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翼のある代理人 慶子さんとお仲間探偵団 [読書・ミステリ]

翼のある依頼人: 慶子さんとお仲間探偵団 (光文社文庫)

翼のある依頼人: 慶子さんとお仲間探偵団 (光文社文庫)

  • 作者: 柄刀 一
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/06/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★

探偵役は有名女優と同姓同名の松坂慶子さんという女性。
さらに、息子が大輔というんだから念が入っている。

この慶子さん、時と場所を選ばず、突然眠り込んでしまう
ナルコレプシーという持病を抱えていて、
物語の途中ではたいてい寝ている。
で、最後に目が覚めて推理を披露する、というパターン。
シャーロッキアンという同じ趣味を持つ仲間たちとともに
いろいろな事件に巻き込まれていく。


「女性恐怖症になった男」
 語り手は、バイト先の人間関係が原因で
 女性恐怖症になりかかっている大学生の野村敬吾くん。
 叔母の所有するマンションで暮らしているが、
 ある日シャーロッキアンの集まりに招かれる。
 ところが当日マンションの一室から火事が発生、
 焼け跡から住人の他殺体が発見される。
 しかし火災発生当時、現場は密室状態だったのだ。
 事件が解明されるにつれ、非情によく練られた
 計画的殺人だというのが明らかになってくる。
 ミステリとしては本書中いちばん好きかな。
 愛すべき性格の野村くんは、レギュラーかと思いきや、
 本作のみの出演らしい。ちょっと残念。

「翼のある依頼人」
 慶子さんの家に迷い込んできた白いインコ。
 インコの "しゃべる" 言葉の断片を手がかりに、
 飼い主を探し始める慶子さんとお仲間たち。
 インコの飼い主を突き止めて終わりかと思いきや、
 事態は意外な方向に進んでいく。
 これも良く出来てる。
 冒頭の数ページから、このラストはちょっと想像できないだろう。

「見えない射手の、立つところ」
 文庫で約210ページと、本書の約半分を占める。
 長めの中編というか短めの長編というか。
 量に比例して、盛られている謎も大きい。
 ガンスミス(銃器職人)を営む弓弦家に招かれた慶子さん一行。
 当主の娘の芳(かおる)と、その婿の雄太郎の夫婦は、
 3年前に一人息子の泉を喪っており、
 それが弓弦家に暗い影を落としていた。
 客人たちが屋敷の中を見学している時、突如轟く銃声。
 慶子が目撃したのは、誰もいない場所で空中に静止した銃。
 そこから発射された弾丸が一人の人間の命を奪った瞬間だった・・・
 まさしくタイトル通りの、魔法のような犯行だ。
 いったいどんな解決をつけるのだろうと興味津々だったが・・・
 うーん、これはどうなんだろう。
 不可能ではないが、これを "可能" と言っていいのかなあ・・・
 かなり強引な大技を繰り出してきたが
 大技過ぎて土俵の外へ出てしまったような・・・
 (これじゃわからんよなぁ)
 これ、かなり評価が分かれそうな気がする。
 「スゴいじゃん」って素直に驚く人と
 「ありえん!」って受け入れない人と。
 私は「スゴい」3割「ありえん」7割かなあ・・・

「黄色い夢の部屋」
 慶子さんの夫の一臣は、やり手の実業家だがそのぶん敵も多い。
 松坂家の一室から、一臣の苦しむ声が聞こえる。
 家人達が集まってくるが部屋は中から鍵がかかっていた。
 扉を壊して中に入った人たちが見たのは、血まみれの一臣。
 そして首には絞められた跡が・・・
 古典的名作のオマージュにして本書のトリ。
 両親を心配する息子の視点から語られるが
 ここにもひとひねり。


実は慶子さんは初出ではなく、既刊の「マスグレイブ館の島」が
シリーズ第1作だったとのこと。全く気がつかなかったよ。

なんだか「これで完結」となってもあまり違和感ないつくりだけど
巻末の解説によると、まだ続きがあるのかな。
「マスグレイブ-」から本書の間が11年あったそうなので
次巻もそれくらい先だったりして。


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Guilty 殺意の連鎖 ミステリー傑作選 [読書・ミステリ]

Guilty 殺意の連鎖 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

Guilty 殺意の連鎖 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/04/15
  • メディア: 文庫



評価:★★★

2010年に発表されたミステリ短編から選ばれた12編を
2分冊で文庫化した、その前半分。


「芹葉(せりば)大学の夢と殺人」(辻村深月)
 のっけから恐縮だが、私にはこの作品の良さが分かりません。
 若さは "バカさ" だというのは百も承知しているし、
 私自身もまた、かつては "大バカ" だったことは認めるが、
 それをさっ引いてもなお
 ろくに夢を追うことすらできない幼稚でおバカな男と、
 分かっていながら別れられずにずるずるつき合うおバカな女の話を
 70ページにわたって延々と読まされるのは、かなり辛かった。
 辻村さんごめんなさい。

「アポロンのナイフ」(有栖川有栖)
 連続通り魔殺人の犯人として指名手配されたのは、17歳の男子高校生。
 当然ながら顔も名前も公表できない。いつしかネットやマスコミからは
 <アポロン>と呼称されるようになるが、その行方は杳として知れない。
 折しも、有栖の住む大阪で二人の高校生が死体で発見される。
 犯人は<アポロン>なのか・・・
 安定の有栖川有栖。
 "犯人" の過去を考えればあながち責められない気もするが
 成人年齢が18歳に引き下げられると、
 少年犯罪の報道のあり方も変わってくるのだろうなあ・・・

「天の狗(いぬ)」(鳥飼否宇)
 立山連峰の一角にそびえる<天狗の高鼻>は、
 高さ90mの絶壁に囲まれた円柱状の岩。
 そこに登頂を果たした大学生が首切り死体で発見される。
 登攀中から衆人環視の中にあった現場はさながら天空の密室。
 観察者・鳶山とカメラマン・夏海のコンビが不可能犯罪に挑む。
 私は高いところが苦手なんだが、明かされる真相と犯行のトリックは
 実行するところを想像しただけで気が遠くなりそうなほど恐怖だ。

「死ぬのは誰か」(早見江堂)
 ある大学の修士2年に在籍する八代が事故死した。
 彼の残したブログの記事から、死の直前に八代は
 研究室の誰かに恨みを抱き、ある毒物を飲ませたことが判明する。
 その毒物は無味無臭だが、100%の率で肝臓ガンを発症させる。
 摂取後48時間以内に解毒剤を服用すれば助かるのだが・・・
 誰が恨みを買っていたのかをつきとめるべく、
 研究室のメンバーによる議論が延々と続く。
 ミステリと言うよりはブラックなコメディ。
 いやはやこんな底意地の悪い話を考えつくとは。

「棺桶」(平山瑞穂)
 通学路の傍らには "コフィン" と呼ばれる宿泊用カプセルが並び、
 初老の者まで生徒として通う中学校は、
 いつ卒業できるとも知れない "無期刑の監獄"。
 そんな中、上級生の不良からパシリを命じられた主人公は
 出向いた先の飯場で教師の死体を発見してしまう・・・
 異様な世界で不条理な出来事が延々と続く。
 「芹葉大学-」もそうだったが、読み続けるのが辛い。
 この作品も私には良さが分からない。
 平山さんごめんなさい。

「満願」(米澤穂信)
 司法試験を目指す苦学生・藤井が下宿したのは畳屋の2階。
 しかし鵜川重治・妙子の夫婦が営む畳屋は左前で
 重治はしばしば酒におぼれ、仕事の手を抜くようになっていく。
 かいがいしく面倒を見てくれる妙子にほのかな憧れを抱きつつ、
 藤井は司法試験を突破、晴れて弁護士となった。
 その5年後、妙子が金融業者・矢場を刺殺した容疑で逮捕される。
 かつての恩に報いるため、妙子の弁護に立つ藤井だったが・・・
 「連城三紀彦の<花葬>シリーズ」を彷彿とさせる雰囲気は
 「このミステリーがすごい!2015」での作者のインタビューや
 本書の解説でも触れられている。
 なんとなくセピア色を感じさせる時代風景や
 ヒロインのイメージが終盤で変転するところなど
 共通点も多いけど、微妙に異なるところもある。
 <花葬>シリーズが "底知れぬ情念" の世界なら
 本書で描かれているのは "計算された狂気" だろう。
 まあ私がどう解釈しようとそんなことは些細なことで
 本作が本書でピカイチなのは間違いないんだが。


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戦都の陰陽師 迷宮城編 [読書・ファンタジー]

戦都の陰陽師  迷宮城編 (角川ホラー文庫)

戦都の陰陽師  迷宮城編 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 武内 涼
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2013/02/23
  • メディア: 文庫



評価:★★★

前巻「騒乱の奈良編」の直接の続編にして
果心居士編が完結(たぶん)。

時に1568年(永禄十一年)、織田信長上洛直前の頃。

天魔を倒すことが出来るただひとつの武器、
霊剣・"速秋津比売(はやあきつひめ)の剣"。

京の土御門家に保管されていた霊剣が
"魔天の四天狗" によって奪取された。
駆け出しの陰陽師・土御門光子(ひかりこ)は、
再び疾風ら7人の伊賀忍者とともに霊剣を追って奈良へと向かう。

黒幕は裏蘆屋の流れをくむ妖術師・果心居士。
霊剣が隠された松永弾正の居城・多聞山城に潜入し
見事奪還に成功した光子たちだったが、
剣には果心居士の施した蠱物(まじもの)が取りついていた。

前巻は多聞山城へ潜入するまでがいささか間延びした印象だったが
本書はほぼ全編に渡って戦いの描写が続く、いわば "激闘編"。

果心居士の操る "虫憑き" どもの跳梁あり、
剣の蠱物祓いに臨む光子への天狗の強襲あり、
そして魍魎どもとともに松永弾正の軍勢まで現れ、
果心居士が次々に繰り出してくる魔性の勢力に苦しめられる疾風たち。

最終決戦場はもちろん果心居士の本拠地・信貴山城。
しかしそこで、霊剣に取りついていた最凶の邪神が目覚める。
それを目にした者に究極の死をもたらす "夜刀の神" を前に
光子と疾風たちの最後の戦いが始まる。


本書の後、2年半くらい経つけど続巻は出てない。
どうやら「戦都の陰陽師」シリーズはこれで完結のようだ。
ストーリー的にも区切りがいいし、
信長が天下を握るようになった後は
光子にとって生きにくい世になりそうだし。
疾風との仲も、まあ予想の範囲内の収まり方かなあ・・・


