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ARROWS NX F-04G に機種更新しました [日々の生活と雑感]

お盆の少し前、スマホの機種変更をした。
それから約3週間がたったので、そのへんのことをまとめてみた。


ガラケーからスマホに替えたのは12年の8月末。
そのとき選んだのが ARROWS X F-10D。
後で知ったんだけど、誤作動やら発熱やらで
いろいろと物議を醸した機種だった。

実際使っていても、通話中に突然再起動したりして
とにかくじゃじゃ馬なキカイだった。
ネットを見たりしてると本体がやたら熱くなって
「カイロの代わりに使える」との評もあながち間違いではなかった。

「多少不便でも、まあ2年間は使おう」って思ってたんだけど
13年11月のOSアップデートで、
Android のバージョンが 4.0 から 4.2 へ上がってからは、
見違えるように "使える" キカイに変身してしまった。

 このあたりのことは以前、このブログでも書いた。
 興味がある人は過去記事を検索してください。

あまりにも使い勝手が改善されてしまったので、
2年で機種変更するつもりが3年間も使ってしまったよ。

今回も、機能的に不満があるわけではなかったんだが
さすがに大画面のスマホが流行ってくると
F-10D の4.6インチは小さく感じるようになってしまった。

そこで、今回思い切って機種変更と相成った。選んだのは F-04G。
f04g_1.jpg

本当は7月下旬に変更したかったんだが、
基板の不具合が見つかったとかで「販売一時中止」のアナウンスが。
なので機種変更が8月なかばにずれ込んでしまった。

 不具合が見つかったこと自体は不安に思わなかったよ。
 出荷再開直後は、特に慎重に検査して出荷するだろうから、
 かえって安心だと思ってた。
 実際、今のところ何事もなく順調に動作してる。

ディスプレイはかなり大きくなって5.2インチ。
Android も 5.0 になり、画面デザインもシンプルになった。
ハードウェアだったボタン群も画面上のアイコンに変わり、
タッチ操作ですべて済むのでストレスがかなり減った。
レスポンスも明らかに高速化していて気持ちいい。

機種変更前に、ネットでいろいろ情報を集めたんだが
みな口を揃えて「発熱が大きい」って書いてた。
ただ、「今回発売の機種は、みな共通して発熱が大きい」
とも書いてる。使用しているCPUの問題らしいんだけどね。

実際、F-04G を通話やメールやネット検索で使っていて
発熱が気になることはほとんどない。
変更当初、内蔵アプリのアップデートを
15本くらいまとめて行った時が一番熱くなったかなあ・・・
でも、それでも心配になるほどではなかったよ。

たぶん、発熱が問題になるのは、
CPUを限界まで酷使するようなゲームをするときじゃないかな。

内蔵カメラでビデオ撮影していても熱くなるらしいが
これはまだやってないので不明。
写真(静止画)撮影は全く問題なし。

内蔵バッテリの容量も約1.8倍に増加したので、
電池の持ちはさらに良くなった。
私自身、あまりスマホをいじるたちではないこともあって、
ちょこちょこネットを見ても、夜になって70%を切ることはまれ。
メールと通話だけだったら3~4日くらい余裕で持ちそうだ。

唯一の問題は、F-10D と比べると一回り大きく、薄いこと。
それによって、ズボンのポケットに入らなくなった。
いや、服によっては入るんだけど、入ったら入ったで
今度は折れそうな気がして心配になる。
というわけで、スマホ専用のポーチを購入して、
それに入れて持ち歩いている。

F-04G 特有の機能である「虹彩認証」とかはまだ使ってない。
そのへんを含めた感想とかもそのうち書こうと思う。


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心臓狩り 全3巻 [読書・SF]

心臓狩り (1) 移植された悪夢 (角川ホラー文庫)

心臓狩り (1) 移植された悪夢 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 梅原 克文
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/05/25
  • メディア: 文庫




心臓狩り  (2)シャーマンの一族 (角川ホラー文庫)

心臓狩り  (2)シャーマンの一族 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 梅原 克文
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/06/23
  • メディア: 文庫




心臓狩り  (3)異形の領域 (角川ホラー文庫)

心臓狩り  (3)異形の領域 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 梅原 克文
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/07/23
  • メディア: 文庫



評価:★★★

難病に冒され、心臓移植を受けた主人公・堤雅之。
しかし手術直後より、彼の身体に異常が起こり始める。
常人を遙かに上回る回復の早さと、急激な嗜好の変化。
そしてなぜか歩く時に左足を引きずるようなり、
手首に異様な痒みを覚えるようになった。
そして、明らかに自分のものではない "記憶" もまた湧いてきた・・・

同じ頃、有名人が相次いで殺され、その心臓を持ち去られるという
猟奇的な事件が起こっていた。

事件と、自分に移植された心臓の関連を疑う雅之は
ドナーの正体を探っていく中で砂田舞という女性を知り、
やがて愛するようになる。
さらには、自分の身体に常人を超えた "能力" が
宿っていることに気づいてゆく。

舞は、雅之への臓器提供者であった砂平優人とともに、
「シャーマン」と呼ばれる一族の一人で、
猟奇事件の犯人は優人の双子の兄・秀人だった。

超常的な身体能力と、異形への "変身"。
人類を超えて進化した存在と自らを位置づけるシャーマンたち。

秀人は、シャーマンの "力" を維持するために
他人の心臓を奪い続ける<羅刹>と化し、
さらなる力を得るために舞たち同族にも襲いかかっていく。

優人の心臓移植によって、シャーマンの "力" を受け継いでいた雅之は
舞を守るために、自分もまた<羅刹>となることを決意する・・・


ストーリーは分かりやすいし、文章もサクサク読める。
300ページ弱の文庫本3冊、まとめて1日半くらいで読んでしまったよ。
面白いんだけどね。面白かったんだけどね・・・

なにせ「二重螺旋の悪魔」と「ソリトンの悪魔」という
超絶的傑作エンターテインメントを書いた梅原氏の、
それも久しぶりの長編ということで期待も大きかったんだが・・・

よく言えばコンパクトにまとまってる。
悪く言えばスケールが小さいかな。
時間的にも数日の話で、空間的にもせいぜい10km四方くらい。
しかもそのうちほとんどは廃業した遊園地内が舞台。

シャーマンたちは世界中に存在しており、
密かに権力中枢への浸透も進んでいる。
横のネットワークもあり、いつの日か現人類を
支配下に置くことを目論んでいるようだが、
本編ではそのあたりがちょっぴりほのめかされる程度で
メインのストーリーには全く関わってこない。

あくまで、超人類の力を手にした一人の男が起こした暴走を
主人公とヒロインが協力して阻止する、という部分に絞り込んでいる。

人間vsシャーマン、現生人類vs超人類。
書きようによっては、地球の覇権を賭けた戦いにまで踏み込み、
そこに超人類の力を手にした現生人類の主人公が絡む、
なあんて展開もできそうだが、それじゃデビルマンか。

