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伏 贋作・里見八犬伝 [読書・ファンタジー]

伏―贋作・里見八犬伝 (文春文庫)

伏―贋作・里見八犬伝 (文春文庫)

  • 作者: 桜庭 一樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/09/04
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」。
いままで映画になったりアニメになったり
いろんな作品の元ネタになったり。
(「八犬伝」自体、「水滸伝」が元ネタだと思うが。)
"和製ヒロイック・ファンタジーの元祖" とも言うべき作品だ。

私自身は小学校の頃、子供向けにリライトされたものを読んだのが最初。
40代以上の方なら、NHKで放送されていた
坂本九の語りによる人形劇「新八犬伝」を憶えている人も多いだろう。
私も大好きで一生懸命見ていたよ。

薬師丸ひろ子&真田広之の映画「里見八犬伝」も見たなあ。
見ていてああだこうだ考えて疑問やら不満やらもあったはずなんだけど、
ジェットコースターみたいなラスト30分、
あのアクションシーンが全部持っていってしまった。
"力業" とはこういうものかと思った。

閑話休題。

数多くの「八犬伝」に、新たに加わった本作は、
日本推理作家協会賞&直木賞
作家の手になる
"桜庭一樹版・八犬伝" である。

物語は、祖父に死に別れた猟師の娘・浜路(14歳)が、
たった一人の兄を頼って江戸の町に出てきたところから始まる。

折しも江戸の町には「伏(ふせ)」とよばれる
不思議な "犬人間" が跋扈し、彼らによる凶悪事件が続発していた。
幕府はその首に懸賞金をかけ、多くの者が「伏」を追っていた。

浜路は兄・道節とともに「伏狩り」に加わるが、
「伏」の一人、信乃(しの)に捕らえられてしまう・・・


この作品世界には曲亭馬琴が存在し、
「南総里見八犬伝」の執筆を続けている。
タイトルの「贋作・里見八犬伝」とは、馬琴の息子の
滝沢冥土(めいど)が書いた作品のタイトルで、
題名こそ「贋作」となっているが、彼自身が安房の地で
伝承・伝説を収拾、再構成した「ドキュメンタリー」という設定。
対して父の「南総里見八犬伝」は伝説を題材に
自由な想像の翼を広げた「フィクション」という位置づけのようだ。

作中作ともいうべき「贋作・里見八犬伝」は文庫で約140ページを占める。
お馴染み伏姫・八房の登場する「八犬伝」冒頭部分に相当するのだが
そこは桜庭一樹。「赤朽葉家の伝説」を彷彿とさせる筆裁きで
伝奇色たっぷりに里見家の盛衰を描いている。


本書は、原典を大幅に改変してあって、人によったら
「あの素晴らしい原作をこんなめちゃくちゃにしやがって」
って怒る人もいるかも知れない。
伏姫・八房編だってかなり「えぇー」って展開なんだけど
江戸編にいたっては、もはや共通するのはキャラの名前だけ、
と言っても過言じゃないからねえ。
私は充分に楽しんだけど、好みは人それぞれだから・・・


信乃が自らのルーツを探った旅を独白する「伏の森」も
文庫で80ページ近くもあり、「贋作」と合わせると
なんと本書のページ数の半分を占める。

そのせいか、浜路・道節・信乃のメインキャラ3人の
活躍場面が思ったより少なく、気がつけばラスト50ページあたりで
いきなりのクライマックスに突入する。


物語自体はとても面白いのだけど、上にも書いたように
メインのストーリーに伏姫・八房のエピソードと信乃の回想が
けっこうな分量で入り込んでいて、
なんだか消化不良な感じもしないわけではない。

本書では敵対する立場になっている浜路と信乃のからみだって、
「もっと読みたい!」って思う人は少なくないと思うし。

こういう作品こそ、「赤朽葉-」みたいに
一大伝奇大河小説にして語ってほしいなあ。
それなら全10巻くらいになっても読むよ。


本書の解説は脚本家の大河内一楼。「コードギアス」の人ですね。
この作品はアニメになっている。タイトルは「伏 鉄砲娘の捕物帖」。
大河内氏はその脚本を書いたそうで、そのつながりで解説を書いている。
それによると、本書からスピンアウトした作品がいくつかあるそうなので、
近い将来に本書と同一世界の物語が読めるのかも知れない。

主役の浜路(14歳。大事なことなので2回書きました)がとにかく元気。
でっかい鉄砲を担いで、花のお江戸を走りに走る。
人間離れした「伏」を追っかけまわし、派手なアクションもこなす。
でも年相応に純情なところを併せ持っていたりと、もう可愛くて仕方がない。

アニメの方も見てみたくなったなぁ・・・


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