これからシリーズ全般の感想めいたものを書くけど
ネタバレになる事項もあるかな。未読の人はご注意を。
あと、ちょっと文句が多めかな。
このシリーズが好きな人には不快かも知れません。
相変わらずまとまりのない駄文ですので悪しからず。


終わってみて思うのは、「何だかもったいなかったなあ」という思い。
17歳の美少女陰陽師に、様々な秘術を駆使する精鋭忍者軍団、
それを指揮する若き上忍とのロマンス。
"萌え" も "燃え" も充分にあるのに、
今ひとつ乗り切れなかったような。

リアルな時代小説ではないんだから、
作者の目指している(であろうと思われる)山田風太郎なみに
エロ/グロ/妖異を極める方向に持っていってもよかった気も。

魔性の女天狗・立烏帽子とか松永弾正に弄ばれる幼妻・葦姫とか
その気になれば "そっち方面の要員"(笑) として
使えそうなキャラもいたし。
最終決戦の最中、光子が巨大蛸の触手(あれは足じゃなくて腕なんだ)に
ぐるぐる巻き付かれるシーンなんて、けっこう需要があると思う(笑)。

それとも、いっそのことライトノベル的な書き方に徹してしまえば
明るくはっちゃけてすんごく面白くなる気もするんだが、
それでは別の作品になってしまうだろうし、
この作者の作風ではないのだろうなあ・・・

ちなみに、私は風太郎もラノベもどちらもOKだ(笑)。


テンポの悪さも前回書いたかなあ。
例えば柳生新次郎と葦姫の悲恋も、
前巻であんなに枚数を割いていたのに、
本書に入るとけっこう早い時期での葦姫退場。
新次郎もさほどめぼしい働きはしないし、
前巻から登場していて、本書で正体が明らかになる
上泉伊勢守のほうがよっぽど目立ってると思うし。
(ちなみに "剣聖" と謳われ、新陰流の創始者にして
 柳生新次郎の師匠に当たる人だ。)

いろいろな材料をたくさん入れたかったのかも知れないけど
そのせいで料理の味が薄まってるような気がしてならない。

最終巻になる本書は、果心居士軍団と光子一行の戦いに絞って
全編をまとめていて、リーダビリティもぐんと向上。
これを読むと、前巻と本巻を合わせて
文庫600ページくらいに刈り込んだら
スゴく良くなるような気がするのだけど・・・
それは素人の考えかなあ。


いろいろ文句ばかり書いてしまったけど
逆に言えばそれだけこのシリーズに期待してたんだよねえ。
何だかんだ言っても、これらの要素で大きな破綻もなく
長編3巻書き切ってしまう筆力はたいしたものだと思うし。


何と言っても光子が可愛いくて健気なのがいい。
疾風がカッコいいのがいい。
伊賀忍者たちがそれぞれキャラが立っていて
疾風とともに光子を愛おしく思っているのがいい。

このシリーズを好きか嫌いかと言われたら迷わず「好きだ」と答える。
でも、好きであるが故に「惜しいなあ」とも思うんだよねえ・・・


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まもなく電車が出現します [読書・ミステリ]

まもなく電車が出現します (創元推理文庫)

まもなく電車が出現します (創元推理文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/05/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★

某市立高校に通う葉山くんは、一人だけの美術部員。
演劇部の看板女優・柳瀬先輩を相方に、彼が巻き込まれる事件を
ユーモラスに描いた学園ミステリ連作。
探偵役は神出鬼没のOB・伊神先輩がつとめる。

「まもなく電車が出現します」
 部室棟になっている別館の3階にある
 老朽化のために "開かずの間" になっている部屋に、
 ある日突然、鉄道模型が出現した。
 それには、芸術棟の閉鎖に伴い新たな活動場所を求める
 映研と鉄研の争いが絡んでいるかと思われたが・・・
 不思議なタイトルで、いったい何がどうなるのかと思ったよ。
 動機は些細だが本人からすれば深刻なんだろうなあ。

「シチュー皿の底は並行宇宙に繋がるか?」
 調理実習でシチューを作った葉山くんたち。
 完成した料理を美味しく頂いた後、メンバーの藤巻さんが不審な顔。
 ジャガイモにアレルギーがあったはずの三野くんが
 シチューを完食していたからだ。
 "どうやって○○を入れた?" はよくあるが
 "どうやって○○を抜いた?" は斬新ではある。
 ラストで明かされる方法も、なるほどよくできてる。
 実行するのはかなり難しそうな気もするけど
 それを言っちゃあおしまいかあ。

「頭上の惨劇にご注意ください」
 部室棟になっている別館前を、柳瀬先輩と歩いていた葉山くん。
 突然、彼に向けて植木鉢が降ってきた。
 その鉢は園芸部のもので、落とした人物がいたと思われるのは
 ESS部とボランティア部が使っている部室だった。
 さらに翌朝、葉山くんの下駄箱には釘入りの封筒が入っており、
 二人は犯人捜しを始めるが・・・
 私は、てっきり柳瀬先輩に横恋慕している男が
 葉山くんを彼氏と勘違いして(それはあながち間違ってもいないが)
 嫌がらせを仕掛けているものと思ってたんだけどね・・・