長大な物語の序章部分を独立させて長編化した、とも思えるけど
けっこう綺麗に終わっているこのラストでは
次につなげにくいしなあ・・・


最後に余計なことを。

心臓移植によって、ドナーの記憶をも受け継いでしまう「記憶転移」。
こんな話、どこかで読んだなと思っていたら
貫井徳郎の「転生」がそうだった。
もっともあちらはミステリで、こちらは伝奇SFだけど。

梅原氏の作品を「SF」って呼ぶと今でも怒るのだろうか?
「二重螺旋」も「ソリトン」も、私の基準では立派なSFなんだが。


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凍れる女神の秘密 本格短編ベスト・セレクション [読書・ミステリ]

凍れる女神の秘密 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

凍れる女神の秘密 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/01/15
  • メディア: 文庫



評価:★★★

本格ミステリの短編アンソロジーの2010年度版。
創作・評論あわせて8編収録なんだけど
3編が既読だった。

「三人の女神の問題」(法月綸太郎)
 ミステリ作家・法月綸太郎を探偵役とするシリーズの一編。
 三人組アイドルグループ・トライスターが解散して十年あまり。
 彼女らの所属していた事務所の元社長・折野が殺され、
 ファンクラブの会長・安田が自殺死体で発見される。
 安田は自らのブログで折野の殺害をほのめかしていたが
 綸太郎は、トライスターの中に、
 安田に殺人をそそのかした人物がいると推測する。
 短編集で既読だが、安田と元アイドル三人との
 メールのやりとりから犯人を絞り込んでいく推理は
 やっぱり良く出来ている。

「札幌ジンギスカンの謎」(山田正紀)
 往年の名探偵・進藤正子に助手として雇われた風水火那子。
 自動車で向かったジンギスカン料理店で大雪に閉じ込められ、
 そこのオーナー・名倉が殺される。
 この現代の事件と並行して、進藤の若き日の事件が語られる。
 現代の事件の方はともかく、昔の事件のラストはバカミスみたいだ。

「佳也子の屋根に雪ふりつむ」(大山誠一郎)
 父親の過去を暴かれ、結婚が破談になった笹野佳也子は
 睡眠薬を飲んで自殺を図るが、香坂典子と名乗る女医に救われる。
 しかしその直後に典子が殺される。
 二人は典子の経営する医院の中におり、
 折からの雪で周囲は閉ざされていた。
 足跡は被害者のものしかなく、佳也子に殺人の容疑がかかる。
 密室事件が起こるとどこからともなく現れる "密室蒐集家" を
 探偵役とするシリーズの一編。
 作者の仕込みは、冒頭の数ページからもう始まっている。
 そして、もうパターンは出尽くしたかと思われた "雪上の足跡" に、
 「こういう手があったか!」と思わせる解決が提示される。流石。

「我が家の序列」(黒田研二)
 リストラに遭ったことを家族に打ち明けられない主人公・俊輔は
 自殺しようとした寸前、一匹の犬に助けられる。
 犬は "ボンド" と名付けられ、俊輔の家で飼われることになるが
 ボンドの存在が俊輔を、そしてバラバラだった家族を変えていく・・・
 うーん、とても感動的ないい話。1時間の単発ホームドラマにピッタリ。
 でも、あえていえば日常の謎系なんだろうけど、
 本格ミステリかどうかはちょっと疑問に思うなあ。

「《せうえうか》の秘密」(乾くるみ)
 長い伝統を誇る北乃杜高校。
 そこには戦前から伝わる《逍遥歌》があった。
 しかし、数十年前の《逍遥歌》は、現在のものと
 一部の歌詞が変えられているという。
 清水克文・赤倉志朗・山科桃子・稲川みどりの四人組は
 歌詞変更の経緯を調べ始める・・・
 《逍遥歌》の歌詞が暗号文になっているのは早々と見当がつくが、
 その内容には二重三重に深い意味が込められていて
 解読して終わり、って単純な話ではない。
 思い返してみると、真っ向から暗号を扱ったミステリって
 近年ありそうでなかった。そういう意味では貴重な作品だと思う。

「凍れるルーシー」(梓崎優)
 短編集で既読。
 7カ国語を操るという語学の達人でもある雑誌記者・斉木が、
 世界の至る所を旅しながら事件に遭遇していくシリーズの一編。
 霧深いロシアを舞台に、 "不朽体" (腐敗しない死体)を
 安置している修道院を訪れた斉木。
 その夜、密やかにある "事件" が起こっていた・・・
 事件そのものは解決するけれど、ラストシーンは
 犯人の妄想のようにも、ホラーのようにも読める。

「イタリア国旗の食卓」(谷原秋桜子)
 探偵役の少年・修矢がワトソン役兼ヒロイン・美波とともに
 事件を解決していくシリーズの一編。これも既読だったなあ。
 ちなみに修矢が美波と出会う前の話なのでヒロインの出番はナシ。
 修矢が招かれた食事会で、客の一人が倒れる。
 そば粉を使用した料理を給仕され、
 アナフィラキシーショックを起こしたのだ。
 しかし、その場には他にもそばアレルギーを持つ者がいたのに、
 症状が出たのは一人しかいなかった。
 何者かが、何らかの方法を用いて、
 意図的にそば粉の料理を目的の客に食べさせたのだが・・・
 いわゆる "毒殺もの" のひとつだろう。
 ラストで明かされる "方法" は、非常にシンプル。
 それゆえに成功する可能性はあまり高くないかも知れないが、
 うまくいった場合はかえって発覚しにくいようにも思う。

「泡坂ミステリ考-亜愛一郎シリーズを中心に」(横井司)
 すみません、読んでる途中で寝てしまいましたm(_ _)m。
 評論文って苦手なんです・・・


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人類資金 [映画(レンタル)]

人類資金 [Blu-ray]

人類資金 [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
  • メディア: Blu-ray



「読んでから観るか、観てから読むか」
大昔の角川映画のキャッチコピーだけど、
映画と小説のメディアミックスによる本作品は
まさにそれに該当するのだろう。

「人類資金」小説版全7巻を読み終わった後、ふと考えた。
映画の公開はもう2年近く前のはずだから、
当然もうビデオがレンタルしてるだろうことに思い至って、
「じゃあ観てみよう」とばかりに近所のTSUTAYAへ。
そしたら3本だけ置いてあった。2本がDVDで1本がBlu-ray。

DVDは2本とも貸し出し中だったのでBlu-rayの方を借りた。
驚いたのはレンタル料の安さ。何と税込み108円。

ちょっと前まで1本400円くらい払っていたような気がするんだが
意外なくらい価格破壊が進んでいたのですねえ。
まあネット配信もあるし郵送レンタルとかもあるみたいだから
わざわざ店まで足を運んで借りる人は減ってるんだろうなあ。
私自身、レンタルビデオ借りたのは久しぶりだし、

