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本棚を作りました [日々の生活と雑感]

私の家の2階の廊下に、大量の本が山積みになっていた。
「もう読まないんでしょ。いい加減にもう捨てようよ」
という意見に対し、
「愛着があるので捨てたくない!」と駄々をこねる家人が約1名。
(ちなみにそれは私ではありません。)

かなり前にホームセンターで購入した本棚キットが、
ずーっと放置してあったので、それを利用することになった。
実のところは、私が作るのを億劫がって後回しにしていただけなんだが。

というわけで本日の昼頃、小一時間ほどかけて作業し、無事に完成。
幅60cm×高さ180cmなので、かなりのっぽさん。

IMG_20140831_12403654a.jpg
頑張って作ったんだが、この本棚に入るのは私の本ではないんだよなあ。

写っていないけど、この写真の右には本の山が・・・
「写真を撮りたい」って言ったら
かみさんが一生懸命どけてくれた。感謝。

私の本は1階に山積みになってる(←なんて家だ)。
こちらも近日中には整理しないとなあ・・・


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烏に単は似合わない [読書・ファンタジー]

烏に単は似合わない (文春文庫)

烏に単は似合わない (文春文庫)

  • 作者: 阿部 智里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/06/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★★☆

第19回松本清張賞受賞作である。
"才幹あふれる若者" ってのはいるんだねぇ。
本書の作者は、なんと20歳でこの小説を書いたという。
まさに「栴檀は双葉より芳し」ということだろう。

さて、「松本清張賞」って、名前だけは知ってたんだが
社会派ミステリか歴史小説に与えられる賞だと思ってた。

wikiによると
『当初は「広義の推理小説又は、歴史・時代小説」を
 対象にしていたが、第11回(2004年)以降は
 「ジャンルを問わぬ良質の長篇エンターテインメント小説」
 を対象としている。』
とのこと。

本書はまさしく "良質の長篇エンターテインメント小説" である。
それも "ジャンルを問わぬ" どころではない。
"既成のジャンルに収まらない" 傑作だと思う。

「2014年 私が読んだ本」のおそらくTOP3に入るだろう。

 ちなみに、この「烏に単は似合わない」というタイトル、
 私は上手く読めなかったことを告白しておこう。
 「とりにたんは・・・え?」
 よく見るとちゃんとルビが振ってある。
 「からすにひとえはにあわない」と読むんだね。
 "単" が読めないのも情けなかったが
 "烏" と "鳥" の区別がつかないなんてねえ・・・
 老眼鏡を作り直さなければなるまい。

閑話休題。余計な話はここまでにして本題に入ろう。


平安時代の朝廷がモデルかと思われる異世界を舞台とする
ファンタジー小説、とまずは書いておく。

本書は、あまり予備知識を持たない方が楽しく読めると思うので
読んでみたいという人は、ここで止めて書店へ行きましょう。


では内容の紹介を。

この世界を治めるのは "八咫烏" (やたがらす)の末裔。
今上陛下は "金烏代" と呼ばれていて、
それを支えるのは東・南・西・北の大貴族四家。

皇太子である若宮の后選びが始まり、
四つの家からそれぞれ后候補の姫が
"桜花宮" へと集められることになった。

文字通りの箱入り娘で、天然ボケ気味の東家の "二の姫" 。
彼女の運命はある日を境に一変する。
病を得て后候補から外れてしまった "一の姫" に代わって
急遽、桜花宮へ入ることになったのだ。

彼女がそこで出会ったのは、
自らの家の隆盛を背負い、次期皇后の座を巡って
激しく火花を散らす大貴族の姫君たちだった。

男勝りで豪快、おまけにナイスバディな南家の姫・浜木綿。
典型的な女王様キャラの西家の姫・真赭の薄(まそほのすすき)。
クールビューティな北家の姫・白珠(しらたま)。
それに加えて彼女らに使える女房(高級女官)たち。

もともと后候補ではなかったはずの東家の二の姫は、
"あせび" という仮名(かりな・通称のこと)を与えられ、
否応なく "お后レース" の中に放り込まれてしまう・・・


とにかく登場する女性たちの "キャラ立ち" が見事だ。
序盤から中盤にかけて、陰に陽に
一癖も二癖もある登場人物たちが繰り広げる
"女の戦い" が描かれる。

文章のところどころに、若い女性らしい表現が見られる。
ライトノベル的な、って言ってもいい表現なので
気にする人もいるかも知れない。
でも、登場するキャラの特徴を表わすには効果的だと思うので
私的にはOKだったよ。

それよりも、わずか20歳にして
"女の情念" をここまで描けることが驚異的である。

これだけでも、充分に骨太な和風ファンタジーなのだけれども、
この作品の本領は後半にある。


ここから先は、ネタバレではない・・・とは思うんだが、
上述したように、なるべく予備知識を持たない方が
本書は楽しめると思うので、これから読もうという人は
以下の文章には目を通さないことを推奨する。


中盤で、女官の一人が崖から転落死を遂げる。
なんとここから、物語はサスペンスフルな
本格ミステリへと変貌していくのだ。

終盤近い「第五章 再びの春」では、
それまでほとんど姿を見せなかった若宮が登場し、
ファンタジー世界の絢爛豪華な宮廷が
本格ミステリの "謎解きシーン" へと変転してしまう。
物語中のさまざまなエピソードの裏に
意外な事実が秘められていたことが明かされ、
姫たちの "真実の顔" が露わになっていく。

しかもこの "真相" がまた凄まじい。
私もミステリは数だけは読んでいるので、
そうそう驚くことは少ないんだが、本書の真相には心底たまげた。
ページを繰りながら心の中で「えーっ!?」って叫んでたよ。

