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カード・ウォッチャー [読書・ミステリ]

カード・ウォッチャー (ハルキ文庫 い 18-1)

カード・ウォッチャー (ハルキ文庫 い 18-1)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2014/07
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

最初、題名だけ見てクレジット会社の話かと思ったのはナイショだ。

ここで言うカードとは「タイムカード」。
会社で、出勤退勤の時間を記録するカードのことですね。
watch には "監視する" と言う意味があって、
この作品においては "勤務時間を監視する"、
つまりは「労働基準監督署」のことを意味している。


東京・飯田橋にある株式会社塚原ゴムの研究所。
残業で残っていた研究員の下村が、椅子に体重をかけたところ
背もたれが壊れて転倒、手首を負傷する。

下村の妻がそのことを友人に話したことがきっかけとなり、
研究所に労働基準監督署の臨検が入ることになる。

突然の通告に、研究総務の小野はその対応に大わらわになる。
なにせ研究所は長時間のサービス残業が常態化しており、
小さな怪我や疲労による体調不良は日常茶飯事だったのだ。

研究所内を走り回って臨検への対応準備をする小野だが、
倉庫の中で研究員の八尾が死亡しているところを発見してしまう。

病死か事故死か、はたまた殺人か・・・

しかし監督官の到着時刻まであとわずか。
状況を調べている余裕もなく、小野は上司の米田に報告して、
臨検が終わるまで八尾の死を隠しておくことに決める。

 労基署の臨検中に、過労死(かも知れない)社員の
 死体が見つかったりすれば、下手をすると(しなくても)
 経営陣の進退にも関わってくるかも知れない・・・

そしてやって来た監督官・北川。
愛想の良い笑顔の裏にカミソリのような鋭さを秘め、
所内を巡りながら "超過勤務の実態" を次々に暴いていく。

しかし会社にとっての "絶対防衛線" は八尾の死の隠匿。
小野と米田は知恵を振り絞って北川と対決するのだが・・・


まあブラック企業は論外として、
ある程度のサービス残業はどこの職場でもあるだろう。

しかし作中のこの研究所のように、毎日夜11時過ぎまでの残業が
"日常" とは、いささか度を超えているだろう。

 25年ほど前に私の知人が働いていたところも
 一時期「セブンイレブン」と言われていた。
 コンビニではない。毎日朝7時から夜11時まで働いていたのだ。
 彼は数年後には別の職場に移ったので、今でも無事だ(笑)。

 私も30代前半くらいまでは、かなり遅くまで働いてはいたけど、
 かみさんもらってからはちょっぴり早く帰るようになった(笑)。
 
 今の職場でも、定時で帰る人はまずいないが、
 さすがに11時はいないなあ。

 閑話休題。


探偵役となる監督官の北川がとにかく切れ者で、
彼のような人が全国の労働基準監督署に配置されていたら、
ブラック企業がこんなにのさばることもないんだろうなあ・・・
なぁんてことを考えてしまったよ。

中盤過ぎまでは、八尾の死の隠蔽を巡る
小野と北川の息詰まる対峙が描かれていて、

一種の「倒叙もの」として読める。

そして終盤では八尾の死の真相を探るミステリとなる。
基本的に "犯人" は社内にしかいないわけで、
ここで「クローズト・サークル」ものへと雰囲気が一変し、
そこで明らかにされる真実は、悲しみと切なさに満ちている。

作者は、会社を舞台とした「八月の魔法使い」という
傑作ミステリを書いてるけど、本書もなかなかの佳作だと思う。

研究員や総務の業務内容など、研究所内の描写がリアルなのは
理系出身のサラリーマン兼業作家ならではだろう。
二足のわらじはとても大変だろうと思うんだけどね。


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