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<骨牌使い>の鏡 [読書・ファンタジー]

〈骨牌使い(フォーチュン・テラー)〉の鏡 (ハヤカワ文庫JA)

〈骨牌使い(フォーチュン・テラー)〉の鏡 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 五代ゆう
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/02/21
  • メディア: 文庫




〈骨牌使い(フォーチュン・テラー)〉の鏡 (ハヤカワ文庫JA)

〈骨牌使い(フォーチュン・テラー)〉の鏡 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 五代ゆう
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/02/21
  • メディア: 文庫



評価:★★★★☆

3年前に母を亡くし、孤児となった少女・アトリは、
母の友人・ツィーカの世話を受けながら
<詞>(ことば)の力を操る<骨牌使い>として
ハイ・キレセスの町で暮らしていた。

ある日、彼女はツィーカの館で出会った青年・ロナーの運命を
骨牌で占うが、彼が引いたのは死と破滅をもたらす凶札だった。

その日からアトリの運命は大きく動き出す。
アトリとロナーを狙った異形の怪物が出現し、
街を逃れたアトリたちは盗賊に襲われる。

ロナーと彼の仲間に救われたアトリは
王国・ハイランドへと導かれるが、そこで知らされたのは、
ロナーの出自と、彼女自身の血に隠された秘密だった。

かつて世界は12の<詞>によって創世され、
その<詞>は12枚の骨牌に刻まれた。
王国ハイランドの始祖こそ、この12枚の骨牌を持つ一族だった。

彼らは骨牌の<詞>に込められた超常の "力" を操る。
ハイランドの王は<鷹の王子>、その側近は<月の鎌>と<青の王女>、
骨牌使いの長老は<樹木>の "力" を。

さらにアトリは、驚くべきことを聞かされる。
創世の<詞>には幻の13番目があり、
その骨牌の "力" をアトリが宿しているのだという。

幻にして最強の力を有する骨牌・<十三>。

折しもハイランドの<骨牌>たちの中に、
王国への反旗を翻す者たち・<異言>(バルバロイ)が現れ、
彼らはアトリの持つ力をも狙っていた。

<異言の王>は、東方の蛮族を支配下に置き、
<詞>の力をもって多くの街を破壊しながら
ハイランドの王都へ向けて侵攻を開始する。

しかしハイランドの王は病に冒されて死期が近づき、
ロナーとアトリにも<異言>たちの魔手が迫る。
二人に、ハイランドを、そして世界を救う術は残されているのか・・・


孤児として育った少女が、運命の青年と巡り会い、
二人は古より伝わる力を以て巨大な闇を払い、
世界に新たな復活をもたらす存在となる。

この物語をざっくりと要約してしまえばこのようになる。
まさに "ファンタジーの王道" だろう。

"王道" とは、意地悪く表現すると "お約束の展開" とも言える。
しかし、本書を読んだ人は、
この物語が通り一遍のありきたりなものだとは
かけらほども思わないだろう。

人によっていろいろな感想があると思うけど
私が思うところのいちばん大きな理由は、
登場する人物がみな、この世界の中で悩み、傷つきながらも
必死になって "自分の人生" を生きているから。
そして、そう思わせるだけの筆力で "読ませて" くれるから。


主人公のアトリは母から愛された記憶に乏しく、
それでも母と暮らした小さな家を離れることが出来ない。
自分に<十三>の "力" が眠っていることを知ってからも
その強大さに怯え、"なぜ自分なのか" と最後まで自問し続ける。

ロナーは病弱な王のために必死に尽くしているが、
それは裏を返せば、自分に課せられた "責務" からの逃避であり、
それを十分に自覚してもいる。


2人以外にも魅力的なサブキャラが綺羅星のように登場するが
みな多かれ少なかれ心に葛藤を抱えている。
物語の中で生き方を変えていく者も少なくない。
悪人として登場しながら、最後の戦いでは<異言>の軍勢に抗い、
命を賭けて世界を守ろうとする者。
逆に、ハイランドを守るべき立場にあったはずが
自らの欲望によって<骨牌>の "暗黒面" に墜ちていく者。

例外的に迷いがないのは、自らこそ "正義" と信じて疑わない
<異言>の方々くらいではないかな(笑)。

キャラクターたちの重厚な感情のドラマこそ、
本書の一番の読みどころなのだろうと思う。

エピローグの美しさも、また格別。
荒廃した灰色の世界に生命が新生していき、
アトリとロナーが、新たな世界再生の象徴となる。
さながらモノクロ画面が一気に総天然色に変わるようだ。

 どこかがアニメ化しないかなあ・・・


ここ何年か、骨太なファンタジーを書く人が増えてきたと思うけど
15年前に、このような作品を書いていたというのはスゴいものだ。

この作者、SFも本格ミステリも達者に書くと思ったら
こんなファンタジーまで書けるんだねえ。まさに栗本薫の再来。
「グイン・サーガ」の続編執筆に起用されたのも頷ける。


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