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戦都の陰陽師 [読書・ファンタジー]

戦都の陰陽師 (角川ホラー文庫)

戦都の陰陽師 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 武内 涼
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/12/22
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

50代以上の方は、次の文章は「仮面の忍者 赤影」の
OPのイントロ部分を脳内再生しながら読みましょう。

豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃、
京の都の結界を破って天魔が侵入し、魔界への扉を開こうとしていた。
安倍晴明の血を引く土御門(つちみかど)家の姫・光子(ひかりこ)は
天魔を討つ力を秘めた霊剣を求めて出雲へと旅立つ。
光子の父・有脩(ありすえ)は道中の護衛のために、
伊賀の国から7人の忍者を呼んだ。
その頭領の名は・・・疾風(はやて)、参上!


・・・気を取り直して改めて紹介を。

時に1568年、織田信長上洛直前の京の都。
都には古来より幾重もの結界が張られ、守護されてきたが
600年ぶりに天魔が侵入を開始してきた。

天魔を倒すことが出来るのは、かつて陰陽師・安倍晴明が鍛えて
出雲の地に封じた霊剣・"速秋津比売(はやあきつひめ)の剣" のみ。

安倍晴明の末裔・土御門光子は当年とって17歳。
妖魔が人々を殺める姿を目の当たりにした彼女は、
霊剣を求めて出雲への旅立ちを決意する。

そして光子の父・有脩は、旅の護衛として
伊賀・藤林党から7人の忍者を呼び寄せた。

総勢8人は一路出雲を目指すが、その行く手には
天魔の使い魔によって使嗾された毛利家の軍勢、
そして山中鹿之助に率いられた尼子残党が
霊剣を手に入れるべく待ち構えていた・・・


主人公・光子は、陰陽師としてはまだ駆け出しで
使える式神も三種類くらいしかない。
貧乏公家に生まれたので財産もない。
でもそのぶん、庶民の暮らしを知っている。
人々を守りたいという気持ちも人一倍強い。

そのヒロインを守る、疾風を筆頭に藤林党の7人なんだが・・・
光子は、冒頭のいくつかのエピソードでその人となりが分かるのだけど
こちらの7人は、序盤では内面の描写がごく少ない。
護衛を引き受けた経緯も描かれない。

そもそも疾風たちは、無報酬で光子の護衛をしている。
疾風の父・藤林長門守が、光子の父・有脩から
個人的な誼を通して "お願い" を受け、遣わされた者たちだから。
何せ土御門家は貧乏公家なので。

忍者たちが今回の使命に対して思うところとか、
おそらく7人の心の内は様々だったのだろうから、
このあたりをもう少し掘り下げてもらうと、
彼らへの思い入れもスムーズにいったように思う。
何せ命がけのミッションで、実際に命を落とす者も出てくるのだから。

まあ、忍者だから「命令」の一言で済むのかも知れないが。


あと、ストーリーが少しばかりもたもたしてるかな。

おそらくたいていの人は、陰陽師と忍者が協力して、
群がる敵をばったばったと倒していくような物語を
期待するんじゃないかなぁ(私がそうだった)。
でも、そんなふうに思った人はちょいと当てが外れることだろう。

式神を駆使して窮地を逃れることに成功することもあるけど、
もともと "お嬢様" で、半人前の陰陽師でしかない光子は、
物語中ではほぼ一貫して "お荷物" である。

毛利や尼子残党の追っ手を振り切るべく、
残雪深い中国山地を逃げ回る一行の足を引っ張る存在だ。
もっと言うと、この山中を逃げ回る部分がちょいと長すぎるとも思う。
ページ数にして全体の半分近いんじゃないかなあ。

それに対して、京へ帰って天魔と対決する部分は
全体の一割にも満たない。
そして、光子の本格的な活躍はやっとここから始まる。
何せ霊剣の力を解放できるのは安倍晴明の血を引く者だけだから。

逃げ回るシーンだけはたっぷり読まされて、
いささか鬱憤がたまっている人も多いと思うので
このあたりはもうちょっと主人公達に無双させて、
読者の溜飲を下げるところがほしかったかなあ。

なんだか文句ばかり書いてしまったけど、決して嫌いじゃない。
戦国時代を舞台にした、和製ヒロイック・ファンタジーとして、
なかなか得がたい作品になっていると思う。
ヒロインも魅力的だし、疾風もカッコいいし、
伊賀の忍者たちも物語が進むうちにだんだん思い入れが出来てきた。

何より、続巻があと2冊出てる。これは素直に嬉しい。
今回、17歳の光子と21歳の疾風の間には、
ちょっぴりだけどロマンスの雰囲気が漂っていた。
二人の仲がどのように発展していくのかも知りたいし。

次巻「戦都の陰陽師 騒乱の奈良編」も近々読む予定。
光子と疾風たちがよりいっそう活躍することを期待しよう。


最後に余計なことを。

表紙のイラストは、霊剣を背負った光子だよねぇ・・・
人によって好みはあるだろうけど、それなりに可愛いとは思う。
ただ、どう見ても平安時代の日本人には見えないんだよねえ・・・


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