幽世の薬剤師 [読書・ファンタジー]
評価:★★★
異世界・幽世(かくりよ)へ迷い込んでしまった薬剤師・空洞淵霧瑚(うろぶち・きりこ)。そこには、謎の感染現象が蔓延していた。
彼は幽世の巫女・御巫綺翠(みかなぎ・きすい)とともに怪異と病の根源に迫っていく。
主人公・空洞淵霧瑚は28歳。病院の漢方診療科に勤務して4年目である。ある日の病院からの帰り道で、不思議な少女に出会う。
「"幽世の薬師(くすし)" 様、お迎えに上がりました」
次の瞬間、霧瑚は異世界・幽世へ転移していた。
動転している霧瑚を、鬼の面をつけた謎の人物が襲う。そこを救ってくれたのは、巫女装束に身を包んだ女性だった。御巫綺翠と名乗った彼女は、霧瑚を金糸雀(カナリヤ)と呼ばれる存在の元へ連れて行く。
金糸雀は語る。霧瑚を幽世へ連れてきたのは彼女の妹・月詠(つくよみ)であること、霧瑚を連れてきた目的は不明なこと。
そしてこの世界・幽世では、"人々の認識が現実を書き換えることがある" のだと。
例えば、ある人物に対して "あの人は〈吸血鬼〉ではないのか" という噂が立ったとする。その噂が広まり、その人数が "閾値(いきち)" を超えたとき、その人物は本当に〈吸血鬼〉になってしまうのだと。
ちなみに "閾値" とは、その値を境界にして、結果が異なるようになる数値のこと。理工系の人は "しきい値" と云った方がなじみがあるだろう。
そして現在、幽世では普通の人間が〈吸血鬼〉になってしまう怪異が続発しているという。霧瑚は綺翠とともに、怪異の根源を探ることになるのだが・・・
幽世世界の法則性についてはきちんと開示されていて、それに則って作品内で起こった事件の謎解きも行われるので、"特殊設定下のミステリ" ともいえるけど、やはり異世界ファンタジーの印象の方が強いかな。そしてどちらかというと事件よりもキャラの魅力で引っ張っていく作品に思える。
その魅力キャラの第一は、ヒロインの綺翠さんだろう。年齢は20歳。整った顔立ちの美女で、装束通りの神社の巫女さんなのだが、幽世では数少ない〈怪異を祓う〉特殊能力者でもある。妹(こちらも美少女)の穂澄(ほずみ)との2人暮らし。
霧瑚を幽世に連れてきた月詠だけが、彼を元の世界に戻すことができるとのことなので、彼はひとまず2人の住まいに逗留することになる。美女2人と一つ屋根の下で暮らすことになるわけで、なかなかうらやましい展開である(笑)。
穂澄さんも天真爛漫で愛嬌たっぷりのキャラなのだが、それに加えて、胡散臭い修行僧・釈迦堂と祓魔師(ふつまし)・朱雀院のコンビが登場する。多分この2人もレギュラーメンバーになるのだろう。
綺翠さんは、最初のうちこそクールで、霧瑚とは年齢差がある割にタメ口だったりと、意外と塩対応。まあそれも、時が経つにつれてだんだん変化していき、終盤では霧瑚に対してけっこうまんざらでもなさそうな様子に変わっていく。
本書はシリーズ化されていて、近々4巻目が出るそうな。たぶん巻を追っていくに従ってもっとデレていくのでしょう(笑)。
アンソロジー 初恋 [読書・その他]
評価:★★★
女性作家集団「アミの会」によるアンソロジー。
"初恋" がテーマだが、甘酸っぱい話ばかりではない(というかほとんどない)。苦味も辛味も塩味も、ミステリからサスペンス、はてはホラーまで何でもあり。
「レモネード」(大崎梢)
亜弥(あや)は、20年ぶりに中学校時代の友人・リサと再会する。彼女は美人で、中学生の頃から男子には人気があった。
当時、亜弥はサッカー部の島村くんに片思い。しかし島村くんはリサに想いを寄せていた。そのリサが好きになった男子は、意外にも、さえない男子の中里くんだった・・・
"初恋は実らないもの" というが、"縁は異なもの" でもある、という話。
「アルテリーベ」(永嶋恵美)
定年退職後、妻の勧めでドイツ語教室に通い始めた原島悟。そこで隣の席になった女性と親しくなるが、彼女は妻の幼馴染みだった・・・
意表を突くラストを迎えるのだが、うーん、こういう初恋もあり得るよねぇ。
「再燃」(新津きよみ)
年の差のある夫に先立たれた "わたし" は、還暦同窓会に出席する。そこには初恋の相手だった向井も出席していた。そして後日、向井の方から「会いたい」と連絡が来たのだが・・・
人生百年時代だからね、こういうこともあるでしょう。しかしこの展開にはびっくり。
「触らないで」(篠田真由美)
語り手は古物商を営む女性。ある夜、店の方が騒がしい。そこには10歳にも満たない少女がいて、自分の身の上を語り出す。それと同時に体の方も成長を始める。
幼い頃から彫刻が好きだったが母には認められず、弟だけが理解者だったこと。才能を認めてくれた師のもとで創作に励んだこと。しかし兄弟子たちには、色仕掛けで師に取り入ったと責められたこと。彫刻家として自立するために師から離れようとしたこと・・・
