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よろずのことに気をつけよ [読書・冒険/サスペンス]

よろずのことに気をつけよ (講談社文庫)

よろずのことに気をつけよ (講談社文庫)

  • 作者: 川瀬 七緒
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/09
  • メディア: 文庫



評価:★★★

第57回江戸川乱歩賞受賞作。

塾講師を掛け持ちしてやっと食いつないでる
貧乏文化人類学者の仲澤大輔。ちなみに35歳、独身。

ある日、彼の家を一人の少女が訪れる。
彼女の名は佐倉真由。18歳の美大生だ。
事情があって両親と決別し、祖父・健一郎と暮らしていたが、
その祖父が1ヶ月前に殺されたという。
それも心臓を抉られ、舌を切断されて。

彼女は、殺人のあった家の縁の下から
不可解なものを発見し、仲澤のもとへ持ち込んできたのだ。
それは "呪術符" と呼ばれる短冊形の和紙で、
そこには「不離怨願、あたご様、五郎子」という文字が。
しかも和紙には人骨と髪の毛が漉き込んであったという・・・

世間から隠れるように暮らしていた老人が、
なぜかくも強烈な怨念を持たれたのか。

仲澤と真由は、健一郎の過去と、
日本のどこかに残る "呪術の系譜" を求め、
調査を開始するが・・・


本書は、いわゆる普通のミステリではない。
殺人事件は起こるものの、容疑者として浮上する者は皆無。
物語の結末近くまで進まないと犯人は姿を現さない。
じゃあつまらないかと言えばそんなことはなく、
仲澤と真由の探索行は東京だけでなく四国や東北などを巡り、
彼の開陳する呪術関係の蘊蓄もあって読者の興味をつないでいく。

特筆すべきは真由のキャラクターだろう。
とにかく元気で、鼻っ柱が強くて自分を曲げない。
行動力も抜群で、ダブルスコアなくらい年が離れた仲澤も、
彼女に振り回されっぱなしである。
でも、時として淋しげな風情も漂わせたりして・・・ややツンデレ?
魅力的な彼女のおかげで、途中で投げ出さずに最後まで読めたよ。

わずかな手がかりから、細い糸をたぐるように進む二人の前に、
次第に姿を現してくるのは、若き日の健一郎が起こした "過ち" と、
それによって "復讐" に生きざるを得なくなった者たちの姿。
ラストはこの犯人との対決がサスペンスたっぷりに描かれる。


最初に書いたように、普通のミステリではないけれど、
読み物としては充分に面白い作品になっていると思う。
これもまた懐の広い乱歩賞ならでは、ってところだろう。

仲澤と真由のコンビが気に入ったので(特に真由ちゃんのほうね)
またこの二人が出てくる作品が読みたいなあ。
巻末の解説を読む限り、このコンビは本作にしか出てないみたいだから。


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