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ナイト&シャドウ [読書・ミステリ]

ナイト&シャドウ (講談社文庫)

ナイト&シャドウ (講談社文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/06/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★

長編『キング&クイーン』は、元SPのヒロインが
事件に巻き込まれ、チェスの世界チャンピオンを
護衛する羽目になる話だった。

『キング-』には、彼女のかつての上司として
首藤武紀(しゅとう・たけのり)という男が登場したが、
本作では彼が主役を務める。


アメリカ秘密検察局警備調査部、
一般には「シークレット・サービス」の名で知られる
世界最強の警護官集団。
そこでの2ヶ月の研修を命じられた首藤はワシントンへ赴く。

着任早々、街頭デモの中で凶器を振り回す暴漢が出現するが、
首藤は軽々と彼を取り押さえてしまい、
バディを組むことになった相棒・バーン特別捜査官を唸らせる。

しかし、暴漢が所持していた写真に
大統領暗殺計画を匂わせる "あるもの" が写っていたことから
物語は動き始める。

首藤は、暴漢逮捕の際にジャーナリスト・山岸美和子と知り合い、
親交を深めていくことになる。
しかし、ホワイトハウス宛に大統領暗殺を予告する手紙が届き、
研修中の首藤まで大統領警護に駆り出されていく事態になる。

そんな中、美和子が何者かに誘拐される。
暗殺者たちの仕業とみた首藤は彼女を救出すべく、
相棒のバーンとともにワシントンの夜を駆ける・・・


『キング&クイーン』では脇役だった首藤だが、
大統領暗殺を狙うテロリストを追ううちに、
自らの過去との意外な因縁が明らかになったりと、
本作では堂々のセンターを占めている。

並外れた体格と膂力、ストイックなプロフェッショナルぶり。
表紙のイラストのせいもあると思うのだが
首藤のキャラには「ゴルゴ13」と「五郎丸歩選手」を
足して2で割ったようなイメージが湧いてくる。
ただまあ、ゴルゴみたいな "お盛ん" ぶりはないけどね。
その点も実にストイック。

美和子との関係も、必要以上に踏み込まないのだが
それが彼なりの深謀遠慮によるものなのが後になって明かされる。


全体としてはサスペンスタッチで、
終盤になると伏線になっていたミステリ的な仕掛けが
いくつか発動して盛り上げてくれる。

『キング&クイーン』では冷酷非情な上司ぶりを見せたが、
本作ではもう少し人間的な部分もかいま見せる。

できれば、首藤の登場する続編が読みたいなあ。
そのときには、美和子さんにもぜひ再登場していただきたい。


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樹上のゆりかご [読書・青春小説]

樹上のゆりかご (角川文庫)

樹上のゆりかご (角川文庫)

  • 作者: 荻原 規子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/04/23
  • メディア: 文庫



評価:★★★

「これは王国のかぎ」のヒロイン・上田ひろみ嬢、再びの登場。

異世界での大冒険から2年。
ひろみは旧制中学の伝統が色濃く残る
名門進学校・辰川高校の2年生になっていた。

5月、親友の中村夢乃に誘われて
合唱祭実行委員の手伝いをすることになったひろみ。
とは言っても、その実体は当日のパン販売の売り子だったが。

しかし当日販売されたパンの中に
カッターナイフの刃が仕込まれていたことが判明する。
学校に対して悪意を持つ者が存在するのか・・・

やがて生徒会の選挙が行われ新執行部が発足するが
ひろみも誘われて役員の一人となる。

そんな中、ひろみは
合唱祭で指揮者を務めた美少女・近衛有理と知り合い、
急速に彼女に惹かれていく。

学校は秋に行われる学校祭の準備一色に染まっていくが
生徒会執行部に脅迫状が届いたり放火騒ぎが起こったりと
何者かの悪意は確実に広がっていく・・・


一大ファンタジーだった前作とは打って変わって
今回はややサスペンス要素はあるもののほぼ日常系。

ひろみさんも、きゃあきゃあ言ってた前作からぐっと成長して
なかなかに落ち着いた17歳となっている。

とは言ってもそこはやっぱり女子高生。
学園生活を謳歌しながらも受験は常に頭の片隅にあって
彼女を含めていくつかの恋愛模様も展開するという、
いわゆる悩み多き年頃。
そんな生徒たちが集まって過ごす、
ひと夏の「学校生活」を描いた青春小説である。