閑話休題

さてこれから、この映画の感想を書いていこうと思うんだけど
けっこう不平不満を書くことになると思う。
なので、この映画を愛して止まない人からすると
かなり不快な文章になっているだろう。このことを予め断っておく。


以下の感想は「読んでから観た人」(つまり私)のもの。
「観てから読んだ人」の感想はまた異なると思う。


観ながら思ったことをつらつら書いていくが、
一番の問題は、脚本のわかりにくさだと思う。

例えば映画の冒頭は原作通り終戦の日で、
日銀から笹倉雅実大尉が金塊を運び出し、舟に積み込んでるシーン。
金塊を隠匿する理由、この資金が戦後日本で果たすであろう役割、
このあたりを笹倉大尉が滔々と語る。
物語の根本設定だから、その説明のためだろうなあとは思うのだが
いかにも説明口調でしかも長い。

現代編でも、ロシアで鵠沼を抱き込んでの詐欺の部分は
やっぱり台詞が説明的で長い。
まあ、引っかける仕掛けを観客に分からせるためなんだろうが。

しかし、その後は途端に説明不足になる。

特に、もっとも重要で、物語のキーになる、
カペラ共和国で "M" が行おうとした "実験" の内容が
今ひとつわからない。これは致命的。

もちろん、原作を読んでる私は分かってる。
だけど、その私が思う。こんな描写じゃ、
原作読んでない人には分からないんじゃないか、と。

 少なくとも、もし私が原作読んでなかったら絶対に分からないと思う。
 もちろん、映画の描写だけでよく分かる人もいると思うのだけど
 そういう人にとっては、以下の文章は全くの的外れなのだろう。
 「すみません、アタマ悪くて」とまず謝っておきます。

だから、"実験" 自体がもたらす "効果" もよく分からない。
"M" が命を賭けてまでそれを実行するに至った理由も。

そして、真舟はそういう "M" の理想に触れ、
彼の "覚悟" のほどを知ったからこそ、彼を救い出すために
巨大資本に立ち向かう決意をしたはずなんだが、
真舟にそこまで思い込ませるような描写があったとは
思えないんだよなあ・・・

これはラストまで尾を引く。
クライマックスの国連総会での石の演説に至っても、
カペラで起こっていることがいかに画期的なことで
世界を変える可能性を秘めているということが今ひとつ伝わってこない。
だから、本来もっとも感動的なシーンのはずなのに
感動できないんだよなあ・・・


次は、日本映画では宿命とも言える製作費の問題と
物理的な映画の尺との兼ね合いの問題。

要するに、原作で盛り上がるところが
映画ではカットされたり縮小されたりしてること。

真舟と石がバイクを使って "市ヶ谷" の追っ手から逃げ回るシーン。
これはばっさりなくなった。

真舟と美由紀が "M" の救出のために "市ヶ谷" から脱走するシーン。
ここは首都高の高架上を舞台に
巨大トレーラーや手榴弾を使ってのド派手なシーンなんだけど、
代わりに登場するのはオープンカー1台のみで場所はトンネルの中。

真舟と石と美由紀が、大群衆に紛れてニューヨークの街中を、
"清算人"・遠藤を相手に追いつ追われつするシーン。
ここも、酒田の親分を巻き込んでサスペンスたっぷりに
ハラハラドキドキするはずが・・・

 もちろん、小説の完成は映画の完成より後なので
 上記のシーンは企画の段階では存在せず、
 小説化の段階で追加されたのかも知れない。
 映画の製作スタッフに言わせると
 「そもそもそんなシーンがあるなんて聞いてない」
 なのかも知れないけど。

でも、当然ながら「読んでから観た人」からしたら、
「あのシーンはどうした?」とか「なんであそこがこうなるの?」
という疑問が湧いてくるのが当然だよねぇ・・・


演出の問題もあるように思う。

例えば、作中で真舟がローゼンバーグを相手に株の仕手戦を仕掛ける。
そのために株の売買のプロ集団が必要になるのだけど
小説では、真舟が日本最大の広域暴力団の親分に直談判して、
彼ら専属の凄腕チームを借り受ける。
映画では、弱小ヤクザの親分・酒田が
知り合いのチンピラみたいなのを集めてやらせてる。
もちろん、チンピラが実はすごい切れ者の集まりで・・・
っていう演出もアリだと思うし、
そんな集団が世界を牛耳る財閥に一泡吹かせる。
そこがうまく描ければ、すばらしく面白いだろう。
でも残念ながら、スクリーンの中の彼らは
やっぱりチンピラの集団にしか見えないし、
相手が一泡吹いたかどうかもよく分からないんだよねえ・・・

ディズカバリー・オイルの株価が高騰して
世界中の株式市場が大騒ぎになるのだけど、
そのへんがよく分からない。
画面に株価の数字がどーんと出てきて、
数字が変わったり色が変わったりしても
素人の私には判断できないんだもの。
それとも、現代日本に生きてる人は、当然の常識として
あの画面で株の世界で重大事が起こってるって分かるのでしょうか。
このあたりも、もうすこし分かりやすい見せ方は
なかったのだろうか・・・って思う。


最後に役者さんの問題。

主役の真舟は佐藤浩市。これはまあ妥当。熱演してると思います。

石は森山未來。これはもうどんぴしゃりの配役。
イメージも原作通りだし、ロシア語や英語を話すシーンも
堂に入っていて、もう素晴らしいの一言。
惜しむらくは上述のように脚本や演出が彼を生かし切れてない。

美由紀は観月ありさ。実は観る前はミスキャストだと思ってた。
普段CMでしか観てないので、イメージに合わないなあ・・・と。
でも、動いて話す美由紀を観たらそんなに違和感がなかったのは意外。
まあ、理想を言えば20代後半~30歳くらいで
アクションもこなせる女優さんがいれば一番いいんだけどね。
志穂美悦子みたいな人って、今いないよねえ・・・

"M" は香取慎吾。私は基本的にジャニーズタレントって嫌いなんだけど
観る前は「意外とあってるかも」って思ってた。
(いい意味で)坊ちゃん育ちで、明るく優しい性格で
しかし理想に殉じる覚悟をもった青年、という役どころだからね。
ところが蓋を開けてみると、やたら台詞回しが重々しい。
なんだか、「軽く見られちゃいけない」と肩肘張っているみたいで
「本当は好青年」という部分が見えてこない。
だから、本気になって彼の命を救うために
真舟が乗り出してくるところがいまひとつ共感できない。