 解決に必要な手がかりがすべて読者に開示されていたか、
 っていうと正直「?」と思わなくもないし、
 そこを批判する人もいるかと思う。
 でも、この怒濤のストーリー展開の前では、
 そんなことはいつしか気にならなくなってしまったよ。

しかも、すべての謎が明らかになっても、
作品のもつ "ファンタジー性" は全く損なわれていない。
物語はきちんとこの作品世界の中へ、綺麗に着地してみせるのだ。

極上のファンタジーであると同時に、極上の本格ミステリであり、
そして最後の1ページに至って、
極上のラブ・ストーリーでもあったことに気づかされる。

いやはや、末恐ろしい20歳がいたものである。

既に、本書と同じ世界を舞台にした2作目が刊行されていると聞く。
将来がとても楽しみな作家さんの登場だ。


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夜の床屋 [読書・ミステリ]

夜の床屋 (創元推理文庫)

夜の床屋 (創元推理文庫)

  • 作者: 沢村 浩輔
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/06/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★

東京創元社主催の第4回ミステリーズ!新人賞受賞作を含む
連作ミステリ短編集。

「夜の床屋」
 慣れない山道に迷い、たまたま出くわした無人駅で
 一夜を過ごす羽目になった大学生の佐倉と高瀬。
 しかしその深夜、駅前にある理髪店に明かりが灯り、
 営業を始めていることに二人は気づく。
 好奇心に駆られて店に入る二人だが・・・
 この発端から、あの意外な結末が導かれるとは、
 まず想像すらできないだろう。
 表題作にして新人賞受賞作なのもうなずける。

「空飛ぶ絨毯」
 故郷へ里帰りした佐倉は、かつての同級生の集まった席で、
 幼なじみの八木美紀の家に泥棒が入ったことを知る。
 それも、貴金属や現金は一切手をつけず、
 ベッドの下に敷いてあった絨毯だけが盗まれていたという。
 やがてアルコールもほどよく回った頃、美紀はさらに
 小学校の頃、霧の深い夜に出会った少年のことを語り出す・・・
 発端の魅力的な謎、中盤の幻想風味、そしてそれらが結びつき、
 結末では見事な論理展開をみせ、意表を突く結末が明かされる。
 ミステリとしては本書中最高の出来だろう。

「ドッペルゲンガーを探しにいこう」
 佐倉の前に小学生の水野くんが現れ、
 「一緒にドッペルゲンガーを探して下さい」と頼まれる。
 突然の申し入れに驚く佐倉だが、
 水野くんのクラスメイトの中島くんが出会ったという
 中島くん自身のドッペルゲンガーを探しに、
 水野くんの仲間たちとともに町外れの廃工場へ向かう。
 最後に明らかにされる子供たちの目的は充分意外なもので
 ミステリの解決としてはアリかも知れないが
 実際問題としては、そんな面倒くさいことをするかなあ・・・
 童心を失ってしまった私にはついていけないようです。


以下の「葡萄荘のミラージュI」~「『眠り姫』を売る男」までは、
内容的には連続していて実質的に1個の中編を形成している。


「葡萄荘のミラージュI」
 佐倉の友人・峰原の実家が所有する古い別荘・<葡萄荘>。
 明治時代に建てた峰原の高祖父(祖父の祖父のこと)が、
 別荘の中に "ある財宝" を隠したという。
 しかし、佐倉と高瀬が葡萄荘へ到着したとき、
 峰原はいずこかへ失踪していた・・・

「葡萄荘のミラージュII」
 失踪した峰原から来た手紙の指示に従い、
 海洋生物学者にして作家のパーカー博士に会う佐倉。
 これ自体はミステリではなく、
 上述の「I」と下記の「『眠り姫』」をつなぐ幕間の話。

「『眠り姫』を売る男」
 パットとダンが服役している監獄に、
 新しい囚人・クインがやってきた。
 入所早々、クインは冷血な看守長・ジャックに逆らったため、
 繰り返し虐待を受けるようになる。
 しかしある夜、密室状態の裏庭でジャックは殺害される。
 今際の際に「・・・女がいた」と言い残して。

葡萄荘の "財宝" の隠し場所を突き止めるまでは
正統的なミステリなんだが、
"財宝の正体" あたりからやや物語の色合いが変わってくる。
『眠り姫』における犯人の正体に至ってはもう○○○○○○だ。
そしてこの結論を受け入れることにより、
「エピローグ」では本書の冒頭にまで遡って
物語の再解釈が行われる。

ラストで明かされた事実により、物語の様相が根底から変わってしまう。
はっきり言って「もぉビックリ!」なんだけど
ただ、これをどう評価するかは人それぞれじゃないかなあ・・・

 つい最近、これに近い構造の話を読んだような気もするんだが・・・

私は「評価しない」ほうに一票入れる。


「-床屋」「-絨毯」「ドッペルゲンガー-」の3作が、
論理的にきっちりしたミステリになっていて、
私は非常に気に入っていたのでねぇ。

誤解を招かないように書いておくが
私は「『眠り姫』」のような話も嫌いではない。
独立した話として収録されていたら、それなりに評価していたと思う。

でも、本書のような "使い方" をしたら、
前半の "良くできたミステリ" 3編の余韻を損なってしまうんじゃないか?

