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キケン [読書・青春小説]

キケン (新潮文庫)

キケン (新潮文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/06/26
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

某県某市、ほどほどの地方都市にある成南電気工科大学。
そこに、ある有名なサークルがある。
その名を「機械制御研究部」、略して「機研」。

完全に幽霊部員と化した3回生に代わり、
部を率いるのは2回生の部長・上野と副部長の大神。
後の世に「機研の黄金時代」と伝えられた3年間が始まる。

「第一話 部長・上野竜也という男」
 新入部員の1回生・元山と池谷は上野の自宅へ招かれるが、
 その目を見張るような豪邸ぶりに驚く。
 しかしなぜか上野は自宅へ「出入り禁止」を言い渡され、
 粗末なプレハブ小屋住まいだった。
 そこで二人は上野の驚くべき秘密を目の当たりにする。

「第二話 副部長・大神宏明の悲劇」
 お嬢様が集う白蘭女子大学の学祭に訪れた大神は
 ある出来事をきっかけに七瀬唯子と知り合う。
 大神に一目惚れした唯子は自分から告白、
 めでたく二人はつきあい始めたのだが・・・

「第三話 三倍にしろ! ー前編ー」
 学園祭で機研は毎年ラーメン屋の模擬店を出している。
 元手として30万円の軍資金をかき集めた上野は、
 部員一同を前に宣言する。
 「この30万を、学祭の5日間で3倍にする!」と。
 かくして学祭へ向けて走り出す部員たち。
 その中で元山は一人、機研に伝わる "幻の味" 再現のため、
 ラーメンスープの研究に取り組んでいた・・・

「第四話 三倍にしろ! ー後編ー」
 学祭が始まり、元山開発のスープも好評で上々の滑り出し。
 しかし要である元山が何者かに拉致されてしまう。
 同じラーメン模擬店で競合するPC研の仕業とみた上野は
 単身、元山の救出へ向かうが・・・

「第五話 勝たんまでも負けん!」
 県主催のロボット相撲大会へ出場することになった機研。
 肝が据わって冷静な池谷が操縦する機研のロボットは
 順調に勝ち上がり、ついに決勝へ。
 対戦相手は年輩のおっさん集団、『チーム・メカ次元』。
 ロボットの名はゴールドライター号。
  うーん、どこからか
  ♪と~どいているか きこえるか~ は~るかメカ次元~
  なんて歌が聞こえてくるねえ。
  もっとも、ど真ん中なのは私より少し下の世代だろうけど。
 資金力にモノを言わせた高価な部品で
 パワーに勝る敵に苦戦する機研ロボ。
 なんとか決勝ラウンド一本目をとるが、
 二本目で不覚をとって敗北、しかも右膝関節を損傷して絶体絶命。
 残る三本目に起死回生の奇策で挑む機研だが・・・

「最終話 落ち着け。俺たちは今、」
 年度が変わり、部員たちも進級した。
 新入生たちと上級生たちの機研での日々が綴られる・・・

第一話から第五話までの、最後の数ページには
卒業して10年ほど経った元山が登場し、
妻と語りあうシーンが挿入されている。
つまり本書は、"元山が妻に語った昔話" という体裁なのである。

それに対して、元山の妻の反応がいい。
ある時は驚き、ある時は呆れ、一緒に笑い、一緒に怒り、
そして一緒にしんみりとしてくれる。
いやあ、元山君はいい嫁をもらったなあ。

そして最終話の後半では、元山が妻を伴って
成南大の学祭に久し振りに顔を出しにいくことになる。
いやぁ、このラストは反則だ。こんな展開に持ってこられたら、
もう目がウルウルになってしまうじゃないか・・・


奇人変人ばかりが集まったかのような同期生たち、
酒が回ると暴れ出す上級生、厳しくも温かい教授たち、
そんな人々に囲まれて、常軌を逸したバカ騒ぎの数々を繰り広げた日々。
程度の差はあれ、そんな学生時代を過ごした人も少なくないだろう。

そんな "若さ=バカさ" へのノスタルジーとオマージュに溢れていて、
読む人みなを等しく、
あの輝かしくもバカバカしい時代へと誘ってくれるだろう。
そしてそれがまた何とも心地よい。


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リベルタスの寓話 [読書・ミステリ]

リベルタスの寓話 (講談社文庫)

リベルタスの寓話 (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/08/12
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

表題作である「リベルタスの寓話」だけど、
前後編に分割されていて、その間に
中編「クロアチア人の手」が挟まれるという構成。


「リベルタスの寓話・前編」

 2006年、戦乱に揺れるボスニア・ヘルツェゴヴィナ。
 首都サラエボから70キロほど離れた街・モスタルで
 奇怪な殺人事件が発生する。

 切り開かれた胴体は心臓以外のすべての臓器は取り去られて、
 その代わり、手近にあるものを臓器に"見立て"て詰め込まれている。
 肺の代わりに飯盒のふたや虫かごが、
 膵臓の代わりに携帯電話(時代からしてガラケー)が、
 腎臓の代わりにPC用のマウスが2つ、というように。