ローゼンバーグの代理人、ハロルド・マーカスはヴィンセント・ギャロ。
この人、はっきり言って良く知らないので論評はしないけど
クライマックスでハロルドが
真舟・美由紀・"M" と対峙するシーンが冗長すぎる。
石の演説で自らの "負け" を悟るのだけど、
上述のように内容がよく分からない演説ではねえ・・・

"清算人"・遠藤はユ・ジテ。韓国の俳優さん。
台詞がほとんど無い上に、最後の行動が意味不明。
わざわざ外国から招いたのにああいう使い方じゃ失礼だと思うよ。

笹倉暢彦は仲代達矢。
日本映画の重鎮で、流石に貫禄充分なんだけど
これも生かし切れてないように思う。
切り捨てたはずの "M" に、一転して救いの手をさしのべるのも唐突。
終盤の株の仕手戦に介入して、真舟に助け船を出してるんだけど
観客には彼が何をしたのか分からないんじゃないかなあ。
製作スタッフだけが分かってて、観客は置いてきぼりな気がする。


なんだかもっとたくさん書きたいことがあった気もするんだが
そろそろやめましょう。


結論として、映画のスタッフは、原作の内容を
「何とか2時間20分という映像に収める」ということに一生懸命で、
「この映画で観客を楽しませる」ところまで
気が回ってないような気がする。

原作者の福井晴敏も脚本に加わってるけど、ここは思い切って
別の人に脚本を書かせた方が良かったような気もする。
なまじ原作に関わってるから、自分の「思い入れ」が
自由な脚本化の邪魔をしてるような気もする。

同じ予算、同じ上映時間でも、もう少し見せようがあった気もするし。
じゃあどこをどうすればいいんだ、って聞かれても困るんだけどね。


福井作品は長大なものが多くて、正直なところ映画には向かないと感じる。
個々のシーンは「映画にしたら見栄えするだろうなあ」って思うけどね。

実は一番合うメディアはTVアニメじゃないかと思ってる。
ずっと以前に書いたけど、「終戦のローレライ」なんて、
2クールくらいの深夜アニメにしたらもう最高だと思うんだけどね。

もし映画にするんなら、「6ステイン」収録の短編とかが
長さ・分量としてはいちばんちょうどいいかな。


私がもし映画のプロデューサーだったら、迷わず
「C-blossom case729」を映画化するなあ。

如月行には、福士蒼汰みたいな
仮面ライダーか戦隊もの出身のイケメン、
ヒロイン松宮香奈には広瀬すずみたいな若手女優さん、
そして自衛隊の全面的な撮影協力があれば
ものすごくカッコいいラブストーリーになると思うんだけどねえ・・・


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人類資金 全7巻 [読書・冒険/サスペンス]

※長文注意!


人類資金1 (講談社文庫)

人類資金1 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/09
  • メディア: 文庫




人類資金2 (講談社文庫)

人類資金2 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/09
  • メディア: 文庫




人類資金3 (講談社文庫)

人類資金3 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/09/13
  • メディア: 文庫




人類資金4 (講談社文庫)

人類資金4 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/10/16
  • メディア: 文庫




人類資金5 (講談社文庫)

人類資金5 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: 文庫




人類資金6 (講談社文庫)

人類資金6 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/02/14
  • メディア: 文庫




人類資金7 (講談社文庫)

人類資金7 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/07/15
  • メディア: 文庫




評価:★★★★☆

「人類資金」という映画のために、作者がストーリーを作成し、
それを脚本と小説という2パターンで世に出した、ということらしい。

 同様のパターンで作られたのが「ローレライ」だった。
 小説版は「終戦のローレライ」。
 私はこの小説が福井作品で一番好きなんだが、
 映画に関してはいろいろ残念な想いがある。
 それをいちいち挙げるのは場違いなので控えるが。

薄めの文庫本(約200ページ)に分割したものを、
月刊ペースで短期集中的に出す、という出版形式も特殊だった。
たぶん1冊ごとの単価を下げて、
買いやすくしたかったんだろうけどね・・・

でも、6巻まできたらパタッと刊行が止まってしまい、
完結の7巻が出たのは、それから1年5ヶ月も経ってからだったよ。
それも約700ページと、6巻までと打って変わっての分厚さにビックリ。
それまでの薄さは何だったんだろう・・・

7巻の冒頭には20ページほど、1~6巻のあらすじが載っている。
これも刊行に間が空いてしまったことへのフォローでしょうか。

ちなみに写真を見てもらうと分かるんだが、
この厚みのアンバランスさ。おかしいだろうこれ。

Mfund.jpg
さて、本書は全7巻、総計で1800ページを超えるという長大な作品。
全体を構成する7つのパートのページ数を記すと以下のようになる。

序 幕(1巻:約80ページ)
第一幕(1~2巻:約280ページ)
第二幕(3~4巻:約330ページ)
第三幕(4~5巻:約220ページ)
幕 間(5~6巻:約260ページ)
第四幕(7巻:約590ページ)
終 幕(7巻:約70ページ)

なにしろ大長編なので、どの程度まで紹介したらいいのか悩む。
内容としても、従来の福井作品とはやや毛色が異なるので
読み始めてみて、やや違和感を感じる人も
いるかも知れない(私がそうだった)。

なので、序盤についてはやや丁寧に紹介した方が
親切なのかも知れない、とは思うんだけど・・・
なるべく未読の人の興を削がないように書くつもりだが
どうしても内容に深く踏み込んでしまう部分があると思う。

これから読もうという人は、以下の文章に目を通さずに
書店へ直行することを推奨する。


1945年8月15日、日本銀行の地下金庫から、
600トンの金塊が運び出され、姿を消す。
首謀者は陸軍大尉・笹倉雅実。
この金塊は、終戦後の日本の復興を影から支え、
やがて "M資金" と呼ばれるようになった。

M資金の管理のために "財団" を立ち上げ、
その初代理事長となった笹倉雅実は、戦後日本の経済界の黒幕となり、
"財団" は笹倉一族によって受け継がれてゆく。

そして69年の時が流れ、笹倉雅実の七回忌が営まれた2014年、
M資金専門の詐欺師・真舟雄一の前に、石優樹と名乗る男が現れ、
「 "財団" に関わる仕事」を依頼する。

真舟はかつて、育ての親とも言うべき恩人・津山を
"財団" がらみの事件で喪っており、
M資金の真実、そして事件の真相を求めていた。

依頼人の "M" は、ITベンチャー企業の若き社主だった。
彼の目的はなんと「M資金を盗む」こと。そしてさらに告げる。
「僕といっしょに、世界を救ってみませんか?」

いったんは返事を保留した真舟だったが、その彼の前に
防衛省情報局・M資金監視担当要員である高遠美由紀が現れる。
(要するに福井作品でお馴染みDAISのメンバーだ)
美由紀もまた、笹倉一族に連なる者だった。

