心臓狩り 全3巻 [読書・SF]
評価:★★★
難病に冒され、心臓移植を受けた主人公・堤雅之。
しかし手術直後より、彼の身体に異常が起こり始める。
常人を遙かに上回る回復の早さと、急激な嗜好の変化。
そしてなぜか歩く時に左足を引きずるようなり、
手首に異様な痒みを覚えるようになった。
そして、明らかに自分のものではない "記憶" もまた湧いてきた・・・
同じ頃、有名人が相次いで殺され、その心臓を持ち去られるという
猟奇的な事件が起こっていた。
事件と、自分に移植された心臓の関連を疑う雅之は
ドナーの正体を探っていく中で砂田舞という女性を知り、
やがて愛するようになる。
さらには、自分の身体に常人を超えた "能力" が
宿っていることに気づいてゆく。
舞は、雅之への臓器提供者であった砂平優人とともに、
「シャーマン」と呼ばれる一族の一人で、
猟奇事件の犯人は優人の双子の兄・秀人だった。
超常的な身体能力と、異形への "変身"。
人類を超えて進化した存在と自らを位置づけるシャーマンたち。
秀人は、シャーマンの "力" を維持するために
他人の心臓を奪い続ける<羅刹>と化し、
さらなる力を得るために舞たち同族にも襲いかかっていく。
優人の心臓移植によって、シャーマンの "力" を受け継いでいた雅之は
舞を守るために、自分もまた<羅刹>となることを決意する・・・
ストーリーは分かりやすいし、文章もサクサク読める。
300ページ弱の文庫本3冊、まとめて1日半くらいで読んでしまったよ。
面白いんだけどね。面白かったんだけどね・・・
なにせ「二重螺旋の悪魔」と「ソリトンの悪魔」という
超絶的傑作エンターテインメントを書いた梅原氏の、
それも久しぶりの長編ということで期待も大きかったんだが・・・
よく言えばコンパクトにまとまってる。
悪く言えばスケールが小さいかな。
時間的にも数日の話で、空間的にもせいぜい10km四方くらい。
しかもそのうちほとんどは廃業した遊園地内が舞台。
シャーマンたちは世界中に存在しており、
密かに権力中枢への浸透も進んでいる。
横のネットワークもあり、いつの日か現人類を
支配下に置くことを目論んでいるようだが、
本編ではそのあたりがちょっぴりほのめかされる程度で
メインのストーリーには全く関わってこない。
あくまで、超人類の力を手にした一人の男が起こした暴走を
主人公とヒロインが協力して阻止する、という部分に絞り込んでいる。
人間vsシャーマン、現生人類vs超人類。
書きようによっては、地球の覇権を賭けた戦いにまで踏み込み、
そこに超人類の力を手にした現生人類の主人公が絡む、
なあんて展開もできそうだが、それじゃデビルマンか。
長大な物語の序章部分を独立させて長編化した、とも思えるけど
けっこう綺麗に終わっているこのラストでは
次につなげにくいしなあ・・・
最後に余計なことを。
心臓移植によって、ドナーの記憶をも受け継いでしまう「記憶転移」。
こんな話、どこかで読んだなと思っていたら
貫井徳郎の「転生」がそうだった。
もっともあちらはミステリで、こちらは伝奇SFだけど。
梅原氏の作品を「SF」って呼ぶと今でも怒るのだろうか?
「二重螺旋」も「ソリトン」も、私の基準では立派なSFなんだが。