舞台となる辰川高校(たぶんモデルは作者の母校の東京都立立川高校)は
かつては男子校だったこともあり、その当時の風習も残っていて、
それもまた女子生徒にはいまひとつなじめないところなのかも知れない。

 私も男子校出身なので、読んでいて共感できるというか
 一種の懐かしさを感じる部分もある。

さらに、教員をはじめとする学校の方針というか雰囲気もまた
"古き良き時代の進学校" を思わせる。

 少子化が進んだ現在は、在学中に生徒をどれだけ鍛えて、
 大学合格者数をどれだけ出すかで
 学校の評価が決まるようになってしまったから、
 辰川高校のような "放任主義" な学校は
 もう生き残れなくなってるだろうなあ・・・


今までのところ、上田ひろみを主役にした作品はこの2作のみ。

巻末に収められた、書き下ろしのおまけ短編では、
3年生になったひろみさんの受験生生活、
そして、高校で出会った先生に文才を認められ、
文学の道を志すところまでが描かれる。
このへんも、"古き良き時代の進学校" だねえ・・・


ここまで書かれたら、
大学生になったひろみさんの話を読んでみたくなるよねぇ。


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プリティが多すぎる [読書・その他]

プリティが多すぎる (文春文庫 お 58-2)

プリティが多すぎる (文春文庫 お 58-2)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/10/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★

「俺はこんなことをやるためにこの会社(業界)に入ったんじゃねえ!」
社会人なら誰でも一度はこんな思いを持ったことがあるだろう。

大学時代の同期生の中にも、
入社後2~3年で辞めてしまった奴が複数いる。
(仕事の内容だけが原因ではないと思うが)

運良く、望み通りの職種に就けたとしても、
永久にそのままとは限らない。
特にサラリーマンなら、人事異動は避けられないからだ。

いままでの経歴・経験とはかけ離れた仕事をあてがわれることもある。
部署の異動は無いまでも、
とても自分に向いているとは思えないミッションを
振られることだって往々にしてある。
私自身、今までの仕事人生で何度かそういう場面に遭遇してきた。
だからといってイヤとは言えないのが宮仕えのつらいところだが。

 もっとも、会社の方にも
 「その社員(そして会社)の将来のために、
  いろいろな部署を経験させておく」
 という思惑があるのはわかるが。

 ちなみに、辞めてしまった同期生たちは
 その後、ちゃんと新しい仕事に就いたけどね。
 その中の一人は、驚くなかれ、いま大学教授になってる。
 彼の場合は本当に仕事と能力が見合ってなかったのかも知れんが。

そう言えば、私が最初に配属された職場にも、
同じようなことを言って去っていった人がいたなあ・・・
あの人は同業他社に行ったはず。今頃どうしてるんだろう。

閑話休題。


本書の主人公・新見佳孝くんは
総合出版社・千石社で働く26歳の若手編集者。

文芸書部門への異動を熱望していたにも関わらず、
配属先となったのは少女向けファッション雑誌『ピピン』。
読者層は中学生女子。キャッチコピーはずばり「女の子はPが好き」

私はこの手の雑誌には全く縁がないのでよくわからないが
作中の描写によれば、中学生女子が喜ぶような
フリルやリボン付きの服とか鞄とか帽子とかがメインで、
そしてそれを身にまとったカワイイ女子中学生読者モデルの写真で
全ページが埋め尽くされているような雑誌らしい。

「俺はこんな雑誌をつくるために編集者になったんじゃねえ!」
とは思うものの、いつの日か文芸書担当になって
ベストセラーを出すことを夢見つつ、
畑違いの世界に放り込まれた新見君の苦闘の日々が始まる。

