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冷たい方程式 [読書・SF]

冷たい方程式 (ハヤカワ文庫SF)

冷たい方程式 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: トム・ゴドウィン・他
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/11/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★

1980年に刊行されたアンソロジーを、作品を入れ替えて再編したもの。
カバーの惹句には「SF入門書の新版登場!」なんて書いてあるけど
初心者向け・・・かなあ。ちょいと変化球も入ってるけどね。


「徘徊許可証」(ロバート・シェクリィ)
 わずかな人口のため、地球から忘れられた植民星。
 しかしそこは犯罪のない平和な世界だった。
 200年後のある日、地球から居留地捜査官が来ることになり・・・
 舞台は、ホントにいい人ばかりの素晴らしい星。
 こんなところだったら私も住んでみたいなぁ。

「ランデブー」(ジョン・クリストファー)
 長期休暇を取って乗り込んだ客船で、
 「私」はシンシアという女性と知り合う。
 彼女は、50年前に死別した愛する男性のことを語り出す・・・
 SFではなくてちょっぴりホラーっぽいファンタジーですなぁ。

「ふるさと遠く」(ウォルター・S・テヴィス)
 文庫でわずか6ページという掌編。
 "すこし" ・ふしぎ?・・・いや "かなり" ・ふしぎな話(笑)。

「信念」(アイザック・アシモフ)
 ある日、自分の身体が重力を無視して浮き上がり始めた男。
 よりによって彼は大学の物理学の教授だった!(笑)。
 というわけで始まるSFコメディ。
 アシモフもこういうの書くんだねえ。ちょっと意外。

「冷たい方程式」(トム・ゴドウィン)
 風土病に冒された惑星探検隊に血清を届けるべく発進した緊急連絡艇。
 パイロットである「私」1名を、目的地に届けるための
 片道分ぎりぎりの燃料しか積んでないその船に、
 密航者がいたら・・・規則ではただちに「船外投棄」!。
 しかしその密航者が年端もいかぬ美少女で、
 たった一人の兄に会いに行くための密航だとしたら・・・
 少女の命を助けると、船は十分な減速が出来ずに惑星に墜落、
 彼女も自分も、そして探検隊員たちもすべて命を落とす。
 そんな中、「私」が取った選択とは・・・
 SF史上に燦然と輝く記念碑的作品で、読んだことはなくても
 名前だけは知っている、という人もいるだろう。
 私も未読か既読か忘れていたんだけど、読んでみたら既読だった。
 でも細部は忘れていたので読んでよかったよ。
 この作品自体が名作、と言うより「方程式もの」ともいうべき
 後続の作品群を生み出したという意味で画期的な作品ではある。
 普通に考えたらこの方程式、ハッピーエンドに終わる解は存在しない。
 でも、今回再読してみて、いろんな作家さんたちが
 この方程式の "ハッピーな実数解" を求めようと
 さまざまなアイデアをつぎ込んで挑戦してきた理由がよく分かったよ。

「みにくい妹」(ジャン・ストラザー)
 これもSFではないかなあ。
 いわゆる「奇妙な味」の作品、って感じ?

「オッディとイド」(アルフレッド・ベスター)
 一種の超能力もの。
 ことごとく幸運を引き寄せる能力を持った男と、
 それを利用しようとする者たちの話。
 藤子・F・不二雄あたりが描きそうな話だなあ・・・って思った。

「危険! 幼児逃亡中」(C・L・コットレル)
 これも超能力もの。強大な "超能力" を持つ幼女が、
 みずからの "力" をコントロールできずに、
 "破壊" をまき散らしながら暴走していく話。
 「サイボーグ009」にもこんな話があったなあ。
 もっともあっちは幼女じゃなくて犬だったけど。

「ハウ=2」(クリフォード・D・シマック)
 仕事の徹底的な機械化により、週休4日(!)となった未来世界。
 人々は時間をもてあまし、暇を "つぶす" のに汲々としている(笑)。
 そのために流行しているのがDIY。もうなんでも自分で作ってしまう。
 そのための半完成品のキットもあらゆる種類が出回っている。
 主人公のゴードン・ナイトはロボット犬のキットを注文したが、
 会社の配送係の手違いで、彼の元に届いたのは
 試作品の人型ロボット「アルバート」だった。
 しかしこのロボット、ある特別な "能力" を持っていることが分かり、
 開発が途中で中止されたものだったのだ・・・
 このアルバートくんが引き起こす大騒動を描いたコメディなんだが、
 終盤へ向かうにつれてだんだん笑えなくなってくる。
 20世紀の頃は、機械化が進めば単純作業は減り、勤務時間も減るし、
 なにより人間はもっと知的生産活動に関わるようになるだろう、
 なーんて言われてたような気がするんだが、
 21世紀の現在、企業はブラック化して労働時間は増えるし、
 ロボットくんも「きつい・汚い・危険」の3Kをカバーしきれていないし、
 人間は長時間の肉体労働から解放されてはいない。

 「頭脳労働で短時間勤務」なんて夢のまた夢。
 (いや、ごく一部の人は実現しているのかも知れんが・・・)
 果たして、この作品のような "人間が暇を持て余す時代" って
 来るんだろうか? 来ないような気がするんだけど・・・


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