美由紀は真舟を捕らえようとするが、間一髪、石に救われ。
しかし二人はDAISの執拗な追跡を受けることになる。

本書は今までの福井作品と異なり、ミリタリー要素はほとんど無いので
アクションシーンは少ないが、その分こってりと書き込まれている。
バイクを駆使したカーチェイスや、
東京の巨大な地下空間を利用した逃走劇など
迫力充分なシーンが続く、序盤のクライマックスだ。

ここまでが、1~2巻。

3巻に入ると舞台はロシアへと移る。
日本を脱出した真舟と石は、"財団" のロシア支部とも言うべき
ヘッジファンドオフィス・ベタプラスをターゲットに定める。
マネージャー・鵠沼英司に偽の情報を吹き込み、
"財団" から10兆円を奪取することを目論む。

このあたりはとてもよくできたコン・ゲーム小説になっていて
福井晴敏は派手なドンパチ以外にも、
こんな緻密な話も書けるんだなあと素直に感心した。

しかし最後の詰めの直前に "仕掛け" がバレてしまい
すべては水泡に帰すかと思われた瞬間、意外な人物が現れる・・・


さて、ここまできて「読んでみようかな」と思った人は
そろそろやめて書店へ行きましょう。

以下の文章は、かなりストーリーの根幹に触れる部分が
あるように思うので、そのつもりで。


4巻に入ると "M" の正体、さらに彼と美由紀との関係が明かされる。
彼がM資金を利用して実現しようとしたのは、
戦後の世界経済を支配する "ルール" に異を唱え、
"新しい世界" を築くこと。
そのために彼は、東南アジアにある世界最貧国の一つである
カペラ共和国に於いて、壮大な実験を始めようとしていた。

富める者がますます富み、貧困に苦しむ者が
さらに搾取され続ける世界ではなく、
人間の持つ善意を "システム化" し,
貧しい者に等しく "チャンス" と "可能性" を与える世界にする。

"M" の掲げる理想が正しいのか間違っているか、
読者の受け取り方はそれぞれだろう。

私は経済についてはド素人で、
株の売買すらやったことがない人間なのだけど、
それでも "M" の理想が万人に納得できる話でないことくらいは分かる。

でも、本書の根本にあるテーマは、
現在の世界のありように疑問を提示し、
"より良き世界" を目指して、自らの力を持って
それに立ち向かっていく、そういう理想を持った人間を "是" としよう、
というということだと思う。
(これは前作「小説・震災後」でも扱われたテーマでもある。)

物語の根幹は "M" の理想と現在の世界経済の "ルール" との相剋。
ならば、本書を楽しむには、"M" の理想を "作中是" として
(少なくとも本書を読んでいる間は)受け入れることが必要なのだろう。

彼が何故そんなふうな理想を持ち、
さらにそれを実行に移す決断に至ったかもまた、
かなりのページを割いて描かれている。

本書に限らず、福井作品が長大になりがちなのは
リアリティを担保するための書き込みが半端ない、
というところにも原因がある。
それを楽しんで読めるか、冗長に感じるかで
福井作品に対する評価もかなり決まるんじゃないかな。


さて、そんな "M" の行動を許さない者もまた存在する。

よくフィクションの世界では「世界を裏から操る影の存在」
なんてものが出てくるが、本書でもそれに相当する組織が登場する。

それが、物語後半から表舞台に出てくる「ローゼンバーグ財閥」。
世界経済を数百年の昔から影で操ってきたとされる存在で、
まさに戦後資本主義世界の "ルール" そのもの。
M資金を管理する "財団" でさえ、ローゼンバーグ財閥の支配下にある。

カペラ共和国の "実験" が始まった直後、
"ルール" への挑戦者である "M" は、
ローゼンバーグ財閥によって捕らえられてしまう。
彼の命はまさに "風前の灯火" となった・・・


ここまでが1~6巻までのおおよそのあらすじ。

「経済」という慣れないフィールドで、
ともすればややアウェイな雰囲気も感じられて
かなり慎重に、そしてちょっと窮屈そうな書きっぷりだったのが、
7巻に入ると、文章が水を得た魚のように生き生きとしてくる。
6巻までが壮大な「序章」で、実は7巻が「本編」なんじゃないか。
そんな風にさえ思えるほど、7巻はアツい展開が続く。

まさに6巻まではプロレスで言うところの "受け" に徹し、
7巻に至り、一気に反撃に転じる。

しがない中年男の詐欺師・真舟が、世界経済の帝王とも言える
ローゼンバーグ財閥を相手に、一世一代の大勝負を仕掛けるのだ。

"M" が命をかけて窮地を救ってくれた恩義もあるだろう。
彼の抱く理想に共鳴したこともあるだろう。だが何よりも、
自らの心の "ルール" に従い、"M" の救出を決意する。
そのために様々な才能を持つ "仲間" を集め、
"チーム・真舟" ともいうべき一団をまとめ上げていく。

迎え撃つは、ローゼンバーグ財閥の一族に連なる
M資金担当役員、ハロルド・マーカス。

カペラ共和国の "実験" を封殺しようと画策するハロルド。
それを逆手に、世界の注目をカペラに集めるべく動く真舟。

一発の銃弾も飛び交わないが、それに代わる
「株式」という武器を手に、二人の男の頭脳戦が幕を開ける。

寡兵ならではの機動力と、素人ゆえの "奇策" を繰り出す真舟。
圧倒的な "物量" (資金力)を背景に力で押し切ろうとするハロルド。
戦場ならぬ "市場" を舞台に、息詰まるような "戦い" が続く。

そして最終 "決戦" の舞台はニューヨーク。
起死回生の一打を狙う真舟たちに、ローゼンバーグの "清算人" が迫る。
これがまた「ターミネーター」みたいな不死身の超人。
世界の未来と "M" の奪還を賭けて、真舟、石、美由紀の三人が
ビッグ・アップルを駆け抜ける・・・


何と言っても真舟のかっこよさにシビれる。
腕はいいけど、所詮は一介の詐欺師にすぎない。
そんな彼が、巨大財閥にケンカをふっかけることを決意してからは
別人のように颯爽としてくる。
常に敵の二手三手先を読み、ピンチに陥っても決して諦めず、
次から次へと奇手をひねり出して切り抜けていく。

福井晴敏としては初めての「経済」をテーマにした小説。
上にも書いたけど、がんばってると思う。
この作品を企画してから経済の勉強を始めたとのとだが
少なくとも付け焼き刃的なおざなり感は皆無だ。

もっとも、その筋の専門家の人から見れば穴だらけなのかも知れないが
私くらいのレベルの人には必要充分な描写だと思うよ。

要所要所にしっかりアクションシーンも織り込んで
読者へのサービスも怠りない。
今までの福井作品のトレードマークとも言える
"火薬の量と爆発の回数で勝負" 的な要素を排してもなお、
手に汗握る緊張感と、読後のカタルシスは充分。
もちろん "福井節" も健在だ。

