SSブログ

64(ロクヨン) [読書・ミステリ]

64(ロクヨン) 上 (文春文庫)

64(ロクヨン) 上 (文春文庫)

  • 作者: 横山 秀夫
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/02/06
  • メディア: 文庫




64(ロクヨン) 下 (文春文庫)

64(ロクヨン) 下 (文春文庫)

  • 作者: 横山 秀夫
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/02/06
  • メディア: 文庫



評価:★★★★☆

よく「胃に穴があく」なんていう。
強烈なストレスに晒された状態を指してそんな風に表現する。

本書の主人公もまた、物語中で凄まじいストレスに晒される。
これでもかこれでもかと言わんばかりの集中砲火。
胃どころか大腸や小腸や十二指腸や食道にまで穴があくんじゃないかと
心配になるくらいのストレスの "絨毯爆撃" 状態である。

当然ながら、読む方にもそれは伝染する。
主人公への感情移入が強ければ強いほど、
読者もまたストレスの "流れ弾" に晒される。
体調の悪い時には読まないほうがいいかも知れない(笑)。

閑話休題。


主人公・三上はD県警・警務部秘書課の広報官。
広報官というのは対外的な折衝を行う部署で、
新聞やTVなどの記者を相手に、事件の概要や
捜査の状況などの情報公開をするのも、仕事のひとつ。

もともと三上は刑事上がりで、広報官は望まぬ職種だった。
なるべく早く古巣の刑事部へ戻りたいと日々願っている。
これがストレスのもとその1。

ある日、主婦が自動車事故を起こし、相手を死なせてしまう。
D県警の交通事故では原則実名が公開されてきた。
報道で匿名にするかどうかは個々のマスコミの判断に委ねられる。
(全国の地方警察がそうなのか、D県警だけなのかは分からないが。)
しかしなぜかこの件に限って、三上は上層部から
主婦と被害者の実名非公開を命じられる。
これが記者たちの反撥を呼び、広報官と記者クラブとの関係は最悪に。
これがストレスのもとその2。

折しも、D県警への警察庁長官の視察が決定する。
長官は、昭和64年に起こった未解決の少女誘拐殺人事件の
遺族宅を訪れることを要望する。
上層部の命で遺族宅へ交渉に赴いた三上だが、
少女の父親は長官来宅を拒否してしまう。
これがストレスのもとその3。

さらに、長官視察に対して刑事部がなぜか猛反発を示し、
視察の準備をする三上に対してあからさまな妨害が入る。
これがストレスのもとその4。

そして、三上の一人娘・あゆみは長い引きこもり生活の末、
突然、失踪してしまう。
これがストレスのもとその5。

そしてそして、あゆみの公開捜査をしてもらうために
三上は直属の上司・赤間のコネにすがってしまう。
その結果、赤間の命令には(どんなに理不尽なものでも)
逆らえない状態になっている。
これがストレスのもとその6。


うーん、ざっと書き出してみたけど、
三上に与えられるストレスは、本書の序盤だけでこんなにある。
細かいことを書けばもっとありそうな気もするんだが
書いててだんだん気が滅入ってきたのでやめておこう。

もちろん(!)これがすべてではない。
物語が進行するにつれて、あるものは解決するが
その代わり、また新しいストレスのもとが発生していく。
まさにモグラたたき状態である。

本書のタイトル「64(ロクヨン)」とは、上記の
「昭和64年に起こった未解決の少女誘拐殺人事件」の
ことを指し、D県警史上最悪の事件でもあった。
作中時間では、発生から既に14年が経過し、
時効まであと1年と迫っている。

「64」にかこつけた長官視察には、ある隠された目的があった。
そして、「64」事件の裏にもD県警内部に、ある "秘密" が。
長官視察を中止させたい刑事部と、
「64」の "秘密" を利用して刑事部を抑えようとする警務部。
刑事部と警務部は、D県警内部を真っ二つに割った
全面対決の様相を呈するようになっていく。

その背景にあるのは、
部外者の介入を極端に嫌う強烈な "縄張り意識" と、
異常なまでの "ポストへの執着" だ。
このあたりを読んでると、警察というところは
事件の捜査や治安の維持なんかそっちのけで
内部抗争と足の引っ張り合いに明け暮れてるみたいに
思えてしまうよ。

 フィクションだから、かなり誇張されてるんだろうけどね・・・
 あ、もちろん "真っ当な" 警察官も出てきます(笑)。

内部(上司)と外部(記者クラブ&遺族)、
警務部と刑事部、そして組織(D県警)と個人(家族)。
本書は、様々なものの板挟みになりながらも、
ひたすら職務に忠実であろうとし、
どんなに小さな可能性であろうとも、
膠着した事態を動かす突破口を探し続ける三上の苦闘を描いていく。