心が狭いのかも知れないけど、実際、私はそう感じたんだ。


そんなわけで、本書の評価は
前半の「-床屋」「-絨毯」「ドッペルゲンガー-」で★★★★、
後半の「葡萄荘I」「II」「『眠り姫』」「エピローグ」で★★

というわけで、平均して★★★となりました。


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キュート&ニート [読書・ミステリ]

キュート&ニート (文春文庫)

キュート&ニート (文春文庫)

  • 作者: 黒田 研二
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/07/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

高校時代の "ある出来事" をきっかけに、
"ひきこもり" になってしまった鋭一。

以来10年。28歳になってしまった鋭一の生活は、
バツイチの姉・真矢のニューヨーク出張によって激変する。
真矢の出張中、幼稚園児の姪・リサの面倒をみることになったのだ。

鋭一は日当をもらうことを条件に引き受け、
乗るのは中学の修学旅行以来という新幹線で、
リサの待つ名古屋へやってきた。
しかし、到着早々に迷子になり、姉のマンションが見つからない。
仕方なくリサの通う幼稚園を目指すのだが・・・


主人公の鋭一は、言ってみれば無気力で他者との接触が極端に苦手。
放っておけば一日中アニメのDVDを見てるような、
世間一般から見れば "立派な" ダメ人間である。
とめどなく広がる妄想癖だけは人一倍たくましい。

対するリサは、5歳児とは思えないほどのしっかり者で
簡単な料理なら作るし家事もけっこうこなすスーパー幼稚園児だ。
実は本書で探偵役を務めるのも彼女だったりする。

 帯の惹句には「姪(めい)探偵登場!」とある。
 上手だねえ。座布団一枚。

全6話からなる連作短編集で、いちおう
リサと鋭一が出くわす "日常の謎" 系ミステリ、である。
"いちおう" って書いたのは、本書で扱われる謎は
あまり謎っぽくない場合が多いから。
たいてい、二人が出くわした "ちょっと不可解" な出来事に対して
鋭一が一方的に妄想を暴走させ、騒ぎを大きくしていってしまう。

ミステリと言うよりは、鋭一の妄想が引き起こす
ドタバタ・コメディと言った方が実態に近いだろう。

しかし本書のメインはミステリではない。
リサを始めとする幼稚園児たちや、近所の人々、
園児たちの母親たち、幼稚園の先生など、リサの世話をするなら
否応なく顔を合わせなければならない人々がいる。
ひきこもりにとって一番苦手であろう、
"新たな人間関係の構築" を鋭一は迫られるのだ。

今までなら、そういう煩わしいものからひたすら逃避してきたが、
リサのために、鋭一は毎度毎度脂汗を流しながらも
必死に立ち向かって行かざるを得なくなってしまうわけだ。

そしていつの間にか、内に向かって縮こまっていた心が、
少しずつ外へ向かって開き始めていく。
そんな、鋭一の人間的成長が本書の読みどころだろう。

鋭一の密かなあこがれは、リサの幼稚園に勤務するサチ先生。
萌えアニメ<電撃ナイト★ミスティ>のヒロインにそっくりな
サチ先生に一目惚れしてしまった鋭一の煩悶ぶりもまた笑いを誘う。


鋭一の見事なコメディアンぶりに
ニヤニヤしたりクスクスしたりしながら、やがて迎える最終話。
物語は突如シリアスパートに突入する。

"ある事実" を知らされ、動転する鋭一だが、
真矢やリサも含めて、彼らの未来に
希望が感じられる感動的なエンディングを迎える。
この結末に涙腺が緩む人も多いと思う(私がそうだった)。


「カンニング少女」の時も書いたと思うんだが
また同じことを書きたい。

長編が無理なら短編でもいい。
彼らの数年後の話が読みたい。

真矢はどんな生活をしてるのか?
リサはどんな少女になってるのか?
そして、鋭一は見事 "引きこもり" を卒業しているか?
そしてそして、サチ先生とはどうなったのか?

黒田先生、お願いしますよ。


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憂国のアカツキ [読書・その他]

憂国のアカツキ (双葉文庫)

憂国のアカツキ (双葉文庫)

  • 作者: 大原 省吾
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2014/07/09
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

前にもこのブログのどこかに書いたと思うんだが、
私は潜水艦ものが好きだ。
小学校の頃に「サブマリン707」や「青の6号」の
洗礼を受けた身だからねぇ。
中学校の頃にTVで見た映画「眼下の敵」にもシビれたし。
「雷撃深度十九・五」も面白かったし、
「終戦のローレライ」なんて好きな小説の五本指に入る。

ただ、潜水艦もの自体、あまり作品数が多くないんだよね。
本作でも潜水艦が活躍するのだが、残念ながらメインは陸戦である。


1944年夏。
日本軍は、中国大陸での戦争継続の資金として、
ニューギニアのリヒル島で発見された金鉱山から、
金塊10tを本土へ輸送する作戦を立てる。

 ちなみに、今日(8/26)の金相場で計算すると466億円相当だ。

しかし敗色濃い海軍にとって、輸送に回せる潜水艦はない。
そこで白羽の矢が立ったのは、
驚異的な性能を持つ試作潜水艦・伊211だった。

同じ頃、アメリカ軍もまた南方諸島に金鉱があるとの情報を得て、
頻繁に偵察機を飛ばしており、リヒル島の鉱山が発見されるのも
時間の問題となっていた。

そこで日本軍は、リヒル島近傍のマレンドック島に金鉱がある、
との偽情報を流し、同時にマレンドック島守備隊に
"囮" となって、アメリカ軍を相手に
リヒル島からの金塊搬出を完了するまでの2週間、
島を死守せよとの "玉砕必至" の命令を下す。

マレンドック島守備隊長・藤田中佐は過酷な命令を受け入れるが、
副官の庄野少佐は、アメリカ軍に対する抗戦策 "夕作戦" とともに、
守備隊玉砕後に発動する "日本の未来のため" の
"暁作戦" なる秘策を立案する・・・

守備隊に与えられた過酷な命令に憤りの気持ちを抑えられない
ラバウルの陸軍第8方面軍参謀・山之内大佐は、
守備隊の求めに応じて武器弾薬をかき集め、
マレンドック島へ送ることにする。

その任務を与えられたのは、学徒動員された陸軍少尉・篠原。
育ちの良さから「坊ちゃん少尉」と揶揄されながらも、
当時としては珍しい柔軟な思考の持ち主で、この物語の主人公だ。

武器弾薬を満載した輸送船でマレンドック島へ赴くが、
到着早々に輸送船が故障したために島に取り残され、
なし崩し的に守備隊へ組み込まれてしまう。

そして9月10日。キンケード大佐率いる
アメリカ陸軍・第150歩兵連隊5000名が
ついにマレンドック島への上陸を開始する。
対する日本軍守備隊はわずか1000名。
圧倒的な劣勢の下、14日間にわたる死闘の幕が切って落とされる。


上の方に「メインは陸戦」て書いたが、本書においては
マレンドック島の戦闘が7割、伊211の航海が3割くらいの比率だ。

太平洋戦争末期の南方の戦いって悲惨なイメージしかないんだけど
それだけではエンターテインメントにならないので、
作者は様々な工夫をしている。

マレンドック島守備隊は、陸軍の "はみ出し者集団" という設定だ。
隊長の藤田中佐からして、大陸の戦闘において理不尽な命令に逆らい、
南方へ左遷されたという経歴を持つ。
他の上級士官たちも、能力は一級品なのに
「軍」という組織からはじき出された者が多く、
様々な経緯で藤田中佐のもとへ集まってきている。
そんな彼らの、まさに "一世一代" の大活躍が描かれる。

序盤の戦いでは、日本軍の打つ手がことごとく決まっていく。
「こんなにうまくいくわけないよなあ」なんて、
ちょっと醒めてる自分もいたりするんだけど、
読んでいて楽しくないと言えば嘘になるし、
そんな不満を口にするのは野暮というもの。
ここでは守備隊の必死の反撃を素直に応援するのが正しい読み方だろう。

まあ、アメリカ軍のキンケード大佐が
典型的な "ダメ指揮官" に設定されているのも大きいんだが。

戦いを通じて、軍人として士官として成長していく篠原少尉、
専門である砲術以外には全く興味を示さない如月中尉、
誠実にして実直な指揮官の藤田中佐と、守備隊の士官たちも
なかなか個性的なキャラが揃っているが、その中でも
"暁作戦" 考案者の守備隊副官・庄野少佐が光ってる。
日英混血という出自といい、作戦を立案する頭のキレといい、
アメリカ軍を手玉にとる○○力といい、とにかく有能すぎる。

しかし、どんなに序盤で優勢であろうと
圧倒的な物量差は如何ともしがたく、
後半になると守備隊の弾薬も乏しくなり、敵の指揮官も
有能な副官であるシンクレア中佐にバトンタッチするので
次第に旗色が悪くなっていく。

予め勝ち目のない戦いであることは分かってはいるものの、
感情移入した登場人物たちが次々に命を落としていくシーンは胸が痛む。
これは戦争を扱う作品では避けて通れないところだろうけど。

マレンドック島陥落と同時に発動する、
守備隊1000人の願いが込められた "暁作戦" については、
内容に触れること自体がネタバレになるのでここでは書かない。
もし本書に興味を持った方がいたら、ぜひ読んでいただきたい。

運び出された金塊10tの扱いはどうするのだろうと思ったのだが、
最終的な着地点は充分納得のいくもので、
物語に深みを与えていると思う。


太平洋戦争ものをエンターテインメントにするのは難しいと思う。
全滅させたら悲惨すぎて読むのがつらいし、
生き残りが多すぎるとリアリティが損なわれて絵空事に見えそうだし。

本書の評価も人によって様々だとは思うんだけど
私はエンターテインメント性とリアリティのバランスが
うまくとれた素晴らしい作品だと思う。

作者は本作がデビュー作らしいけれども、新人らしからぬ完成度だ。
いつかは、潜水艦が主役の作品を書いていただきたいものだ。


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一角獣の繭 建築探偵桜井京介の事件簿 [読書・ミステリ]

一角獣の繭 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社文庫)

一角獣の繭 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社文庫)

  • 作者: 篠田 真由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/08/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★

全15巻にわたる建築探偵シリーズ、その第13巻。


前作「聖女の塔」事件の後、京介によって半ば強制的に
リゾート地・鏡平へ放り込まれた蒼。
静養が名目ではあるものの、京介の目的は
"宿敵"・松浦から蒼を守ることだった。
同行するのは風来坊の栗山深春と元霊感美少女の輪王寺綾乃。

人里から隔離され、ごく限られたメンバーだけが利用できる
会員制の別荘地・鏡平の森の中で、蒼は一人の少女と出会う。

彼女の名は七座晶那(ななくら・あきな)。
2年前に起こった事件で祖母と叔母が焼死し、
父は右目をイッカクの牙で貫かれた変死体で発見された。
残った母・夏那は事件との関わりを疑われ、遺産の相続も滞っている。

