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プリティが多すぎる [読書・その他]

プリティが多すぎる (文春文庫 お 58-2)

プリティが多すぎる (文春文庫 お 58-2)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/10/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★

「俺はこんなことをやるためにこの会社(業界)に入ったんじゃねえ!」
社会人なら誰でも一度はこんな思いを持ったことがあるだろう。

大学時代の同期生の中にも、
入社後2~3年で辞めてしまった奴が複数いる。
(仕事の内容だけが原因ではないと思うが)

運良く、望み通りの職種に就けたとしても、
永久にそのままとは限らない。
特にサラリーマンなら、人事異動は避けられないからだ。

いままでの経歴・経験とはかけ離れた仕事をあてがわれることもある。
部署の異動は無いまでも、
とても自分に向いているとは思えないミッションを
振られることだって往々にしてある。
私自身、今までの仕事人生で何度かそういう場面に遭遇してきた。
だからといってイヤとは言えないのが宮仕えのつらいところだが。

 もっとも、会社の方にも
 「その社員(そして会社)の将来のために、
  いろいろな部署を経験させておく」
 という思惑があるのはわかるが。

 ちなみに、辞めてしまった同期生たちは
 その後、ちゃんと新しい仕事に就いたけどね。
 その中の一人は、驚くなかれ、いま大学教授になってる。
 彼の場合は本当に仕事と能力が見合ってなかったのかも知れんが。

そう言えば、私が最初に配属された職場にも、
同じようなことを言って去っていった人がいたなあ・・・
あの人は同業他社に行ったはず。今頃どうしてるんだろう。

閑話休題。


本書の主人公・新見佳孝くんは
総合出版社・千石社で働く26歳の若手編集者。

文芸書部門への異動を熱望していたにも関わらず、
配属先となったのは少女向けファッション雑誌『ピピン』。
読者層は中学生女子。キャッチコピーはずばり「女の子はPが好き」

私はこの手の雑誌には全く縁がないのでよくわからないが
作中の描写によれば、中学生女子が喜ぶような
フリルやリボン付きの服とか鞄とか帽子とかがメインで、
そしてそれを身にまとったカワイイ女子中学生読者モデルの写真で
全ページが埋め尽くされているような雑誌らしい。

「俺はこんな雑誌をつくるために編集者になったんじゃねえ!」
とは思うものの、いつの日か文芸書担当になって
ベストセラーを出すことを夢見つつ、
畑違いの世界に放り込まれた新見君の苦闘の日々が始まる。

右も左もわからない新見君の、勘違いやら偏見が巻き起こす失敗の連続と、
それによって少しずつ成長していく姿が描かれる
"お仕事小説" なのだけれど、さらに驚かされるのは、
登場する女子中学生モデルたち。

『ピピン』の編集部の先輩やカメラマン、スタイリストは
子供向けだからと言って一切手抜きはしない。
プロなんだから当たり前なのではあるが、
年端もいかない女の子たちもまた、
モデルとしてのプロ意識はたいしたもの。
10歳以上も年下の彼女らから、
たびたび "この業界" のことを教えられる新見君でもあった。

しかし超高倍率の選考を突破して首尾よく読者モデルの座を射止め、
同期生との人気争いに勝利しても、彼女らの地位は安泰ではないのだ。
高校生になればモデルも "卒業" になってしまう。
さらに上の世代向けの雑誌モデルを目指すもの、
アイドルや女優への転向を目指すものなど、
芸能界でのサバイバルも厳しい。
しかしそんな世界をたくましく生き抜いていく
彼女らの姿もまた読みどころ。

もっとも、彼女らの必死さもわかるのだけど、
それでもなお、中学生や高校生の時代って、
もっと他にやるべきことがあるんじゃないかなぁ・・・
なぁんて思う私は頭の固いジイサンなんだろうねえ。

ラスト近くになっても相変わらずトラブルを引き起こす新見君は
『ピピン』編集者としてはまだまだ駆け出しなんだろうけど
この経験は決して無駄にはならないはず。
(というか、そう思わなけりゃやってられんわなあ)。


余談だが、ラスト近くになって新見の先輩として
文芸担当編集者の工藤が登場する。
先日感想を挙げた『クローバー・レイン』の主役を務めた彼だ。

残念ながら『クローバー』がらみのネタは
いっさい投下されなかったんだけど
(だって、あのラストのその後が気になるじゃないか!)
解説によると、工藤と新見が競演している短編も書かれているらしい。
いつの日かそのあたりを知ることもできるのかなぁ。


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