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体育館の殺人 [読書・ミステリ]

体育館の殺人 (創元推理文庫)

体育館の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/03/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

激しい雨の降りしきる中、一人の高校生が刺殺される。
場所は風ヶ丘高校の旧体育館のステージで、
殺されたのは放送部部長・朝島友樹。

しかし、殺人が行われた時間帯には、
旧体育館の外部へ通じる出入り口はすべて
施錠あるいは人の目があり、いわゆる密室状態だった。

容疑は、犯行時間に体育館内にいた唯一の人物にかけられる。
それは女子卓球部の部長・佐川奈緒。
彼女は体育館のフロアで部活動の準備をしていたのだ。

奈緒の無実を信じる女子卓球部員・袴田柚乃は、
生徒会副会長・八橋千鶴の紹介で、
裏染天馬(うらぞめ・てんま)なる生徒に助けを求める。

彼は定期テストで全科目満点をとった学内一の秀才。
しかし、なぜか自宅により着かず、
学校にナイショで文化部の部室棟の一角に住み着き、
そこでアニメ三昧の生活を送っているダメ人間だった・・・


第22回鮎川哲也賞受賞作である。
いままで、同賞の受賞作を何作か読んできたけど、
これほど鮎川哲也賞にふさわしい "直球ど真ん中" の
本格ミステリも珍しいのではないだろうか。

創元推理文庫は、日本の作品でも英語の副題がつくのが通例だが
本作にも、立派なタイトルがついている。
「THE BLACK UMBRELLA MYSTERY」
さしずめ「黒いコウモリ傘の謎」とでも訳すのだろうか。

この傘は、犯人の遺留品と思われるもので、
体育館内に併設された男子トイレから見つかった。

柚乃の引っ張り出された天馬は、この傘の存在によって
奈緒が犯人たり得ないことを瞬く間に証明してしまう。

それどころではない。
終章では、関係者一同を前にして、自らの推理を開陳して
犯人を指摘するのだが(おお、まさに名探偵だね)、
この黒い傘はその論拠にもなっている。

黒い傘の存在を出発点に、"犯人たり得る条件" を次々と引き出し、
犯行時に校内にいた1000人近い教員と生徒から
どんどん容疑者を絞っていき、
ついにはたった一人の人物に辿り着く。
まさに「傘一本から犯人に至る」わけだ。

このあたりの論理展開は見事の一言に尽きる。
作者には既に "平成のエラリー・クイーン" なる称号が
奉られているらしいが、それも納得である。

全容疑者から、消去法で犯人に迫っていくのは
本家クイーンの「中途の家」や「Zの悲劇」ばりの展開。
また、たったひとつの物証から推理を進めていくあたりは
有栖川有栖の「孤島パズル」を彷彿とさせる。

さらに言うと、事件発生から解決までの途中経過も
エキセントリックな天馬をはじめとする、
キャラ立ち十分な高校生たちがたくさん登場して、
非情に面白く読ませる。このあたりも実に達者だ。

 ちなみに私のお気に入りは、天馬の相棒となって活躍する
 新聞部の部長にしてメガネっ娘の向坂香織嬢。

そして、天馬くんの目眩くほどの推理を堪能した後、
さらにエピローグでだめ押しの一撃を放つ。

登場人物のほとんどが高校生とか、
探偵役がとりとめも無くアニメの蘊蓄を口走るとか
ライトノベル的な装いをしているけど、
中身は骨太の "フーダニット・ミステリ" だ。
解決シーンの前には、本家クイーンに倣ったのか
「読者への挑戦」まで挿入されるという徹底ぶり。

しかしながら、何と言っても最大の驚きは
本作でデビューした時には、作者は弱冠21歳だったこと。

いやはや大変な新人が現れたものだ。
既に、「水族館の殺人」なるシリーズ第二作も出ていて
こちらは第14回本格ミステリ大賞の候補作になったとのこと。
どうやら "一発屋" ではなかったようで、
また一人、楽しみな作家さんが増えた。


コブシの花 [日々の生活と雑感]

春の陽気に誘われて、というわけではないが
昨日、ちょいとドライブに出かけた。

家人総出で繰り出して、途中で立ち寄ったのが関宿城。
利根川と江戸川の分岐点にあるのだけど
ここに来たのは5年ぶりくらいかなあ・・・

城を模した建物があるのだけど、
昔、実際に関宿城があった場所とは違うところに建ってるそうで
内部は博物館になってる。
中は以前来た時に見てるのでパスして、周辺をぶらぶら。

近くの橋を歩いて渡った先は "中の島" と呼ばれてるらしい。
城の周辺の低地は、増水時には水に沈んでしまうのだけど、
そこは沈まずにいるらしい。

そこには大きなコブシの木があって、白い花が咲いている。
周囲ではけっこうたくさんの人がカメラを構えていたので
わたしもスマホで1枚。
20150328.jpg

思ったより花が少ないので、まだ満開には早かったのかなあ?
とか思ったのだけど、後でかみさんから訊かれた。
「ねえ、あそこで写真撮ってたおじいちゃんたちが
 話してたの聞こえた?」
「え? 何て言ってたの」
「『枯れちゃってるなぁ』とか
 『こんなに枯れてるとは思わなかったなぁ』とか言ってたよ」