 ちなみに "イッカク" とは、長い牙を持つ小型のクジラである。

心に深い傷と闇を抱えた晶那に、次第に惹かれていく蒼。

2年前の放火殺人事件が発端ではあるが、
ストーリーはむしろ蒼の "初恋物語" の様相を呈していく。

他者、それも特に男性を頑なに拒否する晶那に対して、
粘り強く、かといって押しつけるわけでもなく
そっと寄り添いつつ、彼女の心を癒やしていく
蒼くんがまあ優しいこと。

 そのように振る舞えるのは、蒼自身もまた
 彼女に似た生い立ちを抱えていることもあるんだけども。

今回、京介は "下界" に留まってほとんど登場しない。
そのせいもあって、今回はこの二人が実質的な主役。
蒼の献身的な "愛情" の甲斐あって、
少しずつ心を開いていく晶那が健気だなあ。
ここまで読んできた読者は、20歳と16歳という若いカップルに
どっぷりと感情移入してしまうだろう

しかし、二人を待ち受ける運命は過酷だ。
中盤もかなり過ぎたところで夏那が変死し、
ここからストーリーは急展開を迎える。

そして、この物語が
あくまで「桜井京介」を中心に回っていることを思い出すことになる。

 このへん、ネタバレしないように書くのが難しいんだなあ・・・


以前にも書いたと思うが、残り5冊を切ったあたりから、
いわゆる普通の本格ミステリからの逸脱の度を増してきた。

前作の時は "明智小五郎&小林少年" みたいだとか
書いたような気がするんだけど、
今回は " vs 怪人二十面相" まで入ってきたねぇ。

 もっとも、本家の二十面相は人を殺さないのが信条なんだが、
 こちらの方は人の命を何とも思っていない。
 そういう意味では「伊集院大介 vs シリウス」に例えた方が
 よりふさわしいのかも知れないが。
 

今回の事件で使われた、"あるもの" は、
通常の本格ミステリのトリックとして使われたら、
たぶんあちこちから非難されるような気もするんだが、
この物語は上記のように "明智小五郎 vs 怪人二十面相" である。
そのせいか、さほど不自然さを感じさせない。

逆に言えば、本格ミステリの "型" を外れたことによって
使えるトリックの "自由度" が増した、とも言えるのかも知れない。


最終巻が近づいてきて、
登場人物たちの運命も大きく変わってきそうだ。

深春や綾乃も気になるが、何と言っても京介自身の問題がある。
"桜井京介" とは、そもそも何者なのか?
今作のラストには、かなり驚かされたし、
否が応でも、あと2巻の内容が気になる。
うーん、見事な "引き" だね。


最後にちょっとネタバレ気味なことを書くのでご注意を。

蒼と晶那のその後も気になるなあ。
"初恋は実らぬもの" とはいうけれど、
あのまま終わってしまったら可哀想すぎる。
晶那の未来は平穏で幸福なものであってほしいと思うし、
蒼とも、人生のどこかで再会があればいいなと思う。
もう少し大人になった二人なら、
また違う展開を迎えることもできるかもしれない。

架空のキャラクターなのに、
彼らの将来がこんなに気になってしまうなんてねぇ。
作者はホントに上手いなあと思うよ。


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ストーンエイジCITY アダム再誕 [読書・SF]

ストーンエイジCITY: アダム再誕 (光文社文庫)

ストーンエイジCITY: アダム再誕 (光文社文庫)

  • 作者: 藤崎 慎吾
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/10/08
  • メディア: 文庫



評価:★★★

「-COP」「-KIDS」と続いてきた近未来バイオSFの第三巻、
現代人離れした超常の身体能力を持つ、
元コンビニCOPの滝田が活躍する、三部作の完結編である。

巨大なみずほ中央公園内で独自のコミュニティを形成している
ストリート・チルドレン集団<山賊>。

前作のラスト、滝田と<山賊>は、彼らを根絶やしにしようとする
巨大バイオ企業・ESテックの繰り出した掃討部隊を退けたものの、
滝田は敵の手に落ちてしまった。

それから4年。
ESテック傘下のコンビニチェーン・4Uが販売するPB商品、
ミネラルウォーター「ファウナ」の愛飲者が謎の変死を遂げる。
「ファウナ」の謎を追う刑事・米城は、
ESテックの巡らせた新たな陰謀にぶちあたる。
ホルモンの空中散布による人間の心理操作、
ウイルスを用いた人体への遺伝子導入・・・

米城たちは、ESテックからの内部告発者を得るも、
彼らに接触した者はことごとく消されていってしまう。

ESテックは熱海沖に浮かぶリゾート・初島を島ごと買収し、
そこに本社機能を集中させ、地下には巨大な研究施設を建造していた。
その施設の奥深くに潜み、ESテックを影で支配するのは
"アダム" と呼ばれる謎の人物だった。


滝田と、"アダム" 。
高度に発達した遺伝子操作テクノロジーによって生み出された、
二人の "超人" が、人類の未来を賭けて雌雄を決する、という
通常なら、いやが上にも盛り上がる話のはずなんだが、
ストーリーは言ってみればゆるやかに、悪く言えば坦々と進む。

米城たちによるESテックの告発も、滝田の初島からの脱出も
(まあアダムがあえて見逃した、ってところもあるんだが)
施設への強制捜査の根回しも、なんだかすいすいと進んでしまう。

普通に考えたら、初島の研究施設を巡る攻防が
クライマックスになりそうなんだが、
総ページ数が文庫で650ページほどもある中で、
ラストのアクションシーンが数十ページしかないのは
ちょっと、どころかかなり淋しい。

