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法月綸太郞の消息 [読書・ミステリ]


法月綸太郎の消息 (講談社文庫)

法月綸太郎の消息 (講談社文庫)

  • 作者: 法月綸太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/10/14
評価:★★★


 名探偵・法月綸太郎(のりづき・りんたろう)シリーズの短編集。長めの短編3作と、中編1作を収録してる。麟太郎の安楽椅子探偵ぶりが冴える2編を、海外の名探偵の双璧であるホームズとポアロに関する "ある考察" を描いた2編で挟むという構成。


「白面のたてがみ」
 綸太郎は、フリージャーナリストの飯田才蔵から、ある原稿を見せられる。それはオカルト研究の大家だった堤豊秋が遺した講演原稿だった。
 堤はその原稿の中で、コナン・ドイルが執筆したホームズ譚の中で、ワトソンが登場しない2作「白面の兵士」「ライオンのたてがみ」は、"ホームズの霊"(正確にはホームズのモデルとされるジョゼフ・ベル博士の霊)が語った内容を記述したものだという説を唱えていたのだ。ドイル自身、第一次大戦後あたりから心霊主義に入れ込んでいたのはけっこう有名な事実だ。
 後半に入ると、「ブラウン神父」シリーズ(作者のチェスタトンはドイルと同時代の人)まで登場となかなか賑やか。
 世にはシャーロッキアンという方々もいて、ホームズ研究なんて出尽くしてるんじゃないかと思うけど、いやあいろんな切り口があるものだ。


「あべこべの遺書」
 イベント企画会社の社長・益田貴昭の住むマンションの8階から男が転落死した。しかし遺体は薬剤師・一ノ瀬篤紀のものだった。そして一ノ瀬の住むマンションの部屋では、益田の服毒死体が発見される。
 どちらも自殺と思われたが、現場に残されていた遺書はあべこべだった。遺書が入れ替えられたのか?、人間が入れ替わって自殺したのか?
 何がどうしたらこういう状況が起こりうるのか? 謎としてはとても魅力的なのだけど、それを可能とする筋書きは・・・かなり綱渡りというか、針の穴にラクダを通すような離れ業が展開される。
 これを「超絶技巧」と思うか「無理矢理」と思うか。私は55対45くらいで前者かな。まあ、こういうのばかり読まされたらちょっと考えてしまうが、たまにはいい。


「殺さぬ先の自首」
 四谷署に男が現れ、こう云った。「人を殺した。自首するから逮捕してくれ」
 男の名は棚橋洋行。殺した相手は画廊〈ギャラリー藍〉のオーナー・藍川佐由美。前日の夜に殺したというが、警察が本人に連絡を取り、無事が確認された。
 しかしその2日後、佐由美の他殺死体が〈ギャラリー藍〉で発見される・・・
 「あべこべ-」と同様、謎としては魅力的だが、こちらの真相も負けず劣らずかなりの無理を通してる感じ。


 「あべこべ-」と「殺さぬ-」はどちらも綸太郎と父親の法月警視の会話で進行する。綸太郎が次々と「こうではないですか」と仮説を繰り出していき、それに対して法月警視がダメ出しをするという展開で、推理と云うよりは思考実験という趣き。出てきた結論も(おそらくそれが真相なのだろうが)その場では確認できず「その線で当たってみよう」という法月警視の言葉で締められる。


「カーテンコール」
 人気劇団「アルゴNo.2」(アルゴノーツ)がアガサ・クリスティーの『像は忘れない』を舞台化することになった。劇団の人気俳優・ロザムンド山崎から綸太郎に監修を求めてきた。それを受けた綸太郎はクリスティの著作を読み返すうちに、"あること" に気づく・・・
 中盤からは、舞台化に向けた勉強会が始まる。そこで繰り広げられる議論で取り上げられたのは、名探偵エルキュール・ポアロ最後の事件である『カーテン』について。
 それは、この作品の結末について、クリスティーは密かに "ある企み" を仕込んでおいたのではないか、というもの。そのために、過去の作品の中の記述に伏線が蒔いてあったのだ、と。
 参加者は、当然ながらみんなクリスティーのファンばかりで、肯定/否定の激しい論議が起こっていく・・・
 クリスティーが、ポアロ最期の事件に ”わかる人にはわかる” 仕掛けを施しておいた、というのはなかなか魅力的な設定ではある。しかしそれを証明する根拠となる ”過去の作品中の記述” というのも断片的だし、「そういう解釈も出来なくはない」というレベルではある。
 でも、本書の他の短編と同様に「思考実験」としてはとても楽しかった。クリスティーのファンなら一読に値すると思う。ただ、そのためにかなりの作品についての言及がある。
 もちろんだが『カーテン』についてはネタバレも含んでいるし、それ以外の作品(ちょっとマイナーかと思われる)も採り上げられている。巻末には "参考文献" として20作ほど挙げられているので、できればそれらは読んでおいた方がいい。

 私自身は、2003年から刊行された早川書房のクリスティー文庫(全102冊)のうち、(非ミステリ等を除いた)80冊くらいは読んでる。月1冊のペースで読んでたから、足かけ7年くらいかかったかな。
 いわゆる "超有名作" 以外の作品もけっこう面白かったのを覚えてる。当たり外れの少ない人だったんだね。"ミステリの女王" の名は伊達じゃない。

 


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