芸術に掛ける情熱と男女の情念が複雑に絡み合うさまをホラータッチで描く。
「最初で最後の初恋」(矢崎在美)
留学することになった泰一は、幼馴染みで親友の悠矢に頼みごとをする。月に一度、祖母の千鶴子を訪ねてほしいと。頼まれた悠矢は、千鶴子とともにスイーツ巡りをしたり映画を観たり。そして彼女は、悠矢に今は亡き夫・源吾のことを語り出すのだが・・・
この千鶴子さんが、実に愛らしい。こんな女性と結婚できた源吾さんは幸せだ。
「黄昏飛行 涙の理由」(光原百合)
瀬戸内海に面した街・潮の道(しおのみち)。永瀬真尋(まひろ)は、地域FM放送のパーソナリティをしている。地元の寺・地福寺で開かれる、女性の幽霊画を集めた『隠れた名画展』に上司の局長と共に出かけるが、そこで局長が一枚の絵に見入ってしまう・・・
真尋と局長の会話がとにかく楽しい。どうやら真尋さんは局長に想いを寄せているみたい。続きがあったら読みたいものだ・・・と思ったのだけど、作者は昨年(2022年)の8月にお亡くなりになってる。この人の作品、好きだったんだけどね。残念です。合掌。
「カンジさん」(福田和代)
デイケア「やすらぎハウス」に通ってくる91歳の千代子は、亡き夫・カンジの思い出話を語る。しかし彼女の夫はカンジという名ではない。「カンジさん」は彼女の認知症の産物なのだ。
やがて千代子は亡くなるが、今度は別の女性が「亡き夫のカンジさん」の話をし始める・・・
ホラータッチのオチにちょっとゾクリ。
「再会」(柴田よしき)
中学生だった "私" は、受験塾で知り合ったコウちゃんに恋をした。横浜でデートもした。でもその後、2人は再会することはなかった。
そこから2つのエピソードを挟み、長い年月の末に2人はついに再会を果たすのだが・・・
なかなかミスリードが巧みで、最後のオチに持っていく。
「迷子」(松村比呂美)
35歳で未婚の智沙(ちさ)のもとに見合い話が持ち込まれる。相手は同年齢の男性・洋介。しかしバツイチで5歳の男の子がいる。悩んだ末、会うことにしたが、洋介の連れ子の佑樹を見て智沙は驚く。3ヶ月前、デパートで迷子になっているのを彼女が見つけて、面倒を見てあげた子だったのだ・・・
笑えて泣ける、"ちょっといい話"。このアンソロジーのトリを務めているのだが、最後にこの話があってよかった。ほっこりした気持ちで本が閉じられる。
タグ:ラブ・ストーリー
『ヤマトよ永遠に REBEL3199』 特設ページ公開 [アニメーション]
5月15日、リメイク・ヤマト・シリーズ最新作、
『ヤマトよ永遠に REBEL3199』の特設ページが公開されました。
内容は、設定資料と絵コンテの一部のようです。
眺めてみて、思ったことをつらつら書いてみましょう。
■公開時期は未だ不明
まずはタイトルロゴの下に「鋭意制作中!」とあります。一所懸命に作っているのは間違いないでしょうけど、公開時期については全く記載がありません。
『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』前章公開が21年10月、後章公開が22年2月。後章から数えても1年3ヶ月。そろそろ(だいたいでもいいので)公開時期の公表はないのかな。まあ、5月の時点で「制作中」ってことは、年内公開はなさそうだけど。
現実的な線でいくと、『2202 第七章』と『2205 前章』の間が2年7ヶ月ありました。でも、これについてはコロナの影響で半年くらいずれ込んだと聞いたので、本来は2年くらいのインターバルでの公開予定だったのでしょう。
ということは、『3199』の公開は『2205 後章』の2年後、つまり24年の2~3月ころかな・・・って思ってますが、さて。
あと、24年の10月で『宇宙戦艦ヤマト』公開50周年(なんと半世紀かいな)になるので、記念のイベントが何かあるんじゃないかと密かに期待してます。
■CHARACTERS
○最初のグループは地球人、それも防衛軍所属の方々。左から見ていくと
・最初の方は誰でしょう? 土門や太助の宇宙防衛大学第38期生の写真に入ってましたから、教官ですかね?
・私服の真田さん
・続いて私服の相原、南部、太田
・最後は誰? 別の制服を着た相原かな?
○次のグループも地球人かな。民間人が主で軍人も2人ほど
・男の兄弟2人。どなたかの身内なのか、過去の姿なのか
・見た目がキツそうな(失礼!)女性士官の方
・その隣は南部のお父さん? ひょっとしてサイモン教授とか(まさかね)
・幼い女児を連れた若夫婦さん? こちらもどなたかの身内ですかね
・揚羽武という噂の彼も宇宙防衛大学第38期生の写真に入ってました。
○最後は異星人組
・サーダさん、登場確定ですね。43年前の映画では出番が少なかったので、今回こそは大いに暴れてほしいものです
・『2205』から登場のキール・キーリングさん。ガミラス軍に入ったんですね。マントを羽織ってるとこをみると、けっこう出世してる?
・これはどうみてもラム艦長でしょう。バース星も出てくるのか
・ボラー連邦の軍服の女性。襟の線の数がラムさんより多いので、彼の上官かな?
・大トリはアルフォン少尉。『永遠に』ときたら彼は外せませんよねぇ。さて今回、彼はどんなシチュエーションでお亡くなりになるのでしょう(おいおい)
■MECHANIC
・まずは防衛軍の無人艦隊ですね。このあたりは『2202』で流れができてますから。ちょっぴり艦首だけ見えるのはアリゾナか
・デザリアムのメカ。地球占領時に登場したモノですね
・最後に載ってるグレーの艦は・・・ボラー連邦のモノかな?
■ART BOARD
・イカルス天文台ですか。
・これはどこの施設でしょう。デザリアムの母星かな?
■STORY BOARD
絵コンテの一部を抜粋したものかな。番号ごとに観ていくと
・[3][5]
この瞳は女性のものでしょう。真田さんといっしょにいるということはサーシャ?
・[75][77]
銀河艦内の古代。雪に「サーシャと3人で家族になろう」って云うためのリハーサルですね。”子持ち” の男としてはためらうのも分かる。まあ雪は否とは云わないだろうけど。
・[319]
アナライザー復活ですね。ヤマトのクルーに集合をかけるのは、今回はアナライザーの役回り?
・[378]
指令星ゴルバ・サトゥ内で、「帰ってきた」とスカルダート(!)の声が
番号を見るに、ここまでが第1話かな。で、次から第2話と。
・[290][295][300][304]
旧作でも序盤のクライマックスと云えるシーン。ここも復活ですね。
・[376]
地球を取り囲む6基の自動惑星。この中のひとつがゴルバ・サトゥなのでしょう。
・[169]
目を開くスカルダートのアップ。「・・・波動砲・・・」の台詞。
■まとめというか予想もどき
この資料を見る限り『3199』序盤のストーリーは旧作の『ヤマトよ永遠に』を踏襲してるみたい。でも、ところどころ『ヤマトⅢ』要素が入ってたり、リメイク・シリーズ独自の設定もあったりするから、途中からけっこう変わっていくんじゃないかな。
デスラーについては、しばらく出てこないと思う。ルーツが同じとはいえ、異なる歴史を辿ってきたガミラスとガルマンの2つの民族を統合するだけでもひと苦労だろうし、ボラー連邦との対峙も続いてるだろうから、地球の方まで面倒見てる暇はなさそう。
スカルダートとサーダのツートップの登場が確定したのだけど、問題はデザリアムの正体。絵コンテのスカルダートの台詞を観る限り、以前の記事でも書いた ”未来人” という線が濃厚に感じられるんだけど、さてどうなるか。
あとは雪とアルフォンのメロドラマ(笑)かなぁ。昭和の頃ならともかく、令和の時代にそのまま再現しても陳腐になりそう。どう ”料理” するのでしょうかね。
『2202』『2205』と観てきて、主要キャラの生死については旧作準拠ということが分かったので、たぶん今作も・・・なのでしょう。残念ですけどね。
ネメシスVII & TVドラマ『ネメシス』 [読書・ミステリ]
TVドラマ『ネメシス』は2021年4月~6月にかけて放送された、全10話のミステリドラマ。
監修にミステリ作家が加わっているのも話題で、ノベライズが講談社タイガのレーベルで発刊されている。本書はその第7巻で、第8話~第10話(最終話)までの内容が描かれている。
横浜で開業している探偵事務所「ネメシス」の所長・栗田(江口洋介)、探偵の風間(櫻井翔)、助手のアンナ(広瀬すず)の3人組が、持ち込まれた事件を解決していく。
風間は、実は探偵としてはポンコツで、助手のアンナが真相解明を担当している。容疑者を集めた最後の謎解きシーンでは、風間が(補聴器型の無線機でアンナから推理を聞きながら)真相を語り、犯人を指摘する。
なんでこんな面倒くさいことやってるんだろうと思ったけど、物語が進行していくと、その理由がわかってくる。
第1話~第7話までは一話完結なのだが、それと並行してもう一つのストーリーが進行している。
アンナの父・始(仲村トオル)が失踪しており(後に、謎の組織によって拉致されたことが判明)、栗田も風間も彼を探している。
アンナが天才的に頭が切れるのは、実はその出生に理由がある。始の失踪とアンナの秘密が、本編の進行とともに少しずつ明かされていく、という流れ。
そして第8話~第10話は連続した完結編となる。アンナの出自も明らかになるが、彼女もまた組織に拉致されてしまう。栗田・風間に加えて、各話の中で関わったキャラたちが総登場し、組織との対決が描かれる。
この完結編については、ミステリというよりはコミカルなアクション・サスペンスといった趣きだ。
実は放送時、ちゃんとビデオに録画してあったんだけど、すっかり忘れていた(おいおい)。そのレコーダーも、買ったのは2010年だったから、なんと10年以上も使ってた。そこで、1年ほど前に同じメーカーの新型レコーダーに買い換えた。