 福井晴敏あたりが書いたら、自衛隊の特殊部隊が突入して
 爆発・炎上シーンが200ページくらい延々と続くんだろうけど。

アダムが最終決戦(?)の場に選んだのもちょっと意外な場所で、
まあ、ストーリー上意味がないわけではないんだけど
かな~り地味なところで滝田とアダムは最後の戦いに臨むことになる。

まあ、第一巻「-COP」のクライマックスみたいに、
ド派手に描くこともデキたんだろうけど、
ここは敢えてSF的なテーマであるところの
「種としての人類の未来」とか「遺伝子操作の極限」とか
「創世神話の再生」とかを前面に出したかったのかな、とも思う。
(もちろん私の解釈が大間違いな可能性も多分にあるが)

滝田とアダムにしても、個人的な感情よりも
遺伝子の持つ "ベクトル" の違いから
「目指す未来」が必然的に異なってしまう、
みたいなところが対立の出発点だったりするし。

全般的にキャラの扱いがあっさり気味なのも気になった。
たとえば米城も、ラストでの扱いがいまひとつ不満だし
滝田の "その後" についても同様。
(本人はあれで幸せなのかも知れないけどねぇ。)


「-COP」→「-KIDS」→「-CITY」へと進むにつれ、
アクション度は減少する代わりにSF度は増していく、
(ページ数も100ページずつ増えていくんだが・・・)
そんなつくりになっているように思う。

これをどう評価するかは人によって異なるだろうけど
私はやっぱり「-COP」がいちばん面白かったなあ。
だから続巻にもそれを期待したんだけど、
私の好みと作者の目論見とはかなりずれていたみたいだ。


思い起こせば、この作者の長編「ハイドゥナン」('05)も、
文庫で全4巻という大作で、最初は面白かったんだけど、
後半になるほど私の好みからは外れていったよなあ。

ということは、私の好みは
10年前と
変わってなかったってことか?


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モーレツ終戦工作 ミニスカ宇宙海賊12 [読書・SF]

ミニスカ宇宙海賊12 モーレツ終戦工作 (朝日ノベルズ)

ミニスカ宇宙海賊12 モーレツ終戦工作 (朝日ノベルズ)

  • 作者: 笹本祐一
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2014/08/20
  • メディア: 新書



評価:★★★☆

女子高生宇宙海賊・加藤茉莉香の活躍を描くスペース・オペラ第12作。
ASAHI NOVELSから来たメールマガジンの情報によると、
今作で "第一期・完" とのこと。
あくまで "完結" ではないらしいのだが、
次回作までは間が空きそうではある。

最後の戦いにふさわしく(←いや、終わりじゃないんだって)、
茉莉香たちの最大級の活躍が描かれる。

前々巻で120年前の世界へタイムスリップし、
独立戦争の末期へと飛び出した弁天丸とオデットII世。

史実では、植民星軍と宗主星軍の最終決戦の直前に
銀河帝国艦隊の介入によって戦争は終結するはずであった。

しかし、茉莉香たちのいる世界では、帝国軍には全く介入の気配がない。
銀河帝国にとっては、辺境星区の未接触文明(茉莉香たちの属する星系)が
勝手にやってる内戦に関わっても得することは何もないわけだからね。

しかしこのままでは独立戦争が終わらず、多くの被害が発生してしまう。
しかも、歴史が変わってしまうということは、
茉莉香たちが本来の未来へ帰れなくなることを意味する。

かくして、最終決戦を1週間後に控え、茉莉香たちは
なんとしても銀河帝国の大艦隊(少なくとも1000隻単位)を
決戦宙域まで引っ張り出さなければならない。
そのために茉莉香がとった方法とは・・・

P.112の茉莉香の台詞は、本シリーズ中最高にカッコよく、
まさに掉尾を飾るにふさわしい(←だから終わりじゃないんだってば)。

本書の後半は、海賊船と非武装の光子帆船、わずか2隻の戦力で、
銀河帝国と互角に渡り合う茉莉香たちが描かれる。
120年の技術的アドバンテージがあるとは言え、
圧倒的戦力差がある相手に一歩も引かず、堂々の戦いっぷりを見せる。

茉莉香は度胸もあるし頭も回るし人望もある。
将来は "伝説の大海賊" になれるね。


毎回思うんだけど、作者の描写の上手さは半端ではない。

宇宙船が飛び交う戦闘シーンも、ドンパチだけじゃない。
レーザービームならぬ情報をぶつけ合う電子戦も
緻密なディテールで描き出し、読み応え充分。
腹に一物も二物も抱えた権謀術数シーンも、これまた達者に描きだす。

作者は私とあまり変わらない年齢のはずなのに、
描かれる女子高生がみな可愛い。
しかもこれがまた賢い子ばっかりなんだよなあ。
このシリーズ、オツムの弱い女性が出てこないのも魅力の一つだと思う。

巻末の「あとがき」に、『妖精作戦』でデビューしてから30年、
ってあったけど、もうそんなに経つんだね。
30年選手のベテランの妙技が堪能できるシリーズだ。


この作品、TVアニメ化されてる(2クールで26本)し、
映画化もされてる(今年の2月に公開されたんだったかな)。
実はどちらもまだ見てなくて、どうしようかなあって思ってたんだが、
ちょっと見てみようかなあ・・・って思い始めてる。
だって、これからしばらく茉莉香たちに逢えないかも知れないからねぇ。


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カラマーゾフの妹 [読書・ミステリ]

こんなに長く書くつもりは全く無かったんだけど
気がついたらけっこうな長さになってしまった。(←またかい)
ご用とお急ぎでない人はおいで下さい。
あ、基本的には褒めてます。大絶賛というわけではないですけど。
長いのはあちこち脱線してるから。


