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もしもし、還る。 [読書・ミステリ]

もしもし、還る。 (集英社文庫)

もしもし、還る。 (集英社文庫)

  • 作者: 白河三兎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/03/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

「僕」の名は田辺志朗、大学を出て会社員をしている。

「僕」は異様な熱さで目を覚ます。そこは砂漠だった。
砂丘なんてものではなく、見渡す限り砂の海が広がっている。

そこへ突然、空から電話ボックスが降ってくる。
中に入った「僕」は、受話器を取り上げる。
電話線がつながっていそうもないのに、なぜか電話は通じる。

しかし、助けを求めてかけた119番では、
「砂漠にいる」と言っても信用してもらえない(当たり前か)。
と思ったら、謎の女性の携帯電話からかかってきたり。
彼女は海の上で、ボートに乗って漂流中だという・・・

物語は「僕」の一人語りで進行し、2つのパートが交互に語られていく。

【さらさら】と題された章では、砂漠の電話ボックスにいる「僕」が
なんとか電話を使って助けを求めようとしていく。

【ぐるぐる】と題された章では、幼少時から今までの出来事が
時間軸を前後しながら描かれていく。

職場の上司である課長との確執、
大学入学直後に知り合い、後にセックスフレンドとなる
”キリ” こと、遠藤桐子(きりこ)、
「僕」の両親、そして姉の楓(かえで)のこと。

過去の回想を綴っていく【ぐるぐる】に対して
【さらさら】の方では、発端からしてリアリティに欠けるし
その後においても幻想的な描写が目立つ。

おそらく、本書を読んだ人は途中で ”ある見当” をつけるのではないか。
これは、いわゆる○○○○○に○る○○○ではないのか、と。

ならば、本書のラストでは「僕」の○○が描かれるのではないか、と。

そういう展開を予想しながら読んでいくと、
俄然サスペンスが増してくのだが・・・

その予想が当たるか外れるかは書かないが、
【ぐるぐる】の終盤では、大きな ”事件” が起こる。

その事件の真相も含めて、【さらさら】【ぐるぐる】双方で
蒔かれてきた伏線が回収されて、最後に物語の全体像が明らかになる。

このあたりはミステリとしてもよくできているのだけど
ラストの扱いがねぇ・・・最後まで読者をやきもきさせるのが
この作家さんの持ち味なのかも知れないが。

登場人物の中ではダントツにキリ(桐子)さんがいい。
ちょっと変わった価値観を持つお嬢さんで
「僕」との関係もセックスのみと割り切っているものの
大学卒業後もつかず離れずの距離を保っている。
まさに「友人以上恋人未満」を地で行ってる人なんだが
そんな行動にも、原因というか理由があるのが次第に分かってくる。

キリさんには幸せになってほしいんだけど、無理なんですかねぇ・・・?

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スクープのたまご [読書・その他]

スクープのたまご (文春文庫)

スクープのたまご (文春文庫)

  • 作者: 梢, 大崎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/09/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★

昨今「文春砲」なるものが、政治家・実業家・企業から芸能人まで
多くのスキャンダルを暴いてたいへんな話題になっているが、
その手の ”週刊誌” をつくっている人々を描いたお仕事小説である。

舞台は老舗出版社である千石(せんごく)社。
主人公・信田日向子24歳は、そこのPR誌の編集部で働いていた。
しかし2年目を迎えた彼女は「週刊千石」編集部への異動を命じられる。

 ちなみに、本書の出版元は株式会社文藝春秋。ということは
 「週刊千石」のモデルは「週刊文春」、なんだろうなぁ・・・
 あ、春秋戦国(千石)、ってことなのかな?