そしたら、さすがは新型で、以前使用していたレコーダーに記録されていた録画を、そっくり新しい方にコピーできる機能があった。これはスゴいと、古い方のレコーダーのデータを見ていたら、『ネメシス』のデータを発見した。
というわけで、放映から1年半くらい経ってから、やっとTVドラマ版を観たというわけだ。
ちなみに、私が『ネメシス』を読んだ/観た順番は以下の通り。
ノベライズ版「ネメシス I」~「VI」を読む。
(ドラマ第1話~第7話を小説化+オリジナルエピソードを収録)
→TVドラマ『ネメシス』(第1話~第10話[最終話])を観る。
→ノベライズ版「ネメシス VII」(ドラマ第8話~第10話[最終話]を小説化)を読む。
ノベライズ版「ネメシス VII」については、ドラマのラスト3話分を文庫270ページほどに収めているので、かなり内容に差がある。大筋では同じだけど、ドラマにあって小説版にはないシーンがあったり、展開が異なる部分も。
ドラマでは橋本環奈がサブレギュラーとして出演していて、当時は美少女二人の共演と話題になったとか。
いやあ環奈さん、とてもいいよ。特にラスト3話では意外な役回りを演じていて、達者な人なんだね。人気があるのもわかる。
ノベライズ版「I」~「VI」までは、ドラマ放映と並行して刊行されてたんだけど、「VII」だけ2022年10月の刊行。なんで1年半も遅れたのかというと、映画版の公開(2023年3月)に合わせた、ってことだろう。
ちなみに映画版は観てない。ネット配信になったら観ようかな(おいおい)。
失恋の準備をお願いします [読書・青春小説]
評価:★★★☆
男子から受けた告白をなんとか断ろうとあの手この手の嘘をつく女子高生、嘘発見器機能を内蔵した人形を持つ探偵気取りの男子高生、尋常でないくらい異様にモテる男子高生・・・ぶっ飛んだキャラたちが織りなす5つのコメディ。それらが相互に絡み合い、最終話では大騒ぎに・・・意外な伏線回収に驚く連作短編集。
「第一話 状況間近のウィッチクラフト」
1ヶ月後に高校卒業を控えた千代子は。男友達の日野くんから告白を受ける。しかし千代子は東京の大学に、彼は地元の大学に進学する。
遠距離恋愛に自信が持てない千代子は、「私は魔法使いだから」(おいおい)と嘘をついて断ろうとするが、日野くんは「たとえ魔法界を敵に回しても構わない」と、彼女の嘘を真っ向から受け止めてしまう。
千代子はさらに嘘を重ねていき、どんどんドツボにはまっていくのだが・・・
「第二話 真偽不明のフラーテーション」
高校3年生の "僕" は、孤高の天才科学者(笑)・漆原博士から、嘘発見器機能を内蔵した市松人形・"小百合" をもらう。
かねてから名探偵に憧れていた "僕" は、"小百合" を持って学校へ行き、喧嘩をしているカップル・翔子と正をみつける。浮気をしたと翔子が疑うが、正はそれを否定していた。"僕" は "小百合" を使って真相を確かめようとするのだが・・・
「第三話 不可抗力のレディキラー」
ヒロイン・梅子のクラスに転入してきた蕗太郎(ふきたろう)は、異様なまでに女性にモテる男だった。このモテ方がまた半端ない(ほとんどコントである)。そのため、蕗太郎はまともな人間関係が築けないという悩みがあった。しかしなぜか、梅子は蕗太郎に全く魅力を感じなかった。この梅子さん、なかなかの ”女傑” キャラである
そんな梅子に蕗太郎は相談を持ちかける。「この "モテ病" をなんとか克服したい」と。梅子が漆原博士に相談したところ、ある発明品を手渡される・・・
「第四話 寡黙少女のオフェンスレポート」
小学4年生の折尾くんのクラスで、盗難事件が起こる。体育の授業後にボールペンが盗まれていたのだ。体育の授業で最後に教室を出たのは芙蓉さんだったことから彼女に容疑を掛けられるが、折尾くんがかばったことでその場は収まる。
しかし放課後、芙蓉さんから自分が犯人だったことを打ち明けられる。しかも、そのことを彼女は全く悪いことだと思っていなかったのだ・・・
「第五話 勤勉社員のアウトレイジ」
外回りの営業中にサボっていたサラリーマン・藪田は、近くを通りかかった女子大生風の女性・奈々子を襲うが返り討ちにされてしまう(おやおや)。ブラック企業での労働に疲れていた藪田は、不祥事を起こせば会社を辞められると思ったのだった。
事情を聞いた奈々子は、藪田に協力を申し出るのだが・・・
「第六話 失恋覚悟のラウンドアバウト」
互いに独立していたと思われていた5つの物語の登場人物たちが挙って登場し、ドタバタな大騒ぎを繰り広げる。各話の隠された関係が明らかになり、ばら撒かれていた多数の伏線が絡み合い、意外な形で回収されていく。
作者の前作『フラッガーの方程式』と同傾向の作品だが、今回は5つの物語を一つに組み上げていくというなかなかの力業を披露してくれる。
”伏線の名手” という異名は伊達ではないようだ。
その孤島の名は、虚 [読書・ミステリ]
評価:★★★★
極彩色のオーロラが校舎を覆い、そこで活動していた吹奏楽部の女子高生24名は、いずことも知れぬ絶海の孤島に飛ばされてしまう。彼女らを襲う "悪意の存在" によって、次々に喪われていく仲間たち。生き残った者たちは必死になって生還の道を探るが・・・
