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TOKYO BLACKOUT [読書・冒険/サスペンス]

TOKYO BLACKOUT (創元推理文庫)

TOKYO BLACKOUT (創元推理文庫)

  • 作者: 福田 和代
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/08/11
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

未だ猛暑の残る8月末のある日、午後4時。
秩父山地にそびえる高圧線の鉄塔が突如倒壊する。
現場近くには鉄塔保守要員の死体が。

さらに午後9時。
東北電力から関東へ電気を送る送電線鉄塔に
正体不明のヘリが衝突し、破壊される。

これにより東都電力は、日中で最大6000万キロワットに上る
関東地区への電力供給能力の1/6を喪失するに至る。

夜が明ければ、電力需要が一気に跳ね上がってしまう。

急遽会合を開いた東都電力と政府は、
地域ごとに送電をストップする時間帯をもうけることで
(そう、あの「計画停電」だ)乗り切ることを決定する。

それにより、決定的な危機は回避できるかに思われたが、
犯人グループの破壊工作はすでに東都電力中枢にまで浸透しており、
電力供給を喪った東京全体に、大停電が発生しようとしていた・・・


まず、この本が出版されたのが2008年だったことに驚く。
あの "3.11" による関東地区の大混乱を予期したような作品だ。

多くの人物が登場する群像劇なので、明確な主人公はいないのだが
物語はトラブルからの復旧へ向けて懸命に取り組む
千早淳一をはじめとする東都電力の社員たち、
妻との関係が悪化したうえに子供が重傷で入院したにも関わらず
犯人グループを追うことを命じられた刑事・周防を含めた警察官たち、
そして事件を引き起こした犯人グループ、
3つのストーリーが絡まり合いながら進行していく。

電力供給のプロとしての矜持をもって、
次々に起こる障害への対処に不撓不屈の精神で立ち向かう千早たち、
事件の捜査を通じて、改めて妻と向き合う覚悟を決める周防、
そして次第に明らかになる犯人グループの動機、そして目的。

「主役はいない」って書いたけど、強いてあげれば
犯行グループの主犯になる "彼" がそれにあたるだろうか。

"彼" はなぜこんな大規模な混乱を引き起こしたのか。
終盤近くでようやく "真の目的" が判明するのだが
ここは評価が分かれるかも知れない。

「そうだったのか!」って膝を打つか
「えー、そんなのあり?」っていささか呆れるか。

私は「膝を打つ」と「呆れる」が半々だったかなぁ・・・
端から見れば「そんなことでこんな大騒ぎを引き起こすなんて」
なのかも知れないが、本人からしたら
「ここまでやってこそ意味がある」のだろうし。

すべてが終わった後、"彼" は "あること" を行うのだが、
たしかに、こんなことでも起こらない限り、不可能なことだ・・・


私は作者・福田和代さんの作品に触れるのははじめて。
本書は彼女のデビュー2作目とのことだが、
2作目にしてこの堂々たる書きっぷりはたいしたもの。
多くの登場人物を縦横に動かしながら、
スケールの大きな物語を、文庫で450ページにわたって
ダレることなく最後まで読ませるのだから。


電力、ガス、水道などの生活インフラは
そこにあって当たり前、そして使えて当たり前。
そう思いがちだが、その影には
システムを支えている多くの人たちがいる。
そして、それは司法の力によって守られてもいる。

そんな「縁の下の力持ち」的な存在のおかげで
無事な毎日が成り立っていることを、
本書は改めて思い起こさせてくれる。


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