M資金の呪縛に囚われ、次々と悲劇に見舞われる笹倉一族の系譜とか、
"財団" の現理事長である笹倉暢彦・芳恵夫妻の泣かせるエピソードとか
終盤ではすっかりギャグ要員になってしまうヤクザの親分・酒田とか
まだまだ書きたいことはたくさんあるんだけど
もうかなり長く書いているのでそろそろ終わりにしようと思う。

「ガンダムUC」から数えると5年ぶり、
「小説・震災後」を入れても3年ぶりくらいの作品だけど
待たされただけのことはあったと思う。


最後にちょっとだけ余計なことを書く。

すべてが終わり、表舞台から去って行く時の真舟がもう最高だ。
読んでいて連想したのは「ルパン三世・カリオストロの城」で
ラストシーンでクラリスに別れを告げて去って行くルパン。
ここでの真舟は、ルパンに負けないくらい「カッコいい男」だ。

そう思って読んでると、登場人物が
「ルパン三世」に重なって見えてきたよ。
石は次元、美由紀は不二子、そしてクラリスは "M" (笑)。
五右衛門はさしづめ鵠沼君かなあ。

・・・ホント、余計なことだったね。


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戦都の陰陽師 [読書・ファンタジー]

戦都の陰陽師 (角川ホラー文庫)

戦都の陰陽師 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 武内 涼
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/12/22
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

50代以上の方は、次の文章は「仮面の忍者 赤影」の
OPのイントロ部分を脳内再生しながら読みましょう。

豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃、
京の都の結界を破って天魔が侵入し、魔界への扉を開こうとしていた。
安倍晴明の血を引く土御門(つちみかど)家の姫・光子(ひかりこ)は
天魔を討つ力を秘めた霊剣を求めて出雲へと旅立つ。
光子の父・有脩(ありすえ)は道中の護衛のために、
伊賀の国から7人の忍者を呼んだ。
その頭領の名は・・・疾風(はやて)、参上!


・・・気を取り直して改めて紹介を。

時に1568年、織田信長上洛直前の京の都。
都には古来より幾重もの結界が張られ、守護されてきたが
600年ぶりに天魔が侵入を開始してきた。

天魔を倒すことが出来るのは、かつて陰陽師・安倍晴明が鍛えて
出雲の地に封じた霊剣・"速秋津比売(はやあきつひめ)の剣" のみ。

安倍晴明の末裔・土御門光子は当年とって17歳。
妖魔が人々を殺める姿を目の当たりにした彼女は、
霊剣を求めて出雲への旅立ちを決意する。

そして光子の父・有脩は、旅の護衛として
伊賀・藤林党から7人の忍者を呼び寄せた。

総勢8人は一路出雲を目指すが、その行く手には
天魔の使い魔によって使嗾された毛利家の軍勢、
そして山中鹿之助に率いられた尼子残党が
霊剣を手に入れるべく待ち構えていた・・・


主人公・光子は、陰陽師としてはまだ駆け出しで
使える式神も三種類くらいしかない。
貧乏公家に生まれたので財産もない。
でもそのぶん、庶民の暮らしを知っている。
人々を守りたいという気持ちも人一倍強い。

そのヒロインを守る、疾風を筆頭に藤林党の7人なんだが・・・
光子は、冒頭のいくつかのエピソードでその人となりが分かるのだけど
こちらの7人は、序盤では内面の描写がごく少ない。
護衛を引き受けた経緯も描かれない。

そもそも疾風たちは、無報酬で光子の護衛をしている。
疾風の父・藤林長門守が、光子の父・有脩から
個人的な誼を通して "お願い" を受け、遣わされた者たちだから。
何せ土御門家は貧乏公家なので。

忍者たちが今回の使命に対して思うところとか、
おそらく7人の心の内は様々だったのだろうから、
このあたりをもう少し掘り下げてもらうと、
彼らへの思い入れもスムーズにいったように思う。
何せ命がけのミッションで、実際に命を落とす者も出てくるのだから。

まあ、忍者だから「命令」の一言で済むのかも知れないが。


あと、ストーリーが少しばかりもたもたしてるかな。

おそらくたいていの人は、陰陽師と忍者が協力して、
群がる敵をばったばったと倒していくような物語を
期待するんじゃないかなぁ(私がそうだった)。
でも、そんなふうに思った人はちょいと当てが外れることだろう。

式神を駆使して窮地を逃れることに成功することもあるけど、
もともと "お嬢様" で、半人前の陰陽師でしかない光子は、
物語中ではほぼ一貫して "お荷物" である。

毛利や尼子残党の追っ手を振り切るべく、
残雪深い中国山地を逃げ回る一行の足を引っ張る存在だ。
もっと言うと、この山中を逃げ回る部分がちょいと長すぎるとも思う。
ページ数にして全体の半分近いんじゃないかなあ。

それに対して、京へ帰って天魔と対決する部分は
全体の一割にも満たない。
そして、光子の本格的な活躍はやっとここから始まる。
何せ霊剣の力を解放できるのは安倍晴明の血を引く者だけだから。

逃げ回るシーンだけはたっぷり読まされて、
いささか鬱憤がたまっている人も多いと思うので
このあたりはもうちょっと主人公達に無双させて、
読者の溜飲を下げるところがほしかったかなあ。

なんだか文句ばかり書いてしまったけど、決して嫌いじゃない。
戦国時代を舞台にした、和製ヒロイック・ファンタジーとして、
なかなか得がたい作品になっていると思う。
ヒロインも魅力的だし、疾風もカッコいいし、
伊賀の忍者たちも物語が進むうちにだんだん思い入れが出来てきた。

何より、続巻があと2冊出てる。これは素直に嬉しい。
今回、17歳の光子と21歳の疾風の間には、
ちょっぴりだけどロマンスの雰囲気が漂っていた。
二人の仲がどのように発展していくのかも知りたいし。

次巻「戦都の陰陽師 騒乱の奈良編」も近々読む予定。
光子と疾風たちがよりいっそう活躍することを期待しよう。


最後に余計なことを。

表紙のイラストは、霊剣を背負った光子だよねぇ・・・
人によって好みはあるだろうけど、それなりに可愛いとは思う。
ただ、どう見ても平安時代の日本人には見えないんだよねえ・・・


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烏は主を選ばない [読書・ファンタジー]

烏は主を選ばない (文春文庫)

烏は主を選ばない (文春文庫)

  • 作者: 阿部 智里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/06/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

平安時代をモデルとしたと思しき世界。
人間の代わりにこの世界を治めるのは、
"鳥" に化身する力を持った "八咫烏" (やたがらす)の末裔。
今上陛下は "金烏代(きんうだい)" と呼ばれていて、
それを支えるのは東・南・西・北の大貴族四家。

