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若きウェルテルの怪死 梶龍雄 青春迷路ミステリコレクション2 [読書・ミステリ]



評価:★★★★


 昭和9年、仙台。考古学者・大平(おおひら)博士の家に下宿していた旧制二高生・掘分(ほりわけ)が自殺し、同時に博士の所有する貴重な化石が盗まれてしまう。そしてTHD(東北反戦同盟)を名乗る組織が化石の身代金を要求してくる。
 掘分の友人・金谷(かなや)は一連の事件の真相を追い始めるが・・・

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 東京の飲み屋で金谷という老人と知り合った "私" は、彼が青年時代に経験した怪事件のことを聞かされる。当時のことを綴った日記を読ませてもらう "私"。


 舞台は昭和9年(1934年)の仙台。金谷は旧制二高(東北大学の前身)の学生で、友人の掘分は考古学者・大平博士の家の離れに下宿していた。

 しかしそこで掘分の死体が見つかる。どうやら自分で毒を飲んだらしいが、金谷は信じられない。
 本書のタイトルは、掘分がゲーテの『若きウェルテルの悩み』を愛読していたことからきている。

 同時に、博士の所有する貴重な化石が紛失していることが発覚する。何者かが盗み出したらしい。そしてTHD(東北反戦同盟)を名乗る組織が化石の身代金を要求してきた。
 掘分の死と化石の盗難には何か関係があるのか?

 THDは、化石の身代金2000円を大平博士の妻・美穂に持たせ、大崎八幡宮の境内に来いという。作中では「当時の2000円は現在では1200万円くらいの価値があるだろう」と言及されている。ちなみに本作の初刊は1983年だから、2024年ではもっと額が増えそうだ。

 境内で現金の入ったバッグを受け取った犯人は、その場から逃走をしてしまう。しかし現場は、予め金谷を含めて複数の人間に囲まれていたはずだった・・・


 大平博士の助手で医学生の高塚をはじめ、女中・庭師・運転手など大平邸に暮らす者は多く、中には不審な言動を示す者も。

 母親が経営するミルクホール(喫茶店の原型みたいなもの)で働く郁子(いくこ)は、掘分も金谷も思いを寄せるマドンナ的存在だったが、掘分の死によって金谷と郁子の関係も変化していく。この二人のロマンスの行方も気になるところだろう。

 また、当時は全国的に左翼学生による反戦運動(上記のTHDもその一派のようだ)が盛んだったようで、特高警察(特別高等警察:当時の秘密警察で、主に思想犯を取り締まる)の刑事たちも掘分の捜査に絡んでくる。

 このように様々な人物が錯綜する事件だが、もちろん終盤ではすべての謎が解明され、意外な犯人と巧妙な犯行が明らかにされていく。
 ミステリを読み慣れた人ならなんとなく真相に気づく人もいるかも知れないが、解決編を読むと予想以上にあちこちにきっちり伏線が張ってあったことに驚く。物語の冒頭にある何気ない描写にも終盤につながる重要な事実が潜んでいたりするわけで、この "怒濤の伏線回収" も読みどころだ。

 本書の裏表紙の惹句には「巧妙な伏線トラップ+爽やかな青春小説」とあるが、看板に偽りなしだと思う。

 ラストでは再び冒頭の続きに戻り、金谷の日記を読み終わった "私" のパートになる。事件からは40年以上経っており、当然ながら事件の関係者たちの "その後" も明らかになる。誰がどうなっているかは読んでのお楽しみだろう。



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