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幽世の薬剤師 [読書・ファンタジー]



幽世の薬剤師(新潮文庫nex)

幽世の薬剤師(新潮文庫nex)

  • 作者: 紺野天龍
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/03/28

評価:★★★


 異世界・幽世(かくりよ)へ迷い込んでしまった薬剤師・空洞淵霧瑚(うろぶち・きりこ)。そこには、謎の感染現象が蔓延していた。
 彼は幽世の巫女・御巫綺翠(みかなぎ・きすい)とともに怪異と病の根源に迫っていく。


 主人公・空洞淵霧瑚は28歳。病院の漢方診療科に勤務して4年目である。ある日の病院からの帰り道で、不思議な少女に出会う。
「"幽世の薬師(くすし)" 様、お迎えに上がりました」
 次の瞬間、霧瑚は異世界・幽世へ転移していた。

 動転している霧瑚を、鬼の面をつけた謎の人物が襲う。そこを救ってくれたのは、巫女装束に身を包んだ女性だった。御巫綺翠と名乗った彼女は、霧瑚を金糸雀(カナリヤ)と呼ばれる存在の元へ連れて行く。

 金糸雀は語る。霧瑚を幽世へ連れてきたのは彼女の妹・月詠(つくよみ)であること、霧瑚を連れてきた目的は不明なこと。
 そしてこの世界・幽世では、"人々の認識が現実を書き換えることがある" のだと。

 例えば、ある人物に対して "あの人は〈吸血鬼〉ではないのか" という噂が立ったとする。その噂が広まり、その人数が "閾値(いきち)" を超えたとき、その人物は本当に〈吸血鬼〉になってしまうのだと。

 ちなみに "閾値" とは、その値を境界にして、結果が異なるようになる数値のこと。理工系の人は "しきい値" と云った方がなじみがあるだろう。

 そして現在、幽世では普通の人間が〈吸血鬼〉になってしまう怪異が続発しているという。霧瑚は綺翠とともに、怪異の根源を探ることになるのだが・・・


 幽世世界の法則性についてはきちんと開示されていて、それに則って作品内で起こった事件の謎解きも行われるので、"特殊設定下のミステリ" ともいえるけど、やはり異世界ファンタジーの印象の方が強いかな。そしてどちらかというと事件よりもキャラの魅力で引っ張っていく作品に思える。


 その魅力キャラの第一は、ヒロインの綺翠さんだろう。年齢は20歳。整った顔立ちの美女で、装束通りの神社の巫女さんなのだが、幽世では数少ない〈怪異を祓う〉特殊能力者でもある。妹(こちらも美少女)の穂澄(ほずみ)との2人暮らし。
 霧瑚を幽世に連れてきた月詠だけが、彼を元の世界に戻すことができるとのことなので、彼はひとまず2人の住まいに逗留することになる。美女2人と一つ屋根の下で暮らすことになるわけで、なかなかうらやましい展開である(笑)。

 穂澄さんも天真爛漫で愛嬌たっぷりのキャラなのだが、それに加えて、胡散臭い修行僧・釈迦堂と祓魔師(ふつまし)・朱雀院のコンビが登場する。多分この2人もレギュラーメンバーになるのだろう。

 綺翠さんは、最初のうちこそクールで、霧瑚とは年齢差がある割にタメ口だったりと、意外と塩対応。まあそれも、時が経つにつれてだんだん変化していき、終盤では霧瑚に対してけっこうまんざらでもなさそうな様子に変わっていく。
 本書はシリーズ化されていて、近々4巻目が出るそうな。たぶん巻を追っていくに従ってもっとデレていくのでしょう(笑)。


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