私は全然そう思わなかったんだけど、
近くで普段から見ている人には、また違って見えるんだろうなあ。

土手には菜の花が満開だし、川の浅瀬では鳥の親子が泳いでるし。
汗ばむくらいのうららかな陽光の下での散歩もいいものです。


冒険王<1> ビスマルクの陰謀 [読書・冒険/サスペンス]

冒険王〈1〉ビスマルクの陰謀 (ハルキ文庫)

冒険王〈1〉ビスマルクの陰謀 (ハルキ文庫)

  • 作者: 赤城 毅
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2015/03
  • メディア: 文庫



評価:★★★

同じようなタイトルのマンガ雑誌が昔あったような気が・・・?


1895年、清との戦争に勝利した日本が、
ロシア・フランス・ドイツの三国干渉に屈した頃。

ドイツ留学中の陸軍中尉・志村一心は、独仏露三カ国の外交官と
乱闘騒ぎを起こし、士官の身分を剥奪される。
しかし、武芸に長じ英独仏三カ国語をこなす一心は、
新たにスパイとしての任務を与えられた。

ベルリン近郊の屋敷に身柄を移され、語学と武術、
さらには間諜としての技術を叩き込まれていく。

そして1年が経ち、"卒業試験" として与えられたミッションは
引退してもなおドイツ政界に大きな影響力を持つ
鉄血宰相・ビスマルクに接近し、ドイツの対日政策を探ること。

日本の大財閥の次男坊という身分をでっち上げ、
ビスマルク主催の舞踏会に潜り込むが、
そこでアンネローゼと名乗る謎の美女に出会う。

彼女から手渡された秘密文書を巡り、一心は
いくつもの勢力による争奪戦に巻き込まれていく・・・


和製007誕生編ともいうべき作品なのだが、
主人公の一心があまりスパイらしくない。

スパイといえば、権謀術数が渦巻く闇の世界を
手段を選ばず、非道に手を染めて生き抜いていく
・・・ってイメージがある。

一心もスパイになりきろうとするのだが、
心の根幹とも言える武士道精神が邪魔をするのだ。

卑怯な振る舞いはしない、
弱者は見捨てない、傷つけない。
女性の影に隠れるなど言語道断・・・
表紙のイラストではやたらニヒルに描かれてるけど
本文中の一心は女性を労り情に厚い好漢である。

もっとも、本書はスパイ・サスペンスではなく、
タイトル通り、冒険ヒーロー・アクションものなので、
実は一心のようなキャラのほうが主人公として正解なのだが。

ただ、非情になりきれない一心は、
それがために窮地に陥ることもしばしば。
スパイになりきれないスパイ見習いは
国際的な謀略の世界で翻弄されることになる。
しかし、そんな中でも一心は、あくまで武士道を貫いていく。
そんな主人公を応援しながら読むのが、
本書の正しい楽しみ方なのだろう。

この作者の作品はいつもそうだが、
払った値段分はきっちり楽しませてくれる。
そういう意味ではハズレがない。
本書も充分に楽しませてもらった。

ただ、最後に一つだけ文句を言わせてもらおう。
中盤、ベルリンへ向かう列車の中で一心たちは敵に襲われる。
そこから "ある方法" で危機を脱するのだけれど
いくら何でもこれはないだろう。
物理的に考えて無理だと思うぞ。


時を巡る肖像 [読書・ミステリ]

時を巡る肖像 (実業之日本社文庫)

時を巡る肖像 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 柄刀 一
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2010/12/04
  • メディア: 文庫



評価:★★★

サブタイトルが「絵画修復士・御倉瞬介の推理」。

その名の通り、主人公の瞬介はイタリアで絵画修復を学んだ。
しかし妻に先立たれて、一人息子の圭介を伴って帰国し、
日本で絵画修復士として生計を立てている。

彼が引き受けた仕事先で起こる様々な事件を
修復する絵画と絡めて解き明かしていく姿が描かれていく。

「ピカソの空白」
 瞬介は、天才画家と謳われる冷泉朋明の所有する
 ピカソの素描画の修復を引き受ける。
 その夜、屋敷の一室で美術評論家が殺される。
 修復のために泊まり込んでいた瞬介は、
 深夜に廊下を歩く朋明の姿を目撃していたが・・・

「『金蓉』の前の二人」
 志野正春は、甥である瞬介の紹介で
 妻・佳蓉子の肖像画を画家・古関誠に依頼した。
 そして、志野家に古関が日参するようになって
 2ヶ月ほど経った頃から、佳蓉子の周囲で
 不審な出来事が起こり始める・・・