日向子と同期入社した桑原雅樹は、
「週刊千石」の事件班に配属されていた。
意欲的にバリバリ仕事をしていると思われたのだが、
彼はいつの間にか心を病んでしまっていた。

芸術性の高い文芸書を刊行する一方で、
下世話で下品の塊のような週刊誌もまた発行している。

桑原に代わって事件班への配属となり、戸惑う日向子。
彼女もまた、そんなスキャンダルばかり追いかけているような部署に
疑問を抱いていたのだが・・・

物語は、週刊誌編集部の同僚や取材対象の人々との出会いを通じて
日向子が週刊誌記者としての意義を見出していくまでが描かれる。

私も ”週刊誌” というものに対してはあまり好印象を持っていなかった。
とはいっても、記事の内容によっては買って読んだりするので
あまり悪口は言えないのだが(笑)。

本書を読むと、いままで週刊誌というものに抱いていたイメージが
ちょっと変わる(ガラッと変わる、とまではいかないが)。

例えば政治家や芸能人のスキャンダル記事なんて、
フリーの記者が自分から売り込んでくる企画じゃないのか?
って思ってたんだが、意外にそういう例は少なくて、
ほとんどの記事は正社員の記者によるものだ、とかね。
その理由も書いてあるけど、なるほどと納得できるもの。

時の政権だろうが大企業だろうが、
相手によって忖度しない、ということも書いてある。

 まあ実際には有形無形での圧力はあるだろうし
 それに負けてしまう媒体もあるんだろうなあとは思うが。

鵜の目鷹の目で人の醜聞や欠点をつつき回すような記事でも
それを書いている人は、意外と普通の人だったりする、らしいし。

職業に貴賎はない、という。
どんな仕事であっても、世の中で求められていることならば
それは意義のあるもののはず。

実際、毎週数十万部単位で売れるのであるから、
求めている人は決して少なくない。

そういうものを産み出しているのだから、
週刊誌をつくっている人たちはそれなりの自負と矜持を持っている。

もっとも、ものごとは結果がすべて。
そうやってできあがったものがどう評価されるかは
また別の話になるんだが。


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片桐大三郎とXYZの悲劇 [読書・ミステリ]

片桐大三郎とXYZの悲劇 (文春文庫)

片桐大三郎とXYZの悲劇 (文春文庫)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/08/03
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

片桐大三郎は往年の大スター。

歌舞伎の名家に生まれながらも、十代後半で映画界に入り、
たちまち大人気となって日本を代表する銀幕スターとなる。
世界的な映画監督・小御角勲の作品では何本も主演を務め、
テレビの時代に入るとすかさず連続時代劇ドラマに出演、
高視聴率の長寿番組となって日本人なら知らぬ者のない大御所となった。

萬屋錦之介と三船敏郎と高橋英樹と松平健を会わせたような
スーパースターとなるのだが、長年の無理がたたったのか
古希を過ぎた頃に突然聴力を失ってしまう。

すっぱり俳優業を引退した後は、自ら立ち上げた芸能事務所の
社長に納まっていたのだが、あるとき、迷宮入りしかかった事件を
見事に解決し、卓越した推理力を持っていることを示してしまう。


以来、犯罪捜査に首を突っ込むことを ”趣味” としている。
なにせ、泣く子も黙る大スターである。
事件の関係者のもとへ乗り込んでいって、その顔を見せれば
相手はびっくり仰天、思わず質問に答えてしまう・・・というわけで
犯罪捜査において、彼の行く手を阻む者は存在しない(おいおい)。

聴力を失った老俳優が探偵役・・・といえば
エラリー・クイーンの古典的名作シリーズ「悲劇四部作」だが、
本書のタイトルもそのものずばり「XYZの悲劇」である。

うら若き付き人・野々瀬乃枝(ののせ・のえ)を
助手代わりにこき使いながら(笑)、
大三郎が解決した4つの事件を綴る、連作ミステリだ。

「冬の章 ぎゅうぎゅう詰めの殺意」
朝のJR山手線。殺人的な通勤ラッシュに揉まれて息も絶え絶えの乃江。
しかし彼女が新宿駅で降りたとき、目の前にいた男が倒れてしまう。
なんと、背中から猛毒のニコチンを注射されていたのだ。
朝の通勤電車内の殺人、と原典の『Xの悲劇』と
同じシチュエーションなんだが、もちろん本作はオリジナル展開。
被害者の服に開いていた注射針の跡から
真相まで導いていく大三郎は、ドルリー・レーンに負けてないね。