もちろん、三上の不撓不屈の戦いぶりが
一番の読みどころであるのは間違いないんだが、
さらに本書のすごいところは、
きちんとしたミステリにもなっているところだろう。

三上に対して四方八方から襲ってくるストレスの群れ。
しかしその中には多くの伏線が敷かれていて
一見何の関係もないような事柄が、実は深いところでつながっている。
物語の後半、もつれた糸がほぐれていくように
事件(というか一連の騒ぎ)の真相が綺麗にひとつながりになって
明らかになっていく過程はホントによく練られていて唸らされる。


尋常でないストレスの集中砲火を浴びる三上。
彼も人間であるから、悩みもするし後悔もするし間違うこともある。
前半の三上は試行錯誤の連続である。

しかし、後半に入り、ある時点で彼は吹っ切る。
「広報官」という職務を全うするために、
「刑事」への未練を振り捨て、退路を断ち、"覚悟" を決める。
この三上の "変化" もまた読みどころだろう。


読みながらいろいろなことを考えた。
人間、好きな仕事ばかり出来るわけではない。
自分が望まぬ仕事を割り振られることもあるだろう。
いや、むしろそういう場合の方が多いかも知れない。

そのとき、どんな心持ちでその仕事に取り組むか。

私自身、望まぬ仕事を割り振られることは多い。
というか、今だってそういう仕事も割り振られている。
自分が適役とは思えない仕事も多い。
でも嫌だからやらないというわけにもいかない。
誰かがやらなければならない仕事ならば、なおさらだ。
そこにはやはり "覚悟" というものが必要なのだろう。

 幸いにして(?)、私には三上ほどのストレスはないけれどね・・・
 あんな目に遭ってたら、私なんぞただの1日で身体を壊して
 入院してしまうだろう。

私のように、振られた仕事を毎回ヒイヒイ言いながら
何とかこなしている人もいるし、
逆に、どんな仕事を割り振られても、涼しい顔で
きっちりスマートにこなしてしまう人もいる。
(まあ、裏では人知れず努力をしているんだろうけど・・・)
そういう人はたいてい出世も早いんだなあ・・・

なんだかだんだん本書と関係ない話になってきた。


聞くところによると、作者はしばらく体調を崩していて、
本書は実に7年ぶりの作品らしい。
しかも、推敲の過程で数千枚の原稿を捨てて
作品の完成度を上げていったとのこと。

まさに、かかった時間にふさわしい、渾身の傑作だと思う。


nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

<骨牌使い>の鏡 [読書・ファンタジー]

〈骨牌使い(フォーチュン・テラー)〉の鏡 (ハヤカワ文庫JA)

〈骨牌使い(フォーチュン・テラー)〉の鏡 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 五代ゆう
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/02/21
  • メディア: 文庫




〈骨牌使い(フォーチュン・テラー)〉の鏡 (ハヤカワ文庫JA)

〈骨牌使い(フォーチュン・テラー)〉の鏡 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 五代ゆう
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/02/21
  • メディア: 文庫



評価:★★★★☆

3年前に母を亡くし、孤児となった少女・アトリは、
母の友人・ツィーカの世話を受けながら
<詞>(ことば)の力を操る<骨牌使い>として
ハイ・キレセスの町で暮らしていた。

ある日、彼女はツィーカの館で出会った青年・ロナーの運命を
骨牌で占うが、彼が引いたのは死と破滅をもたらす凶札だった。

その日からアトリの運命は大きく動き出す。
アトリとロナーを狙った異形の怪物が出現し、
街を逃れたアトリたちは盗賊に襲われる。

ロナーと彼の仲間に救われたアトリは
王国・ハイランドへと導かれるが、そこで知らされたのは、
ロナーの出自と、彼女自身の血に隠された秘密だった。

かつて世界は12の<詞>によって創世され、
その<詞>は12枚の骨牌に刻まれた。
王国ハイランドの始祖こそ、この12枚の骨牌を持つ一族だった。

彼らは骨牌の<詞>に込められた超常の "力" を操る。
ハイランドの王は<鷹の王子>、その側近は<月の鎌>と<青の王女>、
骨牌使いの長老は<樹木>の "力" を。