「遺影、『デルフトの眺望』」
 油彩画家・中津川顕也は妻・琴美と離婚したが
 一人娘の雅子は父親のもとへ残った。
 琴美は柳川に移り住むが、やがて失踪してしまう。
 6年後、彼女は他殺死体で発見され、その容疑が雅子にかけられる。
 そんな中、顕也は来客と口論になり、乱闘となってしまう。
 現場に駆けつけた雅子の眼前で、瀕死の重傷を負った顕也は
 フェルメールの『デルフトの眺望』の写真を指さして絶命する・・・
 本書中でいちばんミステリらしい作品かなとは思うが
 ダイイング・メッセージの意味は、
 素人にはちょっと見当がつきかねるかなあ・・・

「モネの赤い睡蓮」
 西洋画家・藤崎高玄(たかはる)が毒殺された。
 毒の入った瓶を運んだのは、高玄の娘・藤崎ナツ。
 瓶には高玄が普段から服用している生薬が入っていたが、
 その中に農薬が混入されていたのだ。
 しかし警察は "覚悟の自殺" と判断する。
 その農薬には強烈な匂いと苦味があり、
 知らずに飲ませることは不可能だったからだ。
 しかし瞬介が "あること" に気づいたことから、
 捜査は根底から覆され、意外な犯人が指摘される。
 本書の中では、ミステリとしては「遺影-」と双璧だろう。

「デューラーの瞳」
 建築家・戸梶祐太朗のスタッフの一人・野木山が
 不可思議な状況下で交通事故死する。
 犯行における小道具の使い方がうまいし、
 ラストでは島田荘司ばりのトリッキーな真相が炸裂する。

「時を巡る肖像」
 父母が描かれた肖像画の上から、
 自分と妻の肖像を上書きしようとする主人公・遠野遼平。
 しかし、描いている最中、遼平の身に不思議なことが起こる・・・
 遼平の章と瞬介の章が交互に描かれ、
 次第に明らかになっていくのは哀しい愛の物語。
 本書中、唯一犯罪が絡まない話だが、切なさは一番。


作者は本格ミステリの名手であるから、各短編の出来に不足はない。
巻末に、本書に登場する画家の年譜が載っているのだが
執筆には、かなり大量の参考資料が必要だったことが窺われる。
ミステリとしての興味に加えて、作品ごとに
過去の名画や高名な画家、さらには美術そのものについての
いろいろな蘊蓄まで知ることができる。

美術には全くの門外漢なんだが、そんな私でも楽しく読めた。


拒絶空港 [読書・冒険/サスペンス]

拒絶空港 (新潮文庫)

拒絶空港 (新潮文庫)

  • 作者: 内田 幹樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/01/28
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

乗員乗客261名を乗せたボーイング747-400。
パリ発、成田行きNIA(ニッポン・インターナショナル・エア)206便。
その機体がシャルル・ド・ゴール空港を離陸した後、
滑走路で発見されたタイヤとホイールの破片。
主脚タイヤを離陸時に損傷したまま、206便は飛び立ってしまった。

成田空港の整備士たちが対策を練り始めた頃、
ド・ゴール空港が閉鎖されたとの知らせが飛び込んでくる。
何者かが206便に放射性物質を持ち込んだ形跡が発見されたのだ。

核物質を搭載したまま、破損した主脚で着陸を強行して、
爆発・炎上した場合、核物質がまき散らされ、
広範囲が放射能で汚染されてしまう。

206便の扱いをめぐって地上では侃々諤々の議論が巻き起こる。
胴体着陸では爆発の危険が避けられず、
海への着水では多くの乗員乗客の生命が失われる。
そして、核物質の飛散のおそれがある以上、
日本の空港で206便の着陸を受け入れるところはない。

その間にも、刻一刻と206便は日本に近づき、
燃料は着実に消費されていく。

一方、206便のクルーたちは、ある乗客の助けを得て
放射性物質の捜索に乗り出す。
そして機長の朝霧は、206便の着陸を受け入れてもらうために
突拍子もない手段をひねり出すのだった・・・


本書の単行本が出版されたのは2006年6月のこと。
まだ東日本大震災が起こる前だが、本書の中で触れられている
核物質による汚染は、福島第一原発で起こった事そのままである。
そういう意味では、偶然なのだろうが "予言的" な作品とも言える。


さて、作者である内田幹樹は、2006年12月に亡くなっている。
ということは、本書は遺作ということになるだろう。
wikiによると死因は前立腺がんとあるので、おそらく
病魔と闘いながらの執筆であったと思われる。