 やがて、唯一と言っていい容疑者が浮上するが、
 彼には犯人ではない決定的な"証拠"があった・・・


「クロアチア人の手」

 観光のため日本を訪れた2人のクロアチア人。
 しかし泊まった施設で一人が殺され、
 もう一人は交通事故死してしまう。

 殺害現場は厳重な密室状態で、死体は部屋に備え付けの巨大水槽に
 顔をつっこんだ状態で死んでおり、その中にはなぜか
 他の場所の水槽にいたはずのピラニアが・・・

 例によって(笑)、石岡君が北欧にいる御手洗から
 携帯電話で支持を受けながら手がかり集めに右往左往する。
 毎度おなじみの展開なんだが、やっぱり可笑しい。

 犯人は比較的早めにわかるので、密室トリックの解明がメインになる。
 "あの" 島田荘司の作品だから(笑)、多少は荒唐無稽であろうと、
 それを上回る驚き、奇想ぶりが発揮されていれば
 大半のファンは納得するだろう。
 でもこのトリックはどうなんだろう。
 少なくとも私には「いくらなんでもこれはないだろう」でした。


「リベルタスの寓話・後編」

 ボスニア・ヘルツェゴヴィナに駐留するNATO軍から
 協力要請を受けた御手洗は(いつのまにそんなに偉くなってたんだ?)
 多忙を理由に現場へは行かず、ここでも
 現場の係官に電話で指示しながら事件の解決をする。

 容疑者がもつ "決定的な証拠" を構成する "ネタ" は、
 早い時期に見当がついたけど、私が知ってるくらいだから
 たいていの人は分かるんじゃないかなぁ。
 こちらも、「クロアチア人の手」と同様、「who」よりも
 死体にあのような "細工" をした「why」の解明がメインとなる。

 動乱の東欧を舞台に、16世紀の都市国家ドゥブロブニク、
 (タイトルにある「リベルタス」もここで出てくる)
 21世紀のバーチャルリアリティと、いろんな要素を放り込んである。

 すべては冒頭の "死体損壊の謎" を演出するための逆算の結果。
 (そういう意味では、よく考えられた話ではある。)
 けど、読んでると「ごった煮」感のほうが勝る印象なんだなあ・・・
 特にRMT関連のくだりは、よく分からなかった。
 アタマの古いオッサンはついていけない?

なんでわざわざ分割して、間に他の作品を挟むの?
って疑問の答えは、読み終わればわかる。
この2作品はいわば同一の時代、同一の地域を舞台にした
同一テーマの姉妹作なんだね。


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Junction 運命の分岐点 ミステリー傑作選 [読書・ミステリ]

Junction 運命の分岐点 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

Junction 運命の分岐点 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/04/15
  • メディア: 文庫



評価:★★★

日本推理作家協会が毎年編纂しているアンソロジー
『推理小説年刊 ザ・ベストミステリー』
その2012年版を文庫で二分冊したもの、その1。

「望郷、海の星」湊かなえ
 東京で暮らす浜崎の元へ高校の同級生だった美咲から手紙が届く。
 浜崎は瀬戸内の島で育ったが小学6年生の時、父が突然失踪する。
 残された母子の前に、現れた男・真野。
 頻繁に釣った魚を届ける真野に、周囲の誰もが
 浜崎の母に惚れているんだろうと思っていたが、
 ある出来事を境に母子は真野とのつきあいを絶つ。
 やがて高校に進学した浜崎は美咲とクラスメートとなるが、
 彼女は真野の娘だった・・・
 ミステリと言うよりは人情噺かなあ。
 タイトルの「海の星」とは、
 真野が浜崎に見せてくれた "手品" みたいなものなんだが、
 出した以上は責任もって種明かししてほしかったなあ。

「死人宿」米澤穂信
 恋人の佐和子が職場で嫌がらせを受けていたにも関わらず
 真剣に取り合わず放置していたら彼女は失踪(おいおい)。
 2年ぶりに再会した佐和子は、山奥の温泉宿で仲居をしていた。
 その温泉には火山ガスのたまりやすい場所があり、
 "自殺の名所" となっていた。
 佐和子から、泊まっている3人の客の中に
 自殺志願者がいるのではないかと相談を受ける「私」。
 この件にどう関わるかが、佐和子が私に課した
 復縁のためのテストのように感じられ、
 自殺志願者を突き止めようとする「私」。
 最終的に、誰が死にたがっていたかは判明するのだが・・・
 丸く収まるように見えてダークな幕切れ。

「この手500万」両角長彦
 ギャンブラーの半崎のもとへ、かつての舎弟・千野から電話が入る。
 裏カジノでポーカーをしている最中なのだが、
 掛け金が足りないので助けてほしいという。
 千野はかつて半崎の財産を持ち逃げした過去があり、
 いったんは断る半崎だったが、
 彼の「一発逆転できる最高の手がきている」との言葉に、
 なぜかカジノへ向かうことになる・・・
 ミステリかどうかちょっと疑問だが
 半崎をはじめ登場するキャラ同士の会話がよく書けていて
 読んでいて楽しいのは確か。
 特に千野はホントにイヤな奴で、彼の台詞はいちいち気に障る。
 でも、おかしくて笑ってしまうんだなぁこれが。