さらにアトリは、驚くべきことを聞かされる。
創世の<詞>には幻の13番目があり、
その骨牌の "力" をアトリが宿しているのだという。

幻にして最強の力を有する骨牌・<十三>。

折しもハイランドの<骨牌>たちの中に、
王国への反旗を翻す者たち・<異言>(バルバロイ)が現れ、
彼らはアトリの持つ力をも狙っていた。

<異言の王>は、東方の蛮族を支配下に置き、
<詞>の力をもって多くの街を破壊しながら
ハイランドの王都へ向けて侵攻を開始する。

しかしハイランドの王は病に冒されて死期が近づき、
ロナーとアトリにも<異言>たちの魔手が迫る。
二人に、ハイランドを、そして世界を救う術は残されているのか・・・


孤児として育った少女が、運命の青年と巡り会い、
二人は古より伝わる力を以て巨大な闇を払い、
世界に新たな復活をもたらす存在となる。

この物語をざっくりと要約してしまえばこのようになる。
まさに "ファンタジーの王道" だろう。

"王道" とは、意地悪く表現すると "お約束の展開" とも言える。
しかし、本書を読んだ人は、
この物語が通り一遍のありきたりなものだとは
かけらほども思わないだろう。

人によっていろいろな感想があると思うけど
私が思うところのいちばん大きな理由は、
登場する人物がみな、この世界の中で悩み、傷つきながらも
必死になって "自分の人生" を生きているから。
そして、そう思わせるだけの筆力で "読ませて" くれるから。


主人公のアトリは母から愛された記憶に乏しく、
それでも母と暮らした小さな家を離れることが出来ない。
自分に<十三>の "力" が眠っていることを知ってからも
その強大さに怯え、"なぜ自分なのか" と最後まで自問し続ける。

ロナーは病弱な王のために必死に尽くしているが、
それは裏を返せば、自分に課せられた "責務" からの逃避であり、
それを十分に自覚してもいる。


2人以外にも魅力的なサブキャラが綺羅星のように登場するが
みな多かれ少なかれ心に葛藤を抱えている。
物語の中で生き方を変えていく者も少なくない。
悪人として登場しながら、最後の戦いでは<異言>の軍勢に抗い、
命を賭けて世界を守ろうとする者。
逆に、ハイランドを守るべき立場にあったはずが
自らの欲望によって<骨牌>の "暗黒面" に墜ちていく者。

例外的に迷いがないのは、自らこそ "正義" と信じて疑わない
<異言>の方々くらいではないかな(笑)。

キャラクターたちの重厚な感情のドラマこそ、
本書の一番の読みどころなのだろうと思う。

エピローグの美しさも、また格別。
荒廃した灰色の世界に生命が新生していき、
アトリとロナーが、新たな世界再生の象徴となる。
さながらモノクロ画面が一気に総天然色に変わるようだ。

 どこかがアニメ化しないかなあ・・・


ここ何年か、骨太なファンタジーを書く人が増えてきたと思うけど
15年前に、このような作品を書いていたというのはスゴいものだ。

この作者、SFも本格ミステリも達者に書くと思ったら
こんなファンタジーまで書けるんだねえ。まさに栗本薫の再来。
「グイン・サーガ」の続編執筆に起用されたのも頷ける。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

美神の狂宴 クラッシャージョウ12 [読書・SF]

美神の狂宴 (ハヤカワ文庫JA)

美神の狂宴 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 高千穂 遙
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/02/20
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

22世紀初頭に超光速(ワープ)航法を手にした人類は、
広く銀河に植民地を築き、版図を広げていった。
惑星改造などの任務を請け負ったのは、"クラッシャー" と呼ばれる
宇宙活動のスペシャリストたち。
非合法なこと以外は、どんな仕事でも引き受ける "何でも屋" だ。
数あるクラッシャーたちの中でもAAA級の評価を誇る、
クラッシャージョウとそのチームの活躍を描くスペースオペラ、
その最新作にして第12作。

人類の宝とも言える重要美術品の護送・護衛任務を終え、
惑星アフロディーテに降り立ったジョウのチーム。
乗艦ミネルバのパーツ交換のため、宇宙港に残ったリッキーは、
要人グラン・ダーツの暗殺を狙ったテロ事件に巻き込まれる。
3人組の凄腕の殺し屋・ディザスターズ、
そして異形の生物群との戦いで瀕死の重傷を負うリッキー。

リッキーが入院した病院へ向かったジョウたちの前に現れたのは、
鈴鈴(りんりん)と蘭蘭(らんらん)と名乗る正体不明の双子の美女。
彼女らは、ジョウたちに "護衛" を依頼したいという。

