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深淵の覇者 新鋭潜水艦こくりゅう「尖閣」出撃 [読書・冒険/サスペンス]

深淵の覇者 新鋭潜水艦こくりゅう「尖閣」出撃 (祥伝社文庫)

深淵の覇者 新鋭潜水艦こくりゅう「尖閣」出撃 (祥伝社文庫)

  • 作者: 数多久遠
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2018/09/05
  • メディア: Kindle版
評価:★★★★☆

主人公・北村美奏乃(みその)は防衛省技術研究本部に勤める技官。
彼女が開発した〈ナーワル・システム〉は革命的な技術だった。

潜水艦に対するアクティブ・ソナーの探知音に対し、
それと逆位相の音波をぶつけて相殺してしまう。
結果として、〈ナーワル・システム〉を装備した潜水艦を
アクティブ・ソナーで探知することは不可能になってしまうのだ。

  オーディオでいうところのノイズ・キャンセラーの応用らしいが・・・
 ちなみにナーワル(Narwhal)とは、
 イッカク(長大な牙を持つ鯨類の一種)のこと。

5年前、美奏乃は婚約者だった橋立(はしだて)真樹夫を
海上自衛隊の潜水艦「まきしお」の ”事故” で喪っていた。
しかし ”事故” の詳しい内容は情報開示されず、
真樹夫の死因にも美奏乃は納得できないでいた。

美奏乃は〈ナーワル・システム〉を装備した
海自の潜水艦「こくりゅう」に乗り込み、実用試験に臨むが
艦長の荒瀬二等海佐は、5年前の ”事故” のときに
「まきしお」の指揮を執っていた男だった。

そのころ、尖閣諸島に中国海軍の駆逐艦が接近し、それと対峙していた
海上自衛隊の護衛艦が国籍不明の潜水艦によって撃沈されてしまう。

それをきっかけに、中国海軍は空母「遼寧」を中心とした機動部隊を
尖閣諸島に向けて出撃させてきた。

内閣総理大臣・御厨(みくりや)小百合の決断により
「こくりゅう」に出撃命令が下る。
それは〈ナーワル・システム〉をもって機動部隊の奥深くに入り込み、
「遼寧」のみを狙い撃ちする、というものだった・・・

・・・となれば、「こくりゅう」vs「遼寧」の戦いを描く
仮想戦記のように思えるが、これは本書では第1ラウンドに過ぎない。

尖閣諸島で護衛艦を撃沈したのは、中国海軍が秘密裏に建造した
高性能潜水艦『長征13号』だった。
ネタバレになるので詳しくは書かないが、
既存の潜水艦の常識を遥かに超える途方もない能力を持ち、
自ら「世界最強の潜水艦」と豪語するのも誇張ではない。

そして『長征13号』艦長の林震(りんしん)は、
5年前の「まきしお」の事故にも関わっていた、
美奏乃にとっても荒瀬にとっても因縁の相手でもあった。

第2ラウンドでは、『長征13号』と「こくりゅう」の
文字通りの潜水艦同士の ”一騎打ち” が描かれる。

荒瀬も林震も、指揮官としては極めて有能で、
相手の持つ ”特殊能力” を、ほぼ正確に読み切ってしまう。

この2人が、相手の ”手駒” を知った上で
敵の繰り出す次の一手を読み合いながら操艦していくさまは、
まさにチェスか将棋の名人同士の対戦のようで、
久々にテンションが上がってしまった。

 私は少年時代に『サブマリン707』や『青の6号』に夢中になり
 映画『眼下の敵』に驚喜した世代なんだが、
 そんな潜水艦の戦い方なんて、21世紀のこの時代には
 もう絶滅していたと思っていた。
 だけど、意外なところで巡り会えた。これは素直に嬉しい。

さらに、この戦いが決着した後にも、もう一つ大きなヤマが待っている。
美奏乃は、5年前の ”事故” において、
真樹夫がどのような決意をもって事態へ ”対処” したのかを知る。

「任務」とは、「責任」とは、「国を守る」とは・・・
読者は、最前線で ”戦って” いる「自衛官」という存在に
さまざまな思いを馳せ、胸を熱くすることだろう。


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