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メカ・サムライ・エンパイア [読書・SF]

メカ・サムライ・エンパイア 上 (ハヤカワ文庫SF)

メカ・サムライ・エンパイア 上 (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/04/30
  • メディア: 文庫
メカ・サムライ・エンパイア 下 (ハヤカワ文庫SF)

メカ・サムライ・エンパイア 下 (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/04/18
  • メディア: 文庫
舞台となるのは、第二次世界大戦で日独の枢軸国側が勝利した世界。

枢軸国側は連合軍側よりも先に原子爆弾を完成、
先制使用したことによりアメリカは降伏する。時に1948年7月4日。

これによりアメリカは、ナチス・ドイツが支配する東半分と
大日本帝国が支配する西半分に分割される。
その西半分が、前作のタイトルでもある
『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(USJ:日本合衆国)と
呼ばれる地域で、こちらは1988年のUSJを舞台としていた。

 本書は『USJ』に続くシリーズ第2作だが、
 前作とストーリー上のつながりはないので
 本書から読んでも全く問題なく楽しめる。

戦後の日独は、こちらの世界の米ソのように冷戦状態にあるらしく、
日本軍の内部ではドイツが仮想敵国となっている。
USJ国内の反政府組織は、ドイツから武器の供給を受けつつも
日独の共倒れを狙って暗躍をつづける。
そんな両国の緊張が高まっている1994年から本書は始まる。

タイトルの「メカ」とは、人間型の巨大ロボット兵器。
『機動戦士ガンダム』のように、この世界では巨大ロボットが
軍の制式兵器となっていて、そのパイロットは軍のエリートだ。

 前作『USJ』にもメカは登場していたが、
 メカそのものによるアクション・シーンはさほど多くなく、
 人捜しをメインにしたサスペンスといった雰囲気が強い。
 本作は前作よりもメカ・アクションは20倍増し(笑)くらい
 大増量されいて、巨大ロボットの戦闘シーンがてんこ盛り。
 ロボットアニメのファンの人にこそ勧めたい。

本書は、主人公の少年が友人や同期の仲間と共に
幾多の障害や危機を乗り越えてメカ・パイロットとなり、
トップエースへと成長していく物語だ。

 『ガンダム』って書いたが、ストーリー展開も
 けっこう日本のロボットアニメのフォーマットを思わせる、
 というか、明らかに意識的になぞっているのだろう。
 だから、もしあなたが日本のロボットアニメのファンなら
 間違いなく本書を楽しめる。私がそうだったから(笑)。

これから内容紹介に入るんだけど、
けっこうストーリーの展開を明かしてしまっている。
致命的なネタバレはしていないつもりなんだけど、
もしここまでの文章を読んで本書に興味を持った方は
以下の文章は読まずに、書店に行くかネットでポチることを推奨する。

主人公は高校生の不二本誠(ふじもと・まこと:マック)。
メカ整備兵だった父、メカ搭乗員だった母を
反政府組織との戦闘で喪った彼は、自らもメカのパイロットになるべく
士官学校の入学試験に向けて励んでいた。

とは言っても、幼い頃に孤児になってしまったせいもあって
典型的な ”こじらせ男子” に育ってしまい(笑)、
成績も芳しくなく、筆記試験で受かる可能性は限りなく小さい。
そこで実技試験(メカ操縦)での一発逆転を目指し
日夜、操縦シミュレーションに没頭している。

 受験勉強の一環とはいいつつ、読んでいて思うのは
 これではほとんど廃人レベルのゲーム中毒者だ。
 運動もしないから肥満気味で、体力もない(おいおい)。
 PCゲームに狂っていた、30年前の自分を思い出す(遠い目)。

読んでいて全く合格すると思えないんだが、予想通り落ちる(笑)。
まあ、試験中に意外なトラブルが起こったりするなど
不運な面もあるのだが・・・

試験に落ちて失意の日々を送っていたマックだが、
彼の住む町を反政府組織NARAのメカが襲撃してくる。

たまたま校内にいたマックは、居合わせた優等生の橘範子(ノリ)とともに
訓練用に配置されていたメカに乗り込み、NARAのメカに立ち向かう。

 このあたり、まさにロボットアニメの王道展開だね。
 ちなみに、ノリはしっかり士官学校に合格している。

2人は味方の迎撃部隊の到着まで持ちこたえることに成功し、
マックはその功績で民間の警備会社RAMDET(緊急機動防衛隊)の
メカパイロットとして推薦されることになる。

物語はこの後、RAMDETに入ったマックが厳しい訓練に耐えながら、
同期の仲間たちと友情を育んでいく様が綴られる。

そして、輸送列車の警備任務に就いたマックたちは
襲撃してきたNARAのメカと壮絶な戦いを展開、
多くの犠牲者を出しながらも撃退に成功する。
軍もマックたちのパイロットとしての技量を認め、
士官学校への特例入学が許可される。
ここまでが上巻。

下巻では、晴れて士官学校生となったマックが
旧友と再会したり新たな仲間や先輩を得て、
メカパイロットとしても成長していく様が描かれていく。

序盤では、ひ弱なオタク少年として登場したマックだが
幾多の修羅場をくぐり抜け、体形も引き締まり(笑)、
精悍さとたくましさを身につけた青年へと変貌、
下巻では、まさに別人のようなヒーロー・キャラに。

登場人物たちもアニメっぽい。

高校の同級生で、後に士官学校で再会するノリは、典型的な優等生。
(タチバナ・ノリコというのはタカヤ・ノリコのもじりか?)
メカ戦ではトップクラスのエース・パイロットだが
口調は「~ですわよ」と、カズミお姉様かお蝶夫人か(笑)。

RAMDETでの同期で、マックと共に特例入学を果たす千衛子(ちえこ)は
NARAに殺された恋人の復讐を心に誓う、オトコマエなお嬢さん。

前巻にも登場したメカ・パイロットの久地樂(くじら)は
行動こそ奇矯だが、天才的な操縦テクニックは他の追随を許さない。
口を開けば関西弁が飛び出すんだが、これがまたぴったりはまってる。

 前作でも思ったが、本シリーズの訳者である
 中原尚哉さんのセンスは素晴らしい。

前巻に引き続き登場するキャラがもう1人、
特高(特別高等警察)課員の槻野昭子女史も
出番は少ないが要所要所で姿を見せる。
クールで非情で国粋主義な姐御であるところは相変わらずだが(笑)。

そしてメインヒロインとなるのは、日独のハーフである
ドイツ人少女、グリゼリダ・ベリンガー。
マックが通っていた高校では交換留学生として登場し、
上巻での出番は少ないが、下巻ではストーリーのキーマンとなる。

メカ設定もよくできてる。
いかにも ”機械” という大日本帝国のメカに対し、
ナチスドイツが繰り出してくるのは、金属のフレームを生体組織で覆った
「バイオメカ」と呼ばれる二足歩行するトカゲのようなロボット兵器。
その禍々しい姿は文庫版の表紙イラストにもなってる。
しかも、従来の武器が通用しないという厄介な強敵だ。

クライマックスはもちろん、マックをはじめとする
士官学校のトップエースたちによる壮大な戦闘シーンだ。

 ここで主人公たちが搭乗する機体が
 ”開発中の試作機” というところも
 いかにもロボットアニメらしくていいよねぇ。


ここまで書いてきて改めて思ったが
このままロボットアニメの原作になりそうな話。
上下巻それぞれを6話ずつに分割すれば、
1クール12話の作品のできあがりだ。

次作はいよいよ三部作の完結編となる、
『サイバー・ショーグン・レボリューション』。
時間軸は一気に飛んで本書の23年後くらいになるらしい。
物語はどんな着地を見せてくれるのでしょう。楽しみです。


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