「超越数トッカータ」杉井光
 音楽業界の片隅で細々と生きているミュージシャン・蒔田。
 ようやくCDリリースにこぎ着け、自作のPVもネットで評判になり、
 一時はダウンロード数が1位に。
 しかし業界の大御所・瀧寺の曲に酷似していると指摘され、
 盗作疑惑をかけられてしまう・・・
 いやあ、ミステリのロジックって、
 よく考えてみたら "屁理屈" だった、ってのはよくあるのけど、
 この解決はどうだろう。
 巻末の解説では "詭弁すれすれ" って書いてあるけど
 私的には「アウト」だなあ・・・
 ていうかこれ、そもそもミステリなのか?

「オンブタイ」長岡弘樹
 建設会社課長の西条は、懇親会からの帰り、
 部下の原に車を運転させて家へ向かう。
 しかし酔った西条が原の運転にちょっかいを出したために
 車は人を跳ね、原は死亡、そして自らは失明という大事故を起こす。
 光を失った西条は自宅にこもりきりになっていたが、
 ある日そこへ新しく女性のヘルパーがやってくる・・・
 読んでいると、ああでもないこうでもないと
 いろいろ予想が二転三転して全く予想がつかない。
 でもラストに来てみると、伏線がきれいに回収されて、
 「なるほど」という結末を迎える。
 意味不明なタイトルも、「そういうことか!」
 いやあ、よくできてる。

「残響ばよえ~ん」詠坂雄一
 ゲームライターの柵馬(さくま)は、
 「ゲームにまつわる恋愛の思い出」というオーダーで、
 中学時代のクラスメート・ミズシロとの交流を綴る。
 学校帰りに彼女と二人、ゲーセンで遊んだだけという、
 初恋かどうかも怪しい話のはずだった。
 しかし、原稿を読んだ先輩ライターの流川(るかわ)は、
 ミズシロにまつわる意外な事実を引き出してみせるのだった。
 作中に『ぷよぷよ』というゲームが重要な要素として登場するが
 ゲームには詳しくない人でもたぶん困らないと思う。
 実際、私はミズシロの秘密の見当はついたし。
 もっとも、なんで分かったかというと、つい最近たまたま
 私の職場でこのネタが話題になったからだが(^_^;)。
 とはいえ、ゲームに詳しい方が本作はより楽しめるだろう。
 うーん、ついにゲームまでミステリのネタになってきたか・・・
 そのうち、ポケモンGOをトリックに使ったミステリとかも
 出てくるのかなぁ・・・
 しかしこのタイトルは何とかならなかったのか?
 それともゲーマーの皆さんなら納得の題名なのか?


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リカーシブル [読書・ミステリ]

リカーシブル (新潮文庫)

リカーシブル (新潮文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/06/26
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

父親が会社の金を横領して失踪し、
残された家族は転居を余儀なくされた。

長女・ハルカが小学校を卒業したのを機に
一家は母親の故郷の町へ越してきた。

誰一人知り合いのいない中学校へ入学したハルカだが、
新学期早々にそば屋の娘・リンカと親しくなる。

しかし、小学3年生の弟・サトルが予言めいたことを口走るようになり、
やがてそれをなぞるかのような事件が続発していく。

サトルの予言に不安を覚えたハルカは、
中学校の社会科教師・三浦から
地元に伝わるタマナヒメの伝説を教えられる。
タマナヒメは時代を超えて何度も現れ、未来を見通したという・・・


閉鎖的な地方の町を包む "闇" を描いていて、
ミステリと言うよりはホラーな雰囲気を醸し出しながら
物語は進行していく。
終盤に至るとストーリーは二転三転し、意外な真相が明かされる。

ただ、この結末というか "仕掛け" は賛否が分かれるような気がする。
「今の時代にこれはないよなぁ」という人、
「いや、田舎町なら充分ありそう」って思う人、それぞれだろう。
私はどちらかというと否定的です。
もっと言うと、上に掲げたように私の評価は低め。

それは結末だけが理由ではなくて、
全体的な雰囲気だったり舞台となる町を覆う暗鬱な空気だったり
ヒロインの境遇があまりにも過酷だったり、とか
いろんな要素があってこの評価になってる。

まあ、簡単に言えば
私は暗い話があんまり好きではないのでしょう。

例えば、"ヒロインの境遇" についてちょっと触れておくと
ハルカの父とサトルの母は子連れ同士の再婚なので
ハルカは三人の家族の中で一人だけ血のつながりがない。

かといって母親にいじめられているわけでもなく、
逆に過剰なくらい気を使われている。
でもそれが彼女の安寧を約束することはない。
どうしても薄い壁一枚隔てているみたいなつきあいになってしまう。
家庭は彼女にとって安らぎの場ではないのだ。

学校でもそうだ。
転校と同時に入学したものの、当然知り合いは一人もいない。
自分が "よそもの" であることを自覚するハルカは
いじめの標的にならないために振る舞うことを最優先にする。
唯一といってもいい友人・リンカとのつきあいでも、
彼女に嫌われないことをまず第一に行動していく。