右も左もわからない新見君の、勘違いやら偏見が巻き起こす失敗の連続と、
それによって少しずつ成長していく姿が描かれる
"お仕事小説" なのだけれど、さらに驚かされるのは、
登場する女子中学生モデルたち。

『ピピン』の編集部の先輩やカメラマン、スタイリストは
子供向けだからと言って一切手抜きはしない。
プロなんだから当たり前なのではあるが、
年端もいかない女の子たちもまた、
モデルとしてのプロ意識はたいしたもの。
10歳以上も年下の彼女らから、
たびたび "この業界" のことを教えられる新見君でもあった。

しかし超高倍率の選考を突破して首尾よく読者モデルの座を射止め、
同期生との人気争いに勝利しても、彼女らの地位は安泰ではないのだ。
高校生になればモデルも "卒業" になってしまう。
さらに上の世代向けの雑誌モデルを目指すもの、
アイドルや女優への転向を目指すものなど、
芸能界でのサバイバルも厳しい。
しかしそんな世界をたくましく生き抜いていく
彼女らの姿もまた読みどころ。

もっとも、彼女らの必死さもわかるのだけど、
それでもなお、中学生や高校生の時代って、
もっと他にやるべきことがあるんじゃないかなぁ・・・
なぁんて思う私は頭の固いジイサンなんだろうねえ。

ラスト近くになっても相変わらずトラブルを引き起こす新見君は
『ピピン』編集者としてはまだまだ駆け出しなんだろうけど
この経験は決して無駄にはならないはず。
(というか、そう思わなけりゃやってられんわなあ)。


余談だが、ラスト近くになって新見の先輩として
文芸担当編集者の工藤が登場する。
先日感想を挙げた『クローバー・レイン』の主役を務めた彼だ。

残念ながら『クローバー』がらみのネタは
いっさい投下されなかったんだけど
(だって、あのラストのその後が気になるじゃないか!)
解説によると、工藤と新見が競演している短編も書かれているらしい。
いつの日かそのあたりを知ることもできるのかなぁ。


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魔性納言 妖草師 [読書・ファンタジー]

魔性納言: 妖草師 (徳間時代小説文庫)

魔性納言: 妖草師 (徳間時代小説文庫)

  • 作者: 武内 涼
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2016/02/05
  • メディア: 文庫



評価:★★★

この世に現れ、人に仇をなす"異界の凶草"を
人知れず刈り取ることを生業とする
"妖草師"・庭田重奈雄の活躍を描く、シリーズ第3作。

第1作が長編、前作は短編集。
そして本書は再び長編となり、
文庫で500ページを越える最大のボリュームとなった。

幼なじみの滝坊椿(たきのぼう・つばき)、
友人で絵師の池大雅、曾我蕭泊など
レギュラーメンバーとともに、
シリーズ最強の敵との戦いが描かれる。


重奈雄たちは、竜安寺の鏡容池で
人の生き血を吸う妖草・"水虎藻" を発見する。

"水虎藻" は重奈雄によって退治されるが、
妖草は人の心を苗床に生じることから、
強烈な野心と貪欲を持つ者が
京の町のどこかに存在することを感じ取る。
同じ頃、見目麗しい娘が神隠しに遭うという事件が続発していた。

椿の父にして将軍家華道指南役・滝坊舜海は、
椿に婿をとらせて滝坊家の後継者するべく、
紙問屋の若旦那との見合いの席を設ける。

しかしその場に、酒に酔った侍が乱入する。
一時は騒然となるが、それを鎮めたのは美しき青年公家、
中納言・茶山寺時康(さざんじ・ときやす)。

若手の公家に対して幕府への不満を焚きつけ、
倒幕の動きに繋げようという陰謀が密やかに進行していた。
そして、その企みの中核にいたのは他ならぬ時康であった。

自らも妖草を操る彼は、倒幕を越えた先に、
さらなる途方もない野望を抱いていた・・・


はっきりとは書かれてないけど、読み終わってみると
なんとなく「これで完結」という雰囲気で
続巻は書かれないような気がしてる。

重奈雄と椿の恋愛模様にも決着がつくので、
そのあたりが気になる人は必読ですね。


解説によると、この<妖草師>シリーズは
「この時代小説がすごい! 2016年版」で第1位を獲得したとのこと。

うーん、そのことについてとやかく言うつもりはないけど
時代小説のファンの方々と私とでは
小説の評価基準がずいぶん違うんだなぁ、というのは感じた。


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シャーロック・ホームズの不均衡 [読書・ミステリ]