カラマーゾフの妹 (講談社文庫)

カラマーゾフの妹 (講談社文庫)

  • 作者: 高野 史緒
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/08/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★

『カラマーゾフの兄弟』といえば、世界的に有名な文学作品で
名前を知らない人のほうが少ないだろう。
ただ、あまりにも長大で内容も難解らしく、
実際に読み通した人はそんなに多くないらしい。
かくいう私も読んでない。読もうと思ったことさえ無い(^_^;)。

 何年か前に出た光文社の新訳文庫版はものすごく売れたらしいけど。

今回初めて知ったのだが、この『-兄弟』は「第一部」にあたり、
作者(ドストエフスキー)は、この13年後を描く
「第二部」の構想を持っていたらしい。
ただ作者本人の急逝によって幻となってしまったということだ。

本書はこの幻の「第二部」に作家・高野史緖が挑戦したもので
第58回江戸川乱歩賞受賞作でもある。

「続編」ではあるのだが、この作品を読むのに
『カラマーゾフの兄弟』を読んでおく必要は無い。
(もちろん、読んでいた方がより楽しめるのだろうけど。
 どうしても予備知識が欲しければ、wikiあたりで
 ざっと概要に目を通しておくくらいでも充分かと思う。)
『-兄弟』の内容は、本書の要所要所で説明されているし、
"過去に起こった未解決事件が、現在の新たな事件を引き起こす"
というパターンのミステリだと割り切って考えれば、
さほど違和感も感じずに読み進められる。

前置きが長くなってしまった。内容紹介に入ろう。

好色で成り上がりの地主フョードル・カラマーゾフが撲殺される。
犯人として逮捕されたのは長男ドミートリー。
彼は裁判で無実を訴えるも有罪判決を受け、シベリア送りとなる。
(ここまでが原典)

そして13年後。内務省の特別捜査官となった次男イワンは、
ある確信を持って故郷に戻ってきた。
目的は父親殺しの真犯人を突き止めること。

修道士から還俗して教師となった三男・アレクセイとその妻・リーザ、
神学生からゴシップ・ジャーナリストとなったラキーチン、
13年前の事件を担当した判事・ネリュードフなど、
事件にゆかりの人々を訪ね、あるいは出くわし、
過去の事件を探るイワンだったが、
彼と行動を共にする心理学者・トロヤノフスキーは、
イワン自身に "ある秘密" があることに気づく。

そしてその捜査のさなか、一人の男が撲殺され、
さらにアレクセイが失踪、やがて第二の殺人が起こる。


まず、作者は原典に忠実に書いているらしい。
長大な作品にありがちな、シーンによって食い違う描写も、
(例えばフョードルが殺された館の扉が、
 開いていたり閉まっていたり、とか)
間違いでは無く、作者が意図して書いている、と捉えている。
(実際、登場人物の行動をタイムテーブルに書き起こした人がいて、
 さらに他の作品の描写からも、ドストエフスキーさんは
 かなり緻密に考えて書く人だったらしい。)
そのことを踏まえて、"第一部" の内容をそのまま受け入れて
新たな構想を巡らせ、もう一つの "真相" を提示してみせる。

容疑者の数がさほど多くは無いので、
真犯人の意外性にはやや乏しいけれど、
犯行に至る背景やそのきっかけとなった出来事には、
かなり驚かされる。
ミステリとして、良くできていると思う。

そして、この作品で特筆すべきは、
ミステリの枠に収まらない要素が多く盛り込まれていることだろう。

中盤のある章ではサイコ・サスペンスになり、
さらに別の章ではモスクワの地下に巨大な "計算機械" が登場する。
その正体が階差機関(difference engine)となれば
もうスチームパンクSFだよねえ(作品の年代は19世紀末)。
時代は帝政ロシア末期で、共産主義者による皇帝暗殺テロが企てられたり。

 書店で本書を見かけたら、目次だけでも覗いてもらうと、
 いかに多様な要素を詰め込んだ作品かよく分かると思う。
 130年前に書かれた作品の続編なのだけど、
 21世紀でなければ書けなかった続編でもある。

このへんの描写は、いかにもSF&ファンタジーを
メインとする作家さんらしいなあ、とも思う。
ただ、"ミステリ" としては、余計なものを盛りすぎた感もあるかな。
まあ私はSFも好きなので、読んでて苦にはならなかったけど。

例えが悪いかも知れないけど "幕の内弁当" みたいな小説だと思った。
いろんな食材が入っていて、みなそれぞれいい味付けがしてある。
ただ食べ物の好き嫌いは誰にもあるからねえ。
とっちらかった印象を持つ人も多いかも知れないけど、
私はけっこう美味しく頂きましたよ。

乱歩賞って、キャッチフレーズに「乱歩賞初の○○!」ってのが好きで
○○に入るのは、いろいろな業界内幕ものだったり、
社会派的なテーマだったりと、どちらかというと
リアリティ重視な傾向があるような気がする。
私は虚構性の強い本格ミステリが好みなので、
乱歩賞受賞作って、私のストライクゾーンに入ることが少ない。

 もっとも、「ナイトダンサー」とか「Twelve Y.O.」とかの
 明らかにミステリ度が少ないけど
 スケールの大きなアクションが主体の作品は大好きなんだなあ。
 こういう作品も受賞するくらいだから間口は広い賞なんだね。

そんな中で、この作品はもともとフィクションである原典のさらに続編。
虚構性も極まっていて、従来の乱歩賞の枠から飛び出した作品だと思う。
高野さんには、今作みたいなぶっ飛んだミステリを
これからもたくさん書いて欲しいなあ。

