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片桐大三郎とXYZの悲劇 [読書・ミステリ]

片桐大三郎とXYZの悲劇 (文春文庫)

片桐大三郎とXYZの悲劇 (文春文庫)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/08/03
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

片桐大三郎は往年の大スター。

歌舞伎の名家に生まれながらも、十代後半で映画界に入り、
たちまち大人気となって日本を代表する銀幕スターとなる。
世界的な映画監督・小御角勲の作品では何本も主演を務め、
テレビの時代に入るとすかさず連続時代劇ドラマに出演、
高視聴率の長寿番組となって日本人なら知らぬ者のない大御所となった。

萬屋錦之介と三船敏郎と高橋英樹と松平健を会わせたような
スーパースターとなるのだが、長年の無理がたたったのか
古希を過ぎた頃に突然聴力を失ってしまう。

すっぱり俳優業を引退した後は、自ら立ち上げた芸能事務所の
社長に納まっていたのだが、あるとき、迷宮入りしかかった事件を
見事に解決し、卓越した推理力を持っていることを示してしまう。


以来、犯罪捜査に首を突っ込むことを ”趣味” としている。
なにせ、泣く子も黙る大スターである。
事件の関係者のもとへ乗り込んでいって、その顔を見せれば
相手はびっくり仰天、思わず質問に答えてしまう・・・というわけで
犯罪捜査において、彼の行く手を阻む者は存在しない(おいおい)。

聴力を失った老俳優が探偵役・・・といえば
エラリー・クイーンの古典的名作シリーズ「悲劇四部作」だが、
本書のタイトルもそのものずばり「XYZの悲劇」である。

うら若き付き人・野々瀬乃枝(ののせ・のえ)を
助手代わりにこき使いながら(笑)、
大三郎が解決した4つの事件を綴る、連作ミステリだ。

「冬の章 ぎゅうぎゅう詰めの殺意」
朝のJR山手線。殺人的な通勤ラッシュに揉まれて息も絶え絶えの乃江。
しかし彼女が新宿駅で降りたとき、目の前にいた男が倒れてしまう。
なんと、背中から猛毒のニコチンを注射されていたのだ。
朝の通勤電車内の殺人、と原典の『Xの悲劇』と
同じシチュエーションなんだが、もちろん本作はオリジナル展開。
被害者の服に開いていた注射針の跡から
真相まで導いていく大三郎は、ドルリー・レーンに負けてないね。

「春の章 極めて陽気で呑気な凶器」
日本画家の秦洋次(はた・ようじ)が自宅で撲殺される。
殺害現場は倉庫で、周囲にはスパナやバールや木刀をはじめ、
撲殺する凶器としてふさわしい(笑)道具が多数あったにも関わらず
犯行に使われたのは、なんとウクレレだった(おいおい)。
ヨーク・ハッターならぬヨージ・ハタ、なんだね(笑)。

「夏の章 途切れ途切れの誘拐」
実業家・貴島透夫妻が外出中にベビーシッターが殺され、
生後8か月になる乳児が誘拐されてしまう。
犯人からの要求により、3億円の身代金が用意されて
母親に扮した婦人警官が受け渡し場所へ向かうことになった。
犯人からは携帯電話で細かく移動の指示が来るが、
なぜか何度も、電話が途中で切られてしまう。
電波のトラブル等ではなく、犯人が自ら通話の最中に切ってしまうのだ。
いったい何が起こっているのか・・・
”途切れ途切れ” の理由は、思わず脱力してしまう
バカミスレベルなんだが、明らかになった真相は・・・
本書は基本的にユーモア・ミステリなんだが、
笑っていると次の瞬間、どーんと落とされてしまう。

「秋の章 片桐大三郎最後の季節」
巨匠・小御角監督の未発表シナリオ(と思われるもの)が発見される。
その真贋を確かめるべく、そのシナリオの現物が大三郎のもとへ
持ち込まれるが、彼が講演会に出ている間に保管場所から消えてしまう。
原典では○○○が○○なんだよなー・・・なぁんて思っている間に
意外な大技で場外へうっちゃられてしまいました。うーん、悔しい(笑)。


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