「嫁と竜のどちらをとるか」
 かつて大人気を誇った「機竜戦記メダリオン」。
 そのプラモデルは、今でもマニアの間で高値で取引されている。
 柳瀬先輩の従姉妹が結婚した旦那はメダリオンの大ファンだったが
 結婚するときに新たなプラモデルは買わないと
 嫁さんに約束していたはずだった。
 しかしつい先日、こっそりと1体買ってしまっていた・・・
 文庫で20ページほどの掌編で、ネタもまた他愛もない。
 でもまあ、自分の "生きがい"(笑) を嫁に理解してもらえないという
 同じような悩みを抱えたオタクさんは世に多いんではないか。

「今日から彼氏」
 文庫で約100ページと、本書の厚みの1/3以上を占める中編。
 タイトル通り、葉山くんに突然彼女ができる話。
 お相手は映研で脚本を担当している同級生・入谷菜々香。
 柳瀬先輩主演の映画が完成した日、彼女の方から告白してきたのだ。
 突然の "彼女出現" 、そして追い打ちをかけるように
 柳瀬先輩から「映画で共演した先輩とつきあう」と告げられ、
 菜々香とつき合い始める葉山くんだったが・・・
 異性に関してはとことん不器用で、
 初デートでもドジを踏みまくってしまう。
 このへんは読んでるほうが恥ずかしくなってしまいそうだ。
 でも、奮戦の甲斐あってだんだん菜々香と打ち解けていく。
 とは言ってもこれはミステリだから、このままでは済むまいなあ・・・
 と思っていたら案の定、事態は意外な方向へ動き出していく。
 「まもなく電車-」から「嫁と竜-」までの4作は、
 分かってみれば実に些細な話なのだが
 (当事者からしたら深刻なことなのだろうけど)
 本作はいささかシリアスな展開を見せる。
 例によってラストに登場する伊神先輩が
 すべての事象の解説をしてくれるのだけど、
 今回に限っては、彼もある意味当事者の一人で
 読者の知り得ない情報も知っていたから、
 純粋に推理で謎を解いたとは言えないかも知れないが
 本作のメインはそこではなく、葉山くんと柳瀬先輩の
 関係の変化にあるのではないかな。

巻末に載っている「あとがき」は、必読の "傑作" だ。
前作の「あとがき」もそうだったけど
ある意味、本書で一番 "笑える" 文章になってる。
日常や周囲の出来事などを惚けた口調でぼやいているだけなんだけど
これがもう、とてつもなく面白い。
ホラー・コメディとしても良く出来てるんじゃないの、これ。
いつかこの路線で一作書いてほしいなあ。


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剣姫 -グレイスリング- [読書・ファンタジー]

剣姫―グレイスリング (ハヤカワ文庫 FT カ 6-1)

剣姫―グレイスリング (ハヤカワ文庫 FT カ 6-1)

  • 作者: クリスティン・カショア
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/05/20
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

始めに白状しておきます。
この本を買った理由の7割くらいは表紙のイラストでした。
だって可愛いんだもの(←おいおい)。
私、こんな雰囲気の女の子が好みなんだなぁ。

この絵では、背中にかかるくらいロングな黒髪なんだけど
これは序盤だけなんだよなあ。何とももったいないことに
途中でショートカットにしちゃうんだよねぇ。
私は長い方が好きなんだが(←おいおい)。

閑話休題。


左右で異なる瞳の色を持って生まれた者は、長じるにつれて
常人にはない卓越した才能を示すようになる。
人々は彼らを "賜(たまもの)持ち" と呼んだ。

本作のヒロイン・カーツァ姫もまた緑と碧の瞳を持っていた。
彼女の "賜" は、類い希な戦闘能力。
剣も弓も自由自在に使いこなし、格闘戦でも無敵を誇る。

幼い頃からその天分を示したカーツァは、
伯父であるミッドランズ国王・ランダを闇から支えるべく育てられた。
すなわち、王の命に背く者を密かに処罰、
時には粛正さえも行う "暗殺者" として
18歳のこの時までを生きてきたのだ。

しかし、(ランダ王を含めて)諸国の王たちの暴政に苦しむ人々を
見てきた彼女は、ランダ王の嫡子であるラフィン王子の助力を得て
密かに<諮問機関>なる組織を結成、
弱き人たちを助け、守る活動も行っていた。

その<諮問機関>から、島国リーニッドの国王の父・ティーリフが
拉致され、ミッドランズの隣国・サンダーの王都に
囚われているとの情報がもたらされた。

同志たちとともにサンダーの王城に潜入したカーツァは
ティーリフの救出に成功するが、
そこで彼女と同じ "賜" (金と銀の瞳)をもつ青年と出会う。
彼はリーニッドの第七王子・ポオだった。

ミッドランズの王都で再会したカーツァとポオは、
武道における良きライバルとなり、
試合を繰り返すうちに次第に親しさを増していく・・・


王父ティーリフの拉致に隠された陰謀を追っての旅と冒険。
それによって、"人間凶器" として育てられてきた少女が
友情を知り、愛を知って成長してゆく物語だ。

特に、カーツァとポオは、格闘の稽古を通じて
お互いへの思いを募らせていくという、
まさに日曜朝の某変身少女アニメみたいな
「拳(こぶし)で愛を語る」仲になっていく。