「春の章 極めて陽気で呑気な凶器」
日本画家の秦洋次(はた・ようじ)が自宅で撲殺される。
殺害現場は倉庫で、周囲にはスパナやバールや木刀をはじめ、
撲殺する凶器としてふさわしい(笑)道具が多数あったにも関わらず
犯行に使われたのは、なんとウクレレだった(おいおい)。
ヨーク・ハッターならぬヨージ・ハタ、なんだね(笑)。

「夏の章 途切れ途切れの誘拐」
実業家・貴島透夫妻が外出中にベビーシッターが殺され、
生後8か月になる乳児が誘拐されてしまう。
犯人からの要求により、3億円の身代金が用意されて
母親に扮した婦人警官が受け渡し場所へ向かうことになった。
犯人からは携帯電話で細かく移動の指示が来るが、
なぜか何度も、電話が途中で切られてしまう。
電波のトラブル等ではなく、犯人が自ら通話の最中に切ってしまうのだ。
いったい何が起こっているのか・・・
”途切れ途切れ” の理由は、思わず脱力してしまう
バカミスレベルなんだが、明らかになった真相は・・・
本書は基本的にユーモア・ミステリなんだが、
笑っていると次の瞬間、どーんと落とされてしまう。

「秋の章 片桐大三郎最後の季節」
巨匠・小御角監督の未発表シナリオ(と思われるもの)が発見される。
その真贋を確かめるべく、そのシナリオの現物が大三郎のもとへ
持ち込まれるが、彼が講演会に出ている間に保管場所から消えてしまう。
原典では○○○が○○なんだよなー・・・なぁんて思っている間に
意外な大技で場外へうっちゃられてしまいました。うーん、悔しい(笑)。


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盗まれた視線 吉祥寺探偵物語 [読書・ミステリ]

吉祥寺探偵物語 : 4 盗まれた視線 (双葉文庫)

吉祥寺探偵物語 : 4 盗まれた視線 (双葉文庫)

  • 作者: 五十嵐貴久
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2015/03/27
  • メディア: 文庫
評価:★★★

元銀行員の川庄は現在バツイチ。
コンビニでバイトをしながら小学生の息子・健人を育てている。
その傍ら、いろんな伝手で持ち込まれる探偵依頼も引き受ける。
吉祥寺の街を舞台にしたパートタイム探偵のシリーズ、第4作。

ある日、川庄のもとに警視庁捜査一課の刑事・工藤がやってくる。
彼とは以前の事件で知り合った後、腐れ縁のような仲になっていた。

工藤は姪の芽衣(めい)を連れてきていた。彼女は大学3年生で
新潟から出てきてマンションを借りて住んでいるのだが、
ここ半年ほど、不審な感覚に悩まされていた。
マンションの自室に戻ると、物の配置に違和感があったり、
道を歩いていると誰かに見られているような気がしたり・・・

川庄は工藤の願いを聞き入れ、1か月だけという条件で
芽衣のボディガードを務めることになった。

電子機器にくわしい友人・西条に芽衣のマンションを捜索させたところ、
盗聴器を仕込んだコンセントが発見され、
何者かが芽衣を監視していることが確定する。

マンションの警備会社の防犯カメラから、
玄関付近に頻繁に現れる男がいることが判明する。

こいつがストーカーだと見当をつけた川庄は
マンション前で張り込み、現れたところを捕まえる。
男の名は三浦貞雄、28歳無職。
しかし、貞雄は確かに芽衣に懸想してつきまとってはいたが、
どうやらマンションに侵入していたのは彼ではないらしい。

さらなる探索を続ける川庄は、やがてこの騒ぎの裏に
意外な ”大事件” が潜んでいることに気づく・・・

文庫で約200ページとコンパクト。
短めの長編というか長めの中編というか、
内容も今までの3作ほど込み入ったものではない。

侵入者の正体は、気づく人も少なくないのではないかなぁ。
私でも分かったし(笑)。

それよりは、登場する個性的なキャラの言動を楽しんだり
川庄と工藤、川庄と貞雄との珍妙なやりとりに笑うのが正解か。

それにしても、真面目で純真な女の子ほど、
性格の悪いチャラ男に惹かれるものだ、とはよく聞くが
本書の芽衣ちゃんもそれを地で行ってるのは残念な限り(笑)。

彼女ならもっといい男がつかまえられるだろうに、なぁんて思うが
そうならないのが世の常なのか。


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メカ・サムライ・エンパイア [読書・SF]

