島津戦記 (一)・(二) [読書・歴史/時代小説]
評価:★★☆
戦国時代の薩摩国を支配する島津家に生まれた四兄弟(義久、義弘、歳久、家久)の活躍を描いていく。
物語は桶狭間の戦いから遡ること18年、天文11年(1542年)に始まる。戦国時代の真っ只中の日本で、最南端という場所にありながら、世界につながる海に臨む薩摩国。
火縄銃の伝来、宣教師ザビエルの渡来もこの時期。その後の日本を大きく変える出来事が島津から始まっているし、物語中でも大きく取り上げられている。
序盤は主に次男・義弘、三男・歳久の視点から描かれる。祖父・日新斎から受け継いだ「天下静謐」の大義、それを実現するべく明の巨大帆船の復活を夢見る兄弟たち。
戦国時代といえばどうしても信長・秀吉・家康の活躍、つまり西は畿内、東は関東あたりが舞台になることが多い。薩摩は今までの物語要素(室町幕府や三英傑)からは遠い場所で、特に私みたいに関東の人間からはなじみが薄い。
そのせいか、本書に登場する薩摩は、いままで語られてきた戦国時代の雰囲気とはいささか異なる。流れ着いた異国の姫を桜島に匿っていたり、元服の儀式がかなり異様だったり。誤解を恐れずにいえば、ファンタジーにおける異世界みたいな印象を受ける。
作者はSF小説『サマー/タイム/トラベラー』で第37回星雲賞を受賞している人。本書が戦国歴史小説としてはひと味違う理由も、そのあたりにありそう。
もちろん、九州にあっても時代の変化とは無縁ではいられない。薩摩と並行して畿内での織田信長の行動なども描かれる。面白いと思ったのは、戦国時代の某有名武将が、身分を偽って薩摩に侵入していたりする。このあたりは、今後の展開の伏線になるのだろう。
評価の星が少ないのは、「島津 "戦記"」と謳いながら、島津家の合戦シーンがかなり少ないこと。これから島津家の九州統一が始まるのだろうが、そのとっかかりまでしか描かれていない。ここで終わりならタイトル詐欺になってしまう。
思うに、本作は大河シリーズの序盤部分なのだろう。どうせなら少なくとも関ヶ原の戦いに臨む島津家までは描いてほしいし、それには最低でもこの10倍くらいの分量が必要になりそう。でもそこまで描いてこそ "戦記" って名乗れると思う。
四兄弟それぞれのキャラも上手く書き分けられてる。みな優秀なのだが、それぞれ得意分野が異なるみたい。本書の中ではまだ若いので、個別に活躍する場面が本格的に描かれるのはまだ先になりそう。
残念ながら現時点で続巻は出ていないようだ。期待してるんだけどね。