そのせいか、本書を読んでいて感じるのは "バランスの悪さ" である。
冒頭、206便のタイヤ破損が判明してから空港の閉鎖、
そして放射性物質持ち込みの判明までがおよそ文庫で100ページ弱。
その間、場面が次々と変わり、人物も入れ替わり立ち替わり現れて
読んでいていささか混乱する。
後半のための登場人物の紹介が必要なのだろうが、
総ページ数が文庫で約310ページの作品で、
"主役" となる206便内の描写に至るまでが100ページもかかるのは
かなり遅い展開だと思う。
しかし中盤から後になると、尻上がりにスピードアップしていく。

作者は元ANAのパイロットだったので、航空会社の内幕や
機内の描写などは堂に入ったもので詳細に描かれているが、
反面、出来事の発端になる放射性物質の持ち込みやその背景、
そして日本に持ち込む理由/目的にはほとんど触れられていない。


これは私の勝手な想像だけれども、
作者はもっと書き込むつもりがあったのだと思う。

内容・題材的には、文庫で500~600ページくらいあっても
おかしくないくらいのストーリーだし、
それくらい書き込んであったら、全体のバランスも良くなって
それこそ読み応え充分の傑作になったのじゃないだろうか。

ただ、惜しむらくは、作者にそれだけの時間が残されていなかった。
そういうことなのだろう。
とても残念なことだけれども。


航空サスペンスの書き手って、いるようで案外いないものだ。
作者はその経歴も相まって、リアリティあふれる作品を書ける
貴重な存在だった。

本書の終盤、206便のクルーたちが乗客の生命を救うため、
ひいては自分たちが生き延びるために必死の行動をとるが
そのあたりの描写は、流石に現場を知っている人ならでは。


もっともっとたくさんの作品を書いて欲しかった人だ。
ご冥福をお祈りします。


覇王の番人 [読書・歴史/時代小説]

覇王の番人(上) (講談社文庫)

覇王の番人(上) (講談社文庫)

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/09/15
  • メディア: 文庫




覇王の番人(下) (講談社文庫)

覇王の番人(下) (講談社文庫)

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/09/15
  • メディア: 文庫



評価:★★★

歴史小説って滅多に読まないんだけど、何と言っても
題材が戦国最大の "謎" である「本能寺の変」、
そして作者がミステリ作家とあれば、
一体どんな解釈を見せてくれるのかと期待もしてしまう。


物語は、永禄9年(桶狭間の戦いの6年後)、
越前朝倉家に身を寄せている明智光秀の元へ、
13代将軍足利義輝の弟・義昭が細川藤孝とともに
やってくるところから始まる。

光秀と藤孝は、一人の武将に期待をかける。その名は織田信長。
義昭を将軍とし、戦国の世に秩序を取り戻すことを胸に、
二人は信長に仕え、天下布武への戦いへ身を投じてゆくが
それは鬼畜の所業、阿修羅の道を歩むことだった・・・


明智光秀という人は、謀反人・裏切り者という
悪いイメージで語られてきたことが多かった。
しかし本書で描かれる光秀はいささか異なる。

乱世を終わらせ、万民に平穏な暮らしを与える、という
確固とした理想を持った深謀遠慮の人である。
戦で死んだ部下を一人一人手厚く葬り、
領民に対しても慈悲深く、家族への愛にあふれた人でもある。

そんな光秀だから、信長の下で働くのは容易ではない。

信長は、浅井一族を滅ぼしてその髑髏で杯を作ったり、
比叡山をはじめとする、織田軍に反抗する宗教を徹底的に弾圧し、
農民や女性、子供も容赦なく皆殺しにしていく。
信長が次々に起こす悪鬼のような仕打ちも
「すべては乱世を終結させるため」と
光秀は自分の心に言い聞かせ、堪忍を重ねて仕えてきたが・・・


光秀が本能寺の変を起こした理由は、
歴史的にはいろいろな説があるらしい。

本書の中で、作者の用意した理由は、
上記のように信長と光秀の "理想" が次第にかけ離れていき、
その違いが修復不能なまでに広がったことによる。
しかしそれは全く意外では無い。
文庫上下巻で1000ページを超える長さのうち、
下巻の半ばまではひたすらに耐える光秀が描かれているので、
謀反の原因が "忍耐の限界" だろうというのは、まあ予想できる。


しかしそれでは普通の歴史小説と変わらない。
本書の特色は、光秀が「本能寺の変」を起こした後にある。

詳しく書くとネタバレになってしまうんだが
「本能寺の変」の裏に隠された事情というか "黒幕" が明らかになる。
そして、いかにもミステリ作家らしく、「本能寺の変」から始まって
秀吉の台頭、関ヶ原、そして徳川の治政に至るまでの
一連の歴史的な出来事に、意外な解釈を引き出してみせる。
このあたりは歴史ミステリとしてけっこう面白い。


本書には、光秀以外にもう一人、主人公がいる。
信長軍の美濃侵攻によって家族を殺された少年・小平太である。
彼は忍びの里の頭目・弦蔵に拾われ、厳しい修行の日々を送る。
やがて成長した小平太は、明智軍配下の忍びとなって、
光秀と共に戦いの日々を過ごしていく。

修行のシーンや、敵の忍びと刃を交えるシーンは
昔懐かしい忍者マンガの世界。
白土三平の「サスケ」を思い出してしまった。

小平太にとっての永遠の女性は、ほんの一時だけ、心を通わせた
光秀の末娘・玉子(たまこ:後の細川ガラシャ)。
彼女の面影を胸に秘め、小平太は光秀のために闇を駆ける。


面白かったのは否定しないけど、やっぱり1000ページは長い。
歴史小説ってなぜか興味を惹かないんだよねえ・・・
戦国時代を扱ったNHKの大河ドラマはけっこう喜んで見るんだけど。

 「軍師官兵衛」は抜群に面白かったなぁ・・・
 岡田准一の熱演(怪演?)ぶりも見事だったし。

 ちなみに「花燃ゆ」は一回も見てない。


日本SF短編50 III [読書・SF]

日本SF短篇50 III: 日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー (ハヤカワ文庫JA)

日本SF短篇50 III: 日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 日本SF作家クラブ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/06/06
  • メディア: 文庫



評価:★★★

日本SF界50年にわたる、50人による、50作。その第3巻。
私の年齢でいえば社会人3年目~12年目くらい。
仕事に追われて目が回ってた頃かなあ・・・

前回と同じく、作家に関するあれこれや、
その当時の四方山話なども含めて書いていこう。


1983「交差点の恋人」(山田正紀)
 「神獣聖戦」中の1エピソード。
 同作は Perfect Edition 版で読んだはずなんだけど
 あまり憶えてなかったなあ・・・記憶力の減退も激しい?
 「神狩り」「弥勒戦争」「宝石泥棒」・・・
 SFもスゴかったけど、冒険小説もとんでもなく面白かった。
 「謀殺のチェス・ゲーム」「崑崙遊撃隊」「火神を盗め」・・・
 今思い出しても胸がわくわくするよ。
 本格ミステリも書けるし、いやはや途方もない才能だと思う。

1984「戦場の夜想曲(ノクターン)」(田中芳樹)
 「銀河英雄伝説」が刊行中で、
 「アルスラーン戦記」の開幕2年前の作品。
 書店に行ったら「アルスラーン」が荒川弘でコミック化されてて
 「え? 今頃になって?」と思ったら4月からアニメ化だって。
 本棚から光文社のノベルス版を引っ張り出して
 冒頭部を読んでみたら、あっという間に引き込まれてしまった。
 やっぱり面白いなぁ。
 (ちなみに、角川文庫版は実家のどこかにあるはず。)
 あとは早く残り2巻書いて完結させて欲しいところ。
 先日、「タイタニア」が完結した。
 手元に全巻揃ったので、近々読む予定。

1985「滅びの風」(栗本薫)
 およそ小説なら何でも書ける人なんだろうけど
 SFはあんまり印象に残ってない。「メディア9」くらいかな。
 私のイメージでは、ミステリとファンタジーの人。
 「グイン・サーガ」が未完に終わってしまって残念、
 と言いたいところだが、20巻まで行くか行かないかの頃に
 挫けてしまいました・・・
 「伊集院大介」シリーズも好きでけっこう読んだ。
 あと、「エーリアン殺人事件」というタイトルだったと思うんだが
 ユーモアものだったんだけど、読んでて今ひとつの感がありありで、
 流石の小説超人にも弱点はあったんだ・・・て思ったのを憶えてる。
 この年、初めてPCを買った。NECの9801VM。懐かしいなあ・・・
 弟の友達が家電量販店に勤めてて、そのつてで値引きしてもらった。
 本体とディスプレイで45万。当時としては安かったんだろうか?
 BASICでヒイヒイ言いながらプログラムを組んだのもいい思い出。
 日本語ワープロ「一太郎」とのつきあいもこの年から。

1986「火星甲殻団」(川又千秋)
 これ、昔読んだはずなんだが憶えてないんだよねえ・・・
 この人の作品はあまりのめり込むことはなかったなあ。
 唯一の例外が「ラバウル烈風空戦録」。
 大好きだったんだけど、なぜか途中で刊行が止まってしまい、
 最後は総集編みたいなダイジェストが刊行されて、
 その最後に申し訳程度に終盤を加筆して終わり。
 なんともひどい終わり方だった。あれは何とかならなかったのか?

