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拒絶空港 [読書・冒険/サスペンス]

拒絶空港 (新潮文庫)

拒絶空港 (新潮文庫)

  • 作者: 内田 幹樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/01/28
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

乗員乗客261名を乗せたボーイング747-400。
パリ発、成田行きNIA(ニッポン・インターナショナル・エア)206便。
その機体がシャルル・ド・ゴール空港を離陸した後、
滑走路で発見されたタイヤとホイールの破片。
主脚タイヤを離陸時に損傷したまま、206便は飛び立ってしまった。

成田空港の整備士たちが対策を練り始めた頃、
ド・ゴール空港が閉鎖されたとの知らせが飛び込んでくる。
何者かが206便に放射性物質を持ち込んだ形跡が発見されたのだ。

核物質を搭載したまま、破損した主脚で着陸を強行して、
爆発・炎上した場合、核物質がまき散らされ、
広範囲が放射能で汚染されてしまう。

206便の扱いをめぐって地上では侃々諤々の議論が巻き起こる。
胴体着陸では爆発の危険が避けられず、
海への着水では多くの乗員乗客の生命が失われる。
そして、核物質の飛散のおそれがある以上、
日本の空港で206便の着陸を受け入れるところはない。

その間にも、刻一刻と206便は日本に近づき、
燃料は着実に消費されていく。

一方、206便のクルーたちは、ある乗客の助けを得て
放射性物質の捜索に乗り出す。
そして機長の朝霧は、206便の着陸を受け入れてもらうために
突拍子もない手段をひねり出すのだった・・・


本書の単行本が出版されたのは2006年6月のこと。
まだ東日本大震災が起こる前だが、本書の中で触れられている
核物質による汚染は、福島第一原発で起こった事そのままである。
そういう意味では、偶然なのだろうが "予言的" な作品とも言える。


さて、作者である内田幹樹は、2006年12月に亡くなっている。
ということは、本書は遺作ということになるだろう。
wikiによると死因は前立腺がんとあるので、おそらく
病魔と闘いながらの執筆であったと思われる。

そのせいか、本書を読んでいて感じるのは "バランスの悪さ" である。
冒頭、206便のタイヤ破損が判明してから空港の閉鎖、
そして放射性物質持ち込みの判明までがおよそ文庫で100ページ弱。
その間、場面が次々と変わり、人物も入れ替わり立ち替わり現れて
読んでいていささか混乱する。
後半のための登場人物の紹介が必要なのだろうが、
総ページ数が文庫で約310ページの作品で、
"主役" となる206便内の描写に至るまでが100ページもかかるのは
かなり遅い展開だと思う。
しかし中盤から後になると、尻上がりにスピードアップしていく。

作者は元ANAのパイロットだったので、航空会社の内幕や
機内の描写などは堂に入ったもので詳細に描かれているが、
反面、出来事の発端になる放射性物質の持ち込みやその背景、
そして日本に持ち込む理由/目的にはほとんど触れられていない。


これは私の勝手な想像だけれども、
作者はもっと書き込むつもりがあったのだと思う。

内容・題材的には、文庫で500~600ページくらいあっても
おかしくないくらいのストーリーだし、
それくらい書き込んであったら、全体のバランスも良くなって
それこそ読み応え充分の傑作になったのじゃないだろうか。

ただ、惜しむらくは、作者にそれだけの時間が残されていなかった。
そういうことなのだろう。
とても残念なことだけれども。


航空サスペンスの書き手って、いるようで案外いないものだ。
作者はその経歴も相まって、リアリティあふれる作品を書ける
貴重な存在だった。

本書の終盤、206便のクルーたちが乗客の生命を救うため、
ひいては自分たちが生き延びるために必死の行動をとるが
そのあたりの描写は、流石に現場を知っている人ならでは。


もっともっとたくさんの作品を書いて欲しかった人だ。
ご冥福をお祈りします。


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