シャーロック・ホームズの不均衡 (講談社タイガ)

シャーロック・ホームズの不均衡 (講談社タイガ)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/11/19
  • メディア: 文庫



評価:★★★

両親を殺人事件の被害者として喪った天野直人。
直人以外の人間に対して心を閉ざす妹・七海。
しかし彼女が、驚異的な推理能力を備えていたことから、
二人は "世界" から追われることになる。
そんな兄妹が出会う4つの事件を描く。

「第1話 雪の日は日常にさよなら」
 18歳になった直人は、高校卒業と同時に、
 小学3年生の七海と一緒に暮らしている児童養護施設を出て、
 経済的に自立しなければならない。
 そんな折り、「二人を養子として迎えたい」との申し出があった。
 二人は養父となる人物に会うため、
 長野の山中にあるペンションに向かうが、
 そこで起こった殺人事件に否応なく巻き込まれてしまう。

「第2話 シャーロック・ホームズの産卵」
 巨大財閥・御子柴グループの御曹司、辰巳に保護された二人だが、
 その屋敷内で石膏像が何者かに破壊される。しかも現場は密室状態。
 その謎を解き明かした二人に対して、辰巳は驚愕の事実を語り出す。

「第3話 世界は名探偵でできている」
 辰巳の庇護の元、不可能犯罪の解決に取り組むことになった二人。
 最初の事件は古民家で発見された死体。
 しかも前日の雨により家の周辺は泥濘状態という
 "足跡のない殺人事件" だった

「第4話 尊きものは頭部を狙う」
 今度の現場はガラス張りの密室、
 無人だった部屋に忽然と出現した死体、
 そして、一カ所だけあったガラスの破損箇所は、
 なぜか "内側から" 破られていた・・・


名探偵の推理力が "資源" として評価され、
世界中で "争奪戦" が展開されているという
とんでもない設定の元、展開されるミステリ。

"名探偵の素質" のある者を見つけだすために、
わざわざ不可能犯罪を引き起こす "組織" まで出てくるんだから
念が入ってる。

事件を解決した者を "名探偵" 候補として拉致し、
自分たちの利益のために使おうという、なんとも乱暴な話。

巨大財閥・御子柴グループは、"組織" の思惑を打ち砕くため、
"名探偵の素質を持つ誰か" が事件に関わってくる前に
直人・七海の兄弟を使って解決してしまおうとする。

二人は、御子柴グループの庇護を受ける代わりに、
グループのために働くことを選択する・・・

もちろん "組織" も黙っているわけではなく、
当然ながら二人をターゲットにした "刺客" も送り込んでくる・・・


石持浅海あたりが書きそうな "特殊状況下ミステリ" だけど
主人公やサブキャラの造形をみると、紛れもなく似鳥鶏。

9歳の少女が探偵役だったり、
直人のお世話役に美人なお姉さんが出来てきたりと
ライトノベル的雰囲気もあるけど、
ダークな面ももちろん描かれる。

なんとなくだけど、続巻が出そうな雰囲気もある。
もしこれもシリーズになったら、いくつめになるんだろう。
いやあこの人もずいぶん売れっ子になったねえ。


本書の冒頭に3つの「問題」があるのだけど、
実はこれも本書のテーマに深く関わっている。

ちなみにこの3問、元ネタは「頭の体操」(多湖輝)だよねぇ。
少なくともこの中の2問は、見覚えがあるもん。


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植物図鑑 [読書・恋愛小説]

植物図鑑 (幻冬舎文庫)

植物図鑑 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2013/01/11
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆


最近、本書を原作にした映画が公開されたけど
別にそれに合わせて読んだわけではない。

私の家には "積ん読" 状態の本が山ほどあって
とにかく毎日その消化に追われている。
とはいっても、気になる新刊も日々発売されるし
在庫と新刊をどんな配分で読むのかもなかなか悩ましい。

というわけで、私なりに読む順番を作ってリスト化し、
それに沿って読んでるわけで、
本書を読む時期が映画と重なったのは単なる偶然である。

前置きが長くなってしまった。

映画のCMもTVでけっこう流れているので
何となくストーリーを知っている人も多いかもしれない。


ヒロインのOL・河野さやかは、仕事帰りに自分のアパートの前で、
"行き倒れ" ていた青年・樹(イツキ)を "拾う"。

イケメンで性格も穏やか、そして家事万能のイツキは、
その日からさやかの居候となり、
スーパー家政婦として大活躍を始める。

さやかはイツキの "正体" に疑問を抱きながらも、
彼との共同生活を始める。

名前しか名乗らないイツキだが、
植物に対して尋常ではない知識を持ち、
やがて二人は週末ごとに、ご近所の「雑草」ならぬ
「野草狩り」に勤しむようになる。

イツキは採った植物の調理についても玄人はだしの腕のさえを見せ、
さやかは彼の振る舞う"野草料理"にすっかり魅せられてしまう。
彼女は "胃袋" までガッチリと掴まれてしまったわけだ。

しかし幸せな日々も突然、終わりを迎える。
イツキとの生活に喜びを感じ、彼に対する愛情が高まってゆく中、
突然さやかの前からイツキは姿を消してしまう・・・


ラブストーリーを書かせたら、
目下のところ右に出るものはいないであろう有川浩。

本作でもベタ甘な、現代のおとぎ話みたいな物語が展開する。
だって、道端に倒れている正体不明の男を部屋に連れ込むとか
一つ屋根の下で暮らしながらも、なかなか男女の仲にならないとかね。

でも、それでいい。
そういう話を堂々と書いてしまって
読ませてしまうのが有川浩という作家さんなのだから。

感動的なエンディングで読後感もさわやか。
これもまた有川浩ブランドの安心感。


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UFOはもう来ない [読書・SF]

UFOはもう来ない (PHP文芸文庫)

UFOはもう来ない (PHP文芸文庫)

  • 作者: 山本 弘
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2016/03/09
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

地球は監視されていた。
自らを<スターファインダー>と呼ぶ異星生命体によって。
そして今、彼らはある "決断" をしようとしていた。

TVディレクターの大迫、ADの明日辺、源田、
そしてカメラマンの薪家の4人組は
怪しげな番組をでっち上げて日銭を稼いでいる。
彼らは在野のUFO研究家・木縞千里を誘い、
新興宗教団体DSIを取材するために大阪へやってきていた。

そのころ、観察のため地球上空へきていた
<スターファインダー>の一人(一体?)・ペイルブルーの乗った宇宙船が
スペースデブリの直撃によって京都の山中へ不時着してしまう。
彼女(?)はそこに居合わせた小学生3人組、
雄飛(ゆうひ)・英(ひで)・幸太(こうた)に見つかり、保護(?)される。

3人は大迫たちに連絡を入れ、助力を仰ごうとするが
その寸前、異星人の存在を知った
DSIの教祖・龍彫蔵人(りゅうぼり・くらんど)の一味によって
ペイルブルーは拉致されてしまう。

かくして小学生たちと大迫たちは
囚われの異星人を奪還すべく、立ち上がるが・・・

ストーリーはいたってシンプルながら、
本書は文庫で750ページ近い厚さを誇る。
何でそんなに分厚いのかというと、
UFOにまつわる様々なネタに関する蘊蓄がハンパないのである。
もともと「トンデモ似非科学」に造詣の深い作者のこと、
例えばUFO写真の真贋ひとつとっても延々と語ってみせる。
こういう要素は、悪くとれば物語の流れを分断してしまうのだけど
この "脱線" がまためっぽう面白いんだなあ・・・

