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まっすぐ進め [読書・ミステリ]

まっすぐ進め (河出文庫)

まっすぐ進め (河出文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2014/05/08
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

5つの連作短編からなる "日常の謎" 系恋愛ミステリ。

タイトルの「まっすぐ進め」とは、
本作の主人公であり、"探偵役" でもある川端直幸が、
自分の名前の由来を他人に説明するときの言葉。
「幸せに向かってまっすぐ進め」と。

「ふたつの時計」
 直幸が新宿の大型書店で見かけた女性・高野秋。
 秋の美しさに惹かれた直幸だったが、
 彼女が左手に腕時計を二つはめていることに気づく。
 友人の黒岩正一と、その恋人・太田千草のはからいで
 秋に再会した直幸は、二つの時計の意味に思いを巡らす。

「ワイン合戦」
 時計の件がきっかけで秋と親しくなった直幸。
 正一と千草を交え、4人で居酒屋へ繰り出すが、
 同じ店内で呑んでいたカップルの不可解な行動を目にする。
 二人でワインを1本ずつ注文し、
 それぞれのボトルから自分のグラスについで呑む。
 さながら二人でワインを飲む勝負をしているような・・・
 直幸が解き明かした "真相" は意表を突くものだけど
 言われてみればそうかなあ、って納得できる。
 "日常の謎" ミステリとしては、本書中でいちばんの作品だと思う。

「いるべき場所」
 郊外のショッピングモールへ来た直幸と秋。
 そこで二人は、ひとりぼっちの幼児・みさきと出会う。
 両親が探している気配もなく、不審に思う二人だったが
 やがて、みさきを執拗につけ回している者がいることに気づく・・・
 みさきがしょっていたリュックサックには、
 実に意外な "もの" が入っており、
 そこから直幸が導き出した "真相" はかなり深刻だ。
 ミステリとしては、「ワイン合戦」と並んで本書の双璧だと思うが
 こればかりは直幸の推理が間違っていることを願ってしまう。

「晴れた日の傘」
 千草の母親の元へ、結婚の許しを求めに行った正一。
 彼女が中学生の時に病死した父親は、
 「千草の結婚相手に渡すように」と一本の "傘" を妻へ託していた。
 その "傘" を受け取ったものの、父親の真意がつかめない正一。
 直幸が辿り着いた結論は、ミステリのオチとしてはともかく、
 読者へ与える感動は抜群だ。
 凡百の言葉より、○○○○○のほうが遥かにものを言う。
 娘が花嫁になる姿を見ることなく逝ってしまった父親の
 深い愛情が泣かせる一編。
 私も涙腺大崩壊。ほんと最近、涙もろくなって困る。

「まっすぐ進め」
 直幸と知り合ってから初めて迎えた、秋の誕生日。
 二人は秋の故郷である仙台へ向かう。
 そこで、彼女の口から語られたのは、
 "ふたつの時計" に秘められた衝撃的な事実と、
 深い "心の闇" に苦しんできた日々だった。
 ラストで直幸が秋に示してみせる "真相" は、
 そんな秋の "闇" に一筋の光を投げかけようとする。
 でもそんなことよりも、彼女の "闇" をともに分かち合い、
 支えてくれる存在に、直幸がなってくれたことが
 秋にとっては何よりの救いになったのだろう
 静かだけど深い余韻を残す、素晴らしいラブ・ストーリーだ。


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