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体育館の殺人 [読書・ミステリ]

体育館の殺人 (創元推理文庫)

体育館の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/03/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

激しい雨の降りしきる中、一人の高校生が刺殺される。
場所は風ヶ丘高校の旧体育館のステージで、
殺されたのは放送部部長・朝島友樹。

しかし、殺人が行われた時間帯には、
旧体育館の外部へ通じる出入り口はすべて
施錠あるいは人の目があり、いわゆる密室状態だった。

容疑は、犯行時間に体育館内にいた唯一の人物にかけられる。
それは女子卓球部の部長・佐川奈緒。
彼女は体育館のフロアで部活動の準備をしていたのだ。

奈緒の無実を信じる女子卓球部員・袴田柚乃は、
生徒会副会長・八橋千鶴の紹介で、
裏染天馬(うらぞめ・てんま)なる生徒に助けを求める。

彼は定期テストで全科目満点をとった学内一の秀才。
しかし、なぜか自宅により着かず、
学校にナイショで文化部の部室棟の一角に住み着き、
そこでアニメ三昧の生活を送っているダメ人間だった・・・


第22回鮎川哲也賞受賞作である。
いままで、同賞の受賞作を何作か読んできたけど、
これほど鮎川哲也賞にふさわしい "直球ど真ん中" の
本格ミステリも珍しいのではないだろうか。

創元推理文庫は、日本の作品でも英語の副題がつくのが通例だが
本作にも、立派なタイトルがついている。
「THE BLACK UMBRELLA MYSTERY」
さしずめ「黒いコウモリ傘の謎」とでも訳すのだろうか。

この傘は、犯人の遺留品と思われるもので、
体育館内に併設された男子トイレから見つかった。

柚乃の引っ張り出された天馬は、この傘の存在によって
奈緒が犯人たり得ないことを瞬く間に証明してしまう。

それどころではない。
終章では、関係者一同を前にして、自らの推理を開陳して
犯人を指摘するのだが(おお、まさに名探偵だね)、
この黒い傘はその論拠にもなっている。

黒い傘の存在を出発点に、"犯人たり得る条件" を次々と引き出し、
犯行時に校内にいた1000人近い教員と生徒から
どんどん容疑者を絞っていき、
ついにはたった一人の人物に辿り着く。
まさに「傘一本から犯人に至る」わけだ。

このあたりの論理展開は見事の一言に尽きる。
作者には既に "平成のエラリー・クイーン" なる称号が
奉られているらしいが、それも納得である。

全容疑者から、消去法で犯人に迫っていくのは
本家クイーンの「中途の家」や「Zの悲劇」ばりの展開。
また、たったひとつの物証から推理を進めていくあたりは
有栖川有栖の「孤島パズル」を彷彿とさせる。

さらに言うと、事件発生から解決までの途中経過も
エキセントリックな天馬をはじめとする、
キャラ立ち十分な高校生たちがたくさん登場して、
非情に面白く読ませる。このあたりも実に達者だ。

 ちなみに私のお気に入りは、天馬の相棒となって活躍する
 新聞部の部長にしてメガネっ娘の向坂香織嬢。

そして、天馬くんの目眩くほどの推理を堪能した後、
さらにエピローグでだめ押しの一撃を放つ。

登場人物のほとんどが高校生とか、
探偵役がとりとめも無くアニメの蘊蓄を口走るとか
ライトノベル的な装いをしているけど、
中身は骨太の "フーダニット・ミステリ" だ。
解決シーンの前には、本家クイーンに倣ったのか
「読者への挑戦」まで挿入されるという徹底ぶり。

しかしながら、何と言っても最大の驚きは
本作でデビューした時には、作者は弱冠21歳だったこと。

いやはや大変な新人が現れたものだ。
既に、「水族館の殺人」なるシリーズ第二作も出ていて
こちらは第14回本格ミステリ大賞の候補作になったとのこと。
どうやら "一発屋" ではなかったようで、
また一人、楽しみな作家さんが増えた。


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mojo

コースケさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2015-04-02 00:20) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2015-04-22 01:05) 

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