新興宗教も出てくるが、
人はなぜ、「明らかに胡散臭い」と思われるものでも
信じてしまうのか。
このあたりも作者はいろいろ書いてる。このへんも必読だと思う。

この蘊蓄部分をそっくりなくしてしまえば、
本書はこの半分の厚さに収まると思うんだけど、
それでは本書の魅力は半減してしまうだろう。
「似非科学批判」の入門書としても最適なところも
本書の "売り" だろう。


主役となる異星生命体<スターファインダー>の立ち位置は、
「未発達の文明には不介入、行うのは観察のみ」
恒星間航行を可能にした彼らからすれば、
人類は未開の蛮族であり恐怖の対象ですらあったりする。

物語が進むにつれて、人類の価値観とは相容れない生態、
そして彼らが下そうとしていた "決断" の内容が明らかになるが
それを知った主人公たちの行動もまた読みどころ。
このあたりも「ファースト・コンタクト」ものとして良くできてる。


基本的には「山本弘版ET」なのだけど、ラストの展開に至って、
クラークの「幼年期の終わり」をも彷彿とさせる作品へ変貌する。

UFO or 異星人の存在を信じるか信じないか、
人それぞれだとは思うけど
この世に「UFO」という言葉が存在している以上、
一度は読んでおいて損はない本だと思う。


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街角で謎が待っている がまくら市事件 [読書・ミステリ]

街角で謎が待っている がまくら市事件 (創元推理文庫)

街角で謎が待っている がまくら市事件 (創元推理文庫)

  • 作者: 秋月 涼介
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/12/22
  • メディア: 文庫



評価:★★★

架空の町「蝦蟇倉市」を舞台にした
連作ミステリ、そのPart.Ⅱ。

「さくら炎上」北山猛邦
 主人公の "私" は、公園でたまたま同級生の陽子を目撃する。
 彼女は同級生の男子と待ち合わせしていた。
 しかし、デートにしては二人の様子がおかしい。
 後をつけた私は、廃墟となった屋敷の庭で
 陽子が男子生徒を殺害する現場を目撃してしまう。
 "私" は、彼女の犯行を隠蔽するべく、
 庭に穴を掘って死体を埋めてしまうが・・・
 犯人当てではなく、動機当て。
 しかしこの動機、予想の斜め上すぎる。

「毒入りローストビーフ事件」桜坂洋
 レストランで一人の男が突然倒れ、死亡する。
 病院では服用していた薬の副作用と診断されるが、
 男と同席していた3人は、男の死因を巡って
 延々とディスカッションを繰り広げる・・・
 うーん桜坂洋ってSF作家ってイメージがあって
 本書も状況はミステリなんだけど
 議論の進行はあんまりミステリっぽくない。
 好き嫌いが分かれる作品かなあ。私はいまいち。

「密室の本」村崎友
 このシリーズの共通キャラクター、
 不可能犯罪課の真知博士が登場する一編。
 大学生の "僕" と、その恋人の藍(あい)は、
 先輩の多智花(たちばな)が
 アパートの自室で死体となっているのに遭遇する。
 そして、押入の中にごっそりとあったはずの蔵書も消えていた。
 死体で発見されるまでのわずかな時間に
 大量の書籍を持ち去ることは不可能のはずだった・・・
 ラストのオチをどうとるかで評価が決まるかなあ。
 それこそ人それぞれの好みか。
 私はあまり好きじゃないかなあ・・・

「観客席からの眺め」越谷オサム
 市営球場で会話する高校生の男女。
 卒業と同時に蝦蟇倉を出る今村、残る智代。
 語る話題は吹奏楽部顧問・勝田が殺された事件。
 二人はそれぞれ、事件に関わる"秘密"を抱えていた・・・
 「日だまりの彼女」以来、
 どうもこの人には今一つ不信感があって・・・(笑)
 あ、「いとみち」シリーズは面白いし好きだよ。
 (あんまりフォローになってないか)
 本作はミステリとしてはよくできてると思うのだけど
 物語としては好きになれない展開。
 そう思うのはやっぱりトシのせいかなあ・・・

「消えた左腕事件」秋月涼介
 真知博士再びの登場。
 美術館を訪れた男が館内で殺される。
 顔はぐちゃぐちゃに潰され、左腕は切断されて。
 しかもその腕は現場か発見されなかった。
 犯人は、密室状態の館内から腕とともに消え失せていたのだ・・・
 ハウダニットものとしてよくできてるけど、犯人も意外。
 でもその背景は・・・
 うーん、蝦蟇倉市だから許される真相なのかも。

「ナイフを失われた思い出の中に」米澤穂信
 作者の出世作となった<ベルーフ>シリーズの一編。
 探偵役は長編「さよなら妖精」にも登場した大刀洗万智。
 イタリア系企業に勤務する "わたし" は、大刀洗に会うために
 蝦蟇倉を訪れるが、彼女はある事件を追っていた。
 それは16歳の少年が3歳になる姪を刺殺したとされるもの。
 二人で事件ゆかりの場所を巡りながら、
 万智は少年の行動に秘められた "真相" に迫っていく。
 明らかにされる少年の心情は、切ないの一言。さすがの米澤穂信。
 このシリーズはまだ未読なんだけど万智さんのキャラは気に入った。
 文庫になる日を、首を長くして待ちます。


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ポメラが来た! [日々の生活と雑感]

※記事のタイトルはウルトラQを意識したわけではありません(笑)。
 ↑分かる人は何人いるかな・・・ 

KING JIM の pomera DM100 を購入した。


キングジム デジタルメモ ポメラ  DM100 ブラック

キングジム デジタルメモ ポメラ  DM100 ブラック

  • 出版社/メーカー: キングジム
  • メディア: オフィス用品



実は、pomera という商品の出始めの頃、
あの折りたたみ式キーボードに憧れて購入を考えたことがあったんだが、
作成した文書データをどうやってPCに取り込むかで考えてしまった。
USBケーブルをつなぐのも面倒だしメモリーカードを使うのも億劫だ。
というわけで、購入を見送っていた。

そしていつの間にか初期型のポメラは販売終了となり、
後継機では折りたたみキーボードは廃され、現在のDM100は
横長になった nintendo DS みたいになってしまっていた。
というわけで、購入意欲もちょっと鈍っていたのだけど・・・

ところが、先日ネットを見ていたら、
無線LAN機能を持つSDカードを装着することによって
ポメラのデータをそのままevernote(クラウド上の書庫みたいなもの?)
に投稿できるという。


東芝 SDHCメモリーカード(FlashAir) 8GB SD-WC008G

東芝 SDHCメモリーカード(FlashAir) 8GB SD-WC008G

  • 出版社/メーカー: 東芝
  • メディア: エレクトロニクス



というわけで俄然興味が湧き、矢も盾もたまらず購入してしまった。

実際に使用してみたところ、設定・手順は至って簡単。

(1)東芝製のFlashAir SDカードを装着してポメラを起動する。
 DM100は、ファームウェアがバージョンアップした際に
 これに対応したようだ。
(2)「Menu」→「ツール」→「FlashAir」を選択。
 DM100 の周囲を飛んでいるWi-Fi電波の一覧が表示されるので
 その中から我が家の無線LANルータを選択、接続設定をする。
(3)あらかじめPCでネット上のevernote webにアクセスして
 登録しておいたアカウント情報(メアドとパスワード)を入力する。
 これだけで終了である。
(4)DM100で作成したテキストデータをSDカードに保存し、
 「FlashAir」メニューから「evernote投稿」を選択する。
 これだけで、クラウド上にテキストデータが保存される。
 このデータは、PCからevernote webにアクセスすると
 参照できる。

最初の投稿こそちょっと迷ったが、要領がわかればあとは簡単。
DM100 で作成したテキストデータは、
USBケーブルの接続もSDカードの抜き差しも必要なく、
ネット上のevernoteに保存される。