東京都立吉祥寺南女子高等学校、通称・吉南(きちなん)女子高校の吹奏楽部は、強豪と肩を並べる伝統を誇り、並の運動部を超えるような練習をこなす、超体育会系の文化部だ。
5月のある夜、校舎に残って練習していた部員24名は超常の現象に遭遇する。極彩色に輝くオーロラが出現し、次の瞬間、彼女らは校舎ごと見知らぬ場所に飛ばされてしまう。
彼女らが出現したのは、小高い丘の頂き。そして間髪を入れずに襲ってきたのは、3匹の大蛇(!)。全長10mを超え、生徒を丸呑みにしていく(なんと!)。
絶体絶命の危機に陥った彼女らを救ったのは、全身が真っ黒い粒子でできているような姿をした "シルエット人" だった。"彼ら" が機関銃を掃射して蛇を撃退したのだ。しかし "シルエット人" もまた味方ではなかった。"彼ら" は生徒の一人を拉致して去っていったのだ・・・
物語は、生徒の一人である中島友梨が語り手となって綴られていく。吹奏楽部は楽器ごとに「クラリネット」「ホルン+サックス」「トランペット」の3つのパートに分かれており、友梨は「クラリネット」のパートリーダーを務めている。また、普段の彼女らは楽器別に分かれて練習しているので、パート内の生徒は結びつきが強い。
ちなみに、文庫表紙のイラストには2人の生徒が描かれているが、持っている楽器から推定するに右側が友梨、左側が「トランペット」のパートリーダー兼吹奏楽部長の神蔵(かみくら)響子だろう。
生き残った生徒たちは周囲の情報を集め始めるが、やがてここが絶海の孤島であり、彼女らに敵対する勢力が潜んでいること、そして不可解な現象が頻発する異世界であることを知る。
不安、焦燥、絶望感、そして疑心暗鬼から生徒たちは内部対立し、やがてパートごとに3つの集団に分裂して互いに敵対し合うようになってしまう。友梨はそんな状況に心を痛めながらも、「クラリネット」パートのメンバーを率いていくことになる・・・
ここまでをみると、まるっきり異世界ファンタジーの趣きなんだが、後半に入って次第にこの世界を支配する "法則" が明らかになっていく。
その "法則" だが、ファンタジーだからといってまるっきり恣意的というわけではなく、それなりに論理的な構造を持っていて、この世界を支配する基本となっている。この法則を解明することがこの世界からの脱出にもつながっている。
登場するキャラがそれぞれ魅力的だ。女子高生であっても "萌え要素" はほとんどない。みな夢も希望もエゴも欲望ももつ、人間らしい存在として描かれる。それに加えて、みんな自立心が旺盛で、とーっても逞しい(笑)。
まあ、いささかエキセントリックに誇張されてるけど、舞台がこれだけ異様なのだから、ある意味当然ではある。そうでなければ生き残れないだろうし。
3つのグループに分裂した彼女たちは、自らの生存を掛けて、他のグループに対して牙をむく。そんな極限状態に陥っても、友梨は比較的、冷静さというか客観性を保った存在として描かれる。というか、そういうキャラだからこそ語り手になり得るし、主人公にもなったのだろうが・・・
なんで女子ばっかりなのかと思わないでもなかったが、男子がいると必然的に恋愛要素も絡んできて、ただでさえ情報量が多い物語がさらに錯綜してしまうだろう(本書は文庫で510ページもある)。だから女子だけにしたんじゃないかなぁ。まあ、作者の趣味もあるんだろうが(笑)。
もし男子だけだったら、この設定だと早々に殺し合って、あっという間に全滅していたかも知れない(おいおい)。
異世界ファンタジー、無人島漂流サバイバル、冒険サスペンス、SF、どのジャンルにも当てはまりそうだが、作者は "特殊設定ミステリ" として書いてるのだろう。超常の現象や非日常のイベントが続くが、その中にしっかりミステリ要素を織り込んでいて、最後にはしっかり謎解きも行われる。
ラスト近く、この世界を支配する根本原理が明らかになり、その意外性に驚くことになる。まあ、本編内の章の題名で、ある程度の見当がつくかも知れないが・・・
読み終わってからもう一度、本書のタイトル「その孤島の名は、虚」を見てみると、読む前とはまた違った感慨を抱くだろう。
龍神池の小さな死体 梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション1 [読書・ミステリ]
梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション1 龍神池の小さな死体 (徳間文庫)
- 作者: 梶龍雄
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2022/04/13
- メディア: 文庫
評価:★★★★
「おまえの弟は殺されたのだよ」息を引き取る直前の母の言葉に衝撃を受ける仲城智一(なかじょう・ともいち)。太平洋戦争末期の昭和20年、弟・秀二は疎開先の村で溺死していた。弟の死の真相を調べるべく村を尋ねた智一だが、秀二の死んだ龍神池に新たな死体が・・・