メカ・サムライ・エンパイア 上 (ハヤカワ文庫SF)

メカ・サムライ・エンパイア 上 (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/04/30
  • メディア: 文庫
メカ・サムライ・エンパイア 下 (ハヤカワ文庫SF)

メカ・サムライ・エンパイア 下 (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/04/18
  • メディア: 文庫
舞台となるのは、第二次世界大戦で日独の枢軸国側が勝利した世界。

枢軸国側は連合軍側よりも先に原子爆弾を完成、
先制使用したことによりアメリカは降伏する。時に1948年7月4日。

これによりアメリカは、ナチス・ドイツが支配する東半分と
大日本帝国が支配する西半分に分割される。
その西半分が、前作のタイトルでもある
『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(USJ:日本合衆国)と
呼ばれる地域で、こちらは1988年のUSJを舞台としていた。

 本書は『USJ』に続くシリーズ第2作だが、
 前作とストーリー上のつながりはないので
 本書から読んでも全く問題なく楽しめる。

戦後の日独は、こちらの世界の米ソのように冷戦状態にあるらしく、
日本軍の内部ではドイツが仮想敵国となっている。
USJ国内の反政府組織は、ドイツから武器の供給を受けつつも
日独の共倒れを狙って暗躍をつづける。
そんな両国の緊張が高まっている1994年から本書は始まる。

タイトルの「メカ」とは、人間型の巨大ロボット兵器。
『機動戦士ガンダム』のように、この世界では巨大ロボットが
軍の制式兵器となっていて、そのパイロットは軍のエリートだ。

 前作『USJ』にもメカは登場していたが、
 メカそのものによるアクション・シーンはさほど多くなく、
 人捜しをメインにしたサスペンスといった雰囲気が強い。
 本作は前作よりもメカ・アクションは20倍増し(笑)くらい
 大増量されいて、巨大ロボットの戦闘シーンがてんこ盛り。
 ロボットアニメのファンの人にこそ勧めたい。

本書は、主人公の少年が友人や同期の仲間と共に
幾多の障害や危機を乗り越えてメカ・パイロットとなり、
トップエースへと成長していく物語だ。

 『ガンダム』って書いたが、ストーリー展開も
 けっこう日本のロボットアニメのフォーマットを思わせる、
 というか、明らかに意識的になぞっているのだろう。
 だから、もしあなたが日本のロボットアニメのファンなら
 間違いなく本書を楽しめる。私がそうだったから(笑)。

これから内容紹介に入るんだけど、
けっこうストーリーの展開を明かしてしまっている。
致命的なネタバレはしていないつもりなんだけど、
もしここまでの文章を読んで本書に興味を持った方は
以下の文章は読まずに、書店に行くかネットでポチることを推奨する。

主人公は高校生の不二本誠(ふじもと・まこと:マック)。
メカ整備兵だった父、メカ搭乗員だった母を
反政府組織との戦闘で喪った彼は、自らもメカのパイロットになるべく
士官学校の入学試験に向けて励んでいた。

とは言っても、幼い頃に孤児になってしまったせいもあって
典型的な ”こじらせ男子” に育ってしまい(笑)、
成績も芳しくなく、筆記試験で受かる可能性は限りなく小さい。
そこで実技試験(メカ操縦)での一発逆転を目指し
日夜、操縦シミュレーションに没頭している。

 受験勉強の一環とはいいつつ、読んでいて思うのは
 これではほとんど廃人レベルのゲーム中毒者だ。
 運動もしないから肥満気味で、体力もない(おいおい)。
 PCゲームに狂っていた、30年前の自分を思い出す(遠い目)。

