SSブログ

クロノス・ジョウンターの伝説 [読書・SF]

クロノス・ジョウンターの伝説 (徳間文庫)

クロノス・ジョウンターの伝説 (徳間文庫)

  • 作者: 梶尾 真治
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2015/02/06
  • メディア: 文庫



評価:殿堂入り

よく
「まだこの本を読んでいない人が羨ましい。
 こんな素晴らしい作品をこれから読めるんだから。」
なんて褒め言葉があるが、それが当てはまる作品はそうそうない。

私自身、このブログの中でこの言葉を使ったのは
開設以来の9年間で、2~3回くらいだと思うのだが
(最近だと2年前に、山本弘の「MM9-destruction」で使ったなあ)
まさに本書はこの言葉が当てはまる大傑作だ。


「クロノス・ジョウンターの伝説」という作品に出会ったのは
1999年のこと。もう16年も前のことになる。
今は亡き "ソノラマ文庫NEXT" というレーベルだった。

当時の私は40代を迎えた頃で、仕事にも追われ、
だんだんとくたびれた中年のオッサンになりつつあった。
感性も摩耗しかけていたはずの私だったが、
巻頭に置かれた「吹原和彦の軌跡」を読んだ時の衝撃は忘れられない。


クロノス・ジョウンターはタイムマシンの一種だが、
いくつかの欠点をもっている。

まず、過去へしか行けない。

過去から物を持ち帰ったり、人を連れ帰ることも出来ない。

そして、過去に留まれるのはごく短時間で、
また未来へ引き戻されてしまう。

そして最大の欠点は、還ってくるのは出発した現在ではなく、
はるかな未来に跳ばされてしまうことだ。

 例えば、10年前の時点へ遡ると、
 帰りはそこからおよそ100年後の世界へ跳ばされる。
 (遡行年数の2乗くらい跳ばされる)
 現在から数えると90年後の未来へ帰還することになる。

 後に、改良が進んで跳ばされる年数は短縮されるが、
 それでも出発時点よりかなりの未来に帰還することは変わらない。

そんなクロノス・ジョウンターの欠点を承知の上で、
時を跳んだ者たちの物語。それが本書だ。


事故で死亡した思い人の女性を救うため、
吹原和彦はクロノス・ジョウンターで過去へ跳ぶ。
しかし時の神は、"旅" の代償を要求する。
それでも、和彦は過去へ向かう。運命に抗うために。
自分の人生すべてと引き替えにしてでも、愛する人を救うために。

そして、美しく切なすぎるあのラスト。
もともと私は涙腺が緩いんだが、
本を読んであんなに泣いたことは
今までの人生でも数えるほどだろう。
この文章を書きながらも、思い出して目がウルウルしてるんだから。


つづく2編も素晴らしかった。

かつて存在した建造物を見るためだけに過去へ来た布川輝良。
そこで彼は運命の女性に出会ってしまう。
しかし時の神は、二人が同じ時間を生きることを許してはくれない。

11歳の鈴谷樹里が憧れた人は、不治の病で世を去った。
成長して医師となった樹里は、
彼の命を奪った病気の特効薬を持って時を超える。
もし、彼の命を救うことができても、
樹里は彼と同じ時間に留まることは出来ないのに・・・


この3編は極上のタイムトラベルSFであると同時に
極上のラブ・ストーリーでもある。

細かいところをあげつらえば、矛盾するところも無くはないし
いささか展開が唐突に思えるところもある。
しかし、そんなものはこの作品群にあっては瑕瑾にすらならない。
私にとって、文句なしの "殿堂入り作品" なのだ。


今回の再刊をうけてちょっと調べてみたら
この作品は99年の後にも。作品が増えたり入れ替えられたりしながら
03年(文庫)、05年(単行本)、08年(新書版)と再刊されている。
これだけ再刊が続くということは、やはり根強い人気があるのだろう。

 03年と08年の再刊は買ったなあ。
 我ながらよくつき合ってると思うけど
 「クロノス・ジョウンター」と銘打ってあると
 もう、無条件で手が伸びてしまうんだ・・・

99年版は3編だったのが、15年版の今回は7編になっていて、
しかも巻末に「年表」までついている。
各収録作も細かく修正・加筆が行われているようで
各作品間の時系列的なつながりもさりげなく補足・補完されている。

 もっとも、ストーリーは各作品ごとに独立しているので
 どれから読んでもかまわないが、これから読もうという人は
 やはりシリーズ第1作であり原点でもあり、
 個人的にはベスト1である「吹原和彦の軌跡」から
 読むのが一番いいだろう。
 要するに、ページ順に読めばいいということだね(^^;)

ラスト近くの「野方耕市の軌跡」では、
ワンカット程度だが、それまでの作品の登場人物が数多く顔を見せていて
オールスターキャストでのカーテンコールにもなっている。


あなたがSF好きなら、タイムトラベルものが好きなら、
そして純愛物語が好きなら、きっとこの本は
あなたの "お気に入り" リストの一角を占めることだろう。

最後に、冒頭に置いた言葉をもう一度書いてしまおう。

この作品を未読のあなた。私はあなたが羨ましい。
こんな素晴らしい作品をこれから読めるんだから。


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ: