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小説・震災後 [読書・その他]

小説・震災後 (小学館文庫)

小説・震災後 (小学館文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2012/03/06
  • メディア: 文庫



評価:★★★

震災の3ヶ月後に連載が始まり、7ヶ月後に単行本化、
そしてちょうど1年後に文庫化された作品。
作品には、読むべき時、読まれるべき時、
というものがあるのだなあ・・・と思わされた。


2011年3月11日。東日本大震災が発生した。
原子力発電所の事故、放射能汚染、メルトダウンの危機。
日本人すべてがこの国の将来に対して巨大な不安を感じた日々。
平凡なサラリーマン・野田圭介の中学生の息子・弘人もまた、
日本の未来、自らの未来に絶望して、ある "事件" を引き起こす。
弘人を闇からすくい上げるための言葉を持てない圭介。
父親として苦悩する圭介に、指針を示してくれたのは
死病に冒され、余命幾ばくもない祖父・輝夫だった。

放射能汚染によって生活の場たる国土を失い、
原発を失ったことによる電力の不足から企業は競争力を失い、
余力のある企業は、生き延びるためにどんどん海外へ逃げていく。
国内に残った者は、生きる場所も生活の糧を得る方法も乏しくなる。
やがて日本は先進国から脱落し、
緩慢な "滅び" を迎えていくのではないか?
もう "より良い未来" なんぞというものは
永久にやって来ないのではないか?
それもこれも、世界最大の地震国にも関わらず、
原発を大量に建設してきた報いなのではないか?

確かにあの当時、弘人のような思いに捕らわれた人は
少なくなかっただろうと思う。
若い人ほど、「こんな日本にした大人たち」に対して
恨み言の一つも言いたくなったのではないか。

それを弘人からぶつけられて戸惑う圭介の姿は、
まさに私たち "大人" の姿でもある。


震災後3~6ヶ月後という時機に書かれた本書は、
基本的に上記のような辛く、重苦しいトーンのもとに書かれている。


では、震災から4年4ヶ月経った現在はどうか。

廃炉まで何十年かかるか分からないが
福島原発の解体工事も始まりつつある。
いったんはすべて止まった原発の中にも、
再稼働にこぎ着けたものが現れた。
国内経済も、アベノミクスのおかげか持ち直しつつあるように見える。

震災直後の絶望的な雰囲気は、
少なくとも表面的には無くなった、とまでは言わないが
かなり薄まってきているようにも思える。

そういう時機に、本書を読んだのは良かったのか悪かったのか。
少なくとも、発表直後に読んだほうが
弘人の抱いた想いへの共感はより深くなっただろうとは思う。


原発を廃止するか、使い続けるか。
これは難しい問題で、未だに国内世論は二分されている。
しかし物語の中では、圭介は父・輝夫の導きで
ある "結論" に辿り着くことになる。

本書のクライマックスは、弘人の通う中学校での全校集会。
圭介はマイクの前に立ち、語り始める。
「こんな時だけど、そろそろ未来の話をしようか」
全生徒と全保護者に向かってはいるが、語る相手はただ一人。
息子・弘人に届くことを願って、一世一代の熱弁を振るう。

楽観でもなく悲観でもなく、人間というものの善意、
よりよき世界を目指す力を信じて描かれる未来像。
おそらく作者の想いを代弁しているのであろう圭介の話は
受け取り方は人それぞれだろう。
理想論に過ぎる、という人も多いと思う。

だけど、私はこれを "是" としたい。


以下は蛇足。

本書はいままでの福井作品とも同一世界の物語になっている。

圭介の父にして弘人の祖父・輝夫がとにかく物語の要で、
迷い悩む圭介や弘人に、しばしば行くべき道を示す。
肝の据わったキャラクターで「スゴい人だなあ」と思っていたら
なんと防衛省情報局を定年退職していて
要するに福井作品でお馴染みDAISの元職員。
退職前のポストは局長で、「亡国のイージス」にも出演していた(!)。

同じく「亡国-」で内事本部長だった渥美大輔も
いくつかのシーンに登場する。
実は今、「人類資金」を読んでいるんだけど、そこでは渥美は
局長に昇進していて、「還暦まであと2年」となっている。
いやあ時の経つのは早いもんだねえ(笑)。

どうやら「人類資金」を企画・構想している時機に
震災が起こって本書が書かれ、そして「人類-」の内容もまた
震災を受けて一部変更されたらしい。
実際、「人類-」も本書と共通の "作者の思い" がテーマになっている。

それについては「人類-」の感想で書こうと思うんだけど
これがまたものすごく長いんだよねえ・・・
何せ文庫で全7巻、合わせて2000ページくらいある。
今日の段階であと600ページ残ってる。
はぁ・・・ガンバロウ。


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