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幻の殺意/夜が暗いように 日本ハードボイルド全集5 [読書・ミステリ]


幻の殺意/夜が暗いように (創元推理文庫 Mん 11-5)

幻の殺意/夜が暗いように (創元推理文庫 Mん 11-5)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/07/20
  • メディア: 文庫

評価:★★☆


 日本のハードボイルド小説の黎明期を俯瞰するシリーズ、第5集。
 今回は結城昌治の長編1作と短編9作を収録。

* * * * * * * * * *

「幻の殺意」(長編)
 主人公の田代は43歳のサラリーマン。最近やっと技術部の次長へ昇進した。帰宅も遅く、11時を回ることも珍しくない。そんなとき、妻の多佳子から相談を受ける。高校1年生の息子・稔が毎晩10時過ぎまで帰ってこないのだと。田代自ら息子に確かめても、頑なに口を開かなかった。
 しかしその翌日、警察から連絡が入る。稔が殺人容疑で逮捕されたのだ。西大久保のアパートに済んでいた藤崎清三というヤクザが殺され、現場に血のついたナイフを持った稔がいたのだという。
 稔は警察の取り調べに対し、犯行を認めていた。しかし弁護士・郷田を通じて面会に来た田代についても「放っておいてくれ」と言うばかり。
 このあと、息子の無実を信じる田代が稔の交友関係をたぐっていく探偵行が描かれる。終盤になると、郷田が新たに探り出してきた事実が提示され、田代は過酷な真相に直面することになる。
 初刊は1964年なのだが、事件の源流には太平洋戦争が影を落としている。最終的に事件は解決するが、この幕切れはあまりにも哀しすぎる。


「霧が流れた」
 真木は元刑事の私立探偵。依頼人の沢本は、これから会う予定の宮田という男の素性を調べてほしいという。
 宮田は、真木と同様に刑事を辞めて私立探偵になった男だった。宮田は沢本と逢った後、女と落ち合う。女の後を追った真木は、彼女が沢本の上司の妻であることを突き止めるが・・・


「嵐が過ぎた」
 真木へ妻の素行調査を依頼してきたのは、有名建設会社社員の新村。妻の景子が、自宅の電話を使わず、公衆電話で何者かに連絡を取っているらしい。
 景子を尾行した真木は、彼女が三崎というヤクザのアパートへ出入りしていることを知る。しかしその三崎が殺され、景子が逮捕される・・・


「夜が暗いように」
 ベテラン弁護士・磯田佐一郎の娘、有紀子は24歳、音大の大学院に在学中で夜は銀座のバーでピアノを弾いているが、父とは別居している。
 若手弁護士の吉川継雄が彼女に熱を上げているが、パリへ留学予定がある有紀子は相手にしていないらしい。
 しかし、真木が有紀子の素行調査の結果を佐一郎に伝えた後、吉川と有紀子が揃って失踪してしまう・・・


「死んだ依頼人」
 私立探偵を営む久里と、雇われ探偵の佐久が活躍するシリーズの一編。
 人妻・海東雅子が夫の浮気調査を依頼してきた。調査の結果、夫の保敏は会社の部下・尾城敏江と浮気していた。しかし依頼人の雅子が殺されてしまう。
 佐久は浮気調査の報告書を保敏に買い取らせたが、その後、雅子の代理人と名乗る男が現れ、報告書の引き渡しを要求してきた・・・


「遠慮した身代金」
 久里への依頼人は資産家・塩川文造の後妻、たか子。19歳の義娘(前妻の娘)の玲子が誘拐されたという。犯人の要求は、たか子が身代金100万円を持って一人で明治神宮外苑へ来ること。しかし夫の文造は身代金を出すのを拒否しているという・・・


「風の嗚咽」
 弁護士の紺野のもとへやってきたのは暴力団の組長・郷田。小滝という男が刺殺され、組の若いヤクザ・宇佐原が容疑者として捕まったという・・・


「きたない仕事」
 紺野は警部補から商社マンへ転職した白井から相談を受ける。新宿署の児島刑事が身辺を嗅ぎ回っているらしい。しかしその相談中に児島が現れ、白井は逮捕される。白井の部下・富岡を殺した容疑だった・・・


「すべてを賭けて」
 元刑事の興信所員・佐田は詐欺師の小西を探していた。堀部商会社長・堀部利一郎から一億円の手形を騙し取った女・三原英子が小西とグルだったらしい。しかし小西の絞殺死体が見つかる・・・


「バラの耳飾り」
 退職刑事・田代の16歳の孫娘、エリ子が失踪した。彼女の行方は野沢美樹という少女が知っているらしい。孫を探す途中、田代はかつて仲間だった刑事・阿久津に出会う。
 阿久津によると、資産家の道楽息子の竹内という男が殺され、被害者と親しかった松田晴美という女も美樹のグループにいるという。晴美は左の耳たぶにバラの刺青をしていた・・・


 総じて、浮気とか不倫とか過去の因縁とかの男女の愛欲のもつれがベースの作品が多く、しかも(どれがとは言わないが)最後に犯人が自ら命を絶って終わるという作品も少なくないので、読んでいて気分がだんだん落ち込んでくる。「遠慮した身代金」はそこから外れるが、オチはしょうもなかったし。
 ミステリはエンタメなのだから、楽しめないとねえ。少なくとも、本書に収録された作品群では私は楽しめなかったなあ。結城昌治という作家さんとの相性がかなり悪いんだろうと思う。

 巻末エッセイは志水辰夫氏。結城氏への素直な憧れが語られ、多彩な作品群を賞賛している。うーん、こんなふうに思うのが普通の感覚なのかしら。まあ私の感覚が普通とは違うんだろうなあとは薄々思ってるけど(笑)。



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