本書の一番の魅力は、何と言ってもカーツァというキャラクターだろう。
王子様と結婚してめでたしめでたし、
なあんて結末を真っ向から否定する、なんとも現代的な娘さんである。

「結婚はしない」「子どもは持たない」「束縛されるなんてまっぴら」
愛と結婚とは別ものとすっぱり割り切っているのも、時代か。

もっとも、「結婚」という制度自体を否定しているわけではなく
それ以前に「何者にも束縛されない自由で自立した人間」でありたい、
という思いが彼女にそう行動させているようだ。
同様に「結婚して子どもを産み、家庭を支える女性」という存在も
認めてはいる。ただ、「自分はそうはなれない」と考えているのだ。

ファンタジーの世界のヒロインにも、
いよいよそんな女性像が現れてきたということなのですかね。


とはいっても、本書は三部作の一作目ということなので
彼女のこのポリシーがずっとそのままなのかは不明だ。
どこかの時点で「結婚」という制度と
折り合う点を見つけるのかも知れないし。
でもまあ、一作目のラストまで読んだ感じでは
そうなる可能性はかなり低そうだけど。


物語後半で明らかになる拉致事件の "黒幕" が、
およそこの世界では最強と言えるほど手強く、最凶と言えるほど残忍。
いったいどうしたら勝てるんだろう・・・と思わせるのだけど
ラストはちょっとあっけないかな。

とはいっても、本書は戦闘シーンよりも
上述のようにカーツァの成長の物語がメインなので、
これでいいのかも知れないし、
カーツァをこの "難敵" に勝たせるとしたら、
この方法しかなかったような気もするし。


上にも書いたように、本書は三部作になってるんだけど
残念ながら第二部、第三部はまだ邦訳が刊行されてない。

解説によると、第二部「Fire」は時代を数十年巻き戻し、
過去の出来事が語られているとのこと。

そして第三部「Bitterblue」は第一部の6年後が舞台。
カーツァやポオも登場するので、彼らのその後も語られるのだろう。
Bitterblue とは、第一部の後半から登場する10歳の少女の名で、
終盤では堂々とメインキャラの仲間入りをしてしまう。
第三部は16歳になった彼女が主人公になるのだろう。

第二部はともかく、第三部は読みたいなあ・・・
ハヤカワさん、何とかしてくださいよ。


最後に余計なことを書く。

本書は2008年の発行時にたいへんな評判を呼んだそうで、
ヤングアダルト図書関係の賞をたくさんもらっている。
巻末にその一覧があるのだけど、その中には
「ミソピーイク賞児童書部門」とか
「アメリア・ブルーマー・フェミニズム推奨文芸リスト(18歳以下向け)」
なんてものも入ってる。

でもさぁ、本書の中には
"あーんなシーン" や "こーんなシーン" もあるんだよねぇ。
"18歳以下向け" はともかく "児童書" はないんじゃないかなあ・・・
まあ、おじさんの頭が古いんですかねぇ・・・


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戦都の陰陽師 騒乱ノ奈良編 [読書・ファンタジー]

戦都の陰陽師  騒乱ノ奈良編 (角川ホラー文庫)

戦都の陰陽師  騒乱ノ奈良編 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 武内 涼
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/07/25
  • メディア: 文庫



評価:★★★

時に1568年(永禄十一年)、織田信長上洛直前の頃。
古来より京の都に張り巡らされていた守護の結界を打ち破り、
600年ぶりに天魔が侵入を開始しようとしていた。

天魔を倒すことが出来るのは、かつて陰陽師・安倍晴明が鍛えて
出雲の地に封じた霊剣・"速秋津比売(はやあきつひめ)の剣" のみ。

安倍晴明の末裔にして、駆け出しの陰陽師である
土御門光子(ひかりこ)は、疾風ら7人の伊賀忍者とともに
出雲へ向かい、苦闘の末に霊剣の入手に成功する。

光子の振るう霊剣は天魔を圧倒、人の世は守られたが・・

ここまでが前巻。


魔を滅ぼす唯一の力として封印を解かれた霊剣だが、
悪しき心の者が使うと、この世に巨大な破壊と滅亡を
もたらしてしまうという、まさに "諸刃の剣"。

霊剣を再び封印するべく、それにふさわしい場所を求めて
光子たちが旅の途上にあったとき、
京の土御門家に "魔天の四天狗" が現れ、
保管されていた霊剣を奪取、光子の祖父・有春も重傷を負う。


その首謀者は裏蘆屋(あしや)の流れをくむ妖術師・果心居士。
北奈良を支配する戦国の梟雄・松永弾正久秀を操り、
配下の信貴山城を自らの根拠地としていた。

奪われた霊剣が松永弾正の居城・多聞山城にあると
あたりをつけた光子は、再び疾風ら伊賀忍者とともに奈良へと向かう。
ちなみに表紙のイラストが疾風。

というわけで物語が始まるのだけど、その後がねえ・・・


文庫で約500ページなのだけど、
光子たちが京を出発するのが100ページを超えたあたりで、
多聞山城に潜入するのは400ページを超えたあたり。

じゃあその間の300ページには何があるのかというと、
果心居士に操られた半死人たちによる襲撃、
天魔の妖力に対抗すべく準備を進める光子、
多聞山の城下町で潜入のための仕込みに勤しむ疾風たち、
裏切りと謀略に満ちた松永久秀の極悪非道ぶり。