実はこの文章はDM100で下書きし、evernote経由で
PC上のワープロソフトで整形してブログに挙げたものだ。

肝心のDM100の使い勝手だけど、キーボードがやや小さめかな。
でも、私はもともと手が小さめな人間なので
使っていくうちに慣れていけば問題なさそうだ。

日本語変換も使い慣れたATOKなのでこれも問題ない。
電源は単三アルカリ乾電池2本。これもいつでもどこでも手に入る。
そのうちeneloopにしようかとも思っている。

何より使い勝手がいい。
書いている途中でも、そのままカバーを閉じれば終了、
再びカバーを開ければそのまま入力が再開できる。
PCのように起動を延々と待つ必要がない。

これでブログの更新回数も増えるだろうか?
増えたらいいなあ(願望)・・・www


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折れた竜骨・上下 [読書・ミステリ]

折れた竜骨 上 (創元推理文庫)

折れた竜骨 上 (創元推理文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/07/11
  • メディア: 文庫




折れた竜骨 下 (創元推理文庫)

折れた竜骨 下 (創元推理文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/07/11
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

第64回日本推理作家協会賞受賞作。

時代は1190年。
舞台はイングランドと大陸の間、北海に浮かぶ大小二つの島。
それぞれソロン島、小ソロン島と呼ばれ、
領主ローレント・エイルウィンが治めている。
彼は "呪われたデーン人" の襲来に備え、傭兵を集め始めていた。

そんな中、領主の娘アミーナは、
放浪の騎士ファルク・フィッツジョンと
従者ニコラ・パゴの二人連れに出会う。

ちなみに、彼女は本書のヒロインであり、語り手をも務める。
16歳ながら、凛とした少女である。

ファルクはローレントに告げる。
「御身は、恐るべき魔術の使い手である
 暗殺騎士エドリックによって命を狙われている」と。

エドリック自身は姿を見せず、
彼の魔術によって<走狗>(ミニオン)と化した刺客が
既に島に入り込んでいるという。

しかし警告もむなしく、ローレントは
小ソロン島に構えた居館内で殺されてしまう。

ファルクとニコラ、そしてアミーナも加わって
<走狗>を見つけ出すべく、 "探索行" が始まる・・・


十字軍の時代に設定されてはいるが
実質的には「異世界ファンタジー」だ。

塔上の牢に幽閉された "不死のデーン人" の虜囚に象徴されるように
"魔法" の実在するファンタジー世界で繰り広げられるミステリ。

もちろん「何でもあり」ではミステリとして成立しないので
"魔法" に関しても細かく厳密に設定してある。
発動させるためにの条件、<走狗>にされた者の辿る運命など
これらも "推理" を進めるための根拠になり得るように。

SFやファンタジーを背景にミステリを構築するのは、
その世界でなければ成立しないトリックなりロジックを描くため。
本書でも、作品世界内に "魔法" を設定したのは、
それが本作品の中核に深く関わっているから。

 でもまあ、それが分かってはいても、
 読んでいて見破れるかというとまた別問題。
 そのへんは流石に米澤穂信だなあと思う。

ファルクたちによる探索行の末に展開される "謎解き" シーンでは
8人に絞られた "容疑者" から一人一人、
論理的に消去していく方法が採られる。

 このあたり、人数こそ少ないが
 エラリー・クイーンの「Zの悲劇」や「中途の家」を思い出す。

そして、さらにもう一段、ミステリとしての "仕掛け" があって
最後まで読者の予断を許さない。


読み終わってみて思ったが、本書はミステリ要素を抜きにしても
ファンタジーとして充分面白い。

荒海に囲まれた小国に迫る危機。
異界の蛮族との息詰まる攻防。
奮戦する騎士、そして傭兵たち。
そして、領主の娘として自らの運命を選択するアミーナ。

ミステリ作家として確固たる地位を築きつつある作者だけれど、
純粋なハイ・ファンタジーも読んでみたくなった。


良くできた物語を読んだ後にいつも思うことだけど、
登場人物たちのその後が知りたい。
短編でもいいから書いてくれないかなあ・・・


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