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葉山宝石館の惨劇 梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション3 [読書・ミステリ]



評価:★★★★


 帆村財閥の御曹司・建夫が私財を投じて葉山に建設した宝石館。そこに長女・光枝の結婚相手候補と目される青年たちが集まっていた。
 しかし宝石館の警備を担当していた探偵が殺害され、現場は三重の密室となっていた。さらに密室殺人は続き、惨劇は終わらない・・・

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 帆村財閥の御曹司に生まれた建夫は、一族の営む事業を嫌い、大ゲンカの末に絶縁してしまう。生まれつき芸術家肌だった建夫は長い放浪生活の末、宝石の取引を始めて資産を築いた。そして私財を投じ、葉山(神奈川県の三浦半島にある町)に自らのコレクションを収めた宝石館を建設した。

 7月の終わり、宝石館に集まってきたのは建夫の長女・光枝の3人の男友だちと次女・伊津子の恋人を含む一行。彼らは宝石館の本館に宿泊し、毎夜パーティーに興じるなど、優雅な休暇を過ごしていた。

 しかし31日の夜、宝石館の防犯アラームが鳴り響く。姉妹と男たちが一階の展示室ホールに駆けつけると、そこには胸に短剣の刺さった男の死体が。被害者は宝石館の防犯担当の探偵・萩原幸治。そして現場は三重の密室状態だった。

 凶器は "トプカプの短剣" と呼ばれる、ダイアモンドとエメラルドで装飾された宝物で、宝石館の収蔵物だった。
 さらに "バントラインのピストル"、"メソポタミアの黄金闘斧(とうふ)" という、これも宝石で飾られた宝物が盗まれていた。
 この三つはいずれもレプリカだったが、それゆえ "実際の使用に耐える(凶器として使える)" ものばかり。

 被害者の萩原は、建夫の仕事のパートナーでもあった。そのため、建夫は光枝の結婚相手の候補の一人として考えていたという。

 盗まれた二つの宝物を凶器として、さらに密室殺人は続いていく・・・


 本編の合間に《鶴山芳樹少年の日記》というパートが挿入される。
 芳樹は夏休みを葉山で過ごしている小学生。滞在先の祖母の家が高台にあり、宝石館が見下ろせた。さらにはその屋上で夜ごと開かれるパーティーの様子まで窺うことができる。
 それがきっかけで芳樹は帆村伊津子と関わりを持つようになっていくのだが、彼の見聞したことももちろん、伏線の一部となっていく。

 彼の家庭教師として同行してきているのが、女子大生の諸田久美子。好奇心旺盛なお嬢さんで、宝石館で起こった事件に興味津々。そのうち見ているだけでは収まらなくなり、ついに独自の行動を起こしていってしまうのだが、このへんは読んでのお楽しみだろう。


 ミステリとしてみると、まず "三重密室" ってのがドーンとぶち上げられているのだけど、トリックそのものよりも、「なぜ犯人は密室を作らなければならなかったのか?」という疑問の答えのほうにサプライズがある。

 今までこの作者の復刊された作品を読んできたけど、伏線回収に力を入れてるのが特徴のように思う。つまり個々の事件のトリックよりも、全体の構成の方に重きを置いているのがわかる。

 本作でも、密室殺人が続いたり正体不明の人物が登場したりと、ストーリーは錯綜していく。しかし終盤になって "ある事実" が明らかになると、そこをきっかけにいままでの伏線が綺麗に組み上がって、事件の様相が一変していく。このあたりの展開はやっぱり流石だと思う。

 いかにも "お嬢様" っぽい長女・光枝、気が強い次女・伊津子。美人姉妹だが性格は対照的だ。
 女子大生の久美子はメガネっ娘で、外すと美人という ”お約束の設定(笑)” だが、その行動力には「そこまでやるか」と驚かされる。
 メインの女性陣も三者三様でそれぞれ魅力的。楽しい読書の時間が過ごせると思う。



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