ味鋭いラスト、
 そして主役二人の20年にわたる情念のすれ違いまで描かれる。
 本格ミステリのお手本みたいな作品。

「エレメントコスモス」初野晴
 大手レコード会社からデビューはしたものの、
 生活のためにスタジオミュージシャンをしているいずみ。
 今は交通事故で視力を失った奈緒と二人でアパート暮らし。
 その奈緒が言う。11月の終わりのこの時期でも、
 コスモスが咲いている場所があると。
 季節はずれの花から意外な真実が明らかになる。
 連作シリーズの一編とのこと。一冊にまとまったら読んでみたい。

「オーブランの少女」深緑野分
 オーブランと呼ばれる美しい庭で、事件が起こった。
 管理人姉妹のうちの姉が殺され、現場には "異様" な人物が。
 さらに3年後には妹が亡くなるが、残された手記には
 驚くべき物語が記されていた・・・
 ミステリというよりは伝奇ホラーな雰囲気が強いように思うが
 本作品が(たぶん)デビュー作である作者の筆力はたいしたもの。
 実は本作を表題作にした短編集が文庫になっていて、手元にある。
 まだ読んでないけど(おいおい)。

「ケメルマンの閉じた世界」杉江松恋
 『金曜日ラビは寝坊した』で始まるラビ・シリーズの評論。
 なつかしいなあこれ、たしか3作目くらいまでは読んだはず。
 (シリーズ全体では、未訳のものを含めて11作くらいあるらしい。)
 文中にも書いてあるけど、ミステリとしては
 あまり印象に残らないシリーズだったよなあ。
 「物語としては面白い」って筆者は書いてるけど
 ユダヤ人社会になじみがない日本人には、
 少しばかり敷居の高いシリーズだったとも思う。
 だから途中で読むのをやめちゃったのかなぁ。