1987「見果てぬ風」(中井紀夫)
 "人生って何だろう?" って感じさせる作品。
 「能なしワニ」シリーズはけっこう好きで読んだなあ。
 綾辻行人の「十角館の殺人」が出たのはこの年か。
 滅多にノベルスを買わない私が買って読んだんだから
 やっぱり話題になったんだろうね。
 綾辻をはじめとする "新本格" の作家たちのおかげで、
 またぼちぼちとミステリを読むようになった。

1988「黄昏郷」(野阿梓)
 この人の作品、全く読んだことがありません。
 この作品も、正直言って全く分かりませんでした。
 この年、人事異動で職場を変わったんだが、
 ほとんど転職したみたいに仕事の内容が変わって戸惑った。
 ここから数年間、仕事に没頭する日々が始まる。

1989「引綱軽便鉄道」(椎名誠)
 この作品、正直言って全く分かりませんでした。
 一見して難しそうではないんだけどね・・・
 椎名誠という作家自体、読んだことがないし。

1990「ゆっくりと南へ」(草上仁)
 "スロウリィ" という、超のんびりした生き物が主役。
 せわしない世の中で、こんな話もいいものだ。
 この人、短編の名手というのは知ってた。
 でも短編集を1冊か2冊くらい読んだきり。
 この時機は生活に(時間的な)余裕が無かったせいもあるだろう。

1991「星殺し」(谷甲州)
 百年千年単位で物語が進むという、壮大(?)なストーリーで
 ある意味、SFらしいとも言える。
 「航空宇宙軍史」はだいたい読んだけど、
 それ以外はほとんど読んでない。
 物理学的に正しい "宇宙空間における戦闘" というものが
 いかに味も素っ気もないものかがよく分かった(笑)。
 あ、貶してるわけじゃありませんので(^^;)
 「覇者の戦塵」は、版元が変わったら読まなくなってしまった。
 別に、つまらなくてやめたわけじゃないので、
 文庫化されたらもう一度はじめから読むつもり。
 この年は仕事漬けだった。365日のうち360日くらい出勤してたし、
 仕事も家に持って帰ってたので、1日15時間くらい仕事してた。
 間違いなく、人生でいちばん働いた年だった。
 今、あんなことやったら一発で身体壊すなあ・・・
 まあ、このときの頑張りがあったからこそ
 今の私がある、とも言えるんだけど。

1992「夢の樹が接げたなら」(森岡浩之)
 言語をテーマにしたSFってあまりないと思うので、
 この作品は貴重なのだろう。
 「星界の紋章」も読んだ。面白いとは思ったけど、
 そんなに大騒ぎするほどのもんじゃないよなあ・・・
 なーんて思った私は少数派でしょうか?
 今から思えば、ライトノベルSFの走りだったのかな。
 この年の秋、仕事で大きなイベントを一つこなした。
 その翌日、後に妻となる女性(今のかみさん)と出会った。
 その翌日、親父が腸の病気で大手術をした。
 人生で、節目になるような大きな出来事っていくつかあるけど
 そういうものは、ばらばらには来ないで、
 まとめて一度にやってくるものだ、というのを実感した年だった。


空飛ぶモルグ街の研究 本格短編ベスト・セレクション [読書・ミステリ]

空飛ぶモルグ街の研究 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

空飛ぶモルグ街の研究 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/01/16
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

買ったまま3年も放置していたら、
何と本書に収録された10作のうち、何と5作は
単独の短編集で読んでしまっていたよ・・・
なんだかちょっと哀しい。


「しらみつぶしの時計」(法月綸太郎)
 同題の短編集で既読。
 一分ずつずれた時計1440個の中から、
 正しい時刻を示している1個を見つけ出す話。
 ミステリと言うよりはパズルだが、論理の冴えは見事。

「路上に放置されたパン屑の研究」(小林泰三)
 これも短編集「大きな森の小さな密室」で既読。
 何日かおきに路上に置かれるパン屑は、
 誰が何のためにまいているのか?
 面白いけど、これもミステリと言うよりはコント。

「加速度円舞曲(ワルツ)」(麻耶雄嵩)
 趣味で "探偵" をしているという、貴族ふうの雰囲気を持つ男。
 富士山の見える山荘で起こった殺人事件を解決するんだけど
 この人、"探偵" してないよねぇ・・・

「ロビンソン」(柳広司)
 著者の出世作(?)「ジョーカー・ゲーム」シリーズの一編。
 第二次大戦直前のロンドン。
 スパイ容疑で英国の諜報機関に捕らえられた主人公・伊沢が
 いかにして逃げ出すことに成功したか、という話。
 このシリーズは初めて読んだ。
 もともとスパイ・サスペンスってあまり好きじゃないんだけど、
 この作品みたいにミステリ色が強めのシリーズだったら、
 楽しく読めそうな気がする。とりあえず1冊読んでみようかな。

「空飛ぶ絨毯」(沢村浩輔)
 これも短編集「夜の床屋」で既読。
 六畳の洋間から一晩のうちに絨毯が消えるという話。
 家具もベッドもあって、そこには人が寝ていたというのに。
 幻想的な出だしから、リアルな解決に至る。これは良作。

「チェスター街の日」(柄刀一)
 莫大な遺産を相続した、車椅子の日本人青年が巻き込まれた事件。
 名探偵・南美希風が暴くのは意外極まる真相。
 とはいうものの、主人公が○○○○、○○が○○○○ってのは
 ちょいと無理がありそうな気もするが、八方丸く収まるのでOK?

