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シャーロック・ホームズたちの新冒険 [読書・ミステリ]


シャーロック・ホームズたちの新冒険 (創元推理文庫 M た 6-5)

シャーロック・ホームズたちの新冒険 (創元推理文庫 M た 6-5)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/11/29
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 トキワ荘で切磋琢磨する若き漫画家たち、死後の世界でもう一人の明智と出会う明智小五郎、ベーカー街で出会わなかった世界線でのホームズとワトソンなど、著名人や歴史上の人物などが登場する、オマージュミステリ短編集。

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「トキワ荘事件」
 手塚治虫、赤塚不二夫、石森章太郎、藤子不二雄・・・巨匠と呼ばれる漫画家たちがかつて暮らし、切磋琢磨した伝説のアパート・トキワ荘を舞台にしたミステリ。
 昭和28年。マンガ雑誌『少女マガジン』の編集者・丸谷(まるや)は手塚治虫担当。しかし今月分の連載原稿を完成させないまま、手塚が雲隠れしてしまう。
 切羽詰まった丸谷はトキワ荘を訪れ、漫画家たちに今月分の原稿の代筆を頼み込む。それぞれ連載を抱えて忙しい身だが、分担してなんとか原稿を書き上げる。しかしその原稿が、何者かに盗まれてしまう・・・
 出てくる漫画家さんには鬼籍に入られた方も多い。ミステリとしてより、作中で描かれる若き日の様子のほうに興味を覚えてしまった。


「ふたりの明智」
 気がついたとき、明智小五郎は冥界にいた。そこで出会ったのは、なんと明智光秀。光秀によると、小五郎は事件の捜査中に殺されてしまったらしい。そして、誰にどういう理由で殺されたかが分からないと、天国か地獄かの行く末が決まらないのだという。
 ここから、小五郎の回想シーンになる。事件の流れをなぞっても、犯人が分からない。後半になると、事件の関係者がぞくぞくと冥界に現れてくる(笑)。みんな犯人に殺されたのだと云うが・・・
 ○○○○や○○○○まで殺されてしまうのは驚きを通り越して呆れてしまう。江戸川乱歩作品の著作権が切れたからといって、ここまでイジってしまうとは。まあ面白いからいいか(おいおい)。


「二〇〇一年問題」
 アイザック・アシモフのミステリ・シリーズ〈黒後家蜘蛛の会〉のオマージュ。
 あるレストランでひとつの謎が参加者の間で議論されるが、最後は給仕のヘンリーが真相を解き明かす、というフォーマットのシリーズだ。
 今回、俎上に載せられるのは、木星を探査飛行したディスカバリー号の中で何が起こったか、という問題。つまり本作は、映画『2001年宇宙の旅』(原作はアーサー・C・クラーク)の内容が、現実の出来事として起こったパラレルワールドでの話なのだ。
 世界中のコンピュータが誤作動するんじゃないかと心配された "2000年問題" と、ディスカバリー号の搭載コンピュータ・HALの反乱とを掛けたタイトルだ。、
 アシモフとクラークという二大巨匠の代表作のいいとこ取りみたいな作品。ラストのひねりが ”いかにもアシモフ” なんだけど、SFを読まない人には分かりづらいかな。


「旅に病んで・・・」
 明治35年。病床にあった正岡子規は、弟子の高浜虚子を枕元に呼ぶ。子規の実家で文書を整理していたら、興味深い文書が出てきたという。それは松尾芭蕉の弟子・服部土芳(はっとり・とほう)の残した手記だった。
 元禄7年、芭蕉の死に際に間に合わなかった土芳は、臨終の席にいた人たちからの聞き書きをまとめているのだが、その中で、どうやら芭蕉は殺されたらしいと書いてあるという。
 ここから土芳の回想シーンに移り、最終的に "犯人" らしい人物が浮かび上がるのだが・・・。いやあこのオチは、笑っていいのか怒ったほうがいいのか。


「ホームズ転生」
 1918年、ロンドン。クイーンズ・ホールでホルストの『惑星』の演奏会を聞きに来たジョン・H・ワトソン医師。しかし演奏中にホルン奏者の一人が殺されるという事件に遭遇する。胸に銃弾を受けたようだ。
 そんな中、ヴァイオリン奏者の一人が銃声を聞いたと証言する。彼の名はシャーロック・ホームズ。
 本作に登場するワトソンもホームズもどちらも60台半ば、しかも二人は初対面。つまりこの世界は、若き日の二人がベーカー街で出会わなかった世界線上の物語なのだ。
 この世界のホームズは、音楽家として生きてきたが、ヴァイオリン奏者としても作曲家としても名を挙げることができず、「人生の敗残者」と自嘲するような寂しい老人になっている。自らの中に眠る探偵としての才能に気づくことも活用することなく、今まで生きてきてしまったわけだ。
 ホームズと会話する内に、彼の鋭い洞察力を感じたワトソンは、彼と共に事件の調査を始めるが・・・
 どう決着させるのかと思ったら、まさかの○○○○。でもまあ、この結末なら許されるだろう。



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