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突然の明日 有栖川有栖選 必読! Selection 3 [読書・ミステリ]


有栖川有栖選 必読! Selection3 突然の明日 (徳間文庫)

有栖川有栖選 必読! Selection3 突然の明日 (徳間文庫)

  • 作者: 笹沢左保
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/02/08
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 新橋保健所の食品衛生監視員・小山田晴光(おやまだ・はるみつ)がマンションの屋上から飛び降り自殺を遂げる。そのマンションの一室では、料亭『高千穂』の経営者が殺されていた。晴光に殺人容疑がかかるが、彼の妹・涼子は兄の無実を信じ、晴光の先輩・瀬田大二郎とともに調査を始めるが・・・


 死の前日、晴光は家族に不思議な出来事を語っていた。
 銀座四丁目の交差点で、旧知の女性を見かけたのだという。2年前まで新橋保健所で同僚だった久米緋紗江(くめ・ひさえ)だった。声をかけたが彼女は振り向かず、追い始めた晴光がふと気づくと、緋紗江が目の前から消えていた。周囲の雑踏を見渡しても彼女の姿はない。一瞬のうちに姿を消したように見えたことに戸惑う晴光だった・・・。

 両親に子ども4人という、いかにも昭和30年代の家族構成の小山田家は、長男・晴光にかけられた殺人容疑により激震に見舞われる。彼らにとって、まさに「突然の明日」がやってきたわけだ。
 父・義久は25年勤めた銀行を辞職せざるを得なくなり、次男・忠志(ただし)もまた大学を退学。長女・悦子は3ヶ月後に迫っていた結婚が破談となり、母・雅子は寝込んでしまう。

 主人公は19歳で洋裁学校に通っている末っ子の涼子。彼女は長兄の無実を信じ、晴光の大学の先輩・瀬田大二郎とともに調査を始める。
 もう一人の主人公は父・義久。仕事から離れ、フリーな立場を手に入れた彼もまた、独自の行動で事件の謎に迫っていく。

 父と娘によって、晴光が抱えていた秘密が明らかになり、やがて容疑者が浮かぶ。しかしその人物は犯行時には九州旅行をしていたという。
 涼子は瀬田とともに九州へ渡り、アリバイを崩すべく奔走するのだが・・・


 もちろんメインはミステリ。アリバイトリックは目新しいものではないが、犯行の動機は意表を突くものでけっこう驚いた(もちろん伏線は張ってあったが)。
 そして、白昼の銀座での人間消失のからくりもなかなか。「そんなことが起こるのか」とも思うが、人間の五感というものは意外と不確かな部分も多い。そんな "盲点" をつく現象なので、私としてはけっこう納得できるものだった。

 もうひとつのテーマは家族の再生。長男の死と殺人容疑でバラバラになってしまった家族5人が、再び絆を取り戻し、再起していくラストはなかなか感動的だ。



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