物語の舞台は昭和43年。主人公・仲城智一は関東大学工学部の建築学教授。最近になって亡くなった母が、死の直前に智一に告げた。「おまえの弟は殺されたのだよ」と。
昭和20年、当時小学校3年生だった秀二は、千葉県の山里に集団疎開に行ったが、その3ヶ月後に死亡していた。
当時の状況を知るために、智一は秀二の同級生だった浅川マキ子と青山京子を訪ねる。
マキ子によると、疎開先の集落・山蔵(やまくら)には、妙見(たえみ)という資産家が屋敷を構え、しばしば疎開児童たちを招いて厚くもてなしていた。秀二もそこに招かれた日に、近くにあった龍神池で溺れ死んだのだという。
また京子は、秀二が死んだときに妙見家にいたが、あいにく昼寝をしていて記憶がないという。しかし、妙見家の庭に蔵のような建物があり、その二階に "白い顔の子どもの顔" を見たという。
いやあ、いかにも横溝正史描くところの "典型的な田舎の旧家" みたいだね。こういう伝奇的な雰囲気、嫌いじゃない。
山蔵集落へ入った智一は、医師・花島の家に逗留して過去を調べ始める。妙見家の屋敷は取り壊されて既にない。当主は昭和28年に病死し、その息子も自殺していた。
周囲の住人に話を聞いてまわるが、相変わらず真相は五里霧中。当時の状況を知るであろう妙見家の元使用人・吉助に会いに行くが、けんもほろろの対応。
そんな中、智一は何者かに襲われて頭部を負傷してしまう。さらに龍神池で吉助の他殺死体が発見され、智一に殺人容疑がかかってくる・・・
ちょい役を含めるとけっこうな数のキャラが登場するが、その中でも印象的なのが2人の女性。
1人は、上にも書いたが秀二の同級生だった浅川マキ子。イラストレーターを生業にしている。32歳くらいのはずだが、童顔で独身。智一は一度会っただけで魅了されてしまい(笑)、その後も事あるごとに彼女に思いを馳せるようになる。
もう1人は佐川美緒。智一の勤務する関東大学で工学部長を務める佐川教授の娘で、大学の庶務課で働いている。36歳の智一とはかなりの年齢差(多分彼女は20歳くらい)なのだけど、智一に対する好意を隠さない積極的なお嬢さんで、かなりのミステリ好き。今回の事件にも首を突っ込んで、あれこれ推理を巡らせる。最終的に真相に辿り着くのは智一なのだけど、中盤まではほとんど彼女が探偵役を担ってる。
山蔵に入る前も、入った後も、智一は多くの関係者から話を聞いてまわるが、結局真相は藪の中。しかし、断片的に入手したこれらの情報はみな巧妙な伏線になっていて、最後の段階できれいにひとつながりになっていく。
脇筋かと思っていた智一の研究内容や建築会社との関係なども、終盤ではしっかりメインストーリーに絡んでくるし、軽く読み飛ばしてしまうような小さなエピソードでも、真相が明らかになってみると別の意味を持って立ち上がってくる。
文庫で480ページとかなりの厚さだが、冒頭から伏線の嵐で、無駄な部分がほとんどないといえる。それくらい凝ったつくりになってる。
正直に言うと、ミステリを読み慣れた人なら、事件の ”中心” にあるカラクリはけっこう早い段階で想像がついてしまうだろう。だからといって、それで全体を見通すことはできないんだよねぇ。真犯人も分からないし。作者もそのあたりまでは想定の範囲内なのだろう。
その "中心" の周りを十重二十重に分厚い謎が取り巻いていて、堅固な城のようになっている。
その壁を打ち破っていくのが、終盤の80ページにわたる "真相編"。散りばめられた伏線が総動員されて真実が明らかにされていき、ストーリーは終焉を迎える。
裏表紙の惹句には「怒濤の伏線回収に酔い痴れる」とある。「酔い痴れる」かどうかは人によるかと思う(笑)が、「怒濤の伏線回収」は "看板に偽りなし" だと云えるだろう。
最後にちょっと一言。
ミステリとしては切れ味鋭いラストなのだが、物語としての決着のつけ方は、好みが分かれるかもなぁ・・・って思った。
タグ:国内ミステリ
島津戦記 (一)・(二) [読書・歴史/時代小説]
評価:★★☆
戦国時代の薩摩国を支配する島津家に生まれた四兄弟(義久、義弘、歳久、家久)の活躍を描いていく。
物語は桶狭間の戦いから遡ること18年、天文11年(1542年)に始まる。戦国時代の真っ只中の日本で、最南端という場所にありながら、世界につながる海に臨む薩摩国。
火縄銃の伝来、宣教師ザビエルの渡来もこの時期。その後の日本を大きく変える出来事が島津から始まっているし、物語中でも大きく取り上げられている。
序盤は主に次男・義弘、三男・歳久の視点から描かれる。祖父・日新斎から受け継いだ「天下静謐」の大義、それを実現するべく明の巨大帆船の復活を夢見る兄弟たち。
戦国時代といえばどうしても信長・秀吉・家康の活躍、つまり西は畿内、東は関東あたりが舞台になることが多い。薩摩は今までの物語要素(室町幕府や三英傑)からは遠い場所で、特に私みたいに関東の人間からはなじみが薄い。
