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宵待草夜情 新装版 [読書・ミステリ]

【新装版】宵待草夜情 (ハルキ文庫 れ 1-10)

【新装版】宵待草夜情 (ハルキ文庫 れ 1-10)

  • 作者: 連城三紀彦
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2015/05/15
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

1987年に新潮文庫に入り、1998年にハルキ文庫で再刊、
そして今年になって「新装版」として版を重ねることになった。
何度も再刊されているが、それにふさわしい "高密度" の短編集だ。

収録作にはそれぞれ、ヒロインの女性の名前が
副題みたいに付されてる。
ただ、内容的はみな独立した短編になっているので
どれから読んでも問題ない。


「能師の妻」<第一話・篠>
 能師の娘に産まれた篠は、父から厳しく芸を仕込まれた。
 長じて後、篠の芸に惚れ込んだ藤生流の能師・信雅の愛人となり、
 やがて信雅の正妻が亡くなると後妻となった。
 しかし信雅は間もなく他界、後に残されたのは正妻の息子・貢。
 信雅の遺志に従い、貢に対して稽古をつける篠。
 しかしそれは次第にエスカレートし、虐待の様相を呈していくが・・・
 ミステリと言うよりは、凄まじい情念に満ちた愛憎の物語。
 しかし、ラストでしっかり驚かされるのも連城作品。

「野辺の露」<第二話・杉乃>
 兄・暁一郎の浮気に悩む兄嫁・杉乃の境遇に同情した順吉は、
 暁一郎が落馬で入院していた間に杉乃と関係を持ち、
 兄嫁は妊娠、生まれた子は暁介と名付けられた。
 事実関係を知った暁一郎は、その後20年にわたって
 暁介と杉乃を蔑ろにし続けるが、ある晩、
 暁一郎が暁介に殺されるという事件が起こる。
 物語は、順吉から杉乃へ宛てた手紙文の形式で進行する。
 不幸な兄嫁を20年に渡って慕い続けた順吉の思いが
 切々と綴られていくのだけど、ラストでぶん投げられてしまう。
 それもまた快感。

「宵待草夜情」<第三話・鈴子>
 結核を患った元美術学生・古宮は3年ぶりに東京へ舞い戻る。
 カフェ「入船亭」で知り合った女給・鈴子と深い仲になるが
 鈴子の同僚の女給・照代が殺される。
 古宮は犯行時刻に、血まみれの鈴子が犯行現場から
 外に出てくるところを目撃していた・・・
 それぞれに辛く哀しい過去を持つ古宮と鈴子が、
 身を寄せるように過ごしていく日々の描写が切ない。
 それでいてしっかりミステリをしていて、ラストまで来ると
 今までの何気ないやりとりや行動がきれいな伏線になっている。
 連城作品には珍しく、ちょっぴり希望が見えるラストも心地よい。

「花虐の賦」<第四話・鴇子>
 劇作家・絹川幹蔵に見いだされた女優・川治鴇子(ときこ)は、
 病床の夫と子を捨てて絹川の劇団に参加、一気に才能を開花させる。
 やがて幹蔵と愛人関係になった鴇子だが、
 人気絶頂の公演の最中、絹川が謎の自殺を遂げる。
 そして絹川の四十九日法要の夜、鴇子もまた自ら命を絶った・・・
 この二人の自死に秘められた、凄まじいまでの執念というか何というか
 男女の愛憎というものは、無限の深淵を伴っているんですねえ。
 「なぜこの日に死ななければならなかったのか」
 この理由に思い至る人はまずいないだろう。

「未完の盛装」<第五話・葉子>
 昭和22年。戦死したはずの夫が復員してきたが、
 葉子は既に闇物資の仲買人・吉野の情婦になっていた。
 吉野と共謀して夫を死に至らしめた葉子だったが・・・
 昭和37年になり、弁護士・赤松の元を訪れた吉野は、
 この15年間、葉子の夫を殺害した件で吉野と葉子の二人を
 脅迫しつつづける人物がいること、そして
 殺害事件の時効が成立したことを告げる・・・
 いやあ、"二転三転" とは、まさにこのこと。
 単純な殺人事件かと思いきや、二重三重に仕組まれた "からくり" に
 圧倒される。文庫で70ページほどの作品なんだけど
 その気になれば長編にも仕立てられそうなネタ。
 連城作品につきものの "情念" テイストはやや希薄だが、
 そのぶん、"本格" テイストは濃厚か。


以上五編、粒ぞろいのトリッキーな作品ばかり。
やっぱり連城三紀彦はスゴい。


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