読んでいて全く合格すると思えないんだが、予想通り落ちる(笑)。
まあ、試験中に意外なトラブルが起こったりするなど
不運な面もあるのだが・・・

試験に落ちて失意の日々を送っていたマックだが、
彼の住む町を反政府組織NARAのメカが襲撃してくる。

たまたま校内にいたマックは、居合わせた優等生の橘範子(ノリ)とともに
訓練用に配置されていたメカに乗り込み、NARAのメカに立ち向かう。

 このあたり、まさにロボットアニメの王道展開だね。
 ちなみに、ノリはしっかり士官学校に合格している。

2人は味方の迎撃部隊の到着まで持ちこたえることに成功し、
マックはその功績で民間の警備会社RAMDET(緊急機動防衛隊)の
メカパイロットとして推薦されることになる。

物語はこの後、RAMDETに入ったマックが厳しい訓練に耐えながら、
同期の仲間たちと友情を育んでいく様が綴られる。

そして、輸送列車の警備任務に就いたマックたちは
襲撃してきたNARAのメカと壮絶な戦いを展開、
多くの犠牲者を出しながらも撃退に成功する。
軍もマックたちのパイロットとしての技量を認め、
士官学校への特例入学が許可される。
ここまでが上巻。

下巻では、晴れて士官学校生となったマックが
旧友と再会したり新たな仲間や先輩を得て、
メカパイロットとしても成長していく様が描かれていく。

序盤では、ひ弱なオタク少年として登場したマックだが
幾多の修羅場をくぐり抜け、体形も引き締まり(笑)、
精悍さとたくましさを身につけた青年へと変貌、
下巻では、まさに別人のようなヒーロー・キャラに。

登場人物たちもアニメっぽい。

高校の同級生で、後に士官学校で再会するノリは、典型的な優等生。
(タチバナ・ノリコというのはタカヤ・ノリコのもじりか?)
メカ戦ではトップクラスのエース・パイロットだが
口調は「~ですわよ」と、カズミお姉様かお蝶夫人か(笑)。

RAMDETでの同期で、マックと共に特例入学を果たす千衛子(ちえこ)は
NARAに殺された恋人の復讐を心に誓う、オトコマエなお嬢さん。

前巻にも登場したメカ・パイロットの久地樂(くじら)は
行動こそ奇矯だが、天才的な操縦テクニックは他の追随を許さない。
口を開けば関西弁が飛び出すんだが、これがまたぴったりはまってる。

 前作でも思ったが、本シリーズの訳者である
 中原尚哉さんのセンスは素晴らしい。

前巻に引き続き登場するキャラがもう1人、
特高(特別高等警察)課員の槻野昭子女史も
出番は少ないが要所要所で姿を見せる。
クールで非情で国粋主義な姐御であるところは相変わらずだが(笑)。

そしてメインヒロインとなるのは、日独のハーフである
ドイツ人少女、グリゼリダ・ベリンガー。
マックが通っていた高校では交換留学生として登場し、
上巻での出番は少ないが、下巻ではストーリーのキーマンとなる。

メカ設定もよくできてる。
いかにも ”機械” という大日本帝国のメカに対し、
ナチスドイツが繰り出してくるのは、金属のフレームを生体組織で覆った
「バイオメカ」と呼ばれる二足歩行するトカゲのようなロボット兵器。
その禍々しい姿は文庫版の表紙イラストにもなってる。
しかも、従来の武器が通用しないという厄介な強敵だ。

クライマックスはもちろん、マックをはじめとする
士官学校のトップエースたちによる壮大な戦闘シーンだ。

 ここで主人公たちが搭乗する機体が
 ”開発中の試作機” というところも
 いかにもロボットアニメらしくていいよねぇ。


ここまで書いてきて改めて思ったが
このままロボットアニメの原作になりそうな話。
上下巻それぞれを6話ずつに分割すれば、
1クール12話の作品のできあがりだ。

次作はいよいよ三部作の完結編となる、
『サイバー・ショーグン・レボリューション』。
時間軸は一気に飛んで本書の23年後くらいになるらしい。
物語はどんな着地を見せてくれるのでしょう。楽しみです。


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深淵の覇者 新鋭潜水艦こくりゅう「尖閣」出撃 [読書・冒険/サスペンス]

深淵の覇者 新鋭潜水艦こくりゅう「尖閣」出撃 (祥伝社文庫)

深淵の覇者 新鋭潜水艦こくりゅう「尖閣」出撃 (祥伝社文庫)

  • 作者: 数多久遠
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2018/09/05
  • メディア: Kindle版
評価:★★★★☆

主人公・北村美奏乃(みその)は防衛省技術研究本部に勤める技官。
彼女が開発した〈ナーワル・システム〉は革命的な技術だった。

潜水艦に対するアクティブ・ソナーの探知音に対し、
それと逆位相の音波をぶつけて相殺してしまう。
結果として、〈ナーワル・システム〉を装備した潜水艦を
アクティブ・ソナーで探知することは不可能になってしまうのだ。

  オーディオでいうところのノイズ・キャンセラーの応用らしいが・・・
 ちなみにナーワル(Narwhal)とは、
 イッカク(長大な牙を持つ鯨類の一種)のこと。

5年前、美奏乃は婚約者だった橋立(はしだて)真樹夫を
海上自衛隊の潜水艦「まきしお」の ”事故” で喪っていた。
しかし ”事故” の詳しい内容は情報開示されず、
真樹夫の死因にも美奏乃は納得できないでいた。

美奏乃は〈ナーワル・システム〉を装備した
海自の潜水艦「こくりゅう」に乗り込み、実用試験に臨むが
艦長の荒瀬二等海佐は、5年前の ”事故” のときに
「まきしお」の指揮を執っていた男だった。

そのころ、尖閣諸島に中国海軍の駆逐艦が接近し、それと対峙していた
海上自衛隊の護衛艦が国籍不明の潜水艦によって撃沈されてしまう。

それをきっかけに、中国海軍は空母「遼寧」を中心とした機動部隊を
尖閣諸島に向けて出撃させてきた。

内閣総理大臣・御厨(みくりや)小百合の決断により
「こくりゅう」に出撃命令が下る。
それは〈ナーワル・システム〉をもって機動部隊の奥深くに入り込み、
「遼寧」のみを狙い撃ちする、というものだった・・・

・・・となれば、「こくりゅう」vs「遼寧」の戦いを描く
仮想戦記のように思えるが、これは本書では第1ラウンドに過ぎない。

尖閣諸島で護衛艦を撃沈したのは、中国海軍が秘密裏に建造した
高性能潜水艦『長征13号』だった。
ネタバレになるので詳しくは書かないが、
既存の潜水艦の常識を遥かに超える途方もない能力を持ち、
自ら「世界最強の潜水艦」と豪語するのも誇張ではない。

そして『長征13号』艦長の林震(りんしん)は、
5年前の「まきしお」の事故にも関わっていた、
美奏乃にとっても荒瀬にとっても因縁の相手でもあった。

第2ラウンドでは、『長征13号』と「こくりゅう」の
文字通りの潜水艦同士の ”一騎打ち” が描かれる。

荒瀬も林震も、指揮官としては極めて有能で、
相手の持つ ”特殊能力” を、ほぼ正確に読み切ってしまう。

この2人が、相手の ”手駒” を知った上で
敵の繰り出す次の一手を読み合いながら操艦していくさまは、
まさにチェスか将棋の名人同士の対戦のようで、
久々にテンションが上がってしまった。

 私は少年時代に『サブマリン707』や『青の6号』に夢中になり
 映画『眼下の敵』に驚喜した世代なんだが、
 そんな潜水艦の戦い方なんて、21世紀のこの時代には
 もう絶滅していたと思っていた。
 だけど、意外なところで巡り会えた。これは素直に嬉しい。

さらに、この戦いが決着した後にも、もう一つ大きなヤマが待っている。
美奏乃は、5年前の ”事故” において、
真樹夫がどのような決意をもって事態へ ”対処” したのかを知る。