そんなハルカさんの一人称で物語が進むのだから、
明るくなりようがないではないか。
そしてそれは最後まで変わることはない。

聡明な彼女は、ラストで "真実" に到達する。
いままで彼女を取り巻いていた "謎" の数々は解き明かされるのだけど
だからといって彼女の境遇が改善されることもない。

明日からはまた同じような家庭、学校での生活が待っている。
だから、読み終わっても爽快感に乏しい。

もっとも、世界のほうは変わらなくても、
ハルカ自身は事件を通して確実に成長はしている。
サトルとの関係も、「彼女の目に見える世界」も、
これからは変わっていくだろうことは示唆されているけどね。

いつの日か、成長したハルカさんの話が読めるとうれしいな。


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TOKYO BLACKOUT [読書・冒険/サスペンス]

TOKYO BLACKOUT (創元推理文庫)

TOKYO BLACKOUT (創元推理文庫)

  • 作者: 福田 和代
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/08/11
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

未だ猛暑の残る8月末のある日、午後4時。
秩父山地にそびえる高圧線の鉄塔が突如倒壊する。
現場近くには鉄塔保守要員の死体が。

さらに午後9時。
東北電力から関東へ電気を送る送電線鉄塔に
正体不明のヘリが衝突し、破壊される。

これにより東都電力は、日中で最大6000万キロワットに上る
関東地区への電力供給能力の1/6を喪失するに至る。

夜が明ければ、電力需要が一気に跳ね上がってしまう。

急遽会合を開いた東都電力と政府は、
地域ごとに送電をストップする時間帯をもうけることで
(そう、あの「計画停電」だ)乗り切ることを決定する。

それにより、決定的な危機は回避できるかに思われたが、
犯人グループの破壊工作はすでに東都電力中枢にまで浸透しており、
電力供給を喪った東京全体に、大停電が発生しようとしていた・・・


まず、この本が出版されたのが2008年だったことに驚く。
あの "3.11" による関東地区の大混乱を予期したような作品だ。

多くの人物が登場する群像劇なので、明確な主人公はいないのだが
物語はトラブルからの復旧へ向けて懸命に取り組む
千早淳一をはじめとする東都電力の社員たち、
妻との関係が悪化したうえに子供が重傷で入院したにも関わらず
犯人グループを追うことを命じられた刑事・周防を含めた警察官たち、
そして事件を引き起こした犯人グループ、
3つのストーリーが絡まり合いながら進行していく。

電力供給のプロとしての矜持をもって、
次々に起こる障害への対処に不撓不屈の精神で立ち向かう千早たち、
事件の捜査を通じて、改めて妻と向き合う覚悟を決める周防、
そして次第に明らかになる犯人グループの動機、そして目的。

「主役はいない」って書いたけど、強いてあげれば
犯行グループの主犯になる "彼" がそれにあたるだろうか。

"彼" はなぜこんな大規模な混乱を引き起こしたのか。
終盤近くでようやく "真の目的" が判明するのだが
ここは評価が分かれるかも知れない。

「そうだったのか!」って膝を打つか
「えー、そんなのあり?」っていささか呆れるか。

私は「膝を打つ」と「呆れる」が半々だったかなぁ・・・
端から見れば「そんなことでこんな大騒ぎを引き起こすなんて」
なのかも知れないが、本人からしたら
「ここまでやってこそ意味がある」のだろうし。

すべてが終わった後、"彼" は "あること" を行うのだが、
たしかに、こんなことでも起こらない限り、不可能なことだ・・・


私は作者・福田和代さんの作品に触れるのははじめて。
本書は彼女のデビュー2作目とのことだが、
2作目にしてこの堂々たる書きっぷりはたいしたもの。
多くの登場人物を縦横に動かしながら、
スケールの大きな物語を、文庫で450ページにわたって
ダレることなく最後まで読ませるのだから。


電力、ガス、水道などの生活インフラは
そこにあって当たり前、そして使えて当たり前。
そう思いがちだが、その影には
システムを支えている多くの人たちがいる。
そして、それは司法の力によって守られてもいる。

そんな「縁の下の力持ち」的な存在のおかげで
無事な毎日が成り立っていることを、
本書は改めて思い起こさせてくれる。


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ふたつめの庭 [読書・ミステリ]

ふたつめの庭 (新潮文庫)

ふたつめの庭 (新潮文庫)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/10/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★

サラリーマン人生をどう過ごすか。
昇進目指してバリバリ働くか、
クビにならない程度にそこそこ働いて
家族との時間や趣味を大切にするか。

私自身は、独身の頃はそれこそ
かつてのモーレツ社員なみに働いてた時期もあった。
偉くなろうと思ってたわけではなかったが、仕事が面白くて
終業時刻が過ぎてもなお、何時間も職場に残ってた。

でも、結婚した頃からは後者の方へシフトしていったなあ。
かみさんも職を持っていたし、
共働きで二人の収入を合わせればそこそこの生活も送れたし。
もう一つの理由として、
私の父親の生き方に反撥した部分もあったんだが
これを書くと長くなるので割愛。

