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盲剣楼奇譚 [読書・ミステリ]


盲剣楼奇譚 (文春文庫 し 17-13)

盲剣楼奇譚 (文春文庫 し 17-13)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2023/08/02
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 警視庁の刑事・吉敷竹史(よしき・たけし)の妻・通子(みちこ)は、金沢の茶屋街に店を構えている。その大家である鷹科艶子(たかしな・つやこ)の孫娘・希美(のぞみ)が誘拐された。
 しかし犯人は奇妙な要求を突きつける。昭和20年9月に金沢で起こった大量惨殺事件の実行犯である金森修太(かなもり・しゅうた)を連れてこい、というもの。しかし彼はもう長いこと行方不明で、生きていても90歳近いはず。
 通子から相談を受けた吉敷は、独自の調査を始めるのだが・・・

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 まず驚くのは本書の厚さ。文庫で約900ページと、京極夏彦並みに分厚い(笑)。大きく四部に分かれているので、それぞれ順に追っていこう。


「金沢へ」
 東京大学内の博物館で開かれている展覧会へ、娘のゆき子とともにやってきた吉敷。そこで『盲剣(もうけん)さま』と題された絵画に目を留める。赤児を背負った美男剣士が太刀を振るっている絵だ。描いたのは鷹科艶子。吉敷の妻・通子が金沢で構えている店の大家でもあった。
 その艶子の孫娘・希美が誘拐されてしまう。犯人の要求は奇妙なものだった。昭和20年9月に金沢で起こった大量惨殺事件の犯人・金森修太を連れてこいというのだ。
 金森は艶子の父親(と思われる)男だったが、もう長いこと行方不明で、生きていても90歳近い高齢のはず(ちなみに、本作は平成10年代半ば頃の時代設定かと思われる)。通子から相談を受けた吉敷は、警察には無断で、独自の調査を始めるのだが・・・


「盲剣楼奇譚」
 昭和20年9月。艶子の母・お染(そめ)が切り回す "盲剣楼"(もうけんろう) は、江戸時代から続く金沢の芸者置屋だ。そこに6人の復員兵が侵入してきた。この頃は警察組織が機能せず、日本中が無法地帯となっていたのだ。
 すべての出入口を閉ざし、邪魔者が入らないようした上で乱暴狼藉の限りを尽くす復員兵たち。しかし突然、赤児を背負った剣士が現れて、瞬く間に5人を斬り殺してしまい、姿を消す。しかし現場は密室状態。彼はどこから現れ、どこへ消えたのか?
 そしてこのとき、現場には幼い艶子がいた。数十年後、彼女は自分が目撃した剣士の姿を絵に描き起こすことになり、このとき生き延びた復員兵の一人が、誘拐事件を引き起こすことになる。


「疾風無双剣」
 戦国時代が終わり、徳川の世となって30年ほど。新たに開墾されてできた紅葉(もみじ)村は、少しずつ豊かになってきていた。
 しかしそこに、ならず者一家の西河屋(さいかや)が入り込み、村を乗っ取ろうと様々な嫌がらせを始めていた。
 元武士で、いまは村長(むらおさ)の坂上豊信(さかがみ・とよのぶ)の娘・千代(ちよ)は、西河屋のチンピラに襲われたところを若武者・山縣鮎之進(やまがた・あゆのしん)に救われる。彼の剣豪ぶりに驚いた千代は、村を救ってくれるように山縣に頼み込むが・・・
 山縣は渋っていたが最終的に村を救い、その後金沢の街へでる。立身出世を願う山縣だったが、既に剣術で身を立てる時代は過ぎ去っていることを思い知らされる。
 そして、再び紅葉村と千代の身に危機が迫っていることを知った山縣は、村を救うべく戻っていくのだが・・・
 "盲剣楼" という名の起源を描いた物語。


「金沢へ」
 昭和20年の事件の真相に辿り着いた吉敷は、希美を救うべく誘拐犯と対峙する・・・


 「盲剣楼奇譚」のパートが約90ページ、「疾風無双剣」のパートはなんと620ページほどもある。つまり、この二つで約710ページで全体の8割近い。
 逆に、現代の誘拐事件のパートは2割ほどしかなく、ラストの "解決編" も50ページほどしかない。
 その内容も、ミステリを読み慣れている人なら見当がつくというか、「いろんな可能性を排除していけば、最後に残ったものが、それがどんなに信じられないものであっても、それが真実だ」というセオリー通りの結論になってる。

 「盲剣楼奇譚」はいわば "問題編パート" だから必要としても、「疾風無双剣」はこれほどの分量が必要なのか? ストーリーとしても独立しているし、実際、この部分だけ単独で新聞に連載されたというし。
 たぶん、作者がどうしても書きたかったんだろうなあとは思う(笑)。読んでも面白く、島田荘司のストーリーテラーぶりが実感できるので損した気にはならないけど。

 それよりも、20年ぶりの吉敷竹史もの、というほうが興味を引いた。妻の通子さんとの間にはいろいろあった(ありすぎた)からねえ。現在は東京と金沢と遠距離別居生活しているけど、とりあえず夫婦仲は良好のようだ。
 そして前作『涙流れるままに』では幼児だったゆき子ちゃんが大学生になってるのにまず驚き。そしてそれが ”赤門のある大学” だというのでさらにビックリ。
 
 近況が知れたのは嬉しいんだが、私としてはやっぱり吉敷刑事がガッツリ活躍する作品を読みたいなあ。作者もかなりご高齢になってるんだけど、もうちょっと頑張ってもらって。

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