惑星アフロディーテを舞台に、美術品をめぐる欲望が渦巻き、
クラッシャー、ディザスターズ、謎の双子、
謎の生物群、そして連合宇宙軍まで巻き込んだ死闘が始まる。


前作「水の迷宮」から2年と、近年になく速い刊行ペース。

 wikiで見てみたら、一番間が空いたのが
 第8巻「悪霊都市ククル」と第9巻「ワームウッドの幻獣」の間で
 なんと13年も空いてた。

ただ、前作は今ひとつ消化不良感の残る出来だった。
海洋惑星が舞台で、水上での戦闘シーンが多く、
ジョウたちにとってはホームグラウンドではなかったせいも
あるとは思うが、主役の座が他のキャラに喰われてたしねえ。

今作はどうか。
パワードスーツを駆使する3人組のディザスターズ、
異形の巨大生物群、謎の拳法を操る双子の美女と
派手な道具立てはたくさん揃っているが
逆に揃いすぎていてジョウたちの影が薄いようにも思う。

ディザスターズがまず強い。半端なく強い。
通常兵器がなかなか通用しない巨大生物も強い。
ジョウもタロスも苦戦の連続で、身を守るので精一杯。
そんな連中に対して、双子の美女は軽やかに互角の戦いを見せる。
つまり、彼女らも半端なく強い。

シリーズものの宿命で、巻を重ねるごとに
敵の設定が難しくなってきたのかも知れない。
どんどん敵を強くしてしまうと主人公が勝てなくなってしまうし
弱い敵ばかり出してもじり貧になるだろうしねえ。

今回、非常に強力な敵を設定したので、不利になったジョウたちの
"援軍" として双子を登場させたのだろうけど、
この二人が目立ちすぎて・・・なんだか双子が主役の物語に
ジョウたちがゲスト出演してるみたいである。

戦闘シーンがほぼ地上戦のみなのも、ちょいと地味かなぁ。
メカのサポートはあるものの、メインになるのは肉弾戦。
これはこれで "熱い" んだけど、仮にも "スペース" オペラなんだから、
ミネルバやファイター1とかの活躍も拝みたかったよねぇ。


何だか文句ばかり書いてしまったが
戦闘シーン自体は迫力充分でページ数もたっぷり。

鈴鈴と蘭蘭も、最初は気づかなかったけど、途中で
「あ! あの子らかあ」ってわかったよ。
同じ作者の他のシリーズからの友情出演(?)だったんですね。
いやあ久しぶり。あの子らはこうなってたんですねえ。


というわけで、普通なら★3つかなあと思ったんだけど
2年というインターバルで出してくれたこと、
懐かしいキャラに再会できたこと、
そして迫力充分の戦闘シーンを読ませてくれたので★半分増量だ!


私が19歳のときに出会ったシリーズなのに、
38年経った今でもその新作が読めるなんて、素晴らしいこと。
齡60を超えて、まだまだ元気な高千穂さん。
次作も期待してます。


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

クロノス・ジョウンターの伝説 [読書・SF]

クロノス・ジョウンターの伝説 (徳間文庫)

クロノス・ジョウンターの伝説 (徳間文庫)

  • 作者: 梶尾 真治
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2015/02/06
  • メディア: 文庫



評価:殿堂入り

よく
「まだこの本を読んでいない人が羨ましい。
 こんな素晴らしい作品をこれから読めるんだから。」
なんて褒め言葉があるが、それが当てはまる作品はそうそうない。

私自身、このブログの中でこの言葉を使ったのは
開設以来の9年間で、2~3回くらいだと思うのだが
(最近だと2年前に、山本弘の「MM9-destruction」で使ったなあ)
まさに本書はこの言葉が当てはまる大傑作だ。


「クロノス・ジョウンターの伝説」という作品に出会ったのは
1999年のこと。もう16年も前のことになる。
今は亡き "ソノラマ文庫NEXT" というレーベルだった。

当時の私は40代を迎えた頃で、仕事にも追われ、
だんだんとくたびれた中年のオッサンになりつつあった。
感性も摩耗しかけていたはずの私だったが、
巻頭に置かれた「吹原和彦の軌跡」を読んだ時の衝撃は忘れられない。


クロノス・ジョウンターはタイムマシンの一種だが、
いくつかの欠点をもっている。

まず、過去へしか行けない。

過去から物を持ち帰ったり、人を連れ帰ることも出来ない。

そして、過去に留まれるのはごく短時間で、
また未来へ引き戻されてしまう。

そして最大の欠点は、還ってくるのは出発した現在ではなく、
はるかな未来に跳ばされてしまうことだ。

 例えば、10年前の時点へ遡ると、
 帰りはそこからおよそ100年後の世界へ跳ばされる。
 (遡行年数の2乗くらい跳ばされる)
 現在から数えると90年後の未来へ帰還することになる。

