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村でいちばんの首吊りの木 [読書・ミステリ]


村でいちばんの首吊りの木 (実業之日本社文庫)

村でいちばんの首吊りの木 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 辻 真先
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2023/08/04
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 女の死体を残して失踪した長男。息子の無実を信じる母親を描いた表題作を含めた中編3本を収めたミステリ短編集。

* * * * * * * * * *

 どれも文庫で60ページほどの作品。

「村でいちばんの首吊りの木」
 奥飛騨の寒村に住む母親と、大学受験のために東京で暮らしている次男・宗夫(むねお)との間で交わされる往復書簡で綴られる。
 名古屋で浪人(二浪)生活を送っている長男・弘一(こういち)の元を訪ねた母。しかし下宿に息子の姿はない。息子のアドレスブックから久留島晴子(くるしま・はるこ)という女性の存在を知った母は彼女のアパートへ向かい、その途中、深見俊樹(ふかみ・としき)という男と出会う。晴子と交際中で、彼もまた晴子に会いに行くという。
 部屋に入った二人が発見したのは晴子の服毒死体。そしてなぜか、右の手首が切断され、持ち去られていた。そして弘一は失踪したまま・・・
 弘一の事件について母親と宗夫が手紙を交わす形でストーリーが進んでいく。"解決編" に至ると、伏線が実に上手く張られているのがわかる。
 文庫の惹句には「著者ベスト級の呼び声も高い」とある。ベストかどうかは分からないけど(全部の作品を読んでるわけじゃないので)、高レベルなのは間違いないだろう。


「街でいちばんの幸福な家族」
 まず、絵に描いたような幸福そうな四人家族が描かれる。若々しい父親、魅力的な母親、中学生の娘、小学生の息子。
 しかし次の章からは、妻と娘の独白が始まる。妻は夫の浮気相手に憎悪をたぎらせている。それを知った娘は一計を案じるが・・・


「島でいちばんの鳴き砂の浜」
 鳴き砂で有名な浜を持つ島。そこで民宿を営む家の息子・道夫(みちお)が東京から帰ってきた。折しも、東京資本のホテルの開業が迫り、民宿は経営の危機を迎えていた。
 また、ホテルは鳴き砂の浜を観光の目玉にと考えていたが、宿泊客が大挙して押し寄せて砂浜が汚れると、鳴き砂は消滅してしまうと考えられていた。それもまた地元民たちの悩みだ。
 そんなとき、ホテル社長・唐木へ直談判に行った道夫の父親が死体で発見される。崖から転落したらしいのだが・・・
 「村で-」では書簡、「街で-」では家族の独白という形式だったのだが、本作ではなんと人間以外の存在が語り手となる。浜に打ち寄せる波、老夫婦の暮らす家、岬に張られたテント、さらには夜の島を照らす星とか。一風変わった手法なんだけど、最後まで読むと、これには意味があったことが分かるという仕組み。



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