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名月一夜狂言 人形佐七捕物帖ミステリ傑作選 [読書・ミステリ]


名月一夜狂言: 人形佐七捕物帳ミステリ傑作選 (創元推理文庫)

名月一夜狂言: 人形佐七捕物帳ミステリ傑作選 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/12/18
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 巨匠・横溝正史の遺した人気時代小説、『人形佐七捕物帖』。
 そこからミステリ度の高い17編を選んだ短編集。

* * * * * * * * * *

 それぞれ簡単に紹介すると

「羽子板娘」
 シリーズ第一作。羽子板に描かれた人気の三人娘が次々に殺される。クリスティの『ABC殺人事件』のオマージュ。

「名月一夜狂言」
 殺害された死体の周囲には数々の手がかりがあるが、それがみな異なる人物を指している。

「戯作(げさく)地獄」
 佐七のもとに殺人を予告する書状が次々に届き、その通りに人が殺されていく。

「生きている自来也(じらいや)」
 7年ぶりに現れた怪盗・自来也は、押し入った家の主人を惨殺し、左手首を切断して持ち去っていた。

「出世競べ三人衆」
 材木問屋・伊丹屋喜兵衛は生前葬を行うが、その最中に毒殺されてしまう。

「鶴の千番」
 5人の男が、当たったら山分けの約束で富くじを買うが、それが賞金1000両の大当たり。しかしその5人が次々に殺されていく。

「春色眉かくし」
 抜け荷(密貿易)買いの調査をしているはずの佐七が浮気をしているという。それを知った佐七の妻・お粂(くめ)は泣き伏してしまうが。

「彫物師の娘」
 25年前、老舗の伊丹屋の娘が彫物師と駆け落ちをした。その後二人は娘のお信乃(しの)を遺して亡くなる。お信乃の背中には『八犬伝』の芳流閣の場の彫り物があった。孫のお信乃を探す伊丹屋の前に、芳流閣の彫り物をもつ娘が二人、現れる。

「春宵(しゅんしょう)とんとんとん」
 悪徳御家人の他殺死体が見つかるが、遺体の周囲は降った雪が積もり、犯人の足跡がない。いわゆる "雪の密室"。

「狐の裁判」
 歌舞伎の子役12人が踊っていた舞台上で、その中の一人が背中を刺されて殺される。

「当たり矢」
 いにしえの武将・権五郎の顔の刺青を背中に施した女が、権五郎の目の部分に矢を射込まれて殺される。

「風流女相撲」
 女相撲(そんなものが江戸時代にあったんだね)の大関が殺される。毒を盛られ、刃物で刺され、さらに首を絞められるという念の入りすぎた方法で。

「たぬき汁」
 旗本・榊原伊織の仲間(ちゅうげん:奉公人)たちがたぬき汁を食べ、9人が死亡する。さらに、伊織が開いた宴会でも死亡者が。

「遠眼鏡(とおめがね)の神様」
 隠居した元役人の趣味は遠眼鏡で景色を眺めること。ある日、浮気と思しき男女の姿を見つけ、悪戯で矢を射かける。ところが、その矢で殺されたと思われる女の死体が現れる。

「呪いの畳針」
 蝋燭屋の女房が亡くなり、その墓を掘っていた人足が誤って一年前に死んだ亭主の墓を壊してしまう。しかし亭主の頭蓋骨の中に畳針が入っているのがみつかる。そして、女房の頭の中にも畳針が。

「ろくろ首の女」
 刀屋へ二人組の強盗が入る事件が発生。主人の温情で二人は島流しになるが、帰ってきた一人が刀屋の主人とその愛妾を殺害する。

「初春笑い薬」
 材木問屋・槌屋の主人の病気回復の宴会で、芸者のお千代が毒殺される。しかし犯人の狙いは別の芸者ではなかったか、との疑惑が。


 書いてみて改めて思うが、横溝正史は読者の興味を引きつける舞台設定や、魅力的な謎の設定が抜群に上手い。もちろんこの時代ならではの動機も、この時代だからこそ成立するトリックもある。そして最後には、不可解な事象もしっかり合理的に説明されるのだからたいしたもの。

 ただ全般的に云えることだが、純粋なミステリとして見た場合、真相解明のための手がかりが全部提示されていない場合も多々ある。
 解決に至るとっかかりも、推理と云うよりは "佐七の勘" から始まる場合もあり、そこから辿ってみたら "当たり" だった、ってパターンもけっこうある。

 たぶんこれは枚数の都合だろう。本作に収録された作品はだいたい文庫で30ページほど。江戸の風俗の中で起こる事件を描き、佐七の手下二人の漫才みたいな掛け合いを入れ、佐七の謎解きを・・・と埋めていったら、きっちりした本格ものの展開を書くにはちょっと窮屈になってしまうのではないかな。

 あまり「本格」という言葉にこだわらず、江戸時代ならではの物語と、そこで起こる怪事件の謎を解く佐七の活躍を、おおらかに楽しむのが正解だろう。



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