 後に、改良が進んで跳ばされる年数は短縮されるが、
 それでも出発時点よりかなりの未来に帰還することは変わらない。

そんなクロノス・ジョウンターの欠点を承知の上で、
時を跳んだ者たちの物語。それが本書だ。


事故で死亡した思い人の女性を救うため、
吹原和彦はクロノス・ジョウンターで過去へ跳ぶ。
しかし時の神は、"旅" の代償を要求する。
それでも、和彦は過去へ向かう。運命に抗うために。
自分の人生すべてと引き替えにしてでも、愛する人を救うために。

そして、美しく切なすぎるあのラスト。
もともと私は涙腺が緩いんだが、
本を読んであんなに泣いたことは
今までの人生でも数えるほどだろう。
この文章を書きながらも、思い出して目がウルウルしてるんだから。


つづく2編も素晴らしかった。

かつて存在した建造物を見るためだけに過去へ来た布川輝良。
そこで彼は運命の女性に出会ってしまう。
しかし時の神は、二人が同じ時間を生きることを許してはくれない。

11歳の鈴谷樹里が憧れた人は、不治の病で世を去った。
成長して医師となった樹里は、
彼の命を奪った病気の特効薬を持って時を超える。
もし、彼の命を救うことができても、
樹里は彼と同じ時間に留まることは出来ないのに・・・


この3編は極上のタイムトラベルSFであると同時に
極上のラブ・ストーリーでもある。

細かいところをあげつらえば、矛盾するところも無くはないし
いささか展開が唐突に思えるところもある。
しかし、そんなものはこの作品群にあっては瑕瑾にすらならない。
私にとって、文句なしの "殿堂入り作品" なのだ。


今回の再刊をうけてちょっと調べてみたら
この作品は99年の後にも。作品が増えたり入れ替えられたりしながら
03年(文庫)、05年(単行本)、08年(新書版)と再刊されている。
これだけ再刊が続くということは、やはり根強い人気があるのだろう。

 03年と08年の再刊は買ったなあ。
 我ながらよくつき合ってると思うけど
 「クロノス・ジョウンター」と銘打ってあると
 もう、無条件で手が伸びてしまうんだ・・・

99年版は3編だったのが、15年版の今回は7編になっていて、
しかも巻末に「年表」までついている。
各収録作も細かく修正・加筆が行われているようで
各作品間の時系列的なつながりもさりげなく補足・補完されている。

 もっとも、ストーリーは各作品ごとに独立しているので
 どれから読んでもかまわないが、これから読もうという人は
 やはりシリーズ第1作であり原点でもあり、
 個人的にはベスト1である「吹原和彦の軌跡」から
 読むのが一番いいだろう。
 要するに、ページ順に読めばいいということだね(^^;)

ラスト近くの「野方耕市の軌跡」では、
ワンカット程度だが、それまでの作品の登場人物が数多く顔を見せていて
オールスターキャストでのカーテンコールにもなっている。


あなたがSF好きなら、タイムトラベルものが好きなら、
そして純愛物語が好きなら、きっとこの本は
あなたの "お気に入り" リストの一角を占めることだろう。

最後に、冒頭に置いた言葉をもう一度書いてしまおう。

この作品を未読のあなた。私はあなたが羨ましい。
こんな素晴らしい作品をこれから読めるんだから。


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

『宇宙戦艦ヤマト2199』コンサート2015 鑑賞記・後編 [アニメーション]

後編では、演奏された曲名と、感想みたいなものを綴っていきます。
ちなみに曲名はコンサートのパンフレットからの引用です。


第1部 「追憶の航海」編

1
「銀河航路BG」
 冥王星会戦や17話の真田さんの回想シーンなんかで流れて
 もう私の中では "古代守のテーマ" となっている。
 特に17話では、この曲の冒頭が流れてきただけで
 涙腺が崩壊したことを思い出したよ。
 なぜこの曲が冒頭に来たのかは、コンサートの最後で
 彬良さんが話してたけどパンフレットにも詳しく書かれてた。

2
「無限に広がる大宇宙」「夕日に眠るヤマト」
「地球を飛び立つヤマト」「大河ヤマトのテーマ」
 考えたら、みんな40年前に聴いた曲。それを40年後の今でも
 オーケストラで聞けるなんて・・・なんて凄いことなんだろう。
 曲の魅力、演奏家の技術、そしてファンの支持。
 どれ一つ欠けてもここまで残らなかったんだろうなあ。
 「無限に-」「夕日-」と続けて聞いていたら
 目がウルウルしてきてしまった。
 yuccaさんのスキャットも最高でした。