「雷雨の庭で」(有栖川有栖)
 題名は忘れたけど、これも短編集で既読だった。
 雷雨の夜、庭で殺されていた男。凶器も犯人の足跡もなく、
 容疑者となる隣人にはアリバイが・・・
 毎回思うが、事件の発生から解決直前までの "途中経過" を
 退屈させずに読ませる筆力はやはり非凡。

「迷家(まよいが)の如き動くもの」(三津田信三)
 これも題名は忘れたけど、短編集で既読だった。
 山中を彷徨う男の後を追ってくる足音、
 そして出会った作りかけの家と黒い影。
 短時間のうちに現れたり消えたりする "迷家"・・・
 幻想と怪奇たっぷりに始まって、合理的な解決に至る。
 やっぱりこのシリーズ、大好きだ。

「二枚舌の掛軸」(乾くるみ)
 どうもこの作者とは相性が悪いみたいだ。
 "主役" となる掛軸の構造からして、
 理解するのに凄く時間がかかったし、
 論理の展開も途中で何だかよく分からなくなって
 もうどうでもいいや・・・って思ってしまった。
 すみません、アタマ悪くて。

「読まず嫌い。名作入門五秒前
 『モルグ街の殺人』は本当に元祖ミステリなのか?」(千野帽子)
 私、評論文って苦手なのでほとんど読まないんだけど・・・
 要するに、『モルグ街の殺人』が書かれた時代には、
 まだ「本格ミステリ」って概念自体がなかったので、
 それが確立した後の世から見てみると、
 いろいろ "本格" でなく "破格" なところがある、
 ってことだけはわかった。


前の記事にも書いたように思うが、
今年の目標は積ん読状態の本、
それも買ってから時間が経っている本を極力減らすこと。
まあ、目標はあくまで目標なんだが・・・


金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲 [読書・ミステリ]

金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲 (角川文庫)

金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲 (角川文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/11/22
  • メディア: 文庫



評価:★★★

9人の作家が、「金田一耕助」をテーマに競作したミステリ短編集。

本人をそのまま登場させたものあり、
ちょっと違う "キンダイチ" さんが登場するものあり、
あるいは意外な変化球ありとなかなかバラエティに富んでる。


「無題」(京極夏彦)
 百鬼夜行シリーズのキャラ、売れない作家関口くんの登場。
 長編「陰摩羅鬼の瑕」の中のエピソードを抜粋したもの。
 夏のある日、暑さにへばった関口が、ある人物と遭遇する。

「キンダイチ先生の推理」(有栖川有栖)
 キンダイチ先生こと推理作家の錦田一(にしきだ・はじめ)と
 金田耕一少年が、シンガーソングライター殺人の謎を解く。
 これ、短編集で既読だった。

「愛の遠近法的倒錯」(小川勝己)
 昭和27年10月、岡山県の僻村で起こった殺人事件。
 久保銀造からそのあらましを聞いた金田一耕助は、
 解決済みのはずの事件に隠された真相を見抜く。
 犯人が犯行に至るまでの経過が鬼気迫る。
 これはいい。本家のあの独特の雰囲気を再現してる。

「ナマ猫亭事件」(北森鴻)
 金田一ならぬ "近田一" 耕助が登場する。
 およそ本家とは似ても似つかぬ外見の探偵・近田一が
 新興宗教の教祖が殺されて首を持ち去られた事件に挑む。
 この手の事件では、首を切断する理由に、
 どんな理屈づけをするかが作者の腕なんだろうけど
 このオチは何というか・・・反則すれすれ?

「月光座 -金田一耕助へのオマージュ-」(栗本薫)
 名探偵・伊集院大介がある日出会ったのは、
 「病院坂の首縊りの家」事件後に渡ったアメリカから
 密かに帰国していた金田一耕助だった。
 二人は歌舞伎・月光座に招待されるが、その舞台の上で
 50年前の「幽霊座」とそっくりの事件が起こる。
 半世紀前の事件に新たな解釈を示す大介。
 そして金田一耕助は何を語るのか。
 これもいい。"自前の探偵と金田一耕助の共演" というのは
 いくつか読んだけど、これがいちばん良いように思う。
 大介が耕助へ見せるリスペクトぶりは、
 そのまま栗本薫の横溝正史へのそれなんだろうと思った。

「鳥辺野の午後」(柴田よしき)
 学生時代に友人だった "私" と由季子。
 時が経ち、作家と編集者として再会した二人。
 しかし二人が一人の男性を愛したことから悲劇が始まる。
 "私" が出会った謎の老人(金田一耕助と思しき?)は
 「安楽椅子探偵は苦手」と言いながらも、"悲劇" の真相を見抜く。

