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宰相の二番目の娘 [読書・SF]

宰相の二番目の娘 (創元SF文庫)

宰相の二番目の娘 (創元SF文庫)

  • 作者: ロバート・F・ヤング
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/10/31
  • メディア: 文庫



評価:★★★

「時が新しかったころ」に続く、ロバート・F・ヤングの長編である。
一年のうちに2本も長編が翻訳されるとは、
日本での人気は格別なものがあるんだね。

「時を生きる種族-ファンタスティック時間SF傑作選」に収録された
「真鍮の都」の長編化作品である。


過去の時代から歴史上の有名人をさらってきて、
そっくりのコピーロボットを作り、
ホンモノは元の時代へと戻す「自動マネキン社」。

主人公のビリングスが初めて会社から請け負った仕事は
9世紀のアラビアへタイムトラベルし、
<千夜一夜物語>の語り部・シェヘラザードを連れてくること。

しかし、スルタンの後宮に首尾良く潜入し、
見事シェヘラザードを連れ出したと思ったら、
実は彼女の妹・ドニヤザード(15歳)のほうだった。

しかも、追っ手を振り切ろうとタイムマシンを操作したところ
マシンが誤作動を起こし、二人はいずことも知れない
不思議な世界へ迷い込んでしまう。

そこは巨大なロック鳥やグール(食人鬼)が跋扈し、
ランプから現れるのは見上げるような巨大魔神、という
アラビアンナイトそのままの現象が起こる世界。
ビリングスとドニヤザードは必死になって帰り道を探すのだが・・・


基本的に短編作家だったヤングは長編は5作しかなく、
みな短編作品の長編化だ。しかも、その評価は総じて低いようだ。

日本で独自編纂された短編集「たんぽぽ娘」が手元にあるので
見てみたんだが、この編者・伊藤典夫氏は「あとがき」の中で
この作品をけっこう酷評している。

「15歳のアラブの少女といちゃいちゃしているだけで
 ページが過ぎていき、原形にあったファンタジーのアイデアすら
 活かせていない。」「壊れている」

・・・まあ、寅さんじゃないが「それを言っちゃおしまいよ」だねえ。

「15歳のアラブの少女といちゃいちゃしているだけ」
まあそう言われればその通りなんだが、でもこの15歳の少女が
とても魅力的なんだから、いちゃいちゃしたくもなるよねえ。

姉に劣らず物語を語らせたら上手だし、頭も回って機転が利く。
異形の "魔神" を前にしても一歩も引かず、度胸も満点。
(ラストまで読むと分かるが)こうと決めたときの実行力もまた抜群。
おまけにとびきりの美人なんだから・・・
そんな女の子に、うっとりとした瞳で見つめられたら
ビリングスでなくたって惚れてしまうじゃないか。

 二人が盗賊に捕らえられ、彼らの前でドニヤザードが踊るシーンで
 彼女がおもむろに○○○○○してビリングスが大慌てするところでは
 思わず笑ってしまったよ。

「ファンタジーのアイデアすら活かせていない。」
これにもある程度は同意する。
SFとして始まった物語が、なし崩し的にファンタジーになっていくのは
やはり読んでいて違和感を感じざるを得なかった。

異世界を支配している "魔神" たちの正体も、
SF的にこじつけて作中で語られているんだけど、
彼らのあやつる "魔法" については全く説明がない。
説得力があるかないかは別にして、一言でもいいので
それなりの説明がほしかったなあと思う。
(そんなのは "野暮" なこと、って思う人もいるとは思うが・・・)

でも、「壊れている」かどうかは読者が判断することだと思うし
私は伊藤氏が言うほどひどいもんじゃないと思うよ。
「大傑作だ!」とは言えないと思うが
「私は好きだよ」と公言しても恥ずかしくない出来だと思うし。


短編版の時は、ラストのオチの部分が
ちょっと唐突なような気もしたんだけど、
長編化したせいか本書ではそのようなこともなく、
時を超えた愛のハッピーエンドを楽しむことができる。

 これでこそ「ヤング」だよねえ。
 ヤングのファンは、みんなこの独特の雰囲気を味わいたくて
 彼の作品を読むんだろう。


去年は「タンポポ娘」、今年に入って長編2作と
思いがけずヤングの作品に恵まれた。
伊藤典夫氏は三冊目の短編集を計画しているらしいので
それを期待して待つことにしましょう。


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