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フライ・バイ・ワイヤ [読書・ミステリ]

フライ・バイ・ワイヤ (創元推理文庫)

フライ・バイ・ワイヤ (創元推理文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/06/29
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

表紙のイラストを見てみる。
高校生の男の子が、同い年くらいの女の子を後ろに載せて
自転車を漕いでいる。女の子は、男の子の背に顔を伏せて。
うーん、青春だねえ・・・
たいていの人は、この絵から胸キュンな物語を連想するだろう。
でも・・・

舞台は、今からさほど遠くない近未来の日本。
主人公・宮野隆也は、さいたま工科大学附属高校の2年生。
成績優秀な "選抜クラス" にあって、学級委員長を務めていた。
その選抜クラスに、「一ノ瀬梨香」と名乗る
二足歩行ロボット「IMMID-28」が "転入生" として現れる。

それは、病気で登校できない梨香にIMMID-28を遠隔操作させ、
間接的に学校生活を体験させようとする産学合同プロジェクトだった。

 タイトルの「フライ・バイ・ワイヤ」とは、
 パイロットの操作を電線に流れる電気信号によって伝え、
 航空機を操縦する方式を指す。
 昔の航空機は、ケーブルやロッドなど、パイロットの操作を
 物理的・機械的な方法で機体各所に伝えて操縦していたからね。
 本書においては、遠隔地から電波によって操縦される
 IMMID-28の操作方法を意味している。

担任から梨香の "世話係" を命じられた隆也の尽力もあり、
生徒達は驚き、戸惑いながらも、"彼女" を受け入れ始め、
実験は順調に滑り出したかに見えた。

梨香自身も、転入後最初の定期試験では
ぶっちぎりのトップの成績を収めるなど、学校生活に馴染んでいく。
しかしその試験結果に不正行為を疑う者も現れる。

そもそも "一ノ瀬梨香" なる少女は実在するのか?
実はIMMID-28は完全自律型のロボットなのではないか?

そんな疑問がわき上がる中、副委員長の上井未来が校内で撲殺され、
現場に居あわせたIMMID-28の背中が被害者の血で
染まっているところを発見される。

梨香の無実を信じる隆也は、仲間たちとともに真相を探り始めるが
やがて第二の殺人が起こる・・・


ロボットSFといえばアシモフ、
アシモフといえばロボット工学三原則。
って連想が働いてしまうのは年季の入ったSFファンだろう。
(知らない人はwikiで「ロボット工学三原則」を調べてください。)

本書中のロボットも三原則に則っているので
人間に危害を加えられないはず。しかしIMMID-28は遠隔操作型。
ならば操縦者がその気になれば、殺人も可能のはず。
(末尾の "28" はもちろん「鉄人28号」から採ってるのだろう。)

犯人は校内の誰かか、梨香か、それともIMMID-28の誤作動なのか。
三原則も絡んで、真犯人に至る筋道は容易につかめない。


ロボットをめぐるSFミステリとしても面白いし、
(動機の面でやや疑問符を感じないでもないが)
異質な仲間を巡り、高校生の集団の中で起こる
友情(受容)と排斥の葛藤を描いた青春小説としても読める。


梨香の存在が疑われる中、IMMID-28を通して "梨香" と
接し続けてきた隆也は、彼女の "実在" を信じるようになっていく。

事件解決後の最終盤で明かされる "梨香" の "正体" 。
ネタバレになるので書かないけど、これはもう読んでもらうしかない。

最終ページまで読み終わった後、表紙のイラストを
もう一度見返してみる。
最初の印象 "胸キュン" とはかなり異なって、
その切なさに "胸が痛む" のは私だけではないだろう。

でも、希望の見える幕切れで、読後感は悪くない。
石持浅海は優しいなあ。


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