「雪花 散り花」(菅浩江)
 京都にある「金・田・一 探偵事務所」。
 金(キム)、田(デンちゃん)、一(ニノマエくん)の若者三人組で、
 「三人揃って金田一!」というゴレンジャーみたいな連中。
 ある美女の依頼によって、会員制クラブの常連だった老人が
 自殺してしまった事件の真相に挑む。
 菅浩江ってSF作家のイメージだったんだけど、ミステリを、
 それも京都を舞台に書くなんて。かなり意外。

「松竹梅」(服部まゆみ)
 昭和44年。風邪を引いて荏原病院を訪れた金田一耕助は
 院長の母親・荏原タケから、新橋演舞場に招待される。しかし
 退職した等々力元警部と共に劇場を訪れた耕助が出会ったのは
 荏原家の使用人・宮下梅子の死体だった・・・
 これもいいなあ。犯人の見せる執念が本家を彷彿とさせる。

「闇夜にカラスが散歩する」(赤川次郎)
 "私" が乗り込んだ列車は、人家のない山中を駆け抜けてゆく。
 そして、車中で "私" は、謎のサスペンス劇に巻き込まれる。
 これのどこが金田一?って思ったけど、しっかり金田一でした(笑)
 それよりも「赤川次郎」と「金田一耕助」なんて、
 およそ接点があるとは思えなかっただけどねえ・・・
 タイトルページ裏の紹介文では「獄門島」のファンらしいが。


どれもそれなりに面白いけど、やっぱり金田一耕助本人が登場する
「愛の遠近法的倒錯」「月光座」「松竹梅」がベスト3だと思う。

短編もいいけど、誰か長編書いてくれないかなあ。
山田正紀の「僧正の積木歌」がホント良かったから。

でもまあ、超有名キャラを使って独自の物語を書くって
考えたらものすごく大変だし、プレッシャーも相当あるだろうし。
やってみたくても、なかなか踏み切れないんだろうなあ・・・


完全・犯罪 [読書・ミステリ]

完全・犯罪 (創元推理文庫)

完全・犯罪 (創元推理文庫)

  • 作者: 小林 泰三
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/07/27
  • メディア: 文庫



評価:★★

「大きな森の小さな密室」に続くミステリ短編集の第2弾。

「完全・犯罪」
 時空(じくう)博士は、長年にわたり
 タイムトラベル理論を研究していた。
 しかしライバルの水海月(みずくらげ)博士が一足先に理論を完成、
 発表してしまったために研究の栄誉はすべて水海月博士の手に。
 怒り心頭の時空博士は、開発したタイムマシンを使って
 5年前の水海月博士の家へ爆弾を送り込み、殺害を謀るが・・・
 ミステリと言うよりは典型的なドタバタSF。
 おなじみのタイムパラドックスがらみの大騒動が語られる。
 藤子・F・不二雄あたりが描きそうな話で
 「ドラえもん」にも似たようなオチがなかったかなぁ・・・

「ロイス殺し」
 主人公・アルフレッドの生い立ちから話が始まる。
 幼少期の描写にはホラーっぽいところが多くて怪談みたいだけど
 後半、アルフレッドの因縁の相手・ロイスが殺されるあたりは
 リアルな不可能犯罪ものとしてよくできてる。
 本書中、本格ミステリ度は一番。

「双生児」
 一卵性双生児の姉妹・真帆と嘉穂。
 幼少期に名前を取り違えて呼ばれたことから
 真帆は思春期を迎えても
 「自分は果たして真帆なのか?
  ひょっとして嘉穂なのではないか?」
 というアイデンティティに悩むようになる。
 そして、二人が同じ男性を愛したことによって起こる悲劇。
 このラストはダークです。後味悪いです。私は苦手です。

「隠れ鬼」
 遊歩道を歩いていた主人公が、
 たまたま一人のホームレスと視線が合ってしまう。
 すると、突如としてそのホームレスが主人公を追いかけ回し始める。
 昔、筒井康隆の短編にもこんな話がなかったかなあ・・・
 ホームレスの正体も、追いかけてくる理由もとっても恐い。
 私は苦手です。

「ドッキリチューブ」
 一般人をターゲットに "ドッキリ" を仕掛け、
 その様子をビデオにして放送する動画番組を製作するチーム。
 冒頭で、 "罠" にかけられた一般人カップルが、
 仕掛けられた "ドッキリ" に翻弄されるさまが語られるんだが
 これがはっきり言って不愉快きわまりない。
 後半、仕掛けた側が今度はきっちりツケを払わされるんだが
 それでも腹の虫が治まらないんだなぁ。
 ミステリとしての出来不出来以前に、生理的に好きになれない。
 まあそう感じさせるくらい作者の筆力が達者なのは認めるが
 それでも不快なものは不快。
 我ながら心が狭いなぁとは思うが、私はこの作品は苦手です。


ミステリの評価として、快/不快を基準にするのは
如何なものかとも思うのだけど、
この短編集に限っては、ピンポイント的に
私の苦手な部分を突いてくる作品が多くて・・・

たまにはこんなこともあるのです。