そのせいか、本書に登場する薩摩は、いままで語られてきた戦国時代の雰囲気とはいささか異なる。流れ着いた異国の姫を桜島に匿っていたり、元服の儀式がかなり異様だったり。誤解を恐れずにいえば、ファンタジーにおける異世界みたいな印象を受ける。
作者はSF小説『サマー/タイム/トラベラー』で第37回星雲賞を受賞している人。本書が戦国歴史小説としてはひと味違う理由も、そのあたりにありそう。
もちろん、九州にあっても時代の変化とは無縁ではいられない。薩摩と並行して畿内での織田信長の行動なども描かれる。面白いと思ったのは、戦国時代の某有名武将が、身分を偽って薩摩に侵入していたりする。このあたりは、今後の展開の伏線になるのだろう。
評価の星が少ないのは、「島津 "戦記"」と謳いながら、島津家の合戦シーンがかなり少ないこと。これから島津家の九州統一が始まるのだろうが、そのとっかかりまでしか描かれていない。ここで終わりならタイトル詐欺になってしまう。
思うに、本作は大河シリーズの序盤部分なのだろう。どうせなら少なくとも関ヶ原の戦いに臨む島津家までは描いてほしいし、それには最低でもこの10倍くらいの分量が必要になりそう。でもそこまで描いてこそ "戦記" って名乗れると思う。
四兄弟それぞれのキャラも上手く書き分けられてる。みな優秀なのだが、それぞれ得意分野が異なるみたい。本書の中ではまだ若いので、個別に活躍する場面が本格的に描かれるのはまだ先になりそう。
残念ながら現時点で続巻は出ていないようだ。期待してるんだけどね。
大迷宮 [読書・ミステリ]
評価:★★☆
瀬戸内海の島に隠された金塊を巡る冒険譚。
"体はゴリラ、頭脳は人間" のモンスター、『怪獣男爵』の続編である。
横溝正史・復刊シリーズ、ジュブナイルものの一編。
夏休みの終わり、13歳の立花滋(しげる)は、避暑のために軽井沢へ滞在している従兄弟の大学生・謙三(けんぞう)のもとへ向かう。その汽車の中で、滋は妙な2人組を見かける。
真夏にも関わらず三つ揃いの背広、度の強いめがね、つば広の帽子と、なんとも不気味な雰囲気を醸し出している。その男が連れているのが十七、八の少年なのだが、背広に帽子に加えて黒いサングラスに巨大なマスクと "いかにも変装" な出で立ち。
そして、マスクを外した少年の素顔を見た滋は驚く。東京の彼の家近くで興業していた「タンポポ・サーカス」で、空中ブランコに乗っていた少年・鏡三(きょうぞう)だったのだ。その後、彼はサーカスから逃げ出して行方不明になっていた。
2人は滋と同じ軽井沢駅で降り、何処かへ去った。
後日、滋は謙三とともにサイクリングに出かけるが、途中で急な夕立に遭ってしまい、古びた洋館に一夜の宿を借りることに。
その屋敷の主は鬼丸剣太郎という少年で、"世界的サーカス王" と呼ばれた鬼丸太郎の遺児だった。同居人は叔父の鬼丸次郎、そして津川という家庭教師。
剣太郎を見た滋は驚く。謙三にそっくりだったからだ。そして剣太郎は「この家の中には、もうひとり、自分と同じ人間がいる」と言い張るのだが、鬼丸次郎は神経衰弱が原因の妄想だととりあわない。
その夜、滋と謙三は恐怖の体験をする。泊まった寝室の外から聞こえた足音で目を覚ました2人は、ゴリラが廊下を歩いて行く光景を目撃する。
剣太郎の身柄を案じた2人は彼の寝室へ入るが、今度はなんと部屋の天井が落ちてくるではないか! つぶされまいと必死に抵抗する2人だったが、そのとき、何者かに薬品を嗅がされて意識を失ってしまう。
翌朝、目を覚ました2人は、屋敷の中がもぬけの空になっているのを発見する。それどころか、あちこちにほこりが積もっていて、人が住んでいた形跡が全くないのだった・・・
物語のメインルートは宝探しである。サーカスで大成功した鬼丸太郎は、財産をすべて金塊に変えて日本に持ち帰った。その後、瀬戸内海の島を手に入れ、その地下に巨大な迷宮を建設、その奥の金庫に金塊が収められた。
そしてその金庫の鍵は、鬼丸太郎の遺児の体に隠されたという。剣"太郎"、鏡"三"、とくれば、2人の間にもう1人いるはず、つまり三つ子なのだろうという推測が簡単にできる。つまり怪獣男爵は三つ子に隠された三つの鍵を狙っているのだ。
主役の滋、謙三に加えて今回は金田一耕助、等々力警部が登場して怪獣男爵と対決する。このあたりの丁々発止の描写は、希代のストーリーテラー・横溝正史ならでは。
ただ、読んでみて思ったのは「怪獣男爵」というキャラクターが特異すぎて、ホラー小説の主役としてはまだしも、ミステリに登場させるには、いささか使い勝手が悪そうだなぁ、ということ。
二十面相のように変装して登場人物に紛れ込む、なんてことは不可能。その代わりに普通の人間の手下は縦横に使いこなすのだけど、本人はなかなか表に出てこない。というか表に出しにくいのではないかな。
横溝正史という巨匠でも、ちょっと持て余してるような気がしないでもない。