そして、かつての主君・三好長慶の娘でありながら、
略奪同然の身で久秀の正室にさせられた葦姫と
柳生宗厳の息子・新次郎との禁断のロマンスとか、
とにかくいろんなことが入っている。

前巻でも、霊剣を入手したあとの中国山地内の逃避行が長くて、
今回もなかなか霊剣の奪還へと進まない。
これはもう、この人の作風なのかなあ・・・って思ったんだが
どうやら本書は "果心居士編" の前半で、
次巻「迷宮城編」で完結、という構成らしい。

ということは、長々と語られたもろもろも次巻への伏線で、
葦姫と新次郎のカップルもきっと本筋に絡んでくるんでしょう。

そんなわけで、現在「迷宮城編」を読み始めてる。
まだ冒頭80ページくらいなんだけど、
今のところ光子さんはほぼ出ずっぱりで活躍しております。


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システィーナ・スカル  ミケランジェロ 聖堂の幻 [読書・ミステリ]

システィーナ・スカル - ミケランジェロ 聖堂の幻 (実業之日本社文庫)

システィーナ・スカル - ミケランジェロ 聖堂の幻 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 柄刀 一
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2013/12/05
  • メディア: 文庫



評価:★★★

絵画修復士・御倉瞬介が探偵役となるミステリ・シリーズ第3巻。
前2巻よりも時間軸を巻き戻して、瞬介がイタリアで
駆け出しの修復士として働き始めた頃の話。
それは同時に、今は亡き妻・シモーナとの物語でもある。

「ボッティチェリの裏窓」
 文庫で約170ページの中編。
 ボッティチェリ作「ナスタジオ・デル・オネスティの物語」という
 4枚組絵画の模写を所蔵する資産家から、その修復を依頼された瞬介。
 しかし、修復作業場の隣にある屋敷では、毎週金曜日の深夜に
 窓に明かりが灯り、何やら怪しげな "儀式" が行われているらしい。
 目撃者の男が失踪してしまったことから瞬介は自ら解明に乗り出す。
 毎回、いろんな絵が登場して、
 それにまつわる蘊蓄が語られるんだけど、今回もまたすごい。
 この4舞組絵画、けっこう残酷かつスプラッタな絵柄で、
 こんな絵を新婚夫婦の寝室に飾るというのだから驚く。
 終盤に絵の解釈が行われるのだけど、それでも納得できないなあ。
 この物語で、瞬介はシモーナと知り合う。

「システィーナ・スカル」
 文庫で約150ページの中編。
 システィーナ礼拝堂に描かれたミケランジェロの壁画修復。
 世紀の大事業の末席に加わることになった瞬介。
 そこへシモーナとその大伯母マーゴットが見物に来るが、
 マーゴットは突然昏倒し、死亡してしまう。
 そしてその手には、人の頸椎の骨が握られていた。
 瞬介は、47年前にマーゴットの夫・ルイスが
 首を切断されて殺害されたこと、さらには500年前の先祖にも
 同様の事件の言い伝えがあることを知る。
 「頭部を切断した理由」が納得できるものかどうかが
 作品の価値を決めるとは思うが、本作の理由はどうだろう。
 欧米の人なら納得できるものなのかもしれないが
 島国育ちの日本人にはいまひとつピンとこないかも。
 頭では分かっても、すとんと胸に落ちるかどうかは・・・
 終盤で明かされるマーゴットの昏倒理由、すなわち
 ミケランジェロの壁画の新解釈だが・・・たしかに斬新。
 作中に挿入された写真を見ると一目瞭然だ。
 ただ、これが○○○ではなく、○ー○・○○○ーに見えるのは
 私だけでしょうか・・・
 この作品の中で、瞬介はシモーナとの結婚を決意する。

「時の運送屋(カミオン)」
 瞬介とシモーナの新婚時代の話。文庫で約130ページ。
 フィレンツェ在住の画家・西木健秋は、かつて
 巨匠・アルブレヒトに自作を酷評されたことがあり、
 それ以降、それまでの作風を捨ててしまっていた。
 しかし新しい画風を確立する前に骨肉腫を発症、
 余命わずかとなって療養所で暮らす身となっていた。
 死期が迫った西木は奇妙な行動が目立つようになる。
 自ら書き上げた絵に対し、さらに彩色するように瞬介に依頼したり
 不可解な指示をつけて日本に暮らす姉の元へ送ったり・・・
 巨匠からコテンパンに貶されたショックで妹の死に目にも会えず、
 かといっておめおめと帰国することもできず、
 絵画にすべてを捧げてきた人生の最後に、彼は何を思ったのか。
 死を目前に控えた人間のこと、通常の精神状態ではないのだろうから
 最後に瞬介が示す "解釈" もまたいささか常軌を逸している。
 そして同時に、限りなく哀しい。

「闇のゆりかご」
 27年前、資産家マラート・グラレイが刺殺された。
 さらに事件の直後、現地を大地震が襲い
 臨月を迎えていたマラートの後妻・美千恵が行方不明となった。
 殺人事件の犯人と目された美千恵だが、一週間後に
 土砂崩れの下敷きになった地下室から発見される・・・
 グラレイ家を訪れた瞬介は、マラートの息子・イヴァンと
 事件のことを語り合ううちに、新たな犯人の可能性に辿り着く。
 地下室に閉じ込められた美千恵が死を目前にしてとった "ある行動"。
 鬼気迫るものがあると同時に、母としての無限の愛をも感じさせる。
 そしてそこに、ミステリ的な仕掛けさえも組み込むとは・・・
 文庫で約60ページと本書中では一番短いが、
 ミステリとしても物語としてもいちばん気に入った作品になった。
 ただでさえ哀しい話なんだが、これがまた
 シモーナが息子の圭介を残して早世した後の話なんだよなあ・・・


