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楽園の烏 [読書・ファンタジー]


楽園の烏 八咫烏シリーズ (文春文庫)

楽園の烏 八咫烏シリーズ (文春文庫)

  • 作者: 阿部 智里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/10/05

 八咫烏(やたがらす)の一族が支配する異世界・山内を舞台にしたファンタジー・シリーズ、第2部の1巻目である。第1部から20年後の世界が描かれる。


 本書の主人公は安原はじめ。新宿の一角でたばこ屋を経営している男だ。三十路を越えて未だ独身という気楽な生活を謳歌していた。
 彼の父親・作助(さくすけ)は失踪していたが、7年経過したために法的には死亡扱いとなり、彼の子どもたちは遺産を相続することになった。はじめに遺されたのは「山」であった。

 僻地にあって財産的には二束三文だったが、なぜか「山を売ってくれ」という者が続々と現れる。
 訝しむはじめのもとに、"幽霊" と名乗る謎の美女がやってくる。
「あなたのお父様に頼まれた。あの山の秘密を教えましょう」

 "幽霊" に導かれるまま、はじめは「山」の "中" へと入っていき、やがて異世界・山内へと到達する。


 山内は雪斎(せっさい)という男が実質的に支配していた。「山」を手に入れようとしていたのは彼の手の者だったのだ。雪斎から改めて「山」を譲ってほしいと申し入れられるが、はじめは断り、しばらくこの世界に逗留することにする。

 雪斎から付けられた世話役の青年・頼斗(よりと)を連れて、はじめは山内の見物に乗り出すのだが・・・


 始まってから10年ほどにもなるシリーズなので、第2部の開幕に当たって、全く山内について知らないはじめというキャラをメインに持ってくるのは上手いと思う。
 第1部の復習にもなるし(実際、私もけっこう忘れてた)、あまりいないとは思うが、この巻からシリーズに入る人にも興味を持ってもらえるだろう。

 ただ、この巻で展開される世界は、第1部終了時点の世界とはかなりの "断絶" がある。どこがどう違うかは書かないけど、たぶん多くの読者が戸惑うのではないかな(もちろん私も、心の中で「えーっ」って叫び通しだった)。

 もちろん、第1部から通して登場するキャラもいるけど、それもかなり "変化" してる。まあ20年も経ってるのだからね・・・

 それでも、この巻だけでも分かることがあって、それはどのキャラにも "裏の顔" がある、ということ。ところどころで意外な言動をしたりして「え? そういう設定なの?」って驚くこともしばしば。

 まあ、シリーズ第1巻『烏に単は似合わない』では、ファンタジー世界で堂々の本格ミステリを展開して見せた人だから、ここでも続巻に向けての伏線をしっかり張ってるということなのでしょう。

 巻末の解説では、次巻『追憶の烏』では、この20年間の出来事がある程度明かされるらしいんだが、「愕然とする内容」って書いてある。
 楽しみだが不穏な雰囲気も感じるなぁ・・・。でも文庫になるのが待ち遠しくはある。



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