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少女は鳥籠で眠らない [読書・ミステリ]


少女は鳥籠で眠らない (講談社文庫)

少女は鳥籠で眠らない (講談社文庫)

  • 作者: 織守 きょうや
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/07/12
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 主人公・木村龍一は、仕事の中に理想を求めるような、青臭さの残る新米弁護士。相棒の高塚は、酸いも甘いも噛み分けた、そろそろベテランの域に入ろうとしている中堅弁護士。
 このコンビが、持ち込まれた奇妙な事件、不可解な依頼人の行動、その裏に隠されていた意外な事実を解明していくリーガル・ミステリ・シリーズ、第1巻。


「黒野葉月は鳥籠で眠らない」
 21歳の大学生・皆瀬理人(みなせ・りひと)が逮捕された。罪状は、彼が家庭教師をしていた教え子で15歳の高校1年生・黒野葉月(くろの・はづき)に対する淫行だ。木村は理人の弁護を引き受けることに。
 彼が2人に事情を聞いたところ、どうやら理人にはその気は無く、葉月の方が一方的に想いを寄せて彼に "迫っていった" のが真相らしい。しかも途中で親に見つかって "未遂" に終わったという(あれあれ)。
 しかし事情はどうあれ、未成年の相手と "そういうシチュエーション" になってしまえば、現行法では男の方が圧倒的に不利だ。
 葉月の両親は「娘との今後一切の接近禁止」を条件として示談を提案するが、なぜか理人はそれを拒否する。起訴されれば、理人には一生 "前科者" の烙印が押されてしまうにも関わらず・・・
 "優柔不断な草食系の優男" の理人くんと、"果敢な決断と実行力でパワーに満ち溢れた" 葉月さんとの対比が面白い。
 終盤に於ける彼女の行動は意表を突くもの。
「いやぁ、若いってすげぇなァ~」
 葉月さんの突破力が "最後に全部持っていってしまう" 一編だ。


「石田克志は暁に怯えない」
 木村のロースクール時代のクラスメイトだった石田克志(いしだ・かつし)が逮捕された。罪状は住居侵入。しかし侵入した先は彼の父・武徳(たけのり)の家だった。克志の両親は彼が子どもの頃に離婚し、克志は母子家庭で育っていた。
 木村は彼の弁護を引き受けるべく、警察に出向いていく。
 克志は4年前、妻の妊娠を機にロースクールを中退していた。3歳になる子は心臓に障害を抱えており、心臓移植以外に助かる方法はない。しかしそれには数千万円の資金が必要だ。
 資産家である父・武徳に資金援助を求めていったが断られた。それならと家の金庫を狙って侵入し、逮捕されたのだという。
 後日、木村は克志と共に武徳を再訪するが、その場で「これから遺言書を書き換え、克志を廃除する」と宣告されてしまう。”廃除” とは「遺産相続人から外す」という意味だ。
 そしてその夜、武徳が殺害され、克志が犯人として逮捕される。相続権を失った身なのに、なぜ彼は父親を殺したのか・・・?
 今回、克志の行動の目的を解明するのは高塚。同時に、彼の弁護も木村から引き継ぐのだが。このときの彼の台詞がいい。弁護活動を仕事と割り切っている彼なのだが、それだけではない、彼の人間性が垣間見える。
 そして、克志の "父親としての愛情" が胸を打つ。本書の中でもいちばんの感動作だ。


「三橋春人は花束を捨てない」
 木村の行きつけの弁当屋で働く深浦葵子(みうら・あおいこ)。彼女から持ち込まれたのは離婚の相談だった。
 彼女の高校時代の後輩でる三橋春人(みはし・はると)の妻・美紅(みく)が浮気をしているという。春人は結婚生活の継続は不可能と考え、離婚を求めていた。彼の求める条件はただ一つ。1歳の娘の親権をとることだった。
 一般に離婚において父親が親権をとることは難しいそうだ。しかし木村は、夫婦の生活が破綻した責任が美紅にあることを示し、首尾良く親権を勝ち取ろうと奔走するのだが・・・
 終盤に明らかになる春人の思惑には、驚きを通り越して恐ろしささえ感じてしまう。本作は発表年の短編ミステリの傑作として、日本推理作家協会の年鑑アンソロジーにも収録されたもので、ミステリ的な切れ味は本書でいちばんだ。


「小田切惣太は永遠を誓わない」
 小田切惣太は芸術家として成功し、巨大な資産を得ていた。しかし、かつて彼は家族に芸術の道へ進むことに反対され、十代の頃に勘当されたことから現在は関係を断っている。
 四十代となった彼の資産管理を任されたのが高塚だった。木村は彼とともに小田切宅を尋ね、彼と同居する若い女性・瑤子(ようこ)を目にする。てっきり年の離れた妻かと思った木村だが、高塚から彼女は惣太の娘なのだと知らされる。しかし2人の仲睦まじさは、どうみても親娘のそれではない。いったい、どういうことなのか・・・?
 終盤に明らかになるのは、2人の関係に隠された真実。それは瑤子を愛するが故の、小田切の深謀遠慮のもたらしたもの。美しいが、切なく哀しい結末だ。



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