皇太子である若宮の后選びが始まり、
四つの家からそれぞれ后候補の姫が
"桜花宮" へと集められることになった。

そこを舞台に四人の姫達が、后の座を巡って繰り広げた
"女の戦い" を描いたのが前作「烏に単は似合わない」。


しかしこの前作、終盤まで若宮がほとんど出てこない。
途中で登場するシーンも数えるほどで、それもワンカット程度。

 もっとも、ラスト近くで突然現れた後は、快刀乱麻の大活躍で
 混迷を極めていた状況を一気に解決してしまう。
 終わってみれば美味しいところをみんな持っていってしまうという
 とんでもない人だったが。

その若宮様が、嫁候補の娘たちが火花を散らしている間、
一体何をしていたのかを描いたのが本書。
つまり前作と本書は時系列的には同じ時間帯を描いているわけだ。

 解説によると、作者の最初の構想では
 両者を一つの小説にまとめるつもりだったらしい。

だが、読んでみるとストーリー上のからみはほとんどないし
登場人物の重複も少ない。
同一シーンをそれぞれの視点から描いた処はあるけれど。
だから、前作を読んでいなくてもとりあえずは困らない。
もちろん、読んでいればそれなりに楽しめる箇所は増えると思うが。

閑話休題。


主人公は、北家に仕える郷長の息子・雪哉。
地元で、ある騒ぎを起こしたをきっかけに、
なぜか若宮の側近くに仕えることになり、都にやってくる。

ところが宮様は "うつけ" との噂も高い曰わく付きの人物。
実際、雪哉にトンデモナイ量の仕事を押しつけるし、
宮廷のしきたりは平気で無視するし、
いかがわしいところには頻繁に出入りするし、もうやりたい放題。

しかも若宮には兄宮・長束(なつか)がおり、
こちらは品行方正、立ち居振る舞いも堂々としていて
どうみてもこちらの方がふさわしそうなものだが、
先代のご指名で、兄を差し置いて若宮が世継ぎに決まったという経緯。

当然ながら若宮の即位に不満を持つものは多く、
中には武力に訴える者も出てきていた。

要するに、若宮様はお家騒動の渦中にあり、
命の危険も感じる日々を過ごしていたわけで
そりゃあ、お后候補のところに来て
呑気に花嫁選びなんぞしているわけにはいかなかったのでしょう。

誰かを后に決めたら、その姫もまた
襲撃対象になる可能性もあるわけで。

というわけで、若宮不在のまま前作は
進行せざるを得なかったということですね。


さて本書の方だが、とにかく雪哉というキャラ設定がうまい。
田舎鄕氏の次男坊がごぼう抜きで皇太子側近になってしまう。
実際、頭は良く回るし行動もてきぱきとしていて働き者。
しかしながら、地元で平凡に一生を過ごしたかったと思っていて
もともと出世欲とは無縁だった。
つまり嫌々ながらの宮仕えなのである。

だから、若宮に対して遠慮というものがない。
常軌を逸した振る舞いに対しては
「馬鹿かあんた!」とツッコみを入れ、若宮がボケを返す。
もう二人の会話はほとんど漫才である。

しかしながら、若宮の "うつけ" は世を忍ぶ仮の姿。
前作ラストの活躍でもわかるように頭脳明晰で肝も据わってる。

この二人が "漫才" をしながら(笑)、宮廷に潜む陰謀を暴いていく。
誰が敵で誰が味方か。そして黒幕はどこにいるのか。
終盤で明らかになる "真相" も意外なもので、たいしたものだ、

前作ラストほどの衝撃はないかも知れないが、
それは前作が良く出来すぎていたからだろう。
新人の第二作としては、充分に水準を超えた出来で、楽しく読める。

これを当時21歳だった女子大生が書いていることに改めて驚かされる。
現在は大学院に進学して、勉学と創作を続けているというのだから
ホントたいしたものだ。

解説によると、前作と本作は、
シリーズ全体では序章にあたるのだという。
第3作「黄金の烏」から本筋が始まるとのことで、
さらに第4作「空棺の烏」も最近刊行された。
とても楽しみなシリーズになってきた。


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冒険王<2> 北京潜入 [読書・冒険/サスペンス]

冒険王 2 北京潜入 (ハルキ文庫 あ 24-3)

冒険王 2 北京潜入 (ハルキ文庫 あ 24-3)

  • 作者: 赤城毅
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2015/06/13
  • メディア: 文庫



評価:★★★

元陸軍中尉・志村一心は、堪能な語学力と
その武芸を買われ、間諜として生きていくことになった。

舞台は前巻から4年後、1900年の中国。
義和団が北京を占領、列国公使館は包囲されて、
救援のために日本を含む8カ国連合軍が北京へ向かっていた。

特務機関長・佐久間大佐が一心に与えた任務は
北京へ潜入し、現地の状況を探ること。

特務機関に協力する中国人女性・玉藻(たまも)と
夫婦を装い、物資を輸送する水夫となって北京を目指す。

しかし行く手には、義和団のみならず、
一心を不倶戴天の敵とつけ狙う諏訪雷四郎もまた待ち受けていた。


ヨーロッパの都市や鉄道などが舞台で、
"和製007" 的にスマートな雰囲気だった前作と比べると
主な舞台が荒野だったり、移動が帆船や馬だったり、
使う武器も銃よりも剣がメインだったりと、より泥臭くなって、
こちらは "和製インディ・ジョーンズ" という趣向。

文庫で200ページちょっとしかないんだが、
主人公を襲う危機また危機、ライバルの登場、
愛と友情と裏切り、そして意外な幕切れと
この手の話では "お約束" ともいうべき展開が
しっかり盛り込まれているのは、流石の出来というべきだろう。

これはこれでとてもおもしろいと思うんだけど
日露戦争直前の中国という舞台もあり、
荒唐無稽さよりは、ややリアル志向のつくりになってるかな。
そのせいか、読んでいてなんとなく窮屈さを感じたりもした。

リアル志向が悪いわけでは全然無いんだが、
デビュー作「魔大陸の鷹」に始まる初期作品の自由奔放さ、
ぶっ飛んだ想像力全開ぶりを知ってるだけにねえ。
まあ、あんなものはそうそう量産できるものでもないんだろうけど
またいつか "ぶっ飛んだ話" を書いて欲しいなあ。


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フライ・バイ・ワイヤ [読書・ミステリ]

フライ・バイ・ワイヤ (創元推理文庫)

フライ・バイ・ワイヤ (創元推理文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/06/29
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

表紙のイラストを見てみる。
高校生の男の子が、同い年くらいの女の子を後ろに載せて
自転車を漕いでいる。女の子は、男の子の背に顔を伏せて。
うーん、青春だねえ・・・
たいていの人は、この絵から胸キュンな物語を連想するだろう。
でも・・・

