SSブログ

イーハトーブ探偵 賢治の推理手帳I ながれたりげにながれたり [読書・ミステリ]

イーハトーブ探偵 ながれたりげにながれたり: 賢治の推理手帳I (光文社文庫)

イーハトーブ探偵 ながれたりげにながれたり: 賢治の推理手帳I (光文社文庫)

  • 作者: 鏑木 蓮
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/05/13
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

歴史上の人物を探偵役に仕立てた作品って
たぶん枚挙にいとまがないんだろうけど、
本書ではあの "宮澤賢治" が登場し、
幻想的な謎や不可能殺人の数々に快刀乱麻の大活躍を見せてくれる。

宮澤賢治は大正10年(1921年)11月、
稗貫農学校(現・花巻農業高等学校)の教師となった。
賢治の親友で、ワトソン役を務める藤原嘉藤治は
同じ市内の花巻高等女学校に勤務する音楽教師。

賢治(ケンジ)と嘉藤治(カトジ)のコンビが
"イーハトーブ" こと岩手の地で起こる、
不思議な事件を解決していく連作短編集である。

本書では、大正11年に起こった4つの事件が収められている。
ちなみにこの年、宮澤賢治は26歳のはずである。

「ながれたりげにながれたり」(大正11年1月)
 カトジの教え子・真智子の父親が、
 夜中に "電信柱が歩く" のを目撃したという。
 そして真智子自身も、温泉宿の下の川を流れる
 "河童" らしきものを見たと主張する。
 ケンジとカトジは温泉宿へ向かい、調査を開始する。

「マコトノ草ノ種マケリ」(同年5月)
 結核で早世した息子のために、西木家は追悼会を開く。
 ケンジとカトジも招かれて参加するが
 追悼会終了後、地震と小火が続けざまに起こり、
 その騒ぎの最中に別室で泥酔していた医師が首を切断される。
 ケンジの調べにより、外部からの侵入は不可能と判明するが・・・

「かれ草の雪とけたれば」(同年8月)
 カトジの知人の女性、柴田文から届いた手紙に導かれ、
 岩谷堂町へ向かった二人が出くわしたのは、
 町役場で起こった不可思議な殺人事件だった。
 江刺の税務官吏・平山が役場の最上階で殺され、
 その階へ出入りした者は文の兄・孝治しかいなかった。
 孝治にかけられた容疑を晴らすべく、ケンジは事件を調べ始める。

「馬が一疋」(同年11月)
 盛岡で毒蛾が大発生した頃。
 坂巻吉佐は「絹雲母」という名の素晴らしい馬を育て上げたが、
 陸軍の軍馬補充部へ売り込みに行く前に、その馬が謎の死を遂げる。
 水車小屋の前につないでおいた絹雲母が、
 わずかな時間で白骨化してしまったのだ。
 突如発生した蛾の大軍に喰い尽くされてしまったのか・・・?


それぞれの作中には賢治の詩が挿入されている。
起こった事件が賢治の創作に影響を与えた、という趣向なのだろう。

各作品に共通するのは、かなり大がかりなトリックが使われていること。
現代作品で使うとちょっと無理がありそうな気もするが、
"大正という時代" と、"宮澤賢治のいる東北" という舞台のおかげか、
さほど違和感なく受け入れられる。
逆に言うと、この手のトリックを使ったミステリ作品は
最近ではかなり少ないんじゃないかな。
そういう意味では希少価値があるし、ちょっと懐かしい気も。

 とは言っても、さすがに「かれ草の-」のトリックは
 「そんなにうまくいくかなぁ?」とは思ったが・・・
 まあ、細かいところに突っ込むのは野暮というものだろう。

あともう一つ挙げておくなら、"大正時代の東北" の厳しさだ。
各事件の根底には、農民たちの困窮した生活が潜んでいる。
そういう意味でも、"この時代でこそ成立するミステリ" なのだろう。

そして、罪を犯した者たちへケンジが向ける視線もまた優しい。


上にも書いたが、本書は大正11年を扱っている。
賢治は37歳の若さで早世してしまうのだが、
作中時間ではまだ10年以上先のことだ。

タイトルに「賢治の推理手帳I」とあるので、
"ケンジとカトジ" は、まだまだたくさんの事件と遭遇するのだろう。
いつか出るであろう「II」や「III」を楽しみに待ちたい。


nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ: