鬼畜の家 [読書・ミステリ]
物語は、元刑事で私立探偵をしている榊原が
北川郁江という女性、およびその子どもたちの行動を追って
彼女たちと関わった人から話を聞いていく、という形で進んでいく。
彼がまず訪ねたのは、木島病院の院長である木島敦司。
開業医だった北川秀彦は、両親の猛反対を押し切って
准看護婦だった郁江と結婚した。
やがて長男・秀一郎、長女・亜矢名(あやな)、次女・由紀名と
3人の子をもうけるが、秀彦が投機に手を出して失敗、
医院の経営状態は悪化していった。
そんなとき、秀彦の友人だった木島敦司は
郁江から呼び出しを受け、北川医院へと向かう。
彼がそこで見たものは、秀彦の死体だった。
自分で毒物を注射した自殺と思われたが
郁江の「自殺では保険金が下りない。家族が路頭に迷う」
という言葉に、木島は ”病死” の診断書を書いてしまう。
その結果、郁江は莫大な保険金を手にすることになったが・・・
木島に続き、主婦、刑事、事務員、学生、保険外交員など
さまざまな立場から郁江に関わった者を榊原は訪ねていくが
そこで浮き彫りになってくるのは、彼女の驚くべき行動の数々。
郁江の行く先々ではさまざまな事件/事故が起こっていく。
場合によっては人の命が失われることも。
しかし事が終わってみると、郁江のもとには
多額の財産が転がり込む、という結果に。
そしてその対象は他人に限らない。
長女の亜矢名が、住んでいたマンションのベランダから
転落死してしまうが、郁江は施設の不備を理由に
マンションのオーナーから莫大な賠償金をせしめることに成功する。
実子の死でさえも、金銭に置き換えていってしまうという凄まじさ。
しかし郁江は突如、長男・秀一郎と共に失踪してしまう。
二人が乗っていた車が海に沈んでいるところが見つかるが
どちらの遺体も発見されないまま。
郁江が秀一郎を溺愛していたことから
無理心中を図ったのではないかと思われたのだが
唯一生き残った次女・由紀名が驚愕の事実を語り出す・・・
本書は、「第3回 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」の受賞作。
これは島田荘司が立ち上げて、審査員は島田荘司が一人で行うという、
ある意味スゴいミステリー新人賞なのだけど、
驚くべきは作者・深木章子の受賞時の年齢だ。
60歳まで弁護士としてはたらき、リタイアしてから執筆活動を開始、
2010年に本書でデビューするのだけど、このとき63歳。
しかも、デビュー後の10年間で12冊くらい刊行している。
いやはやスゴい。このペースでいったら90歳までに30冊以上書きそう。
皆川博子さんみたいに、80歳を超えても
第一線で活躍している人もいるし、日本の高齢者はホントに元気だ。
内容についても、さすがは島田荘司が選んだ作品と言うべきか、
よくできたミステリになっている。たいしたものです。