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君に読ませたいミステリがあるんだ [読書・ミステリ]


君に読ませたいミステリがあるんだ (実業之日本社文庫)

君に読ませたいミステリがあるんだ (実業之日本社文庫)

  • 作者: 東川 篤哉
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2023/08/04

評価:★★★


 私立恋ヶ窪学園高等部の新入生である "僕" は、文芸部に入ろうとして、間違って "第二" 文芸部の扉を叩いてしまう。そこの部長・水崎(みずさき)アンナは "僕" に自作のミステリを無理矢理読ませるのだが・・・
 ユーモア・ミステリの連作短編集。

* * * * * * * * * *

 第二文芸部の活動目標は、プロ作家デビューを目指すこと。ただし部員はアンナしかいない。
 彼女の執筆したミステリに登場する探偵役は "水咲アンナ"。才色ともに、本人より数段上に設定されてる(笑)。
 そのミステリを読まされた "僕" が、内容についてキツいツッコミを入れていく、という掛け合い漫才みたいな形で進んでいく。


「文芸部長と『音楽室の殺人』」
 放課後、部室で創作に励んでいた水咲アンナ。借りた本を返すために音楽室へ向かう。しかしそこの扉の中から黒い影が飛び出し、アンナを突き飛ばして去ってしまう。そして室内には音楽教師・浦本の絞殺死体が。校内に残っていた3人の男子生徒が怪しいと思われたが・・・


「文芸部長と『狙われた送球部員』」
 放課後、部活動を終えたアンナが帰ろうと校門へ向かう途中、倒れている人影を発見する。それは男子送球(ハンドボール)部の主将・杉原だった。何者かに殴られて気を失っていたらしい。そして彼は右手に、犯人の遺留品と思われるボタンを握っていた。
 そこを通りかかったのは、化学教師の増井と陸上部員の木戸。二人とも、シャツのボタンがひとつ取れていた。そしてグラウンドにある部室棟で、数学教師・片桐の死体が見つかる・・・


「文芸部長と『消えた制服女子の謎』」
 7月下旬、体育館脇の休憩スペースに来たアンナは、文芸部長の棚田と出会う。そこに演劇部の部長・成島も加わった3人の前を、一人の女子生徒が通り過ぎる。水泳部の栗原だった。彼女がプールの更衣室へ入った直後、悲鳴が上がる。
 更衣室へ駆けつけた3人だったが、中から恋ヶ窪学園ではない制服を着た女子生徒が飛び出し、部室棟へ逃げ込む。アンナと成島が跡を追うが、逃げ場のない場所にも関わらず、姿が見えない。
 そして更衣室内には怯える栗原、そして水泳部主将・富永の撲殺死体が・・・


「文芸部長と『砲丸投げの恐怖』」
 文芸部の交流行事で龍ケ崎高校を訪れたアンナ。そこで彼女は、グラウンドを歩いていた男子生徒にボールのような物体が飛んできて、頭部を直撃するのを目撃する。現場にはアンナを含めて数人の生徒が駆けつけたが、そこに落ちていたのは投擲用の砲丸。重さは6キロ、砲丸が飛んできたと思われる部室棟から現場までの距離は約8m。しかし普通の高校生が砲丸を8mも飛ばすのは、ほとんど不可能なことだ・・・


「文芸部長と『エックス山のアリバイ』」
 冬の日の夕刻、家路を急ぐアンナは、近道である『西恋ヶ窪緑地』、通称『エックス山』を通ることにした。そこでアンナは脇腹にナイフが刺さって倒れている女性を発見、救急車を呼ぶ。女性は「オギワラ・・・ユウジ」との言葉を残し、病院へ搬送されていった。
 被害者の名は滝口美穂、彼女と交際していた会社員・正木によると、美穂が働いていた飲食店のオーナーが荻原悠二という名前。しかし彼には犯行時刻に2時間もパチンコ屋にいて、従業員の証言もあるという・・・


 もはやユーモア・ミステリの大御所となってしまった作者なので、全編にわたってギャグ満載である。
 『音楽室-』から『砲丸投げ-』までは、学校という舞台の特徴を活かしたトリックが組み込まれていたりと、そこはやっぱり上手い。

 とは言っても、メインとなる作中作は女子高生が書いたもの(という設定)なので、あちこちに大きな穴がある。殺人が起こっても誰も警察を呼ぼうとしないとか、犯行の動機が全く描かれてないとか、一発で犯人につながる遺留品が残ってたりとか、突っ込みどころが満載。
 それに対してアンナは必死の反論(苦しい言い訳?)をするが、そこもまたギャグのネタになってしまうという徹底ぶりも流石ではある。

 最終話の『エックス山-』には、祖師ヶ谷大蔵警部と烏山千歳刑事が登場。他のシリーズからのゲスト出演だけど、かなりお久しぶりの再会だ。
 さらにここでは連作短編を締めくくる展開もあるので、続編はないかな。でもアンナさんのキャラはとても楽しくてキュートなので、またどこかで逢いたいものだ。刑事コンビみたいに他の作品へのゲスト出演でもいいし。



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