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大迷宮 [読書・ミステリ]


大迷宮 (角川文庫)

大迷宮 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/08/24
  • メディア: 文庫

評価:★★☆


 瀬戸内海の島に隠された金塊を巡る冒険譚。
 "体はゴリラ、頭脳は人間" のモンスター、『怪獣男爵』の続編である。
 横溝正史・復刊シリーズ、ジュブナイルものの一編。


 夏休みの終わり、13歳の立花滋(しげる)は、避暑のために軽井沢へ滞在している従兄弟の大学生・謙三(けんぞう)のもとへ向かう。その汽車の中で、滋は妙な2人組を見かける。

 真夏にも関わらず三つ揃いの背広、度の強いめがね、つば広の帽子と、なんとも不気味な雰囲気を醸し出している。その男が連れているのが十七、八の少年なのだが、背広に帽子に加えて黒いサングラスに巨大なマスクと "いかにも変装" な出で立ち。
 そして、マスクを外した少年の素顔を見た滋は驚く。東京の彼の家近くで興業していた「タンポポ・サーカス」で、空中ブランコに乗っていた少年・鏡三(きょうぞう)だったのだ。その後、彼はサーカスから逃げ出して行方不明になっていた。
 2人は滋と同じ軽井沢駅で降り、何処かへ去った。

 後日、滋は謙三とともにサイクリングに出かけるが、途中で急な夕立に遭ってしまい、古びた洋館に一夜の宿を借りることに。
 その屋敷の主は鬼丸剣太郎という少年で、"世界的サーカス王" と呼ばれた鬼丸太郎の遺児だった。同居人は叔父の鬼丸次郎、そして津川という家庭教師。

 剣太郎を見た滋は驚く。謙三にそっくりだったからだ。そして剣太郎は「この家の中には、もうひとり、自分と同じ人間がいる」と言い張るのだが、鬼丸次郎は神経衰弱が原因の妄想だととりあわない。

 その夜、滋と謙三は恐怖の体験をする。泊まった寝室の外から聞こえた足音で目を覚ました2人は、ゴリラが廊下を歩いて行く光景を目撃する。
 剣太郎の身柄を案じた2人は彼の寝室へ入るが、今度はなんと部屋の天井が落ちてくるではないか! つぶされまいと必死に抵抗する2人だったが、そのとき、何者かに薬品を嗅がされて意識を失ってしまう。

 翌朝、目を覚ました2人は、屋敷の中がもぬけの空になっているのを発見する。それどころか、あちこちにほこりが積もっていて、人が住んでいた形跡が全くないのだった・・・


 物語のメインルートは宝探しである。サーカスで大成功した鬼丸太郎は、財産をすべて金塊に変えて日本に持ち帰った。その後、瀬戸内海の島を手に入れ、その地下に巨大な迷宮を建設、その奥の金庫に金塊が収められた。

 そしてその金庫の鍵は、鬼丸太郎の遺児の体に隠されたという。剣"太郎"、鏡"三"、とくれば、2人の間にもう1人いるはず、つまり三つ子なのだろうという推測が簡単にできる。つまり怪獣男爵は三つ子に隠された三つの鍵を狙っているのだ。

 主役の滋、謙三に加えて今回は金田一耕助、等々力警部が登場して怪獣男爵と対決する。このあたりの丁々発止の描写は、希代のストーリーテラー・横溝正史ならでは。


 ただ、読んでみて思ったのは「怪獣男爵」というキャラクターが特異すぎて、ホラー小説の主役としてはまだしも、ミステリに登場させるには、いささか使い勝手が悪そうだなぁ、ということ。
 二十面相のように変装して登場人物に紛れ込む、なんてことは不可能。その代わりに普通の人間の手下は縦横に使いこなすのだけど、本人はなかなか表に出てこない。というか表に出しにくいのではないかな。
 横溝正史という巨匠でも、ちょっと持て余してるような気がしないでもない。



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