イーハトーブ探偵 山ねこ裁判 賢治の推理手帳II [読書・ミステリ]
イーハトーブ探偵 山ねこ裁判: 賢治の推理手帳II (光文社文庫)
- 作者: 鏑木 蓮
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2015/07/09
- メディア: 文庫
評価:★★★
宮澤賢治(ケンジ)が探偵役となって、
東北の地で起こる怪事件の謎を解くシリーズの第2弾。
ワトソン役は、ケンジの友人・藤原嘉藤治(カトジ)が務める。
本書には、大正12年の2月から7月にかけて起こった
5つの事件が収められている。このときケンジは26歳。
「哀しき火山弾」
採石場で、突然巨石が割れて、石工業者の社長が
その下敷きになって死亡する。
しかし社長は生命保険に入っており、自殺を疑う保険会社は
保険金の支払いを渋っているという。
ケンジは、巨石の破砕面に残された黒い粉末から
事件の真相を探っていく。
高校の理科程度の知識があれば、
メインのからくりはなんとなく見当がつくかなあ。
「雪渡りのあした」
地主である矢嶋家の当主が亡くなり、放蕩者の長男・専一は
家宝である宝珠(仏像を中に収めた水晶玉)を相続する。
しかし、金庫から取り出しだ宝珠の中に仏像は存在しなかった。
厳重に封印されていた金庫から、
さらに水晶玉を破壊せずに中の仏像を盗み去ることは可能なのか。
これもなんとなく真相の見当はついたんだけど、
ミステリとしては今ひとつかな。
「山ねこ裁判」
土蔵荒らしが横行し、警察署長自ら指導に出回る騒ぎになる。
そんな中、柏崎家の土蔵から掛け軸と腕時計が盗まれる。
現場は堅固な二重扉に、厳重に施錠されていた。
メイントリックは○ー○○・○○○○の「○○の○○○」の応用
かと思うんだけど、さらにもうひと味加えてある。
作中で紹介されているケンジ作の童話「シグナルとシグナレス」が
ケンジ自身の恋愛が投影されているらしく、もの悲しい。
「きもだめしの夜に」
ケンジが勤務する農学校で、養蚕合宿が行われた。
その夜、学校の北にある墓地まできもだめしに行かされた生徒が、
「神隠し」という人の声に驚き、逃げ帰ってきた。
ケンジは、そのたった一言から意外な事実をたぐり寄せていく。
「赤い焔がどうどう」
呉服商の一人娘・サチが自殺した。
サチは番頭・庄二郎との結婚が決まっていたが、
詩の朗読会で知り合った若者・徳雄へ想いを寄せていた。
サチの死亡した状況に不審な点を感じたケンジは、
独自に調べを進めていくが・・・
「山ねこ裁判」と並んで、本書中では双璧の本格ミステリ度。
横溝正史や高木彬光もかくやとばかりのトリックが炸裂する。
前年の暮れに、最愛の妹トシを失ったこともあり、
本書でのケンジは終始淋しさを漂わせている。
「赤い焔-」の中で、ケンジはカトジに
間もなく樺太へ旅立つことを告げる。
生徒の就職斡旋のためなのだが、
トシを忘れられない悲しみも、彼を北の地に誘っている。
次巻では、樺太を舞台にした事件が語られるのだろう。