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時を巡る肖像 [読書・ミステリ]

時を巡る肖像 (実業之日本社文庫)

時を巡る肖像 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 柄刀 一
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2010/12/04
  • メディア: 文庫



評価:★★★

サブタイトルが「絵画修復士・御倉瞬介の推理」。

その名の通り、主人公の瞬介はイタリアで絵画修復を学んだ。
しかし妻に先立たれて、一人息子の圭介を伴って帰国し、
日本で絵画修復士として生計を立てている。

彼が引き受けた仕事先で起こる様々な事件を
修復する絵画と絡めて解き明かしていく姿が描かれていく。

「ピカソの空白」
 瞬介は、天才画家と謳われる冷泉朋明の所有する
 ピカソの素描画の修復を引き受ける。
 その夜、屋敷の一室で美術評論家が殺される。
 修復のために泊まり込んでいた瞬介は、
 深夜に廊下を歩く朋明の姿を目撃していたが・・・

「『金蓉』の前の二人」
 志野正春は、甥である瞬介の紹介で
 妻・佳蓉子の肖像画を画家・古関誠に依頼した。
 そして、志野家に古関が日参するようになって
 2ヶ月ほど経った頃から、佳蓉子の周囲で
 不審な出来事が起こり始める・・・

「遺影、『デルフトの眺望』」
 油彩画家・中津川顕也は妻・琴美と離婚したが
 一人娘の雅子は父親のもとへ残った。
 琴美は柳川に移り住むが、やがて失踪してしまう。
 6年後、彼女は他殺死体で発見され、その容疑が雅子にかけられる。
 そんな中、顕也は来客と口論になり、乱闘となってしまう。
 現場に駆けつけた雅子の眼前で、瀕死の重傷を負った顕也は
 フェルメールの『デルフトの眺望』の写真を指さして絶命する・・・
 本書中でいちばんミステリらしい作品かなとは思うが
 ダイイング・メッセージの意味は、
 素人にはちょっと見当がつきかねるかなあ・・・

「モネの赤い睡蓮」
 西洋画家・藤崎高玄(たかはる)が毒殺された。
 毒の入った瓶を運んだのは、高玄の娘・藤崎ナツ。
 瓶には高玄が普段から服用している生薬が入っていたが、
 その中に農薬が混入されていたのだ。
 しかし警察は "覚悟の自殺" と判断する。
 その農薬には強烈な匂いと苦味があり、
 知らずに飲ませることは不可能だったからだ。
 しかし瞬介が "あること" に気づいたことから、
 捜査は根底から覆され、意外な犯人が指摘される。
 本書の中では、ミステリとしては「遺影-」と双璧だろう。

「デューラーの瞳」
 建築家・戸梶祐太朗のスタッフの一人・野木山が
 不可思議な状況下で交通事故死する。
 犯行における小道具の使い方がうまいし、
 ラストでは島田荘司ばりのトリッキーな真相が炸裂する。

「時を巡る肖像」
 父母が描かれた肖像画の上から、
 自分と妻の肖像を上書きしようとする主人公・遠野遼平。
 しかし、描いている最中、遼平の身に不思議なことが起こる・・・
 遼平の章と瞬介の章が交互に描かれ、
 次第に明らかになっていくのは哀しい愛の物語。
 本書中、唯一犯罪が絡まない話だが、切なさは一番。


作者は本格ミステリの名手であるから、各短編の出来に不足はない。
巻末に、本書に登場する画家の年譜が載っているのだが
執筆には、かなり大量の参考資料が必要だったことが窺われる。
ミステリとしての興味に加えて、作品ごとに
過去の名画や高名な画家、さらには美術そのものについての
いろいろな蘊蓄まで知ることができる。

美術には全くの門外漢なんだが、そんな私でも楽しく読めた。


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mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2015-03-28 20:24) 

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