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英国パラソル綺譚 アレクシア女史、欧羅巴で騎士団と遭う [読書・ファンタジー]

アレクシア女史、欧羅巴(ヨーロッパ)で騎士団と遭う (英国パラソル奇譚)

アレクシア女史、欧羅巴(ヨーロッパ)で騎士団と遭う (英国パラソル奇譚)

  • 作者: ゲイル・キャリガー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/12/07
  • メディア: 文庫



評価:★★★

吸血鬼や人狼やゴーストなどの<異界族>と、人間とが共存している
パラレルワールドの19世紀イギリスを舞台に、
<異界族>の力を封じることができる
<反異界族>の女性・アレクシアの冒険を描いたシリーズの第3作。

前作のラストで、めでたくご懐妊が判明したアレクシア。
しかし夫のマコン卿は喜ぶどころか怒り狂ってしまう。

それは、"半ば死んだ存在" である人狼(&吸血鬼)が、
女性を妊娠させることは不可能と考えられていたし、
記録上もそのような事実はなかったから。

要するにマコン卿は妻の浮気を疑ったのだが
身に覚えのないアレクシアは当然のことながら大激怒、
居城を飛び出して実家へと転がり込む。

しかし "マコン卿夫人の不貞疑惑" が社交界に広く暴露されてしまい、
口の悪い母親や異父妹たちに絶えかねたアレクシアは
ロンドンで最高齢の吸血鬼・アケルダマ卿を頼ろうとするが
なぜか彼は行方不明、屋敷もまたもぬけの殻となっていた。

仕方なくアレクシアは、友人のマダム・ルフォーと
秘書のフルーテを伴ってヨーロッパへ旅立つことにするが、
なぜか三人は吸血鬼による執拗な襲撃を受け続けることになる。

一方、一時の激情に駆られて妻を追いやってしまったが
実はアレクシアに未練たらたらのマコン卿は酒浸り。
全く使い物にならないボスに代わり、副官のライオール教授が、
アケルダマ卿失踪の謎を追うことになるが・・・


この後、吸血鬼の追っ手から逃げまわるうちに
フランスのパリ、そして山脈を越えてイタリアへと向かう三人組の
ドタバタな冒険旅行がユーモアたっぷりに綴られていく。

タイトルにある「騎士団」とはテンプル騎士団のことで
この作品世界のイタリアはイギリスとは逆に異界族に対して不寛容。
テンプル騎士団もまた異界族排斥の急先鋒だった。

しかし騎士団は異界族の研究でも長い歴史を持っており、
アレクシアの父・アレッサンドロとも浅からぬ因縁があった。
彼らの記録に当たれば、アレクシアの妊娠の真相も
明らかになるかも知れない・・・


全5巻の3巻目ということで、ストーリーも折り返し点なのだろう。
アレクシアの逃避行と吸血鬼たちの陰謀が並行して語られていくが
どちらかというと後半2巻に向けての舞台のお膳立てとか
伏線張りとかに重点があるような気もする。

いくつかの謎は解明されるけれども、持ち越しになる謎も多く、
次巻への "引き" も抜かりない。


ヒロイン・アレクシアはもちろん脇役陣に至るまで見事なキャラ立ち。
レギュラーメンバーもおなじみになってきて、
すんなり作品世界に入り込める楽しみなシリーズになった。
これがあと2巻で終わるのはちょっともったいない気がしてきたよ。


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さよならの儀式 年刊日本SF傑作選 [読書・SF]

さよならの儀式 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

さよならの儀式 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/06/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★

2013年に発表された日本の短編SFから選ばれた15編に
第5回創元SF短編賞受賞作を合わせた全16編を収録。


まず、一番気に入った3編。ちなみに順不同です。

「ウンディ」(草上仁)
 ウンディとは異星生物の名前で、
 人間がそれを楽器として使っている世界の話。
 ウンディを使っている主人公のバンドが、コンクールに出るが・・・
 ラストがけっこうほのぼの。こういうの好き。

「エコーの中でもう一度」(オキシタケヒコ)
 盲目の女性・加世子は、周囲の音の残響から、
 その場の状況を把握するエコー・ロケーション能力に長けており、
 それを見込んで、ある "依頼" が舞い込むが・・・
 エコー・ロケーションってこの作品のオリジナル設定かと思いきや
 実在する能力だそうでびっくり。
 これもラストがほっこりして心が暖かくなる。

「神星伝」(冲方丁)
 遠未来の太陽系を舞台にして、さまざまなガジェットで
 過剰なまでに装飾されているけど、その実体は
 ある日突然侵入してきた外敵に対し、主人公の少年が
 幼なじみの少女に導かれ、封印されていた巨大ロボットを覚醒させて
 世界と少女を守るべく出撃していく・・・
 とまあ、典型的なロボットアニメの初回1時間スペシャルみたいな
 ベタな話なんだけど、それを冲方丁が書くと超絶的に盛り上がる。
 私はベタな話が実は大好きなのでこの話も大好きだ。続編希望。
 でも、その前に作者は嫁さんに謝らんといかんね(笑)。