「任務」とは、「責任」とは、「国を守る」とは・・・
読者は、最前線で ”戦って” いる「自衛官」という存在に
さまざまな思いを馳せ、胸を熱くすることだろう。


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放課後探偵団2 [読書・ミステリ]

放課後探偵団2 書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー (創元推理文庫)

放課後探偵団2 書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/11/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

1990年代生まれ(ということは刊行時点で20歳代)の作家さんによる
書き下ろし学園ミステリの競作アンソロジー。

「その爪先を彩る赤」武田綾乃
語り手は高校1年生で生徒会役員の明日葉薫(あしたば・かおる)。
演劇部が公演で使う小道具の靴がなくなってしまう。
薫は生徒会副会長の命令で、久津跡愛美(くつあと・あみ)なる上級生に
会いにゆく。愛美は学園長の一人娘で、自称 ”多重人格者”。
つまり靴を履き替えるごとに人格が入れ替わる(と本人は言っている)。
推理担当はローファーなのだというが・・・
〈響け!ユーフォニアム〉シリーズの作家さん。
作品を読んだのは初めて。
ミステリというよりは、薫と愛美の掛け合いを楽しむ話か。

「東雲高校文芸部の崩壊と殺人」斜線堂有紀
東雲高校で文化祭が行われた翌朝、
文芸部の部室で生徒の撲殺死体が発見される。
被害者は古美門(こみかど)ゆかり。文芸部の1年生で
つい先日、ミステリーの新人賞を受賞したばかり。
”高校生作家のデビュー” と話題の人物だった。
語り手は同じく文芸部1年生の文原雛紀(ふみはら・ひなき)。
ゆかりを除いて5人しかいない部員の中が犯人はいるのか・・・
本書の中ではいちばん ”本格ミステリ” らしい作品。
文庫で50ページちょっとだけど、
いろんなネタが高密度で詰め込んである。

「黒塗り楽譜と転校生」辻堂ゆめ
浪浜中学校でクラス対抗の合唱コンクールが開かれる。
3年1組も放課後に全員が居残って練習をしているが、
クラスメートたちのまとまりもなく、一向に上達しない。
そんなある日、クラス全員分の練習用の楽譜に
黒塗りがしてあることが発覚する。
誰かが練習を妨害しようとしている。生徒たちの疑いの目は、
不可解な言動をくり返していた転校生に向かうのだが・・・
分かってみれば他愛もないのだが、こういうネタは好きだなあ。
転校生の行動の理由は、見当がつく人も多いんじゃないかな。

「願わくば海の底で」額賀澪
語り手は大学生の小野寺宗平。
5年前、宗平は東北地方の海辺の高校で、美術部員だった。
部の先輩である、3年生の菅原晋也(しんや)と本郷藍(あい)。
お互いに好意を寄せあっていたらしい2人だが、
晋也は卒業式の9日後、朝から家を出ていって、そのまま帰らなかった。
その日、2011年3月11日に、菅原晋也は ”行方不明者” となったのだ。
そして5年後。大学生となった宗平が里帰りしているときに
地元の企業に就職していた藍が訪ねてくる。職場の上司の頼みで、
東京の会社員・三浦を案内することになったのだという。
三浦は行方不明のままになっている祖父の、
震災当日の足取りを知るため、祖父の知人に会いに行くことに。
藍に頼まれて、三浦の案内に同行することになった宗平だが・・・
本書の中でいちばん心に刺さった作品。
あの日、未曾有の大災害に遭遇した人々の間で、
誰にも知られることのない、そして誰も語ることのできない
無数のドラマがあったのだろう・・・。

「あるいは紙の」青崎有吾
語り手は風ヶ丘高校新聞部の副部長・倉町剣人(くらまち)。
最近、格技場の裏に煙草の吸い殻がちょくちょく発見されていた。
新聞部長の向坂(さきさか)香織は、次の取材対象として
吸い殻の落とし主を究明しようと言い出すが・・・
シリーズ探偵の裏染天馬もちょっと顔を出すが、それよりは
暴れ馬の向坂をきっちりフォローする健人がメイン。良い人だねえ彼。


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