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銀色の国 [読書・冒険/サスペンス]


銀色の国 (創元推理文庫)

銀色の国 (創元推理文庫)

  • 作者: 逸木 裕
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/02/20




  • 評価:★★★☆


 自殺対策NPO法人で働く田宮晃佑(たみや・こうすけ)のもとに、かつての相談者が自殺したという連絡が入る。「何者かによって死に誘導されたのではないか?」疑念を抱いた晃佑は調査を始め、やがてSNS上の自助グループ〈銀色の国〉の存在を知る・・・


 まず「プロローグ」では、小林詩織という女性が、あるトラブルに巻き込まれるエピソードが語られる。
 つづく本編では、2人の人物を中心に据えたストーリーが語られる。

 NPO法人〈レーテ〉は自殺対策を目的に田宮晃佑が設立した。死につながるような悩みを持つ人との面談や、自殺対策の講演などを主な業務にしている。しかしすべての自殺を止めることなど不可能なこと。晃佑は、相談者が死ぬたびに未だ深い無力感を感じる日々だ。

 そんなとき、かつて相談者だった市川博之が自殺したとの連絡が入る。晃佑の働きかけによって立ち直ったはずで、遺族も原因がわからないという。
 遺品の中にはVRゴーグルがあった。無くなる前の博之は、異様なほどVRにのめり込んでいたという。晃佑は、博之が何らかの方法で死へ誘導されたのではないかとの疑念を持ち、友人のゲームクリエイターの城間宙(しろま・ちゅう)とともに調査を始める・・・

 もう一人の主人公は浪人生・外丸(とまる)くるみ。交際相手に裏切られ、入試にも失敗、母が病死したことがきっかけで家庭も崩壊している。SNSへも、死をほのめかすような投稿を繰り返している。
 そんなとき、彼女のフォロワーの一人から、自助グループ〈銀色の国〉への参加を誘われる。興味を抱いたくるみは、〈銀色の国〉に参加するためのアイテムを受け取ることに。それはVRゴーグルだった。
 参加者はアバターとなって、他の参加者たちと交流したりゲームをする。それが〈銀色の国〉だった。自分を肯定してくれる〈銀色の国〉に居場所を見いだしたくるみは、辛い現実から目を背けるようになっていく・・・


 この2人のパートが交互に語られていき、中盤にさしかかると「プロローグ」で登場した小林詩織が再び姿を現す・・・のだが、読者は彼女がここでトンデモナイ状況におかれていることを知る。
 どうドンデモナイのかは書かないが、これほどまでの "悪意" に翻弄される状況というのは、希有だろうと思う。心は痛むし胸は悪くなるし、先を読み進めるのが辛くなるのだが・・・

 そして後半に入ると、晃佑とくるみのパートが絡み合いだしていく。〈銀色の国〉が実は自殺誘導サイトであり、近い将来、参加者たちを集団自殺に追い込もうとしているのではないか? しかし晃佑の危惧は周囲に理解されず、孤軍奮闘を強いられてしまう・・・


 脇役陣の描写もいい。理想を追う晃佑に対し、同僚の井口美弥子(いぐち・みやこ)は「止められない自殺は、どうしたって止められない」と言い切る、徹底的なリアリスト。
 晃佑の協力者となる城間宙は、過去に起きた "あるスキャンダル" で、ゲーム業界からは "追放" された身の上。
 しかし、この2人もひたむきな晃佑の行動によって変化を受けていく。


 終盤では、迫り来る集団自殺を阻止すべく、〈銀色の国〉の "主催者" を突き止めようというタイムリミット・サスペンスの様相を呈してくる。
 "犯人当て" ではないのだが、序盤から登場しているある人物が後半のキーパーソンになっていたり、 "主催者" の居所を突き止めるための伏線が張ってあったりと、ミステリ的な構成はしっかり組み込まれている。


 くるみに代表されるような、自己肯定感が持てず、自分の存在意義を感じられない人々の苦悩もじっくり描かれている。じっくり過ぎて、読んでいる方が気分が落ち込んでいくほどなのだが、作者が用意したラストには、希望の萌芽がしっかり描かれており、ちょっとほっとした気分で本を閉じられる。



タグ:サスペンス
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