次に良かったグループは次の6編。これも順不同。

「さよならの儀式」(宮部みゆき)
 寿命が来た家庭用ロボットに、別れを告げて
 解体処理業者に引き渡しに来た女性と処理場職員の青年との話。
 途中まではしんみりしたいい話で、アシモフのロボットものの流れかと
 思いきや、ラストでは意外な "哀愁" が語られる。
 さすが21世紀のロボットものは一筋縄ではいかない。
 眉村卓みたいな雰囲気もちょっぴり感じる。

「科学探偵帆村」(筒井康隆)
 日本SFの父と言われている(今、知った)海野十三の作品に登場する
 科学探偵・帆村荘六を主人公としたパスティーシュ。
 セックスしていないのに妊娠してしまう女性がたくさん現れ、
 その原因解明に帆村が挑む。
 齡80にして、下ネタで堂々と短編を書いてしまう筒井康隆氏。
 さすが日本SF界の御三家最後の生き残りです。
 ちなみにあと二人は星新一と小松左京です念のタメ。
 人間、いくつになっても悟りは開けないんだねえ(感心してます)。
 私も見習いたいものだ(笑)。

「地下迷宮の帰宅部」(石川博品)
 バーチャルリアリティの世界でRPGをプレイしている主人公。
 魔王に収まったはいいが、配下の魔物どもの間でケンカが絶えない。
 ある日妙案を思いつき、首尾良く仲直りに成功したが・・・
 ドタバタコメディ風に進行するがラストはもの悲しい。

「箱庭の巨獣」(田中雄一)
 本書中唯一のマンガ作品。
 環境の激変により、巨大生物が跋扈する世界となった遠未来の地球。
 人類は集団ごとに "巣" をつくり、
 そこを "巨獣" に守護されながら暮らしていた。
 巨大生物の絵柄はちょっぴり諸星大二郎を思わせるかな。
 とにかく巨獣と人間の関係にまず驚く。
 読んでいると、どんどん気持ち悪くなっていくんだけど
 最後まで一生懸命読んでしまった。
 好き嫌いは分かれるかも知れないが、SFとしては傑作。

「ムイシュキンの脳髄」(宮内悠介)
 脳にメスを入れ、人間の暴力衝動を消し去る手術・"オーギトミー"。
 その手術を受けたミュージシャン・網岡をめぐる物語が
 「盤上の夜」同様のドキュメンタリー・タッチで描かれていく。
 当たり前と言えば当たり前のことなんだが、
 暴力も情愛も、善も悪も、すべては表裏一体で全部ひっくるめて
 「人間性」なのだということを改めて感じる。

「風牙」(門田充宏)
 第5回創元SF短編賞受賞作。
 人間の記憶データを外部に記録することが可能になった時代。
 死病に冒されたベンチャー企業の社長・不二もまた
 自らの記憶データを記録に残すことにした。
 しかし、1日で終わるはずの作業が2日を超えても終了しない。
 主人公の女性・珊瑚は不二の記憶データへの "潜行" を試みる。
 いわゆる "サイコダイバー" もの。
 冒頭の潜行シーンから、状況説明、原因の究明、過去の回想、
 そしてなかなか感動的なラストまでを文庫で約60ページに
 綺麗にまとめているし、ヒロインのキャラ立ちも充分。
 新人賞受賞も納得だ。


イマイチよく分からないのが

「コラボレーション」(藤井太洋)
 検索エンジンの暴走により(あれって暴走するんだ?)
 インターネットが壊滅し、完全な認証システムによる
 新ネットワークへと移り変わった世界。
 わずかに生き残ったサーバー群の中で動作していた検索システムは、
 自己修復を繰り返し、バージョンアップを続けていた・・・
 何だか、ネットワークの中でものすごいことが起こっているのは
 分かるんだが・・・詳しい人はもっと楽しめるんだろうなあ。


何が書いてあるのかは分かったんだが好きになれない3編。
もちろん順不同。

「今日の心霊」(藤野可織)
 写真を撮ると必ず心霊が写ってしまう少女の物語。
 ホラーなんだかコメディなんだか。惚けた語り口は面白い。

「食書」(小田雅久仁)
 本のページを破って食べる謎の女に出会った主人公は・・・
 これもホラーだね。読んでるとだんだん山羊の気分になる。

「平賀源内無頼控」(荒巻義雄)
 獄死した平賀源内が実は生きていて、タイムスリップに巻き込まれる。
 ご高齢の大ベテラン噺家が高座に上がって、
 長い話のさわりだけしゃべってる感じ。荒巻翁、齡81の作品。


判断に困るのが

「死人妻(デッド・ワイフ)」(式貴士)
 だって未完成の作品なんだもの。作者が亡くなってるからって、
 こういうの載せるのはいかがなものかなぁ。あ、別に
 式さんに恨みとかあるわけじゃありませんので念のタメ。


よくわからない2編。やっぱり順不同(笑)。

「電話中につき、ベス」(酉島伝法)
 デビュー作「皆勤の徒」はまだ何とかなったが、これはお手上げ。

「イグノラムス・イグノラビムス」(円城塔)
 もう私は諦めました(笑)。


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