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聖闘士星矢 The Beginning : Knights of the Zodiac [映画]
『聖闘士星矢』の原作マンガを読み出したのは連載開始からかなり経ってから。ポセイドン編あたりからだと記憶してる。それも書店での立ち読みだった(おいおい)。単行本を買ったこともない。
TVアニメもほとんど観てない。映画版は何本か観た。実家の近くにレンタルビデオ店があったので借りた。VHSテープの時代だったなぁ。
要するに、私は『聖闘士星矢』の熱心なファンではなかったということだ。そんな私がこの映画を観て思ったことをつらつら書いてみる。
まずはあらすじから。
星矢(新田真剣佑)は幼い頃、姉を何者かに連れ去られ、今ではスラム街の地下格闘場で戦う日々を過ごしていた。
ある日、戦いの中で不思議なパワーを発した星矢は謎の集団に狙われるようになる。その襲撃のさなか、星矢の前に現れた男アルマン・キド(ショーン・ビーン:磯部勉)は、星矢のパワーが自身の中に秘められた「小宇宙(コスモ)」と呼ばれるものであること、そして女神アテナの生まれ変わりである女性シエナ(マディソン・アイズマン:潘めぐみ)を守ることが運命だと告げる。
聖矢を襲い、シエナを狙う組織のリーダーはヴァンダー・グラード(ファムケ・ヤンセン:井上喜久子)。彼女はアテナの覚醒は世界に破滅をもたらすと信じていた。
聖矢は白銀聖闘士[シルバーセイント]のマリン(ケイトリン・ハトソン:瀬戸麻沙美)のもとで修行し、「小宇宙(コスモ)」の制御を学ぶが、シエナの居所を突き止めたグラードが襲来してくる・・・
結論から言うと、原作の『聖闘士星矢』とは ”別もの” と思って観た方がいい。マンガやアニメの ”再現” を期待すると当てが外れるだろう。
主役の聖矢からして ”少年” ではないし、アテナも ”少女” ではない。聖衣(クロス)のデザインにも変更が加わってるし、ストーリーも(大筋はともかく)細かいところはかなり違う。
原作者自身も、聖衣のデザイン変更をはじめ製作にけっこう関わってるみたいだし、製作資金は全額、東映アニメーションが出資してるとか。
そういう意味では、日本側もかなり「一本の ”映画” として成立させるための努力」を注ぎ込んでいるのだろう。この場合の ”映画” とは、”海外でも日本でも通用する映画” という意味だ。
製作者の姿勢としては理解できるけど、ファンがそれを受け入れるかは、また別問題だ。
冒頭にも書いたように、私自身は熱心なファンではないので「こういうのもアリかな」とは思ったし、それなりに楽しんで観たけれど、ガマンできない人や怒り出す人もいるんだろうなとは思う。
実際、上映の途中で席を立って出ていく人もちらほら。みたところ、私と同年配くらいか。原作マンガの連載をリアルタイムで追いかけていた世代の方たちとお見受けする。単にお手洗いが近かっただけかも知れんが(おいおい)。
あと、思いついたことをいくつか。
主演の新田真剣佑さんは健闘してると思う。アクションの切れもいいし、体格もいいので、欧米人に混じっても見劣りしない。日本人でこういう俳優さんが出てきたことは素直に嬉しく思う。
映画の前半は実写の肉弾戦が多かったと思うのだけど、後半にいくに従ってCGが増えていく。これは善し悪しかな。
画面に派手さは出てくるけど、同時に ”つくりもの感” も増していく。聖闘士はあくまで ”肉体で戦う” ものだというイメージがあるので、CGを否定するわけじゃないが、使いどころはもう少し考えたほうがいいような気もしてる。
私が観たのは吹替版で、真剣佑さんは自分の声を自分で演じてるんだが、声優としてはとても達者で問題ない。アニメ映画『二ノ国』でも上手だったので心配してなかったけどね。
ネロ(鳳凰星座の一輝に相当するキャラ)役は浪川大輔さんが演じるなど、脇を固める声優さんもベテランを揃えて豪華。
シエナ/アテナ役は潘めぐみさん。TVアニメではお母さんの潘恵子さんが演じていた役。話題づくりの一環かとも思うが、めぐみさん自身、キャリアも実力も十分な方なので納得の起用。
めぐみさんの声と恵子さんの声は、今まで似ているとは思ってなかったんだけど、映画のクライマックスシーンでの台詞を聞いていたら、彼女の声にお母さんの声が重なって聞こえた気がしたよ。気がしただけだけど(笑)。
この映画は、タイトルに「Beginning」とあるように、長大な原作の序章部分という位置づけだ。噂によると全6部作だとか(ホントかどうか知らんけど)。
実際、次作へ向けての伏線も張ってあるし、製作陣は作る気まんまんなのだろう。問題は興行収入だね(笑)。
『聖闘士星矢』の醍醐味は、「聖矢たち5人の青銅聖闘士 vs 敵勢力」の団体戦、そして戦いの最中に交わされる熱い台詞の応酬にあると思う。これは「Beginning」には全く無かった要素なので、ある意味『聖闘士星矢』は次章からが本番とも言える。
作ってくれたら観に行こうとは思ってるのだけど、さて、どうなるか。