のっけからこんな話を延々と書いているのは、もちろん理由がある。


本書のヒロイン・小川美南(みなみ)は、25歳の保育士。
勤務先の「かえで保育園」で懸命に働いているが
日々園内で起こる事件に振り回される毎日。
その中で、保護者の一人で
男手ひとつで息子・旬太(しゅんた)を育てる志賀隆平は、
たびたび美南に解決のヒントを与えてくれる。
そんな隆平に次第に惹かれていく美南だったが・・・


「第一話 絵本の時間」
 園児・千夏が母親とともに失踪する。
 向かった先は、直前に千夏が気にかけていた絵本に
 ヒントがあるらしいが、その本の題名がわからない・・・

「第二話 あの日の場所へ」
 保育園の周囲に不審者が。
 捕まえてみればかつての卒園生で、
 一つ年上の兄が在園中に書いた絵手紙を探しているという・・・

「第三話 海辺のひよこ」
 園児の保護者でシングルマザーのマリ子が
 隆平とつきあっているらしいとの噂に心が揺れる美南だが・・・

「第四話 日曜日の童話」
 保育園に、隆平の別れた妻が現れ、マリ子と鉢合わせ。
 旬太に会いたいという元妻(親権は隆平が持っている)への対応に
 苦慮する美南。
 肝心の隆平はなぜか物思いに沈んでいた・・・

「第五話 青い星の夜」
 園児のひかりが母親の指輪を持ち出し、紛失してしまう。
 それは母親が再婚を考えている相手からもらったものだった。
 懸命に指輪を探す美南は隆平の言葉に、なくした場所のヒントを得る。

「第六話 発熱の午後」
「最終話 青空に広がる」
 保育園に出入りするフリーのイラストレーター・カツミから
 交際を申し込まれる美南。
 断ったものの、カツミと会ったことを隆平に知られてしまう。
 改めて隆平への想いを自覚する美南だが・・・
 ラスト二話は前後編となっていて、
 隆平と美南の恋愛模様にも決着が。


この記事の冒頭で仕事云々を書いたのは、
ヒロインよりもヒロインが想いを寄せる相手、
志賀隆平のほうが気になったから。

年齢は30代半ばで、有名商社に勤務するエリートサラリーマン。
絵に描いたような出世街道を歩んでいたはずが
価値観の違いから妻と離婚、さらには子供を引き取り、
育児のために定時退社できる部署へ自ら望んで異動した。
当然ながら周囲は出世街道から脱落したと見なすし、
たぶん本人もそれは十分自覚している。

30代といえば仕事が面白くて仕方がない頃だろう。
出世するしないは別として、仕事に全力投球したい時期だろう。
それを子供のためとは言え断ち切られるのはどんな気持ちだろう。

それでもなお、子供のために生き方を変えることを決めた隆平は
それはそれで潔いし、たいしたものだとも思う。

物語のラストで、彼はある決断を下すが
彼はその後、どのような人生を送るのだろう。

これからも、家族との時間を何より大事にする生活を目指すか、
(いささか回り道をしたとはいえ)仕事中心の生活へと復帰するのか。

おそらく前者を選ぶのだろうが、たとえ後者を選んだとしても、
以前と全く同じにはならないのではないかな。

 私が結婚を機に生き方を変えたのは、家庭のためもあるけど、
 なによりも私が本質的にはぐうたらだったからだが(*^_^*)

本の感想より、私の昔話の方がメインになってしまった。


強いて言えば "日常の謎" 系ミステリなのだけど
全体的にミステリっぽさは希薄で、
園児やその保護者、同僚の保育士たちの中で
奮闘していく美南を描いた「お仕事小説」と言った方が正しいかな。

もっと言えば、隆平を巡って(とにかくモテるんだ彼は)
複数の女性が火花を散らす恋愛小説でもあるし、
ヒロイン美南に絞れば、
恋と仕事の狭間で揺れ動く乙女心を描いた純愛ラブストーリーでもある。

いやあ、こんなに健気な女の子、嫌いじゃないよ(^_^;)


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漱石先生の事件簿 猫の巻 [読書・ミステリ]

漱石先生の事件簿 猫の巻 (角川文庫)

漱石先生の事件簿 猫の巻 (角川文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2010/11/25
  • メディア: 文庫



評価:★★★

夏目漱石と言えば「国民的作家」の筆頭だし
『吾輩は猫である』といえばもちろん漱石先生のデビュー作。

私も読んだのだけど、はて、いつだったか。

 小学校で「少年探偵団」にはまり、
 そこから「ホームズ」「ルパン」へとすすみ、
 中学ではもう創元推理文庫で
 ヴァン・ダインとかクイーンとか読んでたはず。
 高校に入るとそれにSFが加わって
 純文学なんぞほとんど読まなくなってたから、
 たぶん中学のどこかだと思うんだけど・・・