舞台は、今からさほど遠くない近未来の日本。
主人公・宮野隆也は、さいたま工科大学附属高校の2年生。
成績優秀な "選抜クラス" にあって、学級委員長を務めていた。
その選抜クラスに、「一ノ瀬梨香」と名乗る
二足歩行ロボット「IMMID-28」が "転入生" として現れる。

それは、病気で登校できない梨香にIMMID-28を遠隔操作させ、
間接的に学校生活を体験させようとする産学合同プロジェクトだった。

 タイトルの「フライ・バイ・ワイヤ」とは、
 パイロットの操作を電線に流れる電気信号によって伝え、
 航空機を操縦する方式を指す。
 昔の航空機は、ケーブルやロッドなど、パイロットの操作を
 物理的・機械的な方法で機体各所に伝えて操縦していたからね。
 本書においては、遠隔地から電波によって操縦される
 IMMID-28の操作方法を意味している。

担任から梨香の "世話係" を命じられた隆也の尽力もあり、
生徒達は驚き、戸惑いながらも、"彼女" を受け入れ始め、
実験は順調に滑り出したかに見えた。

梨香自身も、転入後最初の定期試験では
ぶっちぎりのトップの成績を収めるなど、学校生活に馴染んでいく。
しかしその試験結果に不正行為を疑う者も現れる。

そもそも "一ノ瀬梨香" なる少女は実在するのか?
実はIMMID-28は完全自律型のロボットなのではないか?

そんな疑問がわき上がる中、副委員長の上井未来が校内で撲殺され、
現場に居あわせたIMMID-28の背中が被害者の血で
染まっているところを発見される。

梨香の無実を信じる隆也は、仲間たちとともに真相を探り始めるが
やがて第二の殺人が起こる・・・


ロボットSFといえばアシモフ、
アシモフといえばロボット工学三原則。
って連想が働いてしまうのは年季の入ったSFファンだろう。
(知らない人はwikiで「ロボット工学三原則」を調べてください。)

本書中のロボットも三原則に則っているので
人間に危害を加えられないはず。しかしIMMID-28は遠隔操作型。
ならば操縦者がその気になれば、殺人も可能のはず。
(末尾の "28" はもちろん「鉄人28号」から採ってるのだろう。)

犯人は校内の誰かか、梨香か、それともIMMID-28の誤作動なのか。
三原則も絡んで、真犯人に至る筋道は容易につかめない。


ロボットをめぐるSFミステリとしても面白いし、
(動機の面でやや疑問符を感じないでもないが)
異質な仲間を巡り、高校生の集団の中で起こる
友情(受容)と排斥の葛藤を描いた青春小説としても読める。


梨香の存在が疑われる中、IMMID-28を通して "梨香" と
接し続けてきた隆也は、彼女の "実在" を信じるようになっていく。

事件解決後の最終盤で明かされる "梨香" の "正体" 。
ネタバレになるので書かないけど、これはもう読んでもらうしかない。

最終ページまで読み終わった後、表紙のイラストを
もう一度見返してみる。
最初の印象 "胸キュン" とはかなり異なって、
その切なさに "胸が痛む" のは私だけではないだろう。

でも、希望の見える幕切れで、読後感は悪くない。
石持浅海は優しいなあ。


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イーハトーブ探偵 山ねこ裁判 賢治の推理手帳II [読書・ミステリ]

イーハトーブ探偵 山ねこ裁判: 賢治の推理手帳II (光文社文庫)

イーハトーブ探偵 山ねこ裁判: 賢治の推理手帳II (光文社文庫)

  • 作者: 鏑木 蓮
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/07/09
  • メディア: 文庫



評価:★★★

宮澤賢治(ケンジ)が探偵役となって、
東北の地で起こる怪事件の謎を解くシリーズの第2弾。
ワトソン役は、ケンジの友人・藤原嘉藤治(カトジ)が務める。

本書には、大正12年の2月から7月にかけて起こった
5つの事件が収められている。このときケンジは26歳。


「哀しき火山弾」
 採石場で、突然巨石が割れて、石工業者の社長が
 その下敷きになって死亡する。
 しかし社長は生命保険に入っており、自殺を疑う保険会社は
 保険金の支払いを渋っているという。
 ケンジは、巨石の破砕面に残された黒い粉末から
 事件の真相を探っていく。
 高校の理科程度の知識があれば、
 メインのからくりはなんとなく見当がつくかなあ。

「雪渡りのあした」
 地主である矢嶋家の当主が亡くなり、放蕩者の長男・専一は
 家宝である宝珠(仏像を中に収めた水晶玉)を相続する。
 しかし、金庫から取り出しだ宝珠の中に仏像は存在しなかった。
 厳重に封印されていた金庫から、
 さらに水晶玉を破壊せずに中の仏像を盗み去ることは可能なのか。
 これもなんとなく真相の見当はついたんだけど、
 ミステリとしては今ひとつかな。

「山ねこ裁判」
 土蔵荒らしが横行し、警察署長自ら指導に出回る騒ぎになる。
 そんな中、柏崎家の土蔵から掛け軸と腕時計が盗まれる。
 現場は堅固な二重扉に、厳重に施錠されていた。
 メイントリックは○ー○○・○○○○の「○○の○○○」の応用
 かと思うんだけど、さらにもうひと味加えてある。
 作中で紹介されているケンジ作の童話「シグナルとシグナレス」が
 ケンジ自身の恋愛が投影されているらしく、もの悲しい。

「きもだめしの夜に」
 ケンジが勤務する農学校で、養蚕合宿が行われた。
 その夜、学校の北にある墓地まできもだめしに行かされた生徒が、
 「神隠し」という人の声に驚き、逃げ帰ってきた。
 ケンジは、そのたった一言から意外な事実をたぐり寄せていく。

「赤い焔がどうどう」
 呉服商の一人娘・サチが自殺した。
 サチは番頭・庄二郎との結婚が決まっていたが、
 詩の朗読会で知り合った若者・徳雄へ想いを寄せていた。
 サチの死亡した状況に不審な点を感じたケンジは、
 独自に調べを進めていくが・・・
 「山ねこ裁判」と並んで、本書中では双璧の本格ミステリ度。
 横溝正史や高木彬光もかくやとばかりのトリックが炸裂する。


前年の暮れに、最愛の妹トシを失ったこともあり、
本書でのケンジは終始淋しさを漂わせている。
「赤い焔-」の中で、ケンジはカトジに
間もなく樺太へ旅立つことを告げる。
生徒の就職斡旋のためなのだが、
トシを忘れられない悲しみも、彼を北の地に誘っている。
次巻では、樺太を舞台にした事件が語られるのだろう。


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