3
「ファースト・コンタクト」「艦隊集結」
「ガミラス次元潜航艦」「永遠に讃えよ我が光」
 2199で新たに作られた "ガミラスのテーマ" も
 40年前の曲と混じっても全く違和感なく聞ける。
 これもまた彬良さんの凄いところ。

4
「ブラックタイガー」「コスモタイガー(Wan・Dah・Bah)」
「ヤマト前進」「ヤマト渦中へ」
 ワンダバ合唱団も、前回よりも人数が大幅に増えてパワーアップ。
 この曲を指揮している時の彬良さんの腰の振り方がおかしくて、
 笑いながら聞いてました。
 「渦中へ」も、ナマのオーケストラの聞くと迫力が違う。

5
「孤高のデスラー」「第二バレラス」
「崩れゆく総統府 ~ 希望」「大志」「虚空の邂逅」
 「孤高-」のヴァイオリンソロは、コンサートマスターのようです。
 パンフレットによると篠崎正嗣さん。とても美しい音色でした。
 「虚空-」では最後に「美しい大海を渡る」のテーマが流れ、
 スクリーンでは古代と雪の眼前にイスカンダルが現れて、第1部は幕。


第1部が終了したのが6時40分。第1部は約40分だったことになる。
ここで20分間の休憩。
またまた、コスプレの雪とタマちゃんが登場。
いろいろ連絡をしてくれるんだけど、やっぱりちょっと噛んでる?
それでもやっぱりお客さんは温かい拍手。

そして7時からコンサート再開です。


幕間
6
「美しい大海を渡る」


第2部 「星巡る方舟」編

7
「宇宙戦艦ヤマト2199」「蛮族襲来」「ガトランティス襲撃」
「薄鈍色の宇宙」「シャンブロウ」
 「2199」のバイオリンは「孤高-」と同じ人。
 当然ながら葉加瀬太郎とは違うんだけど、また違った演奏で
 これはこれで素晴らしいと思う。
 「蛮族-」は映画の冒頭での火焔直撃砲が目に浮かぶ。
 もう、ツカミはバッチリの名曲だなあ。
 「シャンブロウ」の男声コーラスも迫力満点。
 "楽器" としての人の声の力がずんずん響いてくる。

8
「航海日誌」「ジレルの囁き」「ガトランティス」
「絵本」「レーレライ」「目覚めの時」
 「ジレル-」のVocalは橋本一子さん。
 歌のような呟きのような不思議な声で幻想感たっぷり。
 この人、「ラーゼフォン」では主人公の母親役で出演してたよね。
 「ガトランティス」は「都市帝国」の別アレンジだけど
 ものすごくエネルギッシュになってて、いかにも蛮族。
 今更だけど、シャンブロウ系のBGMに
 テレサ関係のテーマが使われてるのは何故なんだろう・・・

9
「大決戦 -ヤマト・ガミラス・ガトランティス-」
「方舟は星の海へと還る」「わかれ ~ わかれ-出航-」
「Great Harmony ~ for yamato2199」
 「大決戦」は「帝都防衛戦」「ガミラス国歌」「白色彗星」のメドレー。
 映画を観ている時は画面に集中してたので
 よく分からなかったんだけど、今日はしっかり分かった。
 「方舟は-」は「新銀河誕生」の別アレンジ。
 合唱団も登場し、最後にふさわしく盛り上がげていく。
 やはり名曲だねえ。「ヤマトよ永遠に」で初登場だったけど
 「方舟」の希望に満ちたエンディングにもぴったりだ。
 「Great Harmony」はyuccaさんと橋本一子さん、
 そして合唱団で歌い上げてコンサートの終幕を飾る。

このとき、時計を見たら7時48分くらいだったかなぁ。
幕間と第2部とで、約50分弱というところか。


拍手が鳴り止まない中、一旦退場した彬良さんが再び登場し、
コンサートで初めて口を開く。
ヤマトの音楽を作っている人たちを、直に見て欲しかったこと。
そして、彼らの素晴らしい技術を直に体験して欲しかったこと。
メトロノームを使わずに、全員で一斉に演奏する音楽を
体験して欲しかったこと。
他にも何か話してたんだけど、よく覚えてないので省略(おいおい)。


「そしてこれからは、生オーケストラによる大カラオケ大会です。
 アンコールとして3曲演奏しますが、歌うのは皆さんです。
 1曲目はこれですね」
と言って赤いタオルを振る。観客は大喜び。
「物販コーナーで売ってた汗ふきタオルなんですけど(観客爆笑)。
 2曲目は『銀河航路』です。
 そして3曲目はもちろん・・・
 立って歌ったほうがいいと思われる方は、どうぞ立って下さい。
 2曲目と3曲目がそうかな、って思いますが」