さて本書だが、語り手は猫の"吾輩"ではなく、人間の「僕」。

探偵小説好きの学生である「僕」は、
父の事業が失敗して仕送りが途絶えてしまったため、
書生として"英語の先生"のもとへ書生として住み込むことになる。

やがて起こる、原典に記された様々なエピソード。
「僕」の目に映るそれらは、みな立派な "謎" の数々だった。
"真相" を突き止めるべく奮闘する(させられるw)「僕」。
そして明らかになる意外な真実。

要するに原典『吾輩-』そのものを "日常の謎系ミステリ" として
読み解いてしまおうという "発想の勝利" 的作品。


「其の一 吾輩は猫でない?」
 ペストの蔓延を防ぐため、菌を媒介するネズミの駆除が奨励される。
 鼠を捕まえて交番へ持って行くと一匹あたり五銭もらえるのだ。
 ある日、車屋の亭主が"先生"の家へ怒鳴り込んでくる。
 "先生" の飼っている猫が、
 車屋が捕まえるはずの鼠を横取りしているという・・・

「其の二 猫は踊る」
 二弦琴のお師匠の飼い猫・三毛子が亡くなる。
 その原因が "先生" の飼い猫にあると非難されるが・・・
 原典で有名(?)な「トチメンボー」と、
 猫が餅をのどに詰まらせて踊り廻るエピソードもここで出てくる。

「其の三 泥棒と鼻恋」
 "先生" の家に泥棒が入った。しかし、盗まれたのは木箱一つ。
 しかもその中身は山芋だった・・・
 実業家の金田氏の夫人、"鼻子" さん登場の巻。

「其の四 矯風演芸会」
 "先生" の家に出入りする変人たち、
 寒月、東風、迷亭らが参加する月に一度の「矯風演芸会」。
 しかしそれにはある秘密が隠されていた・・・

「其の五 落雲館大戦争」
 "先生" の家の裏手にあるのが落雲館中学。
 そこの学生たちが突如、野球の試合を始め、"先生" の家には
 連日、ボールが飛び込んでくるようになってしまった。
 しかし、その裏にはある "陰謀" が・・・

「其の六 春風影裏に猫が家出する」
 "先生" の飼い猫が突然姿を消してしまう。
 「僕」を含め、家人総出で探すうちに見つけた猫は・・・


もちろんパスティーシュとしても楽しいが、
登場するおなじみの面々に対して作者の抱く愛情も感じられる。


最後に一言。

原典を読んだ方なら覚えがあると思うんだが
あのラストはちょっとしたトラウマになってませんか?
そんな人はぜひ本書を読もう。
私は長年にわたる胸のつかえがおりた気分です。


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迫りくる自分 [読書・ミステリ]

迫りくる自分 (光文社文庫)

迫りくる自分 (光文社文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/02/09
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

主人公・本田理司(ほんだ・さとし)はコンビニチェーンの本社勤務。
ある日、千葉県内のフランチャイズ店を廻って、
会社へ帰るためにJR総武線に乗った。
そのとき、隣を並走する電車の中に自分と瓜二つの人間を発見する。

数日後、船橋駅近くのバーで飲んでいた本田は、
そのときの男にばったりと出会う。
男は次藤(じとう)と名乗り、不思議とウマがあった二人は
二時間近く語り合い、連絡先を交換して別れる。

数日後、本田の同僚の社員・小牧千佳がアパートで何者かに襲われる。
そして本社へ刑事が現れるに至り、
本田は自分が容疑者になっていることを知る。

身に覚えのない本田は、身柄を拘束するために来た
4人の刑事から逃げ出すが・・・


さすがに刑事を振りきるためにはかなりの無茶をすることになり、
本田くんは中盤あたりでもう既に満身創痍状態。

一時はこのまま逃げ切ろうかとも思うが、
もちろんそのままでは終わらない。というか終われない。
彼は、あることを "決意" する・・・


主人公が犯罪に巻き込まれ、濡れ衣を着せられる。よくある話だ。
警察の追跡から必死の思いで逃げ回る。これもよくある。
そしてある時点を境に、自分を陥れた相手に対して反撃に転じる。
これもある意味、お約束の展開だ。
本田くんもそこまでは定石通りの経過をたどる。

しかし、本田くんの目論む "反撃" の内容が、
先行する作品群とはひと味違う。
それがいかなるものなのかは読んでのお楽しみなのだけど、

登場人物があまり多くはないのだが、
その中で本田の後輩社員・朴裕子(ぱく・ゆうこ)さんが
飄々としたキャラでいい味出してる。

前半はあまり台詞がないし、たまに喋ってもかなりぶっきらぼうなので
てっきり外国の方かと思っていたら、実は純粋な日本人らしい。
彼女の中盤以降の "大活躍" もまた、読みどころだ。

この作者は、着々と作風の幅を広げてるよなあ・・・


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県庁おもてなし課 [読書・その他]

県庁おもてなし課 (角川文庫)

県庁おもてなし課 (角川文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/04/05
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

高知県庁に誕生した「おもてなし課」。
主人公は入庁3年目にしてここへ配属された若手職員・掛水史貴。

観光立県を目指し、観光客を文字通り「おもてなし」して
県内の観光産業を盛り立てよう・・・
というコンセプトは立派だが、具体的に何をしたらいいのか?