最後に余計なことをふたつ。

ひとつめ。
私は記事を書くに当たって他人の評価は極力読まないようにしてる。
だけど、作品によっては、自分の記事を書き終わってから
amazonとかの書評を見ることがある。
私と同じような感想の人、180度真逆の意見の人、
まったく違う観点から見てる人とかあってなかなか面白い。
この作品に関しては、けっこう評価が割れてるようだ。
もちろん高評価の人もいるのだけど、低評価も意外と多い。
特に、原典に思い入れがある人には総じて評判が悪いみたい。
「あの○○が○○するなんてありえない」とか
「あの○○はそんな○○な人間じゃない」とか。
ドストエフスキー本人が書いたのならともかく、
130年も経って、しかも別人が書いてるんだからねえ・・・
原典を読んでない私にどうこう言う資格はないのかも知れないけど、
そんなに目を三角にしてこき下ろさなくてもいいんじゃないかなあ・・・
まあそれだけ多くの人に愛されてる作品ということなんだね。
さすがは世界的な名作、ということなのだろう。
裏を返せば、何をどう書いても、必ず原典を引き合いに出して
批判する人は出てくるわけで、そういう作品に
あえて挑戦した高野さんはスゴイなあとも思った。
ちょっと「ヤマト2199」を巡る騒ぎを思い出してしまったよ。

ふたつめ。
高野史緖さんって、95年に日本ファンタジーノベル大賞の
最終候補作に残ってデビューし、多作とは言えないけど
既に10冊ほどの作品を上梓しており、SFやファンタジーの分野では
それなりに知名度のある "立派な" 作家さんだ。
(とは言っても、彼女の長編を読んだのは今回が初めて。
 短編はいくつか読んだことがあるんだけどね。)
作家生活17年目を迎えた人がなぜ乱歩賞に応募したのか。
これは興味を持つところだろう。
高野さんのブログを見てみたら、2013年5月23日の記事
(というか、そこのコメント欄)にその答えがあった。
やっぱり従来の応募者とはかなり異なるものでしたね。
しかしマスコミって何にでも "ドラマ" を欲しがるんだねえ・・・

ここまで書いてきて読み返してみたら、
ものすごくまとまりのない文章でがっかり。
今日(8/23)、最低限の修正だけしました。
後は未定。たぶんもういじらないかな・・・


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ストーンエイジKIDS 2035年の山賊 [読書・SF]

ストーンエイジKIDS―2035年の山賊 (光文社文庫)

ストーンエイジKIDS―2035年の山賊 (光文社文庫)

  • 作者: 藤崎 慎吾
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2010/09/09
  • メディア: 文庫



評価:★★★

温暖化がすすみ、遺伝子技術が広く一般開放された近未来の日本。
常人離れした身体能力を持つ主人公・滝田が活躍するSFアクション第2弾。

前作「ストーンエイジCOP」から約1年。
リーダーのカイ(χ)、サブリーダー・クシー(ξ)を中心に、
(なぜか彼らは本名でなく、お互いをギリシャ文字で呼び合う。)
みずほ中央公園で生活するストリート・チルドレン集団・<山賊>は、
平穏な生活を取り戻していた。

しかしある日、公園に巨大で凶暴な怪物が現れる。
体中に羽毛をもった恐竜のようなその怪物は、
ホームレスたちを襲って捕食し始める。
同じ頃、<緑の子>と呼ばれる謎の少年たちが現れ、
彼らもまた公園内で生活を始めていた。

"人食い鳥" から<山賊>の少年たちを守るため、
放浪の旅から戻ってきた滝田。
彼が倒した "人食い鳥" の肉片を遺伝子解析したところ、
意外なことが判明する。

"人食い鳥" の再襲撃に備える<山賊>たち。
そのさなか、クシーは<緑の子>の少女・ "ナイン" を捕らえる。
(<緑の子>は、お互いを番号で呼んでいる。
 ちなみにリーダーの少年は "ゼロ" 。)

ナインに対して警戒していたクシーだが、
<緑の子>の意外な生態が明らかになるにつれて、
クシーは少しずつナインを受け入れていく。

クシーとナインの心の交流は、本書の大きな読みどころの一つだ。
ラストシーンでは、ちょっと涙腺が緩んでしまった。

そして滝田は、前作にも登場した謎の男・李から、
"人食い鳥" の襲撃は前触れに過ぎず、
近々、ESテックによる<山賊>の掃討が
本格的に始まることを知らされる・・・


本拠地の一つが壊滅したとはいえ、ESテックの本体は健在で、
今回も新手の "新兵器" を繰り出してきた。

滝田自身の出自の謎も前作では全く不明だったが、
今作では "どのように" 生み出されてきたのかが暗示されている。
しかしながら "なぜ" "何のために" 生み出されてきたのは
相変わらず不明で、これは次巻の完結編で明かされるのだろう。
驚いたのは、滝田のような風貌・体格を持ち、過去を持たない4U社員が
日本全体で相当数いること。これもまた新たな謎である。

前作は、SFアクションとしてすっきりまとまっていて
エンターテインメントとして非常に面白かったのだが
本書はどちらかというと座りが悪い結末を迎える。
伏線の多くが回収されずに「以下次号」になっているのも、
そう感じる理由の一つだろう。
完結編へ向けての "タメ" の巻なのかも知れない。

滝田の正体、<緑の子>の目的、ネットアイドルとなったミュー(μ)、
そして謎の巨大バイオ企業・ESテックの最終目標は何か。
完結編ではすべてが明らかになるはずだ。


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