「真赤なスカーフ」のイントロが始まる。観客の何人かが起立する。
私も迷ったんだけど、結局は座ったままで歌った。
かみさんも座ったままだった。後でかみさんに聞いたら
「私も立とうと思ったんだけど、立っちゃうと
 後ろの人の視界の邪魔になっちゃうんで、やめたの」
そうだよねえ・・・なんだかいろいろ気を回しちゃうんだよねえ。
でも、もし私が20代だったら、
矢も盾もたまらず立ち上がってたかもなあ。

「真赤なスカーフ」が終わると、
おもむろに全員が立ち上がり、総員起立状態。
これなら心おきなく立ち上がれる。

「銀河航路」と「宇宙戦艦ヤマト」、
この2曲も精一杯に歌ったんだけど、
私の横にいた30代くらいのお兄さんの声の大きいこと大きいこと。
私も負けじと声を張り上げたんだけど、
とても叶いませんでしたねえ・・・
昔はもっと大きな声が出たはずなんだけどなあ。

 う~む、いつまでも若いと思っていてはダメなんだね。

オーケストラ、yuccaさんと橋本一子さん、東京混声合唱団、
そして観客全員が一体になっての大合唱で、
今回のヤマト・コンサートはお開きとなりました。

コスプレのお嬢さん二人も再登場してお見送り。

時計を見たら8時10分くらいか。
休憩時間を除くと、正味で1時間50分くらい。
なかなか濃厚な時間を過ごすことができましたね。
前回の吹奏楽も良かったけど、
やっぱり弦楽器が入ると華やかになるね。
また、こんなコンサートが開かれるといいなあ・・・


舞浜駅まで戻る途中、イクスピアリのチョコレート売り場で
留守番をしてる家人のためにお土産を買って帰りました。

家に着いてからパンフレットをじっくり読んでいたら、
宮川彬良さんと音響監督の吉田知弘氏との対談が載っていて
彬良さんはこんな発言をしてる。

「音楽会をやってしまったら、次はもう交響組曲しかないよねえ」
「ぜひ僕らの世代の
 『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト2199』を作りたいですね」

おお、次は交響組曲ですかあ。
まだまだお楽しみは続く、ということですね。


本日の戦利品、その1。入場時にもらったチラシ6枚。

ycon3.jpg
その2。コンサート限定パンフレット。
キーホルダーは、かみさんが持っていってしまったので
撮影できず(T_T)。
ycon1.jpg

その3。「星巡る方舟」挿入歌「わかれ」LPジャケット再現CD。
2枚手に入ったので表面と裏面。

ycon2.jpg


nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アニメ

『宇宙戦艦ヤマト2199』コンサート2015 鑑賞記・前編 [アニメーション]

舞浜アンフィシアターにて行われたコンサート。
2月28日の夜の部へ行って参りました。

前回の吹奏楽コンサートの時は、申し込んだのが遅かったので
かな~り後ろ(というか最後列?)の席だった。

今回はその轍を踏まぬよう、
先行販売が始まってすぐに申し込んだので、
かな~り前の方の席をgetすることに成功!
流石に真正面ではなかったけどね・・・

ちなみにS席。ちと高いかなあとも思ったけど
他ならぬヤマトのコンサート。
とても貴重な体験だし、おまけのCDももらえるし。

ところが2月に入ったら、ちょいと体を壊してしまい、
なんとか日常生活が普通に過ごせるまでに回復したのが先週のこと。
あと1週間ズレてたら行けなかったかも知れないなぁ。

 う~む、いつまでも若いと思っていてはダメなんだね。


さて、当日の朝。なんと5時前に起きてしまったよ。
遠足前ではしゃぐ子供みたいだねぇ。と思ったら、
かみさんはもう起きててPCをパチパチ叩いて仕事してる。

「遅かったわねえ。アタシは3時過ぎから起きてるわよ」
「え~信じらんない。でもコンサート中に寝ないでね」
「う~ん、それは分からないかもねえ~」

 以前の記事にも書いたが、うちのかみさんは
 七色星団会戦の最中に寝てしまう、
 というトンデモナイ所業をしでかしたことがある。

7時を過ぎたらかみさんは出勤。
もっとも今日は午前で切り上げて帰る予定になってる。
ところが12時半には還るはずが1時半を過ぎても還ってこない。
沖田の帰りを待つ土方ほどには、
かみさんが信じられない私はもうやきもき。すると電話が。
「ねえ、コンサートに出発するのは何時だっけ?」
「ええっとイクスピアリで軽く食事をすることを考えたら
 2時半くらいにはこっちを出たいなあ・・・」
「了解! あと15分で還るね」

結局1時45分に還ってきた。
二人でカップ麺を食べて(つつましいねえ)予定通りに出発。

2年前の時には、途中でかみさんが腹が痛いと言いだしたんだけど
今回はそんなこともなく無事に舞浜に到着。

相変わらす華やかなところだねえ。
イクスピアリ内を歩いて行くと、途中に円形の広場があって
そこのステージで女性が歌ってる。
何の歌か皆目分からなかったんだけど
ディズニー映画の何かなんだろう(いい加減である)。

2年前は時間に余裕が無かったせいもあって
何も喰わずにアンフィシアターに入ってしまって後悔したんだが
今回は、ちゃんとカフェに入って軽食をとった。
見渡すと、こちらもヤマトのコンサートのお客さんかな、
って人たちがちらほら見受けられる。
初めて入った店なので分量の見当がつかず、適当に注文したら
なんだか大量のポテトが出てきて、二人がかりでも食べきれなかった。
40年前だったらどうってことない量だったんだけどね。

 う~む、いつまでも若いと思っていてはダメなんだね。


食事も済ませていよいよアンフィシアターへ。
入り口の前に行列があって、指示の通りに並んで入場。
年配の人が多いのはもちろんなんだけど、
20~30代くらいの人がとても増えたように思う。
オリジナルシリーズからのファンだけでなく、
2199からあたらしくヤマトのファンになった人も
かなりの割合でこのコンサート会場に来ているようだ。

入場時に配られたビニール袋の中身はチラシ6枚だった。
・「星巡る方舟 Blu-ray & DVD」
・「星巡る方舟 オリジナルサントラ5.1ch Blu-ray audio」
 (裏面には、今回のコンサートも6/10にディスクになるとの告知が。
  ちなみにメディアはBlu-ray audioとCD。)
・「宇宙戦艦ヤマトサウンド ハイレゾ音源」
・「宇宙戦艦ヤマト2199 40th Anniversary
  ベストトラックイメージアルバム」
・「宇宙戦艦ヤマト2199 全記録集『Vol.1&2』」
・「戯作者銘々伝」こまつ座第109回公演
 (なぜこまつ座?って思ったら、音楽が宮川彬良さんだったんだね。)

さて、我々はCDの引き替え場所へ直行。二人なのでCDも2枚。
「2枚もいらないでしょ? 1枚はオークションで売っちゃえば?」
「いや、保存用にとっておくよ。記念品だしね」

それから物販コーナーへ。こちらも入場人数が制限されてて
入り口で並んで待つことしばし。
グッズの一覧表が貼ってあるんだけど、
もうかなりの品に「売切」のシールが。
「何買うの?」
「とりあえず、コンサートのパンフレットは欲しいなあ」
「じゃ、あたしはキーホルダーね」
というわけで二人合わせて \2,300 也。

CDもグッズも手に入れたので、席に向かう。
おお、やっぱりS席はステージに近いなあ。

開演が近づくと、ステージの左袖からお姉さんが二人。
森雪と山本玲のコスプレですね。
マイクでコンサート中の注意事項を読み上げてるんだけど
ときどき噛んでしまうのはご愛敬。でもお客さんは温かい拍手です。

そうこうしているうちに開演時間。
オーケストラの方々が入場し、チューニングが始まる。
それが終わったあと、いよいよ宮川彬良さんの御登場です。


今回のコンサートの特徴は、彬良さんがしゃべらないこと。
軽妙なトークを封印して、ひたすら指揮に徹している感じ。
でもまあ、指揮中のボディアクションは相変わらず。

オーケストラの後ろにはスクリーンが掲げられ、
アニメのシーンや、奏者のアップなどが映し出されるという仕組み。
とは言っても四六時中映っているわけでもなく、
曲によっては何も映さない時もある。
たぶん音楽をじっくり聞かせたいんだろうなあ、って推察する。

時たま、曲と曲の間にナレーションが入るんだけど、
それは森雪役の桑島法子さん。うーん、いい声です。


さて、前編ではここまで。

後編では、演奏された曲名を紹介ながら
感じたことを簡単にコメントしていく。

このブログを読むような人なら、
いちいちどんな曲か説明しなくても大丈夫だよね。
あと、私は楽器やオーケストラについてもずぶの素人なので
評論みたいなことも書きません、というか書けません(笑)。

それでは、後編に続く。


nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アニメ