まず最初に取り組んだのは地元出身の有名人に観光大使を依頼し、
割引特典付きの名刺を各所にばらまいてもらおう・・・というアイデア。

しかし、割引対象になった施設の了解を取るところからもうたいへん。
割引によって生じる損失分の補填がどうとか
縦割り行政の壁やらで、とにかく話が前に進まない。

やっとのことで企画を通し、動き出したものの
今度は観光大使を引き受けてくれた
若手人気作家・吉門喬介(よしかど・きょうすけ)から
ダメ出しの嵐を食らう。

いちいち理にかなっていて、
「おもてなし課」の "お役所体質" を痛烈に批判する
吉門の指摘の数々に、掛水は圧倒される。

しかし、掛水の方もそれだけでは終われない。
「おもてなし課」は窮余の一策として、
吉門を課のアドバイザーとして迎え入れることにする。

それに対して彼が挙げた条件は2つ。

(1)外部から若い女のスタッフを1名入れること

これは、総務部にアルバイトで来ていた
明神多紀(みょうじん・たき)という、
吉門の挙げた条件通りの逸材を発見したことで解決。

(2)かつて高知県庁内で唱えられた『パンダ誘致論』を調べること

20年前、高知県の観光産業振興のために
『パンダを高知県へ誘致する!』とぶち上げたのは、
当時の観光部職員だった清遠和政(きよとう・かずまさ)。
しかし彼の主張は県庁の "お役所体質" を打ち破れず、
閑職に回された後に退職へと至る。
現在は民宿経営の傍ら観光コンサルタントで生計を立てているという。

清遠は、いまもなお途方もないスケールでの観光立県構想を抱いていた。

吉門と清遠という2人の強力な "助っ人" を得た「おもてなし課」は、
県庁の "お役所" "ぬるま湯" 体質を打ち破り、
高知県が観光客であふれる未来を呼び寄せることができるのか・・・?

「おもてなし課」の奮闘を縦軸に、
掛水と吉門、多紀と清遠の娘・佐和の4人を巡る恋愛模様を横軸に、
涙と笑いの物語が展開する。


いやあ、有川浩はホントにスゴい。

冒頭の吉門と「おもてなし課」のエピソードは、
実際に有川浩が高知県の観光大使を
引き受けたときの実話がベースらしい。
そのへんもちゃっかり小説のネタにしてしまうんだからたいしたもの。

代表作である『図書館戦争』シリーズや『自衛隊三部作』も、
恋愛要素だけにとどまらず、大きなテーマとストーリーを持っていた。

本書も、"地方創生" という古くて新しいテーマで
堂々とエンターテインメント長編を一冊書いてしてしまうんだから。
しかも、しっかりLOVEも散りばめて。

本書に描かれる「おもてなし課」の奮闘はまだ端緒についたばかり。
実際の、そして現在の高知県の観光産業がどうなっているのかは
寡聞にして私は知らないし(巻末にちょっと載ってるけどね)、
また本書に描かれた "処方箋" が最良なのかもわからない。
(小説だからうまくいくんだろ、って反論ももちろんあるだろう)
ましてや他県でこれと同じことができるとも思えない。

でも、かつて全国一律、各自治体に1億円配ったり、
バブル時代にハコモノを大量に作っても地方は再生しなかった。

根源的には、その土地に暮らす人々が知恵を集め、アイデアを練り、
行政がそれをバックアップしていくしかないのだろうとも思う。


さて、有川浩作品の特徴として、
「カッコいいおっさんが多い」というのが挙げられる。

「三匹のおっさん」なんていうそのものズバリの作品もあるが
本書でもパンダ誘致論者・清遠和政が実にカッコいい。
肝が据わっていてハッタリもかます。でも思考は緻密で計画性も十分。
組織を外れて、一匹狼でも十分に世間を渡っていけるが
妻と娘のことでは人並みに悩む・・・とかね。

目立たないけど掛水の上司、下元課長もいい味だしてる。
地道な根回しも淡々とこなし、部下に能力を発揮させる場を用意する。

私はとうてい清遠みたいにはなれそうもないが、
できれば下元みたいなオッサンにはなりたかったなあ・・・

毎度のことだけど、ページを繰るのが実に楽しい。
そんな読書の時間を与えてくれる本作は一押しの快作だ。


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からくり伝言少女 本格短編ベスト・セレクション [読書・ミステリ]

からくり伝言少女 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

からくり伝言少女 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/01/15
  • メディア: 文庫



評価:★★★

2010年に発表されたミステリ短編より選ばれた
"ベスト本格ミステリ" のアンソロジー。

創作9作、評論1作を収録してるけど、
このうち6作は実は短編集や他のアンソロジーで既読だったりする。

私はこんなとき、けっこう既読作は飛ばしてしまう。
ミステリの再読は、まずやらないんだ。

でも、今回はなぜか既読のものもじっくり再読してみた。
ラストのオチやネタがわかっていても、けっこう楽しめたよ。
良く出来たミステリは再読に耐える、ってことかな。


「ロジカル・デスゲーム」有栖川有栖
 シリーズ探偵・火村英生が、連続毒殺魔と対決する話。
 3つのグラスの中から、毒入りの杯を当てるという
 間違えたら、死あるのみという "ゲーム" に強制参加させられる。
 一見、公平そうなルールに秘められた "数学的なからくり"。
 解説部分を読んで唸らされたけど、それより驚いたのは、
 火村の手先の器用さが手品師並みだったこと(笑)。

「からくりツィスカの余命」市井豊
 短編集で既読。
 主人公・柏木の通う大学の演劇部が
 "生命" を与えられたからくり人形の物語を上演することになるが、
 未完の結末部分を残したまま、脚本担当の部員が失踪してしまう。
 残された脚本から結末部分の推理を頼まれる柏木だが・・・
 劇中劇の形で登場するツィスカの話だけど、
 これ、もっとストーリーを膨らませて長編化したものが
 読んでみたいなあ・・・あれ、前にも書いたかな?

「鏡の迷宮、白い蝶」谷原秋桜子
 短編集で既読。
 主人公の高校生・修矢は、知人の財閥令嬢・西遠寺かのことともに
 那須高原にある漆原家の別荘へやってきた。
 別荘の隣に住む棚橋氏は資産家なのだが
 やや痴呆症気味で、時価1000万円を超える
 4.4カラットのダイヤの保管場所を忘れてしまったという・・・
 『木の葉は森に隠せ』パターンの宝探しかと思わせて、
 さらにひとひねり。
 相変わらずかのこ嬢はカワイイ。

「天の狗」鳥飼否宇
 他のアンソロジーで既読。
 立山連峰にそびえる巨大な円柱状の岩の頂上で起こった殺人事件。
 密室状況下の不可能犯罪なんだけど、
 再読したら、初読時によくわからなかったとこもばっちり理解できた。
 とは言っても、このトリックは何回読んでも気が遠くなる。

「聖剣パズル」高井忍
 短編集で既読。
 歴史雑誌での投稿コンテストで賞金をせしめようと
 3人の女子高生がヤマトタケルの生涯を巡って
 侃々諤々の討論を繰り広げる話。
 歴史ミステリって、結局のところ史料を
 どう解釈するかの問題なんだけど、
 このシリーズの結論は、緻密に真面目に考察した仮説よりも、
 大向こうを唸らせるような派手な与太話の方が採用される、
 ってものだったよなあ。
 まあ、私もそんな壮大なホラ話が大好きだから文句は言えんが。

「死者からの伝言をどうぞ」東川篤哉
 短編集で既読。『謎解きはディナーのあとで』シリーズの一編。
 消費者金融の女社長が殺害される。
 現場にはダイイング・メッセージが残されていたが
 犯人に消されたらしく、判読は不可能。
 事件発生時に屋敷内にいた家族に容疑がかかるが・・・
 ヒロインの麗子、探偵役の執事・影山、麗子の上司の風祭警部と
 レギュラー陣のキャラ立ちもばっちりで、
 さすが大人気シリーズだけのことはある。

「羅漢崩れ」飛鳥部勝則
 他のアンソロジーで既読。
 今回再読したけどやっぱりスゴい。わずか30ページの中に、
 怪奇な発端、合理的な解明、キレ味鋭いラスト、
 そして主役二人の20年にわたる情念のすれ違いまで描かれる。
 本格ミステリのお手本みたいな作品。

「エレメントコスモス」初野晴
 大手レコード会社からデビューはしたものの、
 生活のためにスタジオミュージシャンをしているいずみ。
 今は交通事故で視力を失った奈緒と二人でアパート暮らし。
 その奈緒が言う。11月の終わりのこの時期でも、
 コスモスが咲いている場所があると。
 季節はずれの花から意外な真実が明らかになる。
 連作シリーズの一編とのこと。一冊にまとまったら読んでみたい。

「オーブランの少女」深緑野分
 オーブランと呼ばれる美しい庭で、事件が起こった。
 管理人姉妹のうちの姉が殺され、現場には "異様" な人物が。
 さらに3年後には妹が亡くなるが、残された手記には
 驚くべき物語が記されていた・・・
 ミステリというよりは伝奇ホラーな雰囲気が強いように思うが
 本作品が(たぶん)デビュー作である作者の筆力はたいしたもの。
 実は本作を表題作にした短編集が文庫になっていて、手元にある。
 まだ読んでないけど(おいおい)。

「ケメルマンの閉じた世界」杉江松恋
 『金曜日ラビは寝坊した』で始まるラビ・シリーズの評論。
 なつかしいなあこれ、たしか3作目くらいまでは読んだはず。
 (シリーズ全体では、未訳のものを含めて11作くらいあるらしい。)
 文中にも書いてあるけど、ミステリとしては
 あまり印象に残らないシリーズだったよなあ。
 「物語としては面白い」って筆者は書いてるけど
 ユダヤ人社会になじみがない日本人には、
 少しばかり敷居の高いシリーズだったとも思う